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一六話

 生い茂る樹木の隙間から注ぐ薄い陽光の下、俺は茂みに潜んで伏せている。伏射の姿勢で二脚を立てて構えている軽機関銃は、ブルーノZB26。一九二六年にチェコスロバキア軍に制式採用された当時最高傑作の軽機関銃だ。


 ZB26がなぜ傑作かというと、とにかく故障が少なかった。シンプルな構造で耐久性に優れ、無故障機関銃とまで呼ばれたくらいだ。

 チェコスロバキア軍以外にも多くの国に輸出されて使用され、この銃を装備した中国軍に当時の日本軍は散々な目に遭わされていたりする。

 口径は七・九二ミリで、箱型弾倉を銃本体の機関部に上から逆さまに装着して給弾する。弾倉は容量が二〇発と三〇発の二種類あるが、今俺が使用しているのは後者。


「そろそろ来る頃だな……」


 ZB26を伏せて構えたままつぶやくと、遠くからブヒブヒという特徴的な鳴き声が聞こえてきた。いかにも豚の鳴き声ですという感じだったが、実際緩やかにカーブしている獣道の向こうから現れた魔物は、豚を二足歩行させたような姿をしていた。


 二足歩行する豚が獣の皮か何かで作った鎧を身につけ、手製らしい槍などで武装し、一〇匹前後の群れをなして、獣道を堂々と進んできている。

 間違いない、オークの群れだ。


 獣道の曲がり角の茂みに潜んでいる俺は、オークどもがカーブを曲がり終えて完全に射程に入ったのを確認すると、先手必勝とばかりに引き金を引いた。森の中にけたたましい連続射撃音が鳴り響き、機関銃弾が撒き散らされる。


 銃口から吐き出された弾丸は正面からオークの群れに襲い掛かり、豚の体を貫き風穴を開け、血しぶきを上げさせる。先頭に立っていたオークからばたばたと撃ち倒されていき、豚の悲鳴が獣道に響く。

 あっという間に装填されていた三〇発の七・九二ミリ弾を撃ち尽くしたが、弾丸の暴風に襲われたオークの群れは一瞬で壊滅状態に陥っている。


「残りは任せろ!」


 勇ましい声とともに、ZB26の弾倉交換をしている俺を置いて長剣を振りかざした女冒険者が飛び出していく。俺と組んでいるシェーンだ。


 身体能力を向上させる補助魔法を自身にかけている彼女は、一陣の風となって獣道を駆け、瞬く間に生き残りのオークの只中に入り込む。

 幸運にも前にいた奴が盾となったおかげで撃たれなかったオークが、混乱から立ち直る前に首をはねられた。次の瞬間には、その横にいたオークの胸が一文字に切り開かれる。

 無傷のオークを瞬殺したシェーンは、手足を撃たれたものの、まだ戦おうとしているオークたちの頭をはね胸を突き、たちまちとどめを刺した。


「さすが近衛騎士団のエース」


 数秒で生き残りのオークを全滅させた彼女の戦いぶりに、思わずそう言ってしまう。まさに疾風迅雷、何度見ても彼女の鮮やかな剣さばきには感心させられる。


「うまくいったな、クルト。他の魔物が来る前にさっさと討伐証明を取ろう」


「了解だ」




 ガルドの冒険者ギルドに戻り、受付でオークの討伐部位を提出し終えると、受付嬢のフランが呆れたように言う。


「相変わらずあなたたちは依頼を達成するのが早いわね、いつも早馬でも使っているの?」


「そんな無駄遣いはしていないさ」


 シェーンが何食わぬ顔で言う。今日は、最近急に増えたらしいオークの群れの討伐だったが、余裕で達成だ。


 彼女に実際に撃ってみせたりしながら銃の説明をし慣れてもらった後、一緒に組んで依頼をこなすようになってもう何日か経つが、すこぶる順調。討伐系も採取系も、さくさくとこなしていっている。


 討伐系の場合、現地に着いてからまず俺が無人偵察機などを短時間利用して目的の魔物を探す。群れのほうが見つけやすく、UAVの使用料を抑えられるので基本は群れている魔物の討伐依頼を狙っている。

 UAVで依頼の魔物を発見したら、移動先を予測して待ち伏せる。俺が銃器で先制攻撃を加えて群れを半壊させ、その隙を突いて生き残りをシェーンが仕留める。

 大したことのない魔物なら、この流れでスムーズに片づけられるため、俺たちはこのギルドの冒険者の中でも依頼を達成するのがかなり早い。


 UAVを使うと俺のクレジットがかつかつになってしまうので、その後は採取系の依頼を受ける。

 依頼を受注して強調表示されるようになり、見つけやすくなった対象の薬草などを俺が採取していく。その間、今のところ接近戦では敵無しのシェーンが周囲を警戒し俺を守ってくれるので、俺は安心して薬草探しに専念できる。おかげで、採取系の依頼もソロだった頃よりも効率よく出来るようになった。


