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一八話

 ホワイトアウトから視界が回復すると、そこはもうダンジョンの中だった。

 相変わらず洞窟の中の広間のような場所だったので、最初は一瞬失敗したのかと思ったが、衛兵もいないし周囲をよく見ると最初の広間とは広さが全然違う。


「無事に潜れたな」


「みたいだな、銃を用意する」


 シェーンと一緒に転送陣から出た後、俺はメインの武器の準備をする。あらかじめ決めておいた銃を選んでレンタルすると、白い光とともに一丁のサブマシンガンが俺の手の中に現れた。


 俺が今回選んだのは、ドイツ軍の有名なサブマシンガンであるMP40。

 それまで木製部品を使うことが多かったのに対して、MP40は金属やプラスチックを使い、プレス加工と溶接を多用することで大量生産しやすくした画期的なサブマシンガンだ。


 九ミリ・パラベラム弾が三二発詰まった弾倉がしっかり装着されているかどうか確認した後、ボルトのセイフティを解除。左側に突き出たコッキングハンドルを握って一杯まで引いて、ボルトをシアに保持した。


「いつでもどうぞ」


 折りたたみ式の金属製ストックを伸ばして肩にあてながら、隣で長剣を構えたシェーンに声をかける。


「では、行こう」


 以前もこのダンジョンに潜ったことがあり、不意に魔物に遭遇したとしても接近戦に強いシェーンが先に立って歩き出す。その後にストックを肩につけたMP40を大体四五度くらいに下げて構えるローレディ・ポジションをとった俺が続く。


 小鬼の洞窟――という名前通り、このダンジョンで出る魔物の多くはゴブリン系らしい。弓を使うアーチャーや簡単な魔法で攻撃してくるメイジもいるが、所詮はゴブリンということで難易度は低く昔から初心者向けのダンジョンとしての需要が高いとのこと。


 中が森や草原、果ては荒野や砂漠になっているダンジョンもあるらしいが、ここはオーソドックスな洞窟のダンジョン。上下左右すべてがごつごつとした岩壁に囲まれており、うっかり転んだらそれだけで怪我をしそうだ。

 洞窟の壁には、松明が掲げられていて中を照らしている。壁にかかっている間はいつまでも燃え続ける不思議な松明だが、外すと途端に消えてしまうという。ダンジョンは謎だらけだ。


「基本はお宝を探しつつ、次の階層に行く転送陣を見つける……で、よかったか?」


「ああ、次の階層に行くにはもう一つある転送陣を見つけなければならないからな」


 最初に来る時に使った転送陣は、ダンジョンから出るのにしか使えない。同じ階層のどこかにもう一つ転送陣があり、そちらは別の階層に行くのにしか使えないようになっている。

 なので、ダンジョンに潜った冒険者は次の階層に行く気があるなら、宝探しをしながらもう一つの転送陣を見つけなければならない。


 転送陣のあった広間を出て、二人で洞窟の中を進んでいく。

 道中、ひょっこり出てきたゴブリンをシェーンが瞬時に斬り倒す。シェーンのおかげでいちいちぶっ放して銃声を響かせずに済むし、弾薬も節約できて大助かりだ。


 他の冒険者と遭遇することのないダンジョンでなら、俺がいくら銃声を鳴らしても聞きつけられる心配はない。銃を見られることもないし、ダンジョンに潜るというシェーンの提案は名案のように感じられた。

 ただ、もし何かあっても絶対に他の冒険者が助けに来ることはないわけで、ハイリスクハイリターンだ。いや、何も見つけられずローリターンとなる場合もあるわけで、ダンジョンに潜るのは一種の博打だな。


 シェーンもエリクサー代を稼ぐために起死回生を狙ってダンジョンに潜った時期もあったが、単独ではリスクの割りに実入りが少なく、結局やめてしまったそうだし。


 なお、ダンジョン内で倒した魔物の死体は、素材を剥ぎ取るか討伐証明を取ったら放置するのが基本らしい。同じ階層に現れることはまず無いので、放置した死体が腐って疫病が発生する、なんてことを心配する必要が無いからだ。


