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一五話

「こことは違う世界から、か……」


 俺が話し終わると、シェーンは腕を組み難しい顔で考え込んでしまった。まあ、俺自身最初は信じられなくて何度も夢じゃないかと疑ったしなぁ。


 なお、ゲーム云々の話はしていない。それを話すとさらに混乱しそうだからだ。とりあえず、異世界から来たということだけに絞って彼女には話をした。


「信じられなくても大丈夫だ。たぶん俺が同じ話をされても頭のおかしい人だと思っただろうし」


 現実世界で剣と魔法の世界から来ました、なんて言われたら俺はすぐに精神科へ連絡していただろう。あ、でも、実際に魔法とか見せられたら……いやいや、俺のことだから何かのトリックを使っていると疑って、信じなかったに違いない。


「いや……君の言うことを私は信じるよ。確かにそれなら、いろいろと納得がいくからな」


「俺がとんでもない嘘つきや狂人だとか思わないのか?」


「嘘をつくならもっと現実的な嘘にするだろう。狂人がたまたまあんな見た事のない武器や空間魔法を使えるとは考えにくいしな」


 おお、どうやらシェーンは俺の話を信じることにしてくれたようだ。さすがに心の底からではないと思うが、とりあえずは俺の話が真実だという前提で話を進めてくれるらしい。


「それで、クルトはこれからどうするつもりなんだ? 今後の指針というか、目標のようなものはあるのか?」


 シェーンはやっぱり真面目だなぁ……指針、目標か。とにかく日銭を稼いでランクアップすることしか考えていなかったが、やっぱり目標を決めておくのは大事だよな。でも、そんな大層な目標なんて俺にはないんだけど。


「とりあえず、力をつけたいんだ。実力でも金銭でも」


「ふむ……?」


「具体的に言うと、銃を使って目立っても横槍を入れられないようになりたい。銃を取り上げられるとか、無理やり兵隊にされるとか、あるいはずっと便利な道具袋としてこき使われるとかも困る。冒険者としてそれなりにお金を稼いで余裕のある自由な生活を送りたいんだ。実に俗っぽい答えで申し訳ないけど」


 取り繕っても仕方が無いので、正直に話した。ちなみに俺の武器の名前が、銃であることはさっき彼女に話した。


「ただ、いくら強力な武器を使えても経験も知識も足りてない俺一人だけだと厳しいから、信頼できる冒険者と組みたいと思ってる。だからさっきシェーンにそういう冒険者に心当たりが無いかどうか聞いたんだ」


 俺の答えを聞いたシェーンは、また考え込む。命の恩人がこんな俗物だと知って、ショックを受けていないだろうか。というか、これで彼女に軽蔑されたら俺がショックを受けそうだけど。


「……私の考えを言ってもいいか?」


「ああ」


「君の世界の武器に関しては、クルトしか使えないということにすればいいだろう。本人しか使えない生まれつきの固有魔法もあるからな。そういう類のものだと周知させるしかない」


 俺しか使えないんじゃ奪ったところでどうしようもないもんな。これに関しては当てがあるからなんとかなると思う。


「物を仕舞える空間魔法は、秘密にした方がいい。軍人にとっても商人にとっても魅力的過ぎるからな。人前で使わないのが一番だが、使う時はあらかじめ空間拡張系のマジックアイテムを用意しておいて、その効果に見合った範囲で使えばそれで誤魔化せるだろう」


 そりゃそうだ、仕舞った時から一切の劣化をさせずに身一つでいくらでも荷物を運べるとなったら、商人なら俺をこき使って大儲けできる。軍人なら面倒で大変な物資輸送を俺に押しつけて戦争ができる。

 そんなことになるのは嫌なので、やはりシェーンの言う通り秘密にしておいて、そういうマジックアイテムを持っていることにするのが一番のようだ。


「そして、君の秘密を守ることができる冒険者だが、私では駄目だろうか?」


 その申し出に俺は驚いた。彼女は誰とも組まないんじゃなかったのか?


「いや、駄目じゃないけど……シェーンって何か事情があってソロで通してたんだろ? 俺がいくら恩人だからって、それを曲げる必要は無いぞ」


 正直に言えば、俺の事情を知りなおかつ助言をしてくれ、剣士としても凄腕で誠実な彼女が組んでくれるなら文句無しだ。でも、命の恩人を盾に彼女のこだわりを捨てさせるようなことはしたくない。それにそういう関係じゃ命がけの仕事を一緒にはできないだろう。


「私が単独で冒険者をやっていたのは、さっきの後遺症が原因だ。冒険者を始めた頃、一緒に組んだ相手が大怪我をした。魔物と戦っている最中、後遺症で腕を動かせなくなった私をかばったばっかりにな……それ以来、誰とも組んでいない」


