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二〇話

「結局、宝はあの短剣だけか……」


 馬のいななきとレールの継ぎ目を渡る際の単調な音を聞きながら、俺は客車の中でぼやく。隣に座っているシェーンが、俺をたしなめるように言う。


「あれを見つけられただけでも相当運がいい方なんだぞ?」


「いやぁ、ダンジョンでお宝を見つけて一夜にして億万長者っていう冒険者もいるらしいからさ」


 小鬼の洞窟というダンジョンに最初に潜った日は、隠し宝箱から宝飾の施された短剣を見つけられたが、その後は宝と呼べるレベルのものは一つも発見できなかった。


 宿場町に数日滞在して何度か潜ったものの、得られたのは倒したゴブリンの牙やいくらかの魔石、多少のお金にはなった雑多なアイテムなどだった。滞在費を稼ぐには充分だったが、初日に見つけた短剣を除くと、一儲けできたとは言い難い。


 とりあえずダンジョンの雰囲気は掴めたし、何日か経って銃声のほとぼりも冷めただろうから、ガルドに戻ることにして今は帰りの鉄道馬車の中。ガルドに戻ったら、あの短剣を鑑定してもらって買い取りに出すつもりだ。


 宿場町でもダンジョンで見つけた物品を鑑定し買い取ってくれる店はあったが、ダンジョンは辺境にあるので買い取ってからガルドへ運ぶ輸送費などがかかるため、買取額は少し減ってしまうらしい。

 そのため、滞在費を稼ぐために大したことのない品は宿場町で買い取ってもらえばいいが、宝はガルドに戻って大手の専門店に買い取ってもらった方が儲けが大きいとのこと。


「所詮難易度の低いダンジョンだからな。もっと強力な魔物が出没する上級のダンジョンなら、稼ぎも大きくなるらしいが」


「三級にもなってないのにそういうところへ行くのはな……でも、いつかはシェーンと一緒に挑戦してみたいな」


「その時は、シーフがいると楽だな。上級のダンジョンではトラップも多くなる」


 軽く今後も二人で頑張ろうということを匂わせたつもりだったのだが、シェーンにあっさりと流されてしまった。

 まあ、彼女と組んでいろいろ楽になったから、これでまた信頼できる仲間が増えればもっと楽になる部分もあると思うのだが……もうしばらくは、シェーンと二人だけで気ままにやりたいものだ。


「上級のダンジョンで有用なファクトリーを見つけられれば、一攫千金も夢ではないしな」


「ファクトリー?」


 聞き慣れない単語に聞き返すと、シェーンが説明をしてくれた。


 ファクトリーというのは、ダンジョンで稀に見つかる神話で語られるような古代に栄えた高度な魔法文明の遺物。なんと魔石を入れるだけで、特定のアイテムなどをいくらでも生産できるのだという。形状はさまざまだが、魔石を消費することで決められた物を無限に作り出せるというのが共通点。


 たとえば、この王国で出回っている上質な紙もあるダンジョンから見つかったファクトリーから作られているのだとか。今使っている鉄道馬車のレールを作るファクトリーもあるらしい。この世界に来てから時々妙に発展した品物を見ることがあったが、あれもファクトリーが作ったものだったのだろうか。


 とはいえ、ファクトリーは決められた一品しか作ることはできない。魔石を消費すれば無限に生み出せるとはいっても、一日の生産量にはある程度の限界があったり、生み出す物によってはとんでもない量の魔石を消費したりするため、中には使えないファクトリーもあるという。


「ダンジョンで有用なファクトリーを見つけ、莫大な財をなして貴族に成り上がった冒険者もいるぞ」


「ダンジョンでは、そんなお宝も見つかるのか……」


 オーパーツ的なファクトリーをダンジョンから持ち帰れれば、貴族になることも夢じゃないのか。

 しかし、これはいいことを聞いた。俺がブラックマーケットから購入できるアイテムを大量に売ることになった場合、そういうファクトリーを見つけたと嘘を言えば誤魔化せそうだからだ。


「おっと!?」


「なんだっ!?」


 突然、馬車が急停車した。売れそうなアイテムを思い浮かべていた俺は、危うく座席から転がり落ちるところだった。どうにか踏ん張って耐えた後、何があったか確認するため窓に顔を寄せる。


