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一七話

 カタタン、カタタンという軽快で単調な音が続いている。馬車の車輪がレールの継ぎ目を通る時の規則正しい音だ。窓の外を見ても、代わり映えのしない野原が続くばかりで眠くなってくる。


「そろそろ着くな」


 シェーンの声を聞き、いい加減眠りそうになっていた俺は鉄道馬車の客車の中で軽く伸びをする。彼女の言う通り、目的地が間近なのだろう、馬車の速度が落ちてきていた。


「さ、降りるぞ」


「ああ」


 四頭立ての鉄道馬車が駅に着くと、乗降口から二人揃って降りる。馬車はここで馬の交換を行うらしく、乗客を下ろし終えると馬屋らしい建物に入っていく。


「ここに『小鬼の洞窟』っていうダンジョンがあるのか?」


「そうだ」


 銃声が噂になっていると知った俺は、シェーンの提案で一旦ガルドを離れダンジョンに潜ることにした。魔物の巣窟だが、貴重なお宝が眠っているRPGでは定番のあのダンジョンにである。

 まさしくファンタジーだが、百聞は一見にしかず。うだうだ概要を述べるよりも、実際に潜ってみた方が早いということで、初心者向けの難易度が低いダンジョンへと早速やって来たのだが。


「本当に辺境にあるんだな……」


「大きな街の近くだと魔物が溢れ出た時に大変なことになるからな」


 定期的に潜って中にいる魔物を間引かないと、ダンジョンの外にまで魔物が溢れ出てくる災害が発生するらしく、都市の近郊に生まれたダンジョンは余程有用でない限りすぐに潰されてしまうのだとか。


 そのせいで、ガルドから鉄道馬車を使って丸一日かかる辺境に来る羽目になってしまった。これくらい離れていれば、万が一魔物が溢れ出てもガルドに到達するまでに時間がかかり、その間に騎士団やらなんやらを動員して対応するらしい。


「ダンジョンの近くの宿場町って、こんな風になっているのか」


 鉄道馬車の駅から出ると、目の前には大きな通りがあり、通りの左右には宿屋などの建物がいくつか並んでいる。

 通りを挟むようにして立ち並ぶ建物の看板を見ていくと、宿屋だけでなくダンジョンに潜る際に必要な道具を売っている雑貨屋や武具を扱う武器屋に、ダンジョン内で見つけた物品を買い取る専門店などがあった。

 ダンジョンに潜る冒険者たちのために設けられた宿場町は、俺が昔見た西部劇に出て来た荒野の中の小さな町そっくりだ。ライフルやリボルバーではなく、剣や槍で武装した冒険者たちが通りを闊歩している。


「先に宿泊状況を確認しておこう」


 素直にシェーンに従い、近くの宿に入って宿泊状況を確認する。幸い部屋には余裕があり、今すぐ予約を入れなくても大丈夫そうなので、とりあえず後回しにする。


「すぐに潜るのか?」


「ここは前に私も潜ったことがあるからな」


 あらかじめダンジョンに潜る際に必要な品物は用意し、俺のインベントリに仕舞ってあったので、宿場町を出てシェーンの先導で目的のダンジョンに向かう。

 街道をしばらく歩くと、宿場町の裏手にある小さな山の麓にたどり着いた。ここにダンジョンがあるらしい。


 裏山の麓は、ちょっとした砦のようになっていた。太い杭を使った柵で山の斜面が囲まれていて、見張り台には衛兵が立ち監視の目を光らせている。

 俺とシェーンは正面にある出入り口で衛兵にギルドカードを提示した後、柵の内側へと入った。


 柵の内側には、衛兵の詰め所と冒険者ギルドの出張所になっている建物があった。

 中に入ってみると、基本的な作りはガルドの冒険者ギルドとそれほど変わらない。右側にある掲示板をちらりと覗いたところ、このダンジョン内で入手できる資源の採掘依頼や魔物の間引き依頼などが貼りつけられていた。


「ギルドカードをお願いします」


 カウンターの受付嬢に俺とシェーンのギルドカードを提出して、ダンジョンに入る手続きをしてもらう。


「入場税は、小銀貨五枚です」


 ダンジョンは国が管理しているので、入るだけで税金を取られる。まったくファンタジー溢れる異世界なのに世知辛い話だ。

 その代わり、ダンジョンに潜ってお宝を入手できれば一攫千金も夢ではない。たとえお宝を入手できなくても、中にいる魔物を倒してギルドから報奨金を得たり、さまざまな資源を手に入れられれば一儲けできる……ということらしいのだが、まだダンジョンに潜ったことのない俺にはぴんと来ない話である。


