黒き龍
ゼノスが超高速で走りながらレイ達に話しかけようと後ろを振り向いた時には既にレイ達の姿はなく、リュートの姿だけがあった。
「あれ? リュート、レイ達は?」
心底不思議そうにゼノスはリュートにそう聞く。
それに対してリュートはこいつまじかよと言いたげた顔を全く隠そうとせずに溜息をつきながら答えた。
「はぁ、ゼノスそれ真面目に言ってるの?」
「····真面目に言ってるんだが」
リュートは完全に呆れていた。
「ゼノス、僕だって君の速さについて行くの大変なのにレイ達がついてこられるわけないよ」
「そんな速いか? これでもまだ抑えてるんだが」
「······もういいや」
これ以上喋ってもゼノスの規格外さをさらに理解するだけだと思ったリュートはゼノスと話すことを諦めた
ゼノスはリュートとの話も終わり後ろをむいている必要も無いため再び前を向いた。すると、すぐ前にほんの数時間前ゼノスを手こずらせた検問が迫っていた。
「リュート、飛び越えるぞ!」
「了解」
ゼノスは《気配遮断》を使って、リュートも魔法で気配を薄くしながらルルブス王国を囲む城壁ごと高い跳躍で飛び越えた。
難なくルルブス王国の外に出た二人はなおも走り続ける。
終わりの見えない大草原の上を走り、坂を下っていくととうとうその存在は姿を見せた。
「やっと見えたか」
ゼノスとリュートの視線の先には普通の大きさの家3つぶんぐらいの巨体を持ち、全身を黒い鱗に覆われている漆黒の龍がいた。
「本当にドラゴンがいる」
ゼノスの索敵能力の高さにリュートが若干の恐怖を感じているのだが、当人はというと、目をとてもキラキラさせながら準備運動をしていた。
「迷宮にはドラゴン系とか居なかったからどれくらいの強さなのか楽しみだ!」
そんな独り言を言っているゼノスにリュートがあるお願いをした。
「ゼノス、君があのドラゴンと戦いたいのは見れば分かるけど今回は僕が戦ってみてもいい?」
ゼノスはリュートの意外な願いに驚いた表情をしている。
「え、う〜んまぁ良いよ、俺もリュートがどれくらい戦えるのか見てみたいし。でも、危なそうだったら俺が戦うからな」
「ありがとう」
短く言葉を返してリュートはゼノスに背を向ける。
ゼノスはリュートの魔力が体中に流れていくのをしっかりと感じていた。
(間違い無くリュートは本気だろうな。これはすぐに倒しちゃうんじゃないか?)
暇になってしまったゼノスは欠伸をしたあと、さらさらと風で揺れている大草原に座って観戦体制に入った。
ブラックドラゴン
レベル???
《??????》《??????》《??????》
《??????》《??????》
(このドラゴンは········強い)
リュートは鑑定をして率直にそう思った。
リュートの鑑定は自分よりもレベルが低いものであれば全てのステータスを見ることが出来る凄いものだ。
つまりこのドラゴンのステータスがわからないということはリュートよりもこのドラゴンの方がレベルが高いということになる。
この世界のドラゴンのレベルは大体90程度。
しかしこのドラゴンは最低でもレベルが110はある
イレギュラーな存在だ。
しかしレベル差だけで怖気付くリュートではない。
全身に魔力を多く流して身体能力を大幅に強化していく。
これは魔力の操作が上手くないと出来ないものだが、
出来るようになるとかなりパワーアップ出来る。
リュートは高くなった身体能力私の活かして一気に
ブラックドラゴンとの距離を縮めていく。
一方、ブラックドラゴンもリュートが近づいてくるのを黙って見ているわけがなく口から炎のブレスを出した。
リュートは素早い動きでそれを避けるとさらにドラゴンとの距離を縮めていき、とうとうリュートが使っている双剣の間合いまでブラックドラゴンに近づくことが出来た。
「はあ!」
リュートは刃の表面を魔力でコーティングして切れ味と耐久性が上がった双剣を力いっぱい振った。
ガキン!
