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二四話

「なんかお礼の話から、急に専属護衛の話になったりして、よくわからないことになったよなぁ」


「そうだな」


 ガーゴイルの襲撃から助けた大商会の女性会長クレアから、お礼がしたいということでガルドの支店に行ったところ、謝礼金の額に驚いたりシェーンが納得しなかったりで、そこから急に彼女の専属護衛にならないかという話になってしまった。


 しかし、いろいろ理由はあるが、俺としては専属護衛なんて断りたいというのが本音だ。

 ただ、一応俺と組んでるシェーンと話し合ってからきちんと決めたかったし、その場でろくに考えた様子も見せずに即断ったら失礼になりそうだったので、とりあえず返事は保留にした。


 その後は適当に当たり障りの無い世間話をし、時間を潰してから店を出て、今はその帰り道だ。


「俺なんてまだ駆け出しの冒険者で、護衛なんてやったこともないのに専属なんて、変だよな。そりゃ俺の武器は強力だし、シェーンの剣の腕前は一流以上だけど……ひょっとして、専属護衛っていう名目で、俺たちにお金を渡したかっただけとか?」


「そうかもしれないな」


 一番ありそうな可能性を述べてみたが、シェーンの反応は素っ気無い。というか、店を出てから俺が話しかけてもずっとこんな調子だ……俺かクレアの態度で何か気に入らないことでもあったか?


「シェーンはどう考えて――」


「近道をして帰ろう」


「あ、あぁ」


 俺の言葉を遮って、シェーンはさっさと表通りから一本ずれた通りに入ってしまった。近道になるのか、ここ?


「クルト、落ち着いて聞いて欲しい」


「な、なんだ?」


「私たちはつけられている」


 一瞬意味がわからなかった。つけられているって……尾行のことか!?


「振り向くな」


 急いで振り返って確認しようとしたら、シェーンに声は抑えていても鋭く制止されてしまった。そういわれても、つけられているといわれたら、後ろが気になって仕方ないじゃないか!


 振り返らずに周囲を見てみたが、何の変哲も無い裏通りだ。表通りから一本外れているだけなので、ぽつぽつと通行人もいる。まさかここで襲われたりするなんてことはないよな?


「店を出てから妙な気配がするとは思っていたが、間違いない。誰かが私たちを追ってきている」


「悪いんだけど、どうしてそんなことがわかるんだ? シェーンってそういう魔法も使えたのか?」


「魔法ではないよ。近衛騎士団では要人警護の訓練も受けた。騎士団時代には、実際に尾行されたこともある。その時の経験と勘でわかった」


 マジか、シェーンってやっぱりすごいな。そういえば、確かに近衛騎士団でSPみたいなことをしてたって前に言っていたな。

 そうなると、彼女の言うことは信憑性が高い。問題は誰にどうして尾行されているかだが……。


「俺たちを襲う気かな……?」


「今のところ殺気は無い。ただ単につけているだけのようだ」


 気配とか殺気とかもわかるなんて、さすが元近衛騎士団のエースとしか言いようがない。俺なんてゲームの銃撃戦には自信があっても、そういうのはさっぱりだ……彼女と組んで本当によかった。


「どうすればいいと思う?」


「まいてもいいが、そうすれば私たちが尾行に気づいたと向こうも判断するだろう。何かする気があるなら、その時点で向こうが強硬手段に出るかもしれない」


 バレちゃ仕方がねぇ、死んでもらう――冗談じゃねーよ、そんなのは映画の中だけで結構だ。これはあれか、やっぱり俺たちは陰謀に巻き込まれてしまったのか?


「このまま気づいていない振りをして宿に帰ろう。その後は相手の出方次第だ」


「俺たちが泊まっている場所を得体の知れない奴に教えるのか? 宿で襲われたりしたら……」


 ホテルで派手な銃撃戦になったりするのは、アクション映画の定番の一つだ。そんなことになるのは俺は嫌だぞ。


「街中の宿で誰かを襲うなど、あまり頭のいい考えではない。可能性は低いだろう」


「じゃあ、尾行している奴を捕まえるっていうのは?」


「こちらが劇的な行動をとれば、相手も同じ行動をとるぞ」


 えぇー……このまま受け身ってのもなんか嫌だな。映画の中のヒーローだったら、ぱぱっとストーカー野郎をとっ捕まえて洗いざらい吐かせて、先手必勝で相手の拠点に殴りこんで壊滅させたりするところなのに。


