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二二話

 街道上の馬車を助けに行くと決めたはいいが、このまま線路か街道沿いに行ってはすぐにガーゴイルたちに発見されてしまうので、それを避けるために線路の左側の森伝いに接近することにした。

 森の中をシェーンと二人で駆け、可能な限り街道の馬車に接近する。距離が縮まり、ようやくどういう状況になっているか見えるようになった。


 二台の馬車のうち、一台は完全に破壊されている。ガーゴイルの強力な放水攻撃を集中して受けたらしく、車体が大破していた。その周囲には、馬と人間の死体が無造作に転がっている。

 もう一台も馬は倒れているが、まだ原形を保っている車体の陰に三人の人間が隠れていた。男が二人、女が一人だ。二人の男は馬車の護衛だったのか、それぞれ剣と弓を持っている。


 何匹かは馬車の人間たちで撃退したらしく、数匹のガーゴイルが周囲に落ちていた。それでもまだ一〇匹以上いるガーゴイルは、見張りなのか半分が上空で旋回し続け、残りの半分が攻撃を担当しているようだ。

 弓を持った男が、馬車の車体に隠れながらガーゴイル目掛けて矢を放っている。当たってもガーゴイルの硬い皮膚を貫けない場合がほとんどのようだが、牽制にはなっているようだ。


 不意に降下してきたガーゴイルが口から凄まじい勢いで水を吐き出し、三人が隠れている馬車に水流が直撃する。木片が飛び散り、三人とも壊れかけの車体の陰でさらに身を縮ませた。


「銃で攻撃して出来るだけ減らす」


 森の中からうまく街道を狙える位置を見つけた俺は、そこに陣取った。太い幹に銃と体を押しつけるようにしてBARを構える。森から街道まで一〇〇メートルは離れているが、遮蔽物が何も無い場所でぶっ放し続けたら標的はここですよと教える羽目になってしまうので、これが限界だ。


 馬車を攻撃中のガーゴイルは急降下と急上昇を繰り返しているので、狙いがつけにくい。まずはとにかく数を減らしたいので、上空で緩やかな旋回をしているガーゴイルたちを狙うことにした。そのうちの一匹に銃口を向ける。


 旋回の範囲を見極め、その動きを先読みして撃った。BARの銃口から30-06弾が立て続けに吐き出される。慎重に狙った甲斐あって、見事に命中。撃たれたガーゴイルががくりと頭を下げて落下し、地面に叩きつけられる。


 突然響いた轟音――銃声とガーゴイルの墜落に、馬車の人間も上空のガーゴイルも驚いている。銃声や銃火で発見される前に、可能な限りガーゴイルの数を減らさなければならない。


「落ちろっ!」


 気合とともに引き金を引く。使用する弾薬が強力で連射し続けると反動で狙いが甘くなるため、五発前後に区切った短い連射を繰り返す。


 狙いをつけて、短連射。銃口の先で上半身に集中して被弾したガーゴイルがのけぞって墜落する。その横を飛んでいたガーゴイルを狙い、数発撃って引き金を緩める。片翼を弾丸でもぎ取られたガーゴイルが、錐もみ状態に陥って真っ逆さまに落ちていった。


 BARの弾倉が空になったところで、ガーゴイルもこちらの位置を掴んだらしく、右へ左へと振っていた頭をぴたりとこちらに向けてきた。嫌な感じだ。


「まずい!」


 シェーンの焦った声。てっきりこちらへ向かってくるかと思いきや、手近な獲物を全員で仕留めることにしたらしく、残ったガーゴイルが一斉に急降下を始めた。その先には、三人が隠れている馬車。


 俺は急いで弾倉を交換すると、射撃を再開した。急降下するガーゴイル目掛けて撃ちまくる。弾丸の網に絡め取られた一匹のガーゴイルが、そのまま死のダイブを強要される。しかし、それが限界だった。


 残った全てのガーゴイルが一斉に水流を吐き出し、馬車に叩きつけた。すでに半壊していた車体がさらに解体される。車軸が破壊されたらしく、馬車が一気に傾く。そこへとどめとばかりに水流が集中して当たり、車体が横転する。


