21 こんな伏線回収、ありかよ
おれは猛ダッシュしたが、地面に落ちたパラライザーは、向こうから歩いて来た別の人間の足元に転がった。
待ち構えていたかのように、サッとパラライザーを拾いあげた相手を見て驚いた。あの小学生のやんちゃ坊主だ。何だってこんなところにこいつがいるんだろう。
が、今はそんなことを考えている場合じゃない。
「アッくん! 危ないから、その銃をお兄ちゃんに渡すんだ!」
驚いたことに、アッくんは面白そうに銃口をおれに向けた。
「パパ、じゃなかった、ボス。このお兄ちゃんを一発撃っちゃってもいいかな。だって、このお兄ちゃんのせいで、あの金コロガシをつかまえそこなっちゃったんだもんね」
何ということだ。二人の仲間というのは……。
「ごめんなさいね、中野さん。でも、あなたが悪いのよ。アッくんの邪魔をするから」
そう言って、その後ろからアッくんのお母さんが現れた。
お母さんはアッくんからパラライザーを取り上げると、慣れた手つきでくるくると指先で回し、腰だめに構えた。銃口は、古武術とやらで一方的にパパを追い詰めている黒田氏に、ピタリと向けられている。その善良そうな顔に、勝ち誇ったような笑みすら浮かべて。
「さあ、お遊びの時間は終わりよ。これ以上暴れるなら、お年寄りでも容赦なく一発お見舞いするわ」
黒田氏は攻撃の手を緩めぬまま視線だけこちらに向けると、挑発するように叫んだ。
「ふん! 海賊一家か! 面白い! 撃てるものなら、撃つがいい!」
アッくんのお母さん、いや、女海賊は予告どおり、一瞬もためらわずパラライザーを発射した。
「ぐはっ!」
黒田氏の体は弾かれたように回転し、その場に倒れ込んでしまった。
尚も銃口を向けたまま、女宇宙海賊は鼻で笑った。
「言うことを聞かないからよ。今のは威嚇射撃レベルだから軽くシビレる程度だけど、次はもっとレベルを上げて発射するわ。病院送りになりたくなかったら、そのまま倒れていなさい」
女海賊はパラライザーの出力調整ダイヤルをグイッと回した。本気でやるつもりだ。
黒田氏の連続技に、息を切らして逃げ回っていたパパは、ようやくニヤリと笑った。
「ふう、年寄りの何とやら、ですね。うちの妻は、ああ見えても射撃の名手でしてね。大人しくした方が身のためですよ」
衝撃に苦しみながらも、黒田氏は負けじと言い返した。
「ううっ、にょ、女房はともかく、あ、あんな年端もゆかぬ子供に、海賊の片棒を担がせるとは、な、何という大バカ者か!」
すっかり余裕を取り戻したパパは、軽く肩を竦めた。
「英才教育と言ってくださいな。マフィアは仲間のことをファミリーと言うそうですが、本物の家族に勝る仲間はいませんよ。アツシは末っ子ですが、上の兄弟たちもみんな親孝行でしてね。それに、われら宇宙海賊ロビンソン一家のモットーは『盗みはすれど、非道はせず』でしてね。子供の教育に悪いことはしません。さあさあ、そこの若者も無駄な抵抗はやめて、御老体の横に座りなさい。申し訳ないが、二人まとめて縛らせてもらいますよ。われわれが、無事に迎えの船に乗り込むまでの辛抱です。ふっふっふ」
これで万事休すかと観念したとき、おれたちの頭上から声が聞こえてきた。
「そこまでじゃ! おまえたちは完全に包囲されとるぞ!」
見上げると、屈強なドラード人数名を引き連れて荒川氏がおれたちの頭上を旋回していた。
そのまま荒川氏が黒田氏の近くに舞い降りると、ドラード人たちも次々に着地し、パパたちの周りをぐるりと取り囲んだ。
が、パパは不敵な笑顔で荒川氏たちを見まわした。
「おやおや、全員丸腰ですか。地球人ほどではなくとも、ドラード人にもパラライザーは効き目がありますよ。何なら、試してみますか。さあ、ハニー、こいつらに思い知らせてやりなさい」
パパの言葉が終わるより早く、荒川氏の拳から何かがビュッと飛び出した。
次の瞬間、「あっ」と声を上げて女海賊がパラライザーを落としていた。
「中野くん、今じゃ!」
おれは再び猛ダッシュして、今度こそ銃をつかんだ。
見ると、女海賊は顔をしかめ、痛そうに手の甲を押さえている。
荒川氏はホッと息を吐いた。
「すまんのう。手荒なマネはしたくなかったんじゃが、こっちも黒田をやられたから、これでおアイコじゃな。昔黒田から教わった指弾術という技じゃよ。親指で鉄球などを飛ばすんじゃ。もっとも、今わしが弾き飛ばしたのはドングリじゃから、大したケガはしておるまい。神妙にお縄を頂戴するんじゃぞ」
荒川氏はドラード人たちに向き直った。
「さあ、第七地区機動隊の諸君、海賊を逮捕するんじゃ!」
荒川氏が合図すると、ドラード人たちは手に手にロープを取り出し、夫婦を縛り上げた。
やれやれ、これで一件落着だな。
そう思って油断したのがいけなかった。
「あ、痛ててて!」
銃を握っているおれの手を、アッくんが思い切り噛んだのだ。
あまりの痛さにおれはパラライザーを落としてしまった。
それを拾ったアッくんは、「ママのかたき!」と叫ぶなり、止める間もなく荒川氏を目掛けて発射した。
「あうっ!」
狙いは少し逸れたようだが、今度は荒川氏が腕を押さえて座り込んだ。
おれは必死でアッくんを捕まえ、銃を取り上げた。
「もう悪さをするんじゃない。先に撃ったのは、きみのママの方じゃないか!」
「いやだ! いやだ!」
なおも暴れるアッくんをなんとか抑え込み、おれはドラード人の一人に引き渡した。
だが、それを目にしても、後ろ手に縛られたパパの顔には冷笑が浮かんでいた。
「これで勝ったとは思わない方がいいですよ。まもなく、他の息子たちの乗った船がわれわれを助けに来るはずなのでね」
すると、一番体格のいいドラード人が進み出た。
「残念だったな。先ほどスターポールの捜査官より、ドラードの衛星軌道を周回している不審船を拿捕したとの連絡があった。『ジュピター2世号』というのは、おまえの仲間の宇宙船だろう」
今度こそ観念したらしく、パパはがっくりと肩を落とした。アッくんとお母さんも一緒に連れられて行った。可哀そうだが仕方がない。
さて、宙吊りのままのオランチュラも気になるが、まずは、撃たれた二人だ。
おれはパラライザーを隊員のドラード人に預け、黒田氏と荒川氏が倒れている方へ駆け寄った。
「お二人とも大丈夫ですか?」
「ふん、ちょっと油断しただけさ。わがはいより、荒川の様子を見てくれ。急所は外れたと思うが、高レベルで撃たれたようだ」
おれは腕を押さえている荒川氏に近づいた。
「痛みますか?」
「な、何のこれしき。それより中野くん」
「はい、何でしょう?」
「わしは撃たれたのではないぞ」
「えっ?」