 入場税を支払い手続きが終わると、ようやくダンジョンへ入る許可が出た。建物を通り抜けて外に出ると、目の前には斜面にぽっかりと口をあけた洞窟。どうやらこの奥がダンジョンのようだ。


「この転送陣を使ってダンジョンに入るんだ」


 ランプで照らされた洞窟の奥には広間になっているような空間があり、そこに大きな魔法陣が描かれていた。幾何学的な模様が薄く発光しており、思わず見とれてしまうくらいとても幻想的だ。


「準備はいいか?」


「大丈夫だ」


 監視についている衛兵が見ている中、二人で魔法陣の上に乗ると、足元から白い光に包まれていく。乗るだけでいいなんて楽だなと思いつつも、ちゃんと作動するのか不安でドキドキしてしまう。なにしろ俺はいきなり現実世界からこの異世界に飛ばされた経験があるので、非常に心配だ。


「行くぞ」


 シェーンがそう言った直後、魔法陣が一際強い光を放って視界が真っ白に塗りつぶされた。




 ダンジョンは、この世界の大きな謎の一つだ。ある日突然、何の前触れもなく転送陣が現れ、そこからダンジョンへ入ることができる。

 ダンジョンの入口が出現する場所は、人里離れた森や洞窟の中が多い。魔力の濃い場所に出現しやすいとも言われているが、どういう原理で生まれるのか正確なことは何もわかっていないのが本当のところらしい。


 転送陣で送られる先のダンジョンは、別次元の空間にあるらしく、ボスなどがいる特殊な階層を除き毎回変化する。

 そのため、転送陣に入る際は一緒でないと、それぞれ違う階層に飛ばされてしまう。別々のタイミングで入った冒険者が同じ階層で出くわすなんてことは、まず無い。

 ダンジョン内の階層は転送陣を使う度にランダムで作り変えられるので、基本的に一度出たらもう二度と同じ階層に来ることは出来ないなんていうあたりが、実にRPGっぽい。


 そしてますますRPGっぽいことに、魔物が徘徊するダンジョンの中ではお宝が見つかる。

 それは伝説の武器だったり、魔法の道具だったりする。お宝とまでいかなくても、魔法を利用した道具の動力源となる魔石が採掘できたり、貴重な植物を採取できたりするのだ。中にいる魔物を倒せばその素材を得ることもできる。


 その階層にあるアイテムや資源を取り尽くしても、別の階層に行けばまた入手できる可能性があるわけで、ダンジョンは鉱脈が尽きない鉱山のようなもの。

 そのため、ダンジョンは発見され次第国によって厳重に管理される。そして、一攫千金を夢見る冒険者どもに入場税を取ったうえで潜らせ、ダンジョン内に眠る宝や資源を集めさせる。国はギルドの依頼を通してそれらを買い取り、ぼろ儲けというわけだ。


 ちなみにダンジョンはボスを倒してしまうと消失してしまうため、勝手にボスを倒しダンジョンを消滅させると厳罰に処される。具体的に言うと、物理的に首が飛ぶことに。

 ボスを倒していいのは、大都市に近く魔物が溢れ出た際に大きな被害が出ると予想された場合などであり、その際は大々的にボス討伐が募られ、それはそれで結構なお祭り騒ぎになるとか。


 ダンジョンの中には、人の手によって作られたとしか思えない部屋や階段がある。宝箱の中にお宝が眠っているなんて、人の仕業としか思えない。

 そしてダンジョンで手に入る武具は神話に登場するものもあったりするので、神話時代の高度に発達した魔法文明の遺跡だという説がもっとも有力なのだとか。


 ダンジョン以外では見ることのできない転送陣の技術も神話に登場する古代魔法と酷似しているので、多くの学者がこの説を支持している。転送陣は世界中の魔法学者がその仕組みを解明しようとしているが失敗記録を更新するばかりで、古代の魔法がいかに凄かったかがうかがえる。


 まあ、学の無い冒険者にわかるのは、ダンジョンが宝の山であるということだけ。

 お宝目指して魔物だらけの危険なダンジョンに潜る命知らずの冒険野郎に俺も今日なったわけだが、果たしてどうなることやらである。

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