表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/24

20 いよいよ宇宙海賊のお出ましかよ

「ええっと、逆に『勇気』、とかですか?」

 おれがようやくしぼり出した答えは、豪快ごうかいに笑い飛ばされた。

「かっかっかっ。残念。正解は『れ』じゃ。人間、大抵のことには慣れるものじゃよ。わしも今ではすっかり空中を飛ぶことに慣れたわい。中野くんも、じきに慣れるさ」

 もう日も傾いてきているし、ためらっているヒマはない。

「わかりました。時間も迫っていますし、思い切って乗ってみます」

 とにかく、絶対に下を見ないようにしよう。滑り台の経験から、最後に残るのは怖いので、二番目に乗せてもらうことにした。

「いいかね。まず、わしが手本を見せる。そのとおりにやればいいんじゃ」

 荒川氏は回ってくるリフトにサッと乗った。さすがに慣れている。

 それを見ながら黒田氏が鼻で笑った。

「ふん。上手いのは当然さ。自分で作ったんだからな。いいか、中野くん。乗るタイミングを合図する。躊躇ちゅうちょするなよ。乗ってしまえば、こっちのものだ。手すりをしっかりつかんで、前だけ見ていればいいんだ。いいな」

「は、はい」

「よしっ、今だ!」

 最初にガクンと衝撃があったが、意外に安定している。落ち着いて座っていれば、何とかなりそうである。

 下を見ないように視線を上に向けると、枝と枝の間に張った糸を伝ってオランチュラが一匹並走へいそうしていた。おれを心配してくれているらしい。

 無意識に微笑ほほえんでいるのに気付いて、自分でもちょっと驚いた。

 前方に目をやると、だいぶ傾いた太陽に照らされたホテルグリーンシャトーにぐんぐん近づいている。着地点で待ってくれていた荒川氏の手を借りるまでもなく、案外上手に降りられた。

「ありがとうございます。では、少し早いですが、パーティー会場に行きましょうか」

 その時、おれの後方で「あっ、何をするんだ!」と叫ぶ黒田氏の声が聞こえた。

 驚いて振り返ると、おれと並走していたはずのオランチュラが太いロープにしばられて宙吊ちゅうづりになっていた。

 ロープの先は巨大なたこのようなものにつながっており、その凧から伸びるもう一本のロープが黒田氏のいるリフト乗り場の向こう側に続いている。

 黒田氏は誰かに大声で怒鳴どなっていた。

「おまえは何者だ! 何のために、このような非道ひどうなことをするんだ!」

 おれの位置からはよく見えないが、誰かがオランチュラを捕縛ほばくしたようだ。

 荒川氏が、呆然ぼうぜんとしているおれの肩をポンとたたいた。

「中野くん、わしは飛んで助けを呼んでくる。すまんが、きみはリフトで戻って黒田の様子を見てくれんか。危険そうなら、決して近づかず、距離をとるんじゃ。なあに、ああ見えても黒田は古武術こぶじゅつ達人たつじんじゃ。自分の身は守れる。くれぐれも無理はするなよ」

「わ、わかりました」

 荒川氏は背負っているおいからパタパタとハングライダーの羽根を出すと、「頼んだぞ!」と言い残して飛んで行ってしまった。

 ためらっている時間はない。おれはすぐに意を決し、降りたばかりのリフトに乗った。

 少しはコツがわかってきたようだ。

 宙吊りになっているオランチュラがグッタリしているのも気がかりだが、とりあえず、今は黒田氏の安否確認が優先である。

 おれには黒田氏と対峙たいじしている相手が誰なのか、ほぼ予想がついていた。あの女と髭男、怪しいと思ってたんだ。

 無理をするなとは言われたが、リフトの上では身を隠す場所もないし、このまま黙って引き下がるつもりもない。文句を言ってやるぞ。

 だが、黒田氏と向き合い、凧からのびるロープを握っているのは、おれの想像とはまったく違う人物だった。

「おお、これはこれは。援軍えんぐん到着ですね」

 そう言っておだやかに笑ったのは、日曜日のパパだった。ロープを握っていない方の手には麻痺銃パラライザーにぎられ、その銃口はピタリと黒田氏に向けられている。

 銃の持ち込みはできないはずだが、おそらく、休止状態のCAロボットからうばったのだろう。

「くそっ、何をする気だ!」

 おれの問いにパパはますます笑顔になったが、その眼光は鋭かった。おれたちににらみをきかせたまま、片手でロープの端をリフトの柱に結んだ。その間、一分いちぶすきもない。