渾身の一撃はブラックドラゴンの鱗を少し欠けさせるだけに終わった。
(硬い)
鱗を攻撃するのは意味が無いと判断したリュートは
斬撃をやめ、魔法攻撃に切り替えた。
「〈業火〉!」
突如、ドラゴンの方向に向けられたリュートの掌から巨大な炎が出現した。
これはマズいと本能で悟ったのか、ブラックドラゴンは急いでリュートの魔法の攻撃範囲から逃げ出そうとする。
しかしその巨体では完全に逃げることは出来ず、後ろ足にリュートの魔法をくらい火傷を負った。
「ギャーーーーー!ヴォーーーーー!!!!!」
ドラゴンは痛みを感じてがむしゃらに炎のブレスを出している。
リュートの魔法とブラックドラゴンのブレスで綺麗な緑色だった草原は火の海になっていた。
(先に火を消す必要があるかな)
ブラックドラゴンのがむしゃらなブレスを次々と躱しながらリュートは水の魔法で火を鎮火しようとする。
するとその時、リュートの後方からゼノスが声をかけた。
「火は俺が消しとくからリュートはドラゴンの方に集中しとけ」
そう言ってゼノスは上空に雲を漂わせ始めた。
ゼノスの一言でリュートは辺り一面に広がっている火のことを考えるのはやめ、ブラックドラゴンの方に集中することにした。
「そろそろ終わりにしよう」
痛みに慣れてきたのか、がむしゃらにブレスを吐くことをやめたブラックドラゴンに対してリュートはそう言った。
しかしドラゴンは知性ある魔物だ。
地上では分が悪いと理解したため、大きな翼を広げて
空へと飛んだ。
空を飛ぶブラックドラゴンはそこから地上に向かって
思いっきり《咆哮》した。
「ヴォオーーーーー!!!!!」
レベル差が関係しているためなのか、普段戦うドラゴンの《咆哮》では怯まないのリュートが一瞬怯んだ。
その一瞬が命取りだった。
怯んだリュートめがけてブラックドラゴンが高速のブレスを放つ。その時のブラックドラゴンの顔は心なしかニヤリとしているようだった。
威力、範囲を極限まで小さくして速さだけに特化したブラックドラゴンのブレスは音速に近い。
いくらドラゴンに知性があるといってもここまで考える知性を通常の魔物は持っていない。
「しまっ----」
そしてブラックドラゴンのブレスは着弾した。
いくら威力を小さくしたといってもブレスを放ったのはドラゴン、着弾した衝撃で辺り一帯に大きな煙を
起こす程の威力はある。
ブラックドラゴンは満足したように焼け焦げた草の上に着地する。
2秒程度己がブレスを放った場所を見つめたあとブラックドラゴンがどこかへ歩いて行こうとした時、いきなり後ろ足から鮮血が飛び散った。
すぐさまブラックドラゴンは斬撃が来たと思われる場所へと顔を向ける。
顔を向けたブラックドラゴンの瞳に映ったのは一人の少年の姿をしたものだった。
ゼノスだ。その後ろには無傷のリュートがいる。
実はゼノス、ブラックドラゴンの高速ブレスがリュートに着地する直前、目では到底追えないような速さでリュートの前に立ち、《障壁》を使って身を守っていた。
「リュート、こいつ俺が相手していいか?」
普段よりも低い声でゼノスがリュートに言う。
「いいよ、僕だと少しきついからね」
「すぐに終わらせてくる」
そう言ってすぐ、ゼノスは音速を超える速さでブラックドラゴンへ肉薄した。
あまりの速さにブラックドラゴンは反応が追いつかず、全く動くことが出来なかった。
ゼノスは《武器錬成》を使い、瞬時に大剣を錬成した。
ゼノスは走っている勢いのままに大剣をブラックドラゴンへと振る。
リュートが思いっきり振っても少し欠けさせることしか出来なかったブラックドラゴンの鱗をゼノスはいとも簡単に粉砕。
それでもいまだ大剣の勢いは止まらず、大剣が動きを止めたのはブラックドラゴンの腕を切断した時だった。
ブラックドラゴンが自分の腕を切断されたことに気づいたのはそれから数瞬後だった。
思い出したようにやってきた激しい痛みにブラックドラゴンは上手く叫び声も上げられなかった。
「ギャッ! ガゴッ! 」
ブラックドラゴンが痛みに苦しんでいるあいだにゼノスは腕、両足、尻尾、翼と次々に大剣で切断していく。
そのせいでブラックドラゴンの周りは大量の血によって血だまりが出来ている。
「よし、あとは頭だけだな」
ゼノスがそう呟いた時にはブラックドラゴンは既にぴくりとも動いていなかった。
そしてゼノスが最後に残った頭を切断しようと大剣を振りかぶった時、ブラックドラゴンの肉体から突如膨大な量の魔力が溢れ出てきた。
「これは······」
ゼノスは自らの知らない現象に周囲の警戒を始める。
すると、おもむろにブラックドラゴンはズズズと動き始めた。
そういえば忘れてたなとゼノスは急いでブラックドラゴンの情報を確認する。
-ブラックドラゴン-
レベル150
《咆哮》《ブレス》《魔力爪》《高速飛翔》
《死後強化再生》
(《死後強化再生》だと?なんだこれは?)
全く知らない能力に動揺しているゼノスの事などお構いなしにブラックドラゴンはものすごいスピードで再生を始めた。
ゼノスが切断した腕、足、翼、尻尾がみるみる生えていく。
ゼノスはその異常な現象をただただじっと見ていた。
再生の終わった各部位はゼノスが切断する前よりもひと回り太くなっていた。それだけではなく、明らかに
纏っている魔力の質が上がっている。
むくりと立ったブラックドラゴンはゼノスをじっと見つめて目こうで訴える。
----さぁ、第2ラウンドの始まりだ----




