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一二話

 空飛ぶ無人兵器であるUAVは、現代の戦場において欠かせなくなった存在だ。

 無人航空機というその名通り、パイロットは搭乗せず、無線による遠隔操縦や自律飛行が可能となっていて、搭載されたカメラや赤外線センサーで撮影した画像をリアルタイムで送信できる。

 さらにレーザー照準器で誘導弾を目標へ導いたり、搭載したミサイルで攻撃すら行うものもある。


 MQ-1プレデターは、高い監視能力と攻撃能力を併せ持ったアメリカ製の無人航空機だ。当初は偵察用として開発されたが、後にミサイルを搭載し攻撃任務にも使われるようになった。

 当時実用化されていたUAVの中では最も脚光を浴び、エンジン出力や飛行性能が強化された改良型も出た傑作機種である。


 ATWでは、ブラックマーケットを介して利用することができ、偵察や地上攻撃を行える。ただし、偵察中は使用時間に応じて結構な使用料を求められるうえに、ミサイルを撃つとさらにお高い請求が来る。

 今の俺ではとてもミサイル代を払えないので、機首下に装備されたカラーテレビカメラなどの各種センサーによる偵察しか利用できなかったが、それでもなんとかシェーンが依頼で向かった北の森を探ることができた。


 プレデターによる偵察結果でわかったのは、一〇人ほどの集団が一人の人間を追い掛け回しているということ。このタイミングでとなると、どう考えてもならず者チームである暴風のメンバーたちにシェーンが追われているとしか思えない。


 それがわかった俺は、早速御者に高い金を払って早馬を仕立ててもらった。俺は馬に乗れないので御者にしがみつく羽目になったのが恥ずかしかったが、そんなことを言っている場合ではない。

 早馬で北の森まで送ってもらい、御者には追加で金を渡して近くの村で待っていてもらう。それからまた一瞬だけプレデターを利用してシェーンの位置を確認した後、森の中へ入る。


 プレデターによる偵察で、ここは他の森と比べて妙に魔物が少なくなっていたことがわかっていたので、とりあえず警戒よりも速度を優先して突き進む。邪魔されないように暴風の連中が一時的に掃討したのだろうか。


「どうやらここまでのようだな、シェーンよ」


「くっ……!」


 まるで時代劇のようなやりとりが交わされる現場に到着したのは、森に入ってからかなりの時間が経過した頃だった。


 木陰に隠れる俺の視線の先には、満身創痍で長剣を杖代わりに片膝をついているシェーンと、勝ち誇った顔で彼女の前に並ぶディックとその手下どもがいる。

 シェーンの姿は、痛々しくて見ていられないほどひどいものだった。背中には大きな切り傷があり、はっきりと裂けた皮膚が見える……右肩と左足には矢が突き刺さったままになっていて、傷口から血が滴っていた。


「ったく、てこずらせやがって……この後は、たっぷり楽しませてもらうぜ?」


「なぁに心配するな、ディックの兄貴は優しいから殺しはしないぜ」


「そうそう、俺たちの玩具になった後は、奴隷として売り飛ばされるだけで済むからよ」


 げへへという冗談みたいに下品な笑い声をあげるゴミクズども。ここまでわかりやすい悪党はフィクションの世界にしか存在しないと思っていたが、どうやら俺の間違いだったようだ。

 しかし、まだ油断はしていないらしく、三人もの弓を持ったメンバーがシェーンにしっかりと狙いをつけている。凄腕剣士の彼女を遠距離から狙う程度の狡猾さは持ち合わせていたわけか。


 一方のシェーンは、もう動けないらしく悔しげにディックたちを睨みつけている。しかし、突然左手で左足に突き刺さっていた矢を思い切り引き抜き、投げ捨てた。苦悶の声をあがるが、それでも同じように右肩の矢も抜き捨てる。


「下郎どもが、奴隷として売られるくらいなら私は最後まで戦って死ぬぞ!」


 そう言って立ち上がるが、それが限界のようだ。左手で剣を持ち上げることもできておらず、ふらふらとしている。


「最後まで生意気な女だぜ、左肩も射抜いてやろうか?」


 その様子を見てディックは余裕綽々である。手下どもも傷つき必死になっているシェーンの姿を楽しんでいるらしく、下卑た笑みを浮かべたままだ。


 俺はもう腹が立って仕方がなかったが、落ち着いて暴風の連中の立ち位置を確認していた。プレデターによる偵察でクレジットを大量に消費してしまった俺には余裕が無く、メインの武器はセミオートマチックのライフルが一丁だけ。