「あれ、もう見つかったな?」


「あまり広くない階層だったようだな」


 何匹かゴブリンを斬殺して三〇分ほど探索を続けたところ、別の広間で転送陣を見つけた。転送陣のある場所には魔物が侵入して来ないというのも、ゲームっぽいなぁ。


 ダンジョンの各階層は毎回ランダムで作り変えられるらしいが、今みたいにすぐに調べ終わってしまう狭い階層もあれば、何時間もかかるような広い階層もある。

 強敵がひしめく階層ほどお宝が見つかりやすいのも、やっぱりゲームのようだ。いやまあ、異世界でゲームのシステムを利用している俺がそんなこと言うのもどうかと思うけど。


「どうする、他の場所も調べてから行くか?」


「いや、ゴブリンの数も少なかったし、もう大したものはないだろうから次に進もう」


「了解」


 というわけで、俺は一発も撃たずに次の階層へ。なんだか拍子抜けだ。


「なんか、話で聞いたイメージと違うなぁ」


「ま、現実はこんなものだ。少しダンジョンに潜っただけで稼げれば誰も苦労しない」


 まったくもってその通りだ。ダンジョンに潜って簡単に大儲けできるなら、冒険者はみんなダンジョンに入り浸ってしまう。


 次の階層も時折現れるゴブリンをシェーンが斬り捨てながら探索。ここでも何の収穫も無しかと思いきや、ある洞窟の行き止まりで発見があった。


「へぇ、これが魔石か」


 行き止まりの岩壁から突き出していた半透明の水晶が、魔法を利用した道具などの動力源となる魔石だとシェーンが教えてくれた。鉱山でまとまって採掘できるほか、ダンジョンや一部の魔物からも入手できるらしい。


「採掘して持ち帰ろう」


 経験のあるシェーンに指導してもらいながら、持参した金槌とのみを駆使して岩壁から露出している魔石を採掘する。大した量は取れなかったが、目に見える収穫があったことで俺のテンションは上がった。


 が、次の階層ではまた何も手に入れられなかった。ちょっとがっかりしつつ、先へ進む前に二人で水分補給をして一休み。気を取り直して、探索を再開する。


「……この先にゴブリンの群れがいるようだな」


 曲がり角で止まったシェーンがそう言う。俺の耳にも、ぎゃあぎゃあというゴブリンの変てこな叫び声が聞こえてきているので、間違いなさそうだ。


「確認する」


 シェーンに声をかけ、歯医者で奥歯を見るために使うような長い柄のついた鏡を取り出す。鏡だけを角から差し出して、身を隠したまま先の様子をうかがう。


「多いな……」


 曲がり角の先は広間になっていて、複数のゴブリンがたむろしていた。二桁以上はいる。一番多いのは通常のゴブリンだが、奥には弓や杖を持った奴もいた。他のゴブリンよりも大柄な奴が一匹だけいたが、あれが上位種のホブゴブリンなのだろう。生意気にも剣を持っている。


 シェーンにも鏡を渡してゴブリンの群れを確認してもらい、簡単な打ち合わせをする。いつものように俺が銃撃を仕掛け、混乱した隙を狙う作戦で行く。


「撃つぞ――」


 鏡を仕舞った俺は、曲がり角から身を乗り出してMP40を構え、ゴブリンに見つかる前に素早く撃った。まず手前でうろちょろしていた通常のゴブリンの群れに一連射。すぐに照準を切り替え、奥にいたアーチャーとメイジに二連射目を加えて壊滅させる。


 突然の銃撃にゴブリンの群れは恐慌状態に陥った。薄暗い洞窟内にサブマシンガンの連射音が轟き、弾丸がゴブリンの体を貫き岩壁にめり込む。右往左往するゴブリンを容赦なく撃ちまくる。排出された空薬莢が岩の上に落ち、澄んだ金属音を立てながら転がっていく。


「装填する!」


 三二発の九ミリ・パラベラム弾をばら撒き終えた俺は、シェーンに声をかけて弾倉交換に入る。長い金髪をなびかせながら、シェーンが曲がり角から飛び出していく。


 通常のゴブリンに囲まれていたせいで撃てなかったホブゴブリンが、叫び声をあげて生き残ったゴブリンをまとめこちらへ向かわせようとしていた。そこへシェーンが突進し、彼女に気づいたホブゴブリンは咄嗟に剣を持ち上げようとしたが、それすらできずに首を刎ね飛ばされてしまう。


 サブマシンガンの銃撃からかろうじて逃れたゴブリンが、瞬く間に斬り捨てられていく。銀色の閃光が走った後は、真っ赤な血が噴きあがりゴブリンが倒れていく。なかなかにスプラッタな光景だが、シェーンの剣を振るう姿が鮮やか過ぎてそっちに見惚れてしまうな。


「これで全滅させたな」


「相変わらずお見事」


「クルトが先にアーチャーとメイジを倒してくれたからな」


 特に苦戦することもなくゴブリンの群れを殲滅した俺たちは、討伐証明となる牙などを取りながら、広間を調べる。どうやらここはゴブリンの根城となっていたようで、どこから集めてきたのか木箱や棚などが雑多に置かれていた。


 何かめぼしいものがあればいいが、と思いつつ俺たちは手分けしてゴブリンが集めたガラクタを調べ始めた。

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