「まあ、この調子ならパーティーを組んでいても三級への昇格は早そうね」


「それは嬉しいな。俺も早くシェーンと同じ三級になりたいし」


 シェーンを助けてパーティーを組んだところ、彼女の親友であるフランとも気さくに話せるようになった。今まではギルドの受付嬢ということで俺も一歩下がっていたのだが、友人と認められたのでさん付けもやめた。

 そういえば、シェーンもフランも歳は二四で、二人とも俺より一つ下だ。あんまり年齢が離れ過ぎていてもつきあいが面倒になるので、一つ年上なくらいでよかった。


 シェーンとパーティーを組んだが、彼女の方が級が一つ上なので、その場合一緒に依頼を受けると俺単独で達成した場合に比べてどうしても評価が下がってしまう。

 俺は早くランクアップしたいので、シェーンと一緒に連日討伐と採取の依頼を交互に受けまくっていた。その甲斐あって昇格も早そうで、なによりだ。


 ちなみにまだパーティー名は決めていない。俺もシェーンもいい名前を思いつけなくて、またいいのが浮かんだらあとで申請しようということになった。


「そういえば、最近聞こえる謎の音の噂は知ってるかしら?」


「なんだそれは?」


「謎の音?」


 フランが突然そんなことを言い出したが、そんな噂は聞いたことがない。


「最近この辺りの森で、火属性の攻撃魔法を使った時のような爆音を聞いたっていう冒険者が何人もいるのよ。大分離れたところまで届いているうえに立て続けっていうことで、あんまり続くようならギルドで原因を調べることになるかもしれないから、面倒な話よね」


 そう言ってため息をつくフラン。一方の俺とシェーンは、心当たりがありまくりで反応に困っていた。


 その爆音は、十中八九俺が派手に鳴らしている銃声だろう。俺たちと同じように他の冒険者も森の中で魔物を討伐したり、薬草の採取をしている。俺もシェーンも他の冒険者は避けるようにしていたが、思っていたよりも多くの冒険者に銃声を聞きつけられていたらしい。


 俺がばら撒いた空薬莢や捨てた弾倉などは、ATWの仕様と同じく一定時間の経過で消失することが確認できている。試しに射殺した魔物の銃創をナイフで開いて探ってみたが、命中して体内に潜り込んだ弾丸も同じように消えていた。


 ゲームなら容量の問題だとかで消える仕様になっているのはわかるが、この異世界でもそれが適用されているとは……また謎が増えたが、もういちいち気にしてはいられない。そういうものなのだと思うしかなかった。


 そういうわけで銃を使った痕跡はうまく隠せていると思っていたのだが、冒険者ギルドに報告が行くほど銃声を聞きつけられていたのは予想外だ……銃声を抑制するサイレンサー付きの銃器は数が少なくてレンタルするのが大変だし、参ったな。


「そんな音だけでわざわざ調査を?」


「何かの魔物の仕業だったら大変だからよ。魔物関係で何かあったら、冒険者ギルドは何をやっていたんだってすぐに非難されるから」


 音の原因が魔物で、その魔物のせいで被害が出たら冒険者ギルドが真っ先に槍玉に挙げられるかららしい。


「冒険者ギルドも大変なんだな……」


「ま、それが仕事なんだけどね」


 とりあえずしみじみと相槌を打っておいたら、フランはそれで満足したらしく話は終わった。


「たぶんというか、ほぼ確実に俺の銃の音だよな……」


「だろうな。ギルドに把握されるまでになるとは私も思っていなかった」


 ギルドを出て雑踏に紛れながら、俺とシェーンがフランから先程聞いた話について話し合う。周囲はざわめきに満ちているので、声量に気をつければ会話の内容まで聞かれることはないだろう。


「どうすればいいと思う?」


 他の冒険者たちは銃声なんか聞いたことがないので、爆発を起こす火属性の攻撃魔法を使った時のような音という表現でギルドに伝えているみたいだが……調査なんかされたら面倒なことになりかねないので、とりあえずシェーンの意見を聞いてみる。


「クルトとしては、三級になるまでは隠しておきたいのだったな?」


「ああ」


 正確には傭兵ランクが三級になるまでだ。三級になれば支給クレジットがまた一段と増え、重火器にも手が届くようになる。そうなれば武装もかなり充実する。また、兵器以外でもブラックマーケットで買って使える物は一気に増える。

 それらを遠慮なく使うとなると、今までのように誤魔化すのはさらに面倒なことになると判断したため、銃火器を隠すのは三級に上がるまでと決めたのだ。


「それなら、ダンジョンに潜ってみるのはどうだ?」


 ダンジョンって……RPGでお約束のあのダンジョンのことか?

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