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1 持ち込み禁止って、聞いてないよ

貧乏学生の中野は、商店街の福引で大当たりを……

 パラレルワールドって知ってるか?

 おれだってくわしいわけじゃないが、この世界とそっくりでも、歴史の流れが違う世界が無数にあるらしい。

 例えば、おれが今日観た映画では、一九六九年にアポロ十一号が月面に着陸したのは同じでも、その後宇宙開発が停滞し、二十一世紀の現在に至るまで全人類が地球に引きこもっているという、あり得ないような世界が舞台だった。

 その代わり、その世界では携帯電話が異常に発達し、スマートフォンとかいうミニコンピューターみたいなものになっていた。

 映画の内容は、そのスマートフォン、略してスマホを落とした主人公が右往左往うおうさおうするホラーコメディだったが、最初の設定から違和感のあったおれには、全然面白くなかった。

 だって、この二十一世紀に月にも自由に行き来できないなんて、考えられないだろ?

 聞いた話じゃ、某有名私立中学では、毎年の修学旅行で月はおろか、火星や金星にだって行ってるらしいぜ。

 まあ、もっとも、おれみたいな貧乏学生じゃ、宇宙旅行なんて夢のまた夢だが……。


 なんてことを考えながら近所の商店街を歩いていたら、人だかりが見えた。

 福引の抽選をやっているようだ。

 普段ならそのまま通り過ぎるところだが、ガラガラ回す抽選器の横に立っているのぼりに、『特等、宇宙旅行!』という文字がおどっているのが目に入った。

 そういえば、いつも行くカレー屋がくれた抽選券を財布に入れていたんだっけ。

 どうせもらえるのはティッシュぐらいだろうと思いつつも、おれも列に並んだ。

 順番が来て、思い切りガラガラ回すと、ポロリと金色の玉が転がり出た。

「大当たり~っ! 特等宇宙旅行が出ました~っ!」

「えええええ~っ!」


 あまりの驚きに、どうやってアパートまで帰って来たのかもわからないが、おれは水をコップ一杯飲んで自分を落ち着かせ、貰ったチケットのただし書きを読んだ。

 なんと十泊一日じゅっぱくいちにちというメチャクチャな弾丸ツアーである。しかも、往復の十日間は人工冬眠で寝ているだけなので、実質的には日帰り旅行と変わらない。

 とはいえ、このチャンスをのがせばこの先いつ宇宙に行けるかわからない。気兼きがねするような相手も今はいないし、大学も来週から夏休みだ。

 アパートの部屋は十日ぐらい放っておいても今以上汚くはなるまい。

 余計よけいな心配をさせないよう、田舎いなかの親には旅行に行くとだけ知らせておけばいいだろう。

 問題は二年間続けているコンビニのバイトだが、ダメモトで店長に休暇きゅうかを願い出たら、あっさり認めてくれた。喜んでいいのかどうか、ちょっと複雑な気分だ。

 それはさて置き、行先はドラードという、あまり聞いたことのない惑星である。チケットと一緒に貰ったチラシには、次のように書いてあった。

  

【特等の賞品は、森の惑星ドラードへのツアー旅行チケットです。あなたも鉄とコンクリートばかりの地球を離れ、森林浴しんりんよくを楽しみませんか。住民はきわめて友好的で、食べ物も地球人の嗜好しこうに合うものばかりです。また、貴金属が豊富なことでも有名で、贅沢ぜいたくな気分が味わえます。但し、船内持込制限に抵触ていしょくするため、貴金属のお持ち帰りはご遠慮ください】


 あっという間に出発の日となった。

 おれは、着替きがえと洗面用具だけを愛用のリュックに詰め込んだ。少し迷ったが、向こうで使えるかどうかわからないので、電子機器のたぐいは置いていくことにした。

 宇宙旅行は初めてだが、実質じっしつ日帰り旅行なのだから、身軽みがるな方がいい。

 もっとも、昔はこれほど手軽なものではなかったそうだ。月へ行くのにさえ、特別な訓練が必要だったという。

 宇宙旅行が急速に進歩したのは、二十世紀の終わり頃に偶然発見された、宇宙を超光速で航行する技術のおかげである。

 リュックを背負せおい、アパートを出ようとして、ふと、休み明けに異星間比較文明論いせいかんひかくぶんめいろんのレポート提出があることを思い出した。

 どうせ旅行中に手直しなどしないだろうが、念のため、おれは下書きをプリントアウトしてリュックに突っ込み、バスで宙港ちゅうこうに向かった。


 バスをりて宙港に入ると、街中まちなかではあまり見かけない人間型ヒューマノイドロボットが大勢おおぜい働いていた。人間のスタッフもチラホラいるが、ほとんどの作業をロボットがやるようだ。

 これはうわさだが、宇宙旅行につきものの人工冬眠中に働かせるため、大量生産されたロボットが中古になり、リストラで地上勤務に回されて来るらしいのだ。

 テロ対策のためなのか、ほとんどのロボットが暴徒鎮圧ぼうとちんあつ用の放電式麻痺銃まひじゅう、すなわち、パラライザーを装備している。

 たとえあやまってたれたとしても、電気ショックを受けるだけで死にはしないが、麻痺から回復する時に相当な苦痛を味わうらしい。

 おれは不審者と思われないよう、ヘタクソな口笛を吹きながらロボットたちの横をそそくさと通り抜けた。

 手荷物検査場の入口の前に立ち、福引でもらったチケットをかざすと、二重にじゅうのガラスドアの手前が開いた。中の狭苦せまくるしい場所で機械による自動検疫けんえきを受け、奥のガラスドアから手荷物検査場に入った。

 ズラリと並んだカウンターには、手荷物検査係のロボットが一台ずつ配備されている。

 いている一番手前のロボットに、おれはチケットを差し出した。受け取ったロボットは軽く頭を下げ、声が裏返ったような人工音声でしゃべり始めた。

「オハヨウゴザイマス。ちけっとヲ拝見ハイケンシマス。中野伸也ナカノシンヤサマ、男性、二十歳ハタチ、オ一人サマデゴ乗船デスネ。機内ニ持チ込マレル荷物ヲてーぶるノ上ニオ願イシマス」

「ここでいいかい」

「アリガトウゴザイマス」

 おれの荷物をX線で検査していたロボットが、いきなり耳ざわりな警告音を発した。

「オオ、スミマセン。持チ込ミガ禁止サレテイル品物ガ入ッテイルヨウデス。開ケテクダサイ」

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