 ……いやまあ、今のは無いな。ここはシェーンの言う通り、何もせずに宿に帰って、相手の出方を見るのがよさそうだ。消極的だけど、安全第一でいこう。


「わかった、おとなしく帰るとするか」


「一応銃はいつでも抜けるようにしておいてくれ。相手に動きがあればすぐに伝える」


 腰のホルスターを気にしながら宿まで帰る羽目になってしまった……。




「とりあえず、宿まで見張られていることはない」


 もう夕方だが、ちょっとした買い物ついでに外の様子を見に行ったシェーンの言葉を聞き、少し安心した。

 二人で泊まっている部屋の中で、あらためてシェーンと話し合う。


「何が目的だったんだろうな?」


「まずはどこに泊まっているか確認したかったのか……今後も尾行が続くようなら、対策を考えなければな」


 俺としては、もう尾行されるなんてごめんなんだけど。正体不明の相手に追われるなんて、心臓に悪過ぎる。


「クルトの言っていた通り、何かの陰謀絡みの可能性が高いな」


「だよなぁ、店を出たら尾行なんて何かあるとしか思えない」


 別に専属護衛の話を受けたわけでもないのに……。


「クレア会長の言っていた専属護衛の件はどうする? 俺は断りたいんだが」


 というか、俺は絶対に嫌だ。尾行されたことでますますその気持ちは固くなった。


 まず俺はまだ冒険者を続けたい。

 実はガーゴイルの襲撃を退けて少ししてから、傭兵ランクが三級に上がったのだ。だから、きっと今回の一件が評価されて冒険者ランクも三級に上がると思っていたら、据え置かれたままだった。


 俺は冒険者のランクと傭兵のランクが連動していると考えていたが、そういうわけでもないようだ。ATWで傭兵ランクが上がる要因の一つに、強敵を倒したりイベントをクリアするというものがある。

 おそらくだが、あのガーゴイルの襲撃がイベント扱いで、ついでに今までの魔物と比べれば強い方だったガーゴイルを何匹も倒したことで、傭兵ランクが上がったのだと思う。

 完全に俺の推測なので、正しいかどうかはわからないが……。


 傭兵ランクを上げるために今後どうすればいいか、また考えなければならないが、とりあえず三級に上がったことは素直に嬉しい。

 四級ではライフルやサブマシンガン程度なら毎日一丁はレンタルできていたが、軽機関銃なんかはギリギリだった。

 しかし、三級なら軽機関銃も余裕で借りられるし、重機関銃にも手が届く。まだ強力な対戦車火器なんかは無理だが、一部の爆発物も使えるようになったので、火力に大分余裕が出た。


 三級に上がったので、無理に銃を隠すつもりはない。ガーゴイルの件で冒険者ギルドから事情聴取を受けたが、その時銃について少し話したしな。

 もちろん積極的に情報を出す気は無い。


 鉄道馬車の人たちにも銃声は聞かれていたから、使うと大きな音が出ることは説明した。それ以外は魔法の武器で詳しいことは話せないで押し通したけどな。

 冒険者ギルドからは詳しい説明が無いとギルドでの評価に繋がらないことは念押しされたが、魔法の武具の性能を隠したがる冒険者は多いらしいので、そこまで追及されなかったのは幸いだった。


 とにかく三級に上がったことで火力に余裕が出たし、銃のことを多少は知られてもいいので、冒険者としての活動がかなりやりやすくなったのだ。

 これからだという時なので、専属護衛なんか受けて縛られるのはまっぴらごめんというのが俺の本音だ。


「私も断りたい。専属護衛なんてどこからどこまでやるのか不明確だしな。何の経験も無しに金貨三枚から雇われるなんて、普通じゃない。ひょっとしたら、あの会長、私の経歴を知ったうえで話を持ち出したのかもしれないが」


 どうだろう。表向きシェーンは貴族の警護に失敗して近衛騎士団から追放されてるし。前に警護していた貴族が殺されているとなれば、縁起でもないから普通は専属護衛にするなんて嫌がると思うが。


「それに私たちが尾行されたことといい、クルトも言っていたがどうもきな臭い。面倒を避けるなら、専属護衛は断って、それで話は終わりにすればいい。護衛なんかしなければ、彼女の敵もこれ以上私たちに構うこともないだろう。今日尾行してきた相手が、彼女の敵ならばだが」


 クレア会長の件以外で俺とシェーンが誰かに狙われているなら、今後も尾行が続くだろうが、ひとまず専属護衛の件を断ってあとは普通にしていれば商会絡みの陰謀からは逃れられるはず。


 その後もいろいろと今後どうするかシェーンと話し合ったが、とりあえず専属護衛は断るという方向で話がまとまった。

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