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八話

「お待たせいたしました、査定結果ですが……」


 フランさんは、薬草それぞれの買取価格まできちんと伝えてくれたが、合計で二万ウェル。切りよく大銀貨二枚だ。

 薬草がまるで今採って来たばかりのような鮮度を保っているということで、少し色をつけてこの数字にしてくれたらしい。一応これには、裏があるのだが。


 ATWにも、いわゆるインベントリはある。転送技術を応用したもので、持ち物を別の空間に飛ばしそこで保存するという設定だった気がする。

 初期は制限があるが、俺はまたとんでもないクレジットを払って容量無限を開放済みだったから、いくらでも入れられる。時間の流れが違う空間だとかで、収納した物品が経年劣化などはすることがない。

 そのため、採取するなりすぐにインベントリに収納した薬草類が、採ったばかりの鮮度を保っていたというわけだ。


 ちなみにそれなりの値段はするが、空間を拡張して実際よりも多くの品物が収納できる魔法の道具袋などがあることは確認済みだ。

 ただ、俺みたいに容量無限で仕舞った物が劣化しないなんていうチート性能は無いため、これは隠す必要があった。一応、朝城門を出る前になけなしの金を払って露天で売っていた適当な袋を買い、買取カウンターではそこから出す振りをするという偽装工作をしておいたが。


「初めての依頼でこれだけ稼ぐ方はなかなかいませんよ」


「いやぁ、たまたまかもしれないので、慢心せずに頑張ります」


 フランさんに微笑みながら褒められると、少し心が痛む。なにしろ、俺はある意味でインチキをしているからな……。


 それにしても、数時間の薬草採取で結構稼げたとは思うが、やはり先が不安だ。と言っても、俺が薬草を採り尽して枯渇させるとか、そういう心配ではない。


 俺が採った薬草は定番の回復アイテム、ポーションの材料になったりするもので、普通の薬草とは違い魔力を帯びており採っても数日で生えてくるのだとか。ただ、魔物が出没するようなある程度魔力が濃い場所でないと生えてこないため、こうして冒険者に採取依頼を出して地道に集めているらしい。


 ギルドでの薬草の買取価格は、魔物が出るような場所で採取を行うという危険手当て込みで、そこから税金や仲介料を差し引いたお値段らしいが、それを考えると果たして割に合うのかどうか。

 一応日銭には困らないが、毎日の宿代や飲食費などを考えると余裕を持って蓄えができるほどの稼ぎではない。


 やはりある程度の余裕を持つためには、冒険者のランクを上げて見入りのよい仕事をする必要がありそうだ。同時に傭兵のランクも上げ、身を守るための武器も充実させなければならない。

 薬草採取も悪くないと思うが、五級や四級のものだとある程度の数が必要になるため、いちいち選択しているクエストを切り替えて同じ場所に別の薬草が無いか探す手間がかかる。

 もっとランクが上で、買取の単価が高い採取物であれば、それに絞ることで効率よく稼ぐことができるかも……。


「ところで……先程は危なかったですね」


 俺が捕らぬ狸の皮算用をしていたら、周囲に聞こえないよう小声でそう言われた。


「えぇ、シェーンさんに助けてもらいましたが……やはり、問題のあるチームなんですね?」


「あくまで私見になりますが、よろしいですか?」


「はい」


 フランさんは、声が聞こえる範囲に人がいないことを確認した後、話し始めた。


「あの通り、品格に問題のあるチームです。冒険者になって一旗上げようと地方から出てきたものの、うまくいっていない新人冒険者の方は藁にもすがる思いで入りますが……チームに入っても底辺から抜け出せないままですよ」


 うお、底辺とかフランさん意外と辛辣だ。でも、最初にシェーンと話してた時の様子から考えると、これでもまだ丁寧な話し方を心がけているようだ。


「武器や宿泊所を貸してくれても、使用料として依頼の報酬の何割かをチームに支払わなければなりません。チームにいる上級冒険者の手伝いを受けて依頼を達成した場合、報酬の大半を持っていかれます。その間も、チームの雑用係としてこき使われるので、身も心もぼろぼろに」


 なんてひどい話なんだ……ほぼ俺の予想通りだったけど。まさに生かさず殺さずで、搾り取っていくわけだ。


「冒険者ギルドは、問題視していないんですか?」


「確かに搾取されるにしても、スラムの住人になられるよりはまだいいですから。それに一応は上級の冒険者がつくので、死亡率も下がります。必要最低限度の生活は保証されるわけですし、ギルドとしてはあとはチームに入った本人の自己責任という立場をとっています」


 出た、体制側が使うと一気に悪用できる言葉、自己責任。俺なんか殺気を向けられたりして、半ば強要されたんだけど。上級冒険者に逆らえずに無理やりチームに入れられた新人冒険者だっているんじゃないのか?