「一人やられた!」


 馬車の陰に隠れていた三人は慌てて逃げ出したが、弓を持った男だけが間に合わなかった。横転した車体に押し潰されて、姿が見えなくなる。

 盾にしていた馬車から追い出された二人は、俺たちがいる森へと走り出した。遮る物が何も無い中を、懸命に走ってくる。


 必死で走る二人に、残り数匹となったガーゴイルが執拗に襲い掛かる。殺到するガーゴイルへと俺は弾倉の中に残っていた弾を全て放ち、一匹を撃ち落としもう一匹を傷つけ攻撃を阻止したが、そこまでだった。


 残りのガーゴイルは怯むことなく口から水を吐き出し、複数の水流が走る二人を襲った。剣を放り出した男が、一緒に逃げていた若い女を突き飛ばす。


「畜生!」


 突き飛ばされた女は地面の上を派手に転げまわったが、それで済んだ。しかし、男は全身に水流を叩きつけられ吹き飛ばされた。地面の上を何度かバウンドして止まった男の手足が、関節が無い場所で曲がっている。


「助けに行く!」


 俺が何か言う前に、シェーンが飛び出していった。突き飛ばされてまだ立ち上がれていない女を助けるつもりだ。


「ああもう!」


 弾倉交換を終えるなり、俺も森から飛び出す。森の中に残って援護しようかと思ったが、的が多ければガーゴイルもどいつを狙おうか迷い、隙が生まれるかもしれないと考えたのだ。


「はっ!」


 森から飛び出したシェーンが一瞬立ち止まると、もう一本あった槍を投げた。中空を飛翔した槍が狙い過たず一匹のガーゴイルの首を串刺しにする。そいつが落下するのを見届けもせずに再び走り出す。


 俺もシェーンを追って走り出したはいいが、彼女と違って魔法で脚力を鍛えているわけでもないので、どうしても遅れを取ってしまう。それに対してシェーンは、森まであと半分というところで倒れている女のもとへ一瞬でたどり着く。


「邪魔だっ!」


 倒れていた女を左手で掴んだシェーンが、叫ぶなり片手で短剣を投擲した。風を切って飛んだ短剣が、彼女の右手から襲いかかろうとしていたガーゴイルの口に吸い込まれる。喉奥に短剣を突き立てられたガーゴイルは、首を押さえながら墜落する。


「くたばれっ!」


 肩づけでBARを構えた俺も空へ向かって引き金を引いた。左手からシェーンを襲おうとしていたガーゴイルを蜂の巣にしてやる。


「立つんだ!」


「は、はい!」


 シェーンに叱咤された女が、ようやく立ち上がった。再び森へと走り出す。残り二匹となったガーゴイルが逃げずにまだ追って来る。


「しつこいんだよ!」


 一匹は俺が撃ち落とした。胴体にしこたま弾を喰らったガーゴイルが力無く落下する。


「やっ!」


 最後の一匹は、シェーンが相手取った。短い一声とともに地面を蹴った彼女が、急降下してきたガーゴイルと空中ですれ違う――次の瞬間にはガーゴイルの首筋から鮮血が吹き上がり、バランスを崩して落ちていった。


 地獄に落ちたガーゴイルと違い、シェーンは何事も無かったかのようにすたっと地面に降り立つ。やっていることが銀幕のスターみたいだ。俺も頑張ったとは思うが、なんかシェーンの方がかっこよかったような……。


「すごいな、本当に」


「落とした数は君の方が多いだろう?」


「それはそうなんだけどな……」


 とりあえず、今のが最後のガーゴイルだったはずだ。念のために周囲を確認するが、もう一匹のガーゴイルも飛んでいない。俺は地面に落ちてまだ動いているガーゴイルに数発撃ち込み、確実にとどめを刺しておいた。


「これで大丈夫か?」


「ああ、ひとまずな……」


 俺もシェーンも傷一つ負わずに済んだのはよかったが……ガーゴイルの死体とともに馬車の周辺に散らばる人間の死体を見ると、なんともいえない気分になった。


「まだ生きている人はいないかな?」


「確認した方がいいだろうが……その前に」


 そう言ってシェーンが森の方を見る。そこには、木の後ろに隠れながらこちらを見ている女の姿があった。


「彼女と話をした方がいいだろう」

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