 これではとても手が出せない。

「そうですそうです、そのまま動くんじゃありませんよ。昔、物語に銃が登場したら発射されなければならない、と言ったロシア人の劇作家がいましたが、わたしにそんなことをさせないでくださいね。さて、何をする気かとお尋ねでしたね。きみのような若者にはわからないことかもしれませんが、富というものはいつの時代でもかたよって存在しています。そこで、時々われわれのような者がそれを是正ぜせいしなくてはならないのですよ」

 黒田氏の鼻が盛大に鳴った。

「ふん、泥棒にも三分さんぶの理、というやつか」

「まあ、あなたのような富豪にはわからないでしょうね。ですが、われわれ『宇宙海賊ロビンソン』は決して貧しい者からは奪いません。もっとも、貧乏人にほどこしをするほど偽善者ではありませんがね」

「ふん、所詮しょせんは海賊の屁理屈だな。ねらいは何だ。わがはいを誘拐ゆうかいして、身代金みのしろきんでも要求するつもりか?」

「いえいえ、誘拐は割のいいビジネスではありません。身代金の受け渡しという、どうしてもけられないリスクがありますのでね。われわれの目的は、もちろん、ドラードの莫大な黄金ですよ」

「ふん、何をバカな。おまえたちの海賊船だとて、アルキメデスの壁は越えられまい。それこそ割に合わんぞ」

「そのとおりです。確かに、当初の計画では、何とかして黄金そのものを運び出そうと考えていました。しかし、どうやっても莫大な燃料費が発生してしまう。そこで、解決の糸口を探るため、二人の仲間と共に観光客にまぎれ込んで現地を調べることにしました」

 やはり、あの二人か。

「そこで、一筋ひとすじ光明こうみょうが見えたのです。最初は、そこの若者が追いかけていたムシでした。黄金を見つけて、自分で運んでくるムシ。これを使えば、古代の遺跡などから黄金だけを集めさせることだってできるはずです。何とか捕獲したかったのですが、もう少しのところで逃げられてしまいました。しかし、もっといいものが見つかりましたよ。失礼ながら、先ほどの話はすべて聞かせていただきました。元素転換機ですと。おお、何とすばらしい! それさえ手に入れば、無尽蔵むじんぞうの黄金を得ることができるではありませんか」

「ふん。おまえはちゃんと話を聞いてなかったのか。荒川は、元素転換機もその知識もすでに失われたと言ったはずだ」

 パパはイヤな笑い方をした。

「うっふっふ。わたしはそうは思いませんねえ。なるほど、機械そのものは本当にもうないのでしょう。しかし、その知識はきっとどこかにあると思いますよ。例えば、このクモちゃんの脳ミソの中とかね」

 おれの頭がカッと熱くなった。

「やめろ! 生き物への残虐ざんぎゃく行為はリンカーン条約違反だぞ!」

「おやおや、若者の早トチリにも困ったものですね。このクモちゃんを解剖かいぼうしたって意味がないじゃないですか。クモちゃんたちは、いわば群体生物でしょう。一匹一匹は一個の細胞にすぎません。いや、もっといいたとえがありました。種族の記憶というインターネットにつながる、ひとつの端末です。その端末から、記憶の奥底に眠っているはずの知識をハッキングするのです。まあ、このクモちゃんには、かなりの苦痛でしょうがね。うふっ、うふっ、うふっ」

 おそらく、パパがおれとの話に気を取られているすきねらっていたのだろう、いつの間にか黒田氏がパパに急接近していた。

「きえええーっ!」

 気合一閃きあいいっせんとしに似合わぬ黒田氏のハイキックが、パパの手のパラライザーをり上げた。

 パーンと飛ばされたパラライザーは、放物線を描いておれに向かって来る。

「中野くん! その銃を確保するんだ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