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本当の顔

「迷宮主なんだ」


ギルド長は予想だにしない言葉を聞き、目を大きく見開いていた。


「····リュート、お前が冗談を言うなんて珍しいこともあるものだな。····で、本当はなんの話なんだ?」


「え、本当のことだけど······」


リュートが申し訳なさそうな顔をしながらギルド長に真実を伝える。


しかし、ギルド長は未だにリュートの言っていることを信じていないようでため息をついていた。


「もういい、冗談を言うためにここへ私を呼び出すなどというふざけたことをして何も処罰がないと思うならそれは大きな間違いだぞ?リュート、だが今回は見逃そう」


そう言ってギルド長は、座っている椅子の肘かけの

部分に体重をかけてすくっと立ち上がり、部屋を出ていこうとする。


「おい、お前ギルド長だかなんだか知らねえけど

証拠もねえのにリュートに対してその態度はどうなんだ?」


本当のことを言っているにもかかわらず、リュートがうそつきのようになっている事が気に食わなかったゼノスが、ドアノブに手をかけていたギルド長に対して

言葉と魔力オーラで怒りをあらわにする。


「っ!!!········なんなんだ?その魔力オーラは」


さすがのギルド長でもゼノスの強大な魔力オーラには驚きを隠せなかった。


しかしそこは冒険者ギルドの長、やられっぱなしではない。一瞬にして大量の魔力を自身の周辺に出してオーラを作り上げた。


ギルド長の名に恥じぬ実力者であることが魔力オーラを通じてこの部屋にいる全員に伝わる。


そんな魔力オーラをゼノスの魔力オーラが次第に蝕んでいく。


やがてギルド長の魔力オーラは部屋から消え、ゼノスの魔力オーラだけが充満した。


少し怒りが収まったゼノスは急速に魔力オーラを収縮していった。


最初に口を開いたのは、ほんの数秒前まで迷宮主であるゼノスの魔力オーラの異常さを最も肌で感じたギルド長だ。


「····君は、本当に迷宮主なのか」


目付きは鋭いまま口角を上げながらギルド長はゼノスに最後の確認をする。


「ああ、俺はデウス迷宮の迷宮主、ゼノスだ」


「そうか······くくく、ははははは」


突然ギルド長は顔を手で覆い、笑い始めた。


「ギルド長····どうしたの?」


「いや、すまないな。私がこれまでに読んできた無数の本の中に、大昔迷宮から迷宮主が出てきて騒動を起こしたという内容の本があったのだよ。馬鹿げた内容だと思っていたが、どうやらその気持ちは改めなければ行けないようだな」


「そんな本があるのか」


ゼノスは今の自分の状態に似ているなと思いながらギルド長の話を聞いていた。


「ゼノスといったな」


「ああ」


ギルド長のアストルがゼノスの前へと歩いてきたため

ゼノスとアストルは至近距離で向かい合う形になっている。


その時ゼノスは気づいた。


ギルド長アストルの瞳があやしく光っていることに。


「おい、どうしたんだ?ギルド長。なんか変だぞ」


ゼノスの近くでは、アストルの雰囲気の変化に気づいたリュートが腕を組んで大きなため息をついていた。


「ゼノスよ。君が我々に対して敵意を持っていないということは充分理解した。そんな君にお願いがある」


「ん? なんだ?」


「私の研究に手を貸してほしい」


自分の研究を手伝って欲しいと言っているゼノスに頼み込んでいるギルド長のアストルの息遣いは興奮しているのか少し荒くなっていて、先程まで張り詰めた空気を作っていた人物とは思えないような状態だった。


「は?まぁ手を貸すぐらいなら別にいいが····それって俺じゃなくても出来るんじゃないか?」


「違う! 君じゃなきゃダメなんだ!」


いまいちアストルの言葉の意味が理解出来ていない

ゼノスにリュートが助け舟を出した。


「ゼノス、君のように迷宮主が迷宮から出てくるということは本来ありえないことだということは分かっているよね?」


「まぁそうだな」


うんうんとゼノスが頷いていることを確認したリュートは話を先に進める。


「だから普通、迷宮主に会ってなにかをするためには迷宮の最下層まで行かなければいけない。でも迷宮主が迷宮から出て来てくれればわざわざ命をかけてまで迷宮の最下層にまで行かなくてもここで迷宮主について何か知りたいことがあれば確かめられる」