「おい、どうした!?」


「この先で空を飛ぶ魔物が、街道の馬車を襲っているんだ!」


 鉄道馬車の御者が、客車の窓から顔を出した乗客に向け、前方を指差して答える。慌てて俺も窓から顔を出して、御者が指差した空を見る。


 まだかなり距離はあるが、線路と並行している街道上で二台の馬車が停止していた。その上をいくつもの黒い染みが飛び交っている。注意してみると、その染みは翼を生やした大柄な人間のような形をしていた。

 俺と同じようにしてその魔物の姿を確認したシェーンが、驚いたように叫ぶ。


「ガーゴイルだと!?」


 ガーゴイルって、RPGの空飛ぶモンスターとしては割とメジャーな方の、あの翼を生やした怪物の石像みたいな奴のことか? 黒っぽく見えるのは、体が石だからか。


 ガーゴイルは、全部で二〇匹近くいる。破壊されたのか傾いたまま停車している二台の馬車の上空を円を描くようにして飛び回り、何匹かが急降下して馬車の周辺にいる人間を襲っているようだった。襲われている人間側も魔法か何かで応戦しているようだが、遠いのでよくわからない。


「見つかる前に逃げよう!」


「今馬の位置を変える!」


 御者とその助手兼護衛が、大慌てで御者台から飛び降りると四頭の馬を移動させ始める。こういう時のために客車の後ろにも馬を移動させて牽くことのできる簡易設備があるらしく、そこに馬を繋げようとしているようだ。


「ヤバイ、こっちにも来るぞ!」


 何匹かのガーゴイルがこちらに気づき、翼を翻した。馬車を後進させるにはまだまだ時間がかかりそうだ。


「私とクルトで時間を稼ぐしかないな」


 最初こそ驚いたものの、すでに冷静になっているシェーンが落ち着いてそう言い、客車の扉を開けて外に降りる。俺とシェーン以外の乗客は一般人のようで突然の出来事に怯えるばかりだったから、確かに時間稼ぎをできるのは俺たちだけだろう。


「私たちが時間を稼ぐ。一刻も早く馬を繋ぎなおせ!」


「わ、わかった! あとで礼ははずむから、頼む!」


 必死になって馬を客車に繋ぎなおしている御者と助手が、顔を真っ赤にしながらシェーンに叫び返した。 しかし、本当に急転直下の事態で、まだ頭が追いついてないような気がする。気楽な鉄道旅のはずが、こんなことになるとは……まさに行きはよいよい帰りはこわい、だ。


「森に入って木陰に隠れながら戦おう」


「それがよさそうだな」


 昨日レンタルして、まだ返却期限の来ていなかったMP40を出して構えながら、シェーンの先導で鉄道馬車から離れて前に出る。そして線路の左横にある森に入った。


「本来ならこんなところに出る魔物ではないのだが……ガーゴイルは口から凄まじい勢いで水を打ち出してくる。急降下してきたら要注意だ。そのままさらって地面に叩きつけてきたりもする」


 森の入口辺りでこちらに接近しつつあるガーゴイルの一群を見ながら、シェーンが説明してくれた。

 水を吐き出すくらいなら大したことないんじゃないかと思ったが、それなりの厚みがある木の板でも粉砕する威力があるとなると話は別だ。まともに喰らったら、たとえ金属鎧で防げても衝撃で内臓が破裂したり骨が折れたりするそうだ。


 迫るガーゴイルを見ながら、俺はMP40の九ミリ・パラベラム弾が通用するかどうか不安になった。

 シェーンに聞いたところ、ガーゴイルの体は石そのものではないが、表皮は石のように硬く通常の剣では相当強く斬りつけないと刃が通らないくらいらしい。

 射程や威力の限られる拳銃弾で、空を飛び回り強靭な皮膚を持つガーゴイルに致命傷を与え撃墜できるかどうか……今のうちにMP40が通用しなかった場合に次に使う銃器を選んでおいた方がよさそうだ。


「前に暴風の連中から回収した槍や短剣があったと思うが、それを出してくれるか?」


 もはや一刻の猶予も無いので急いでブラックマーケットでレンタルできる銃火器のリストを確認していたら、シェーンから唐突にそんなことを言われた。

 確かに以前壊滅させたならず者の冒険者チームである暴風のメンバーたちから奪った槍や短剣が俺のインベントリに仕舞いっぱなしになっていたが……。


「いいけど、どうするんだ?」


「投げる」

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