 俺の手にある半自動小銃の名は、M1ガーランド。制式には一九三六年にアメリカ軍にM1ライフルとして採用されているが、設計者のガーランドにちなみこう呼ばれている。

 この銃のおかげで、アメリカは第二次世界大戦に参戦した国の中で唯一、歩兵の大多数を自動小銃で武装した軍隊を保有する国となれた。

 他の国の標準的なライフルがボルトアクション式で、一発撃つ度に手動で次弾を装填していたのに対し、この銃は口径七・六二ミリの強力な30-06スプリングフィールド弾を引き金を引くだけで八発も連射できたのだから、アメリカはやっぱりすごい国だ。


 M1はそんな名銃だが、何十発も連射できる機関銃ではない。装弾数は八発、敵は確認できた限りで一一人。一人一発で倒したとしても途中で弾切れになるから、どういう順番で撃っていくか考える必要があった。


「ま、安全第一だな――おい、やれ」


 まずは当然ディックから撃とうと奴に狙いをつけていたのだが、その前に手を振って弓を構えた部下に指示を出されてしまった。

 リーダーの命令に従い、弓を持った男がシェーンの左肩を射抜こうとした瞬間――眉間に弾痕が生じ、後頭部から血と脳漿を撒き散らしながら後ろに倒れる。鋭い銃声が森の中にこだまする。


「!?」


 シェーンを狙った男を射殺した俺は、間髪入れずにディックに照準を切り替え二発撃った。が、なんと奴はすぐ横にいた手下の首根っこを掴んで引き寄せると自分の盾とし、俺が放った二発の七・六二ミリ弾はその男に突き刺さって止まった。


「な、なんだぁ!?」


 何事か理解できず弓を構えたまま叫んだ男の胸に一発。心臓を破壊された男は即死し、悲鳴もあげられずにただ倒れる。

 すぐに銃口を振って狙いを変える。弓を手にした三人目の男にまた一発、確実に叩き込む。左胸を撃ち抜かれた男が弓を取り落として崩れ落ちる――これで、弓の射手は全滅。


「てめぇら散れ、散るんだ!」


 肉の盾となって俺に射殺された男の死体を投げ捨てながら、ディックが叫ぶなり即座に背後の茂みへ飛び込む。


 ディックの指示を聞いた手下たちが、ようやく我に返り逃げ出す。反応が遅くまだ突っ立っていたマヌケを一発で撃ち倒す。

 森の中に逃げ込もうと駆け出していた奴を狙う、撃つ。外れた。銃口をずらして逃げる方向へ先回り、撃つ。今度は当たった。背中から鮮血が噴き出て、男はばたりと倒れる。

 独特の軽快な金属音が鳴って、弾をまとめていたクリップが勢いよく機関部から排出される。弾切れだ。


 一回の装填分である八発の30-06スプリングフィールド弾を装着した専用のクリップを腰のポーチから取り出し、クリップごと機関部の上から銃本体の固定弾倉に押し込む。ボルトが自動で前進し、初弾を薬室に装填。気をつけていたので、指を挟まれることはなかった。


 装填の完了したM1ライフルを再び構え、警戒する。一一人中六人を撃ち倒したから、ディックを含めて残りは五人。すでに全員が逃げ散って木立の中へと消えてしまっている。

 逃げた連中がこちらをうかがっていないか確認した後、ライフルを下げて木陰から飛び出す。俺の足音に気づいたシェーンが振り返り、目を丸くして俺を見る。

 

「クルト!?」


「助けに来た、とりあえず逃げるぞ!」


 最初は肩を貸そうとしたが、それでは動きが遅過ぎたので思い切って彼女を抱えた。いわゆるお姫様抱っこだ。


「……!?」


 シェーンが何か言おうとしているが、言葉にならずただ口をぱくぱくさせている。


「とにかく話は後だ!」


 俺はそれだけ言って、シェーンを抱えてその場から全力で逃げ出した。

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