「なるほど、そういうことか。そこで俺なんだな」


「そういうこと」


リュートの説明が終わり、ゼノスがギルド長アストルの方へと顔を向け直すと、アストルはじっとゼノスの目を見つめて返事を待っている。


「それくらいどうってことないな。いいぜギルド長、あんたの研究に付き合うよ」


ゼノスのその答えを聞いた途端、ギルド長アストルのテンションは最高潮になった。


「よっしゃー!!!!!! ゼノスよ、感謝するぞ

フッフッフッこれから楽しくなるなぁ」


「ははは」


ゼノスはアストルのあまりの豹変っぷりに乾いた笑みを浮かべることしか出来ていない。


「だがこちらだけが得するのはおかしいな。そこでどうだろうゼノスよ、さすがに冒険者に登録させることは出来ないが、私の使いという形で特別待遇してもらえるように手配しておこうと思うのだがいいかな?」


ようやくアストルの調子に慣れてきたが、アストルが素早い切り替えをしているせいでゼノスはついていくことが出来ていない。


「そうすれば好きなだけ外を見て回れるのか?」


少しの間を置いてゼノスがアストルに質問を投げかける。


「多少の制限はかかるだろうがあまり心配しなくても大丈夫だろう」


「本当か! 是非ともよろしく頼む」


外を好きに見て回れるようになったことに心から喜び、満面の笑みを見せているゼノス。そこから少し離れたところにいたレイ、ライン、ルシアの三人は遠い目をしながらボソボソと小さな声で会話をしていた。


「ねえ、僕達完全に空気になってないか?」


「ほんとそうですね······」


「マジでな······」


「「「············」」」










その後アストルの部屋をあとにした五人は冒険者ギルドの一階を歩いていた。


「······結局僕がギルド長にゼノスのことお願いする前に全部決まっちゃったね」


リュートは少し不貞腐れたようにしてそんな言葉をこぼした。


「うん? なんか言ったか?リュート」


「いやなんにも言ってないよ」


「そうか。ところでみんなはこれから何するんだ?」


ちょうどゼノスがそんなことを言った時、五人は冒険者ギルドから外へ出た。


外は冒険者ギルドに入っていく時と変わらぬ景色が広がっていた。


ただ一つを除いては。


そのことに気づくことが出来たのはゼノスだけだった。


ピタッとゼノスがその場に立ち止まる。


レイたち四人は数歩道を歩いたあと、ゼノスが止まっていることに気づいた。


「ゼノスさん、どうかしましたか?」


不思議に思ったルシアがパタパタとゼノスの元まで小走りで戻っていく。


「····ゴンがいる」


ゼノスのつぶやく程度の小さな声はルシアまで届かなかった。


「え? ゼノスさんもう一回言ってください」


「ドラゴンがいる」


二度目のゼノスの言葉はしっかりとルシアの耳にまで届いた。


「ドラゴン!? ど、どこにいるんですか!」


「ルシア、うるさい」


ドラゴンという単語に過剰に反応してしまったルシアはいつの間にか近づいてきていたリュートに注意されてしまった。


「あ、すいません」


「ゼノス、ルシアがドラゴンって言ってたけどドラゴンがどうかしたの?」


ただひたすら青い空を見ているゼノスがようやくリュートの方に顔を向けた。


「ああ、あっちにドラゴンがいる」


ゼノスはやけに元気な感じで、今まで見つめていた空の方向に指をさしてそう言った。


「····マジ?」


ボソっと言ったラインの言葉はしっかりとゼノスにまで届いている。


「マジだ!」


ゼノスはラインの言葉に対して、まるで新しいおもちゃを貰ったような無邪気な顔で答えた。


「ゼノス、僕にはドラゴンがいるようには見えないのだけど」


本当にいるのか、と目で訴えるリュート。


「本当だ。俺の《魔力探知》にしっかり反応が出てる。この魔力はドラゴンのものだと思う」


ゼノスは確信を持って言った。


「ゼノス、君はどうしようとしているんだい?」


これまで黙っていたレイがゼノスに聞くとゼノスは食い気味に答えた。


「行くに決まってんだろ!」


レイの質問に答えたゼノスは、そのあとの四人の言葉を聞くことはなく、さっさとドラゴンがいると思われる方向へと走っていく。


ついてこいというジェスチャーをしているゼノスに溜息をつきながらリュートがついていった。


それにレイ達もついて行こうとするが、ゼノスとリュートの速すぎる移動速度に諦めを余儀なくされてしまった。


「早すぎだろーーーー!!!!!」


そんなラインの言葉が風に乗って街を駆け抜けていったが既にゼノスとリュートの二人には届かなかった。

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