 ううむ、話せば話すほどシェーンは真面目で責任感のある立派な人間だと感じる。人間性という点では、俺なんか足元にも及ばなさそうだ。


「後遺症が治った今、私が他の冒険者と組まない理由は無い」


「なるほど……でも、本当に俺でいいのか?」


「命の恩人以上に相応しい相手を私は知らない。もちろん私では不足だというなら、協力して別の冒険者を探そう」


「そんなことはないよ。むしろ大歓迎だ。本当はシェーンと組めたらいいと思っていたくらいなんだから」


「そうか、ならよかった」


 そう言った彼女は、なんだか妙に嬉しそうだった。軽く笑いながら、さらに話しかけてくる。


「一緒に組むのなら、私の過去も話さなければな。異世界から来たクルトほどではないが、それなりに波乱万丈な話だ――私は、近衛騎士団のエースだったんだ」


 そういわれても、俺にはピンと来なかった。いや待て、昔の日本軍には近衛師団というのがあって、確か皇居とかの守護に当たってた超がつくほどの精鋭部隊だったとか。ということは、彼女は王様を守るエリート騎士団のエースだったということか?


 よくわかっていない俺の顔を見て、彼女は続けて自分の身の上話をしてくれた。それは、確かに波乱万丈な話だった。




 シェーンは、孤児院の出身。物心がついた頃には、もうそこにいたそうだ。物語に出て来る英雄の騎士に憧れ、いつか自分もそうなることを夢見た彼女は、幸運なことに類稀な剣の才能に恵まれていた。孤児院の運営者などの推薦を得て、地元の衛兵隊に。そこで剣士としての実力を見せつけ、手柄を山ほど立てた。


 若く美しいうえに素晴らしい剣の腕前を持ち、性格も非の打ち所がないほど誠実な女衛兵ともなれば、人気も出てそれなりの噂にはなる。そんな噂を聞きつけたとある貴族が、彼女に養子にならないかと持ちかけた。貴族の養子になれば、近衛騎士団の入団資格が得られると。


 彼女は悩んだが、王都を守る最精鋭の近衛騎士団は、全騎士の憧れ。もちろん彼女にとってもだ。結局、その貴族の提案を受け入れ養子に。そして恐ろしく厳しい入団試験を実力で突破し、晴れて近衛騎士となった。入団後もその比類ない剣の腕を発揮して、エリート中のエリート騎士が集められた近衛騎士団の中でもエースと呼ばれるまでに。


 ここまでが、孤児から実力で近衛騎士団のエースに上り詰めた彼女のサクセスストーリー。ここからは、逆の物語となる……彼女が王国でもその名を知られたある大物貴族の警護に当たっていた時だ。突然、彼女は強い睡魔に襲われ、あろうことか警護中に居眠りをしてしまった。彼女の食事に眠り薬が盛られていたのだ。


 騒ぎに気がついて起きると、賊の襲撃の真っ只中。すでに同僚の騎士は凶刃に倒れていた。薬のせいで思うように動かない体を使って応戦するも、賊に敗れ瀕死の重傷を負い、警護対象だった貴族も殺されてしまった。彼女は助かったが、後遺症が残り剣の腕は落ちた。


 そこからは、もう地獄の日々だったらしい。近衛騎士団のエースともあろう者が、警護中に居眠りをするなど言語道断。仲間が必死で戦っている最中も眠り続け、命をとして守るべき警護対象者を死なせたとあっては、まさに末代までの恥。そんな非難の集中砲火を浴び、彼女は近衛騎士団を追放された。


 近衛騎士団を追放されるとともに、彼女を養子にしていた貴族からも勘当された。最初から彼女の名声を使って人気取りをするのが目的だったらしく、それはもう見事なまでの手のひら返しだったらしい。こうして彼女はそれまでに築き上げてきた全てを失い、王都から逃げ去り地方で騎士の栄光とは程遠い冒険者の女剣士として生きることを余儀なくされ……今に至る。




「なんていうか、その……俺よりも全然シェーンの方が……」


 あまりといえばあまりな話に、俺は言葉が出てこない。それに対し、シェーンはさばさばとした様子で話し続ける。


「我ながら嘘みたいな転落人生だとは思うよ。だが、本当の話だ。少し調べれば嘘かどうかすぐわかる」


「いや、嘘だなんて思ってないけど……薬を盛られたのなら、仕方ないんじゃないか? それに大怪我するまで戦ったんだし、いくらなんでもひどいと俺は思う」


「薬を盛られたのは私だけで、その証拠は何も無かった。騎士団としては、近衛騎士の名誉に泥を塗った私などそのまま死んでくれた方がよかったそうだ。私には運が無かったか、あるいは……妬まれていたか。ひょっとしたら、私に言い寄ってきてこっぴどく振られた貴族の誰かの仕業かもしれないな」


 シェーンは、自嘲の笑いを浮かべていた。


「本当のことはわからないし、過去は過去だ。私にとっては、今の方が大事だよ。こんなひどい過去を聞いても、私と組む気持ちは変わらないか?」


 もちろん、俺の答えは決まっていた。


「変わるわけがない。むしろ近衛騎士団のエースと組めるなんて最高じゃないか!」


「ありがとう、そう言ってくれて嬉しいよ」


 ついでに言うと、美人の喜ぶ顔も最高だ。

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