「ただ、チームから独立しようとしたメンバーをリンチにしたり、危険な依頼では魔物の囮にしたりと、裏では相当あくどいことをしているという噂です。それも噂で何の証拠もありませんし、証言をするはずだったメンバーは直前の依頼で死亡してしまったりするので、表立って彼らを咎めることはできません」


 ひえぇ、なんて黒い奴らなんだ。やっぱり俺の勘は間違っていなかった。勇気を出して断って正解だったな。

 というか、魔物の囮にされるって普通に死にそう……死亡率が下がるとか言ってたから、一応囮にした後は助けているのだろうか。


「それにチームリーダーのディックさんは、腐っても準二級の冒険者ですからね。ギルドとしても、彼の実力は認めています」


 腐ってもって、フランさんもディックのことは嫌っているようだ。


 そういえば、俺はシェーンが三級冒険者だということが意外だった。あんな脳みそまで筋肉でできてそうな男よりも、ずっと実力がありそうなのに、冒険者のランクでは一段劣っているなんて。


「……誘いを断った新人冒険者の方は、翌日なぜか怪我をしていることが多いです。皆さん、一様に転んだと言われますが。クルトさんも気をつけてくださいね。この後は、シェーンさんと一緒に宿まで帰られるといいですよ」


 俺もリンチにされるフラグが立ってるってことじゃないですか、なんてこった。


「わかりました、気をつけます……その、いろいろとお話ありがとうございます。でも、なぜここまで話してくれたんですか?」


「シェーンさんは、私の友人です。友人の助けをするのは、当たり前のことですよ。それに、これは私の勘ですが……あなたなら、きっと彼女に恩を返してくれると思ったので」


 そう言って、フランさんは俺にウィンク。

 なんだかわからないが、期待されているようだ……俺としてもフランさんの期待は裏切りたくないし、シェーンに恩を返したい。まあ、まずは借金を返すところから始めなければいけないわけだが。


「それでは、これからのご活躍にも期待しています」


「はい、ありがとうございました」


 フランさんにもう一度きちんとお礼を言ってから、カウンターから離れる。それを見たシェーンが、席から立ち上がって俺に話しかけてきた。


「フランから話を聞いたと思うが、あのチームに入らなかったクルトの判断は正しかったな」


「断れたのは、シェーンが割って入ってくれたからだよ」


「なに、お前が勇気を出さずに断らなかったら、私も無視していただろう」


 さらっと怖いことを言うシェーン。あんな連中の誘いにほいほい乗ったり、一度は断る勇気も出せない奴までいちいち助けてやる気は無いようだ。はっきりと断っておいてよかった。


「それに、ちゃんと備えていたようだしな?」


 俺の右腰に視線をやってから、そんなことを言ってくる。テーブルの下で、俺がそこに右手を伸ばしていたのを見られていたらしい。さすが、鋭い。


 そう言えば、シェーンには一度銃を見られているしな。

 初めて会った時、彼女は牙を持っていけばギルドで報奨金が出ると俺に教え、最初に射殺したゴブリンとハウンドの口にナイフを突っ込んで手際よく牙を回収してくれた。その際に傷口を見て、俺にどうやって殺したのか聞いてきたし。


 俺が言いにくそうにしていると、向こうから話したくないなら話さなくてもいいと言ってくれたが。俺が構えていた拳銃も気になっているようだったが、結局何なのか聞いてこなかったしなぁ。

 腰のホルスターに仕舞うところも見られているから、シェーンには銃が武器であることくらいは見抜かれてそうだ。


「まあ、一応……それより、俺を助けたせいであいつら怒らせたみたいで、申し訳ない」


「あんなろくでなしどもにどう思われようが、気にならん。それに、私があの連中に嫌われているのは前からだ」


 確かにディックもそんなこと言っていたような気がするから、彼女と連中との対立は以前からあったのは間違いないだろう。ただ、ディックの捨て台詞が気になるし、これで何かあったら恩人のシェーンに対して申し訳なさ過ぎる。


「私よりも自分の心配をした方がいいぞ。今日は私が宿までついていくが、これから夜道には気をつけろ」


 ですよねー。

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