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一〇話

 今日も今日とて森の中、冒険者ギルドで依頼を受けた俺は探索を続けている。今日のお供は、M3A1サブマシンガン。

 ちなみにサブマシンガンは、日本語で短機関銃と書く通り、拳銃と同じ弾を使用するコンパクトな機関銃のこと。超絶大雑把な一言説明だが、大体そんな感じで合っていると思う。


 M3サブマシンガンは、銃というよりまるで工具みたいな外見で、機械に潤滑油を挿すグリースポンプに似ていたことからグリースガンというあだ名がつけられた銃だ。

 なにしろ造ったのがアメリカの有名な自動車会社のジェネラル・モータースである。とにかく安くて大量生産できるように設計されていて、なんと第二次世界大戦中の最盛期には週八〇〇〇丁も造られていた。


 ぶっちゃけ不恰好で俺としては好みではないのだが、連射できる銃器の中ではお安い方だったのでレンタル。

 一応サブマシンガンにしては連射速度が遅く、細長い弾倉に一列にして込められた三〇発の四五口径ACP弾を毎分三五〇発から四〇〇発の勢いで撃ち出すのだが、そのおかげで反動も軽くて撃ちやすく、命中率も高いうえに耐久性にも優れている。

 見栄えはともかく、このように安かろう悪かろうというわけではないので、今回のメインアームにした。


「しかしゴブリンの群れと言っても、なかなか見つからないもんだな……」


 今日俺が受けた依頼は、ゴブリンの討伐。まだ被害は出ていないが、最近この辺りで複数のゴブリンをよく見るようになったから間引いて欲しいのだそうだ。


 ゴブリン自体は倒して証拠の牙を持っていけばいつでも報奨金をもらえるが、このような依頼の場合だと追加の報酬が出るかわりに、最低限の討伐数と期限が定められる。

 クリアできなければ依頼は失敗扱いとなり、違約金を支払う羽目になるし、ギルドでの評価も落ちるのでランクアップが遠のく。さらに失敗が続けば降格されてしまうのだ。


 今回の場合だと、最低でも五体はゴブリンを討伐しなければならない。期限は、三日。報酬は増額されていても、所詮は雑魚魔物の代表格であるゴブリンなので大した額にはならない。

 なにしろゴブリンは小柄で知能も低く、武器も棍棒やよくて短剣程度。ちょっと俊敏で凶暴な子供のようなもので、単体であれば五級冒険者でも充分対処可能な魔物だ。


 なぜ俺がこんな依頼を受けたかといえば、ランアクアップのためだ。フランさんに四級に昇格するにはどうすればいいか尋ねたら、討伐系の依頼の実績を求められたのである。

 俺は採取系の依頼はそれなりにこなしているうえに質も量も申し分なかったため、その点は高く評価されている。が、討伐系の依頼は大して受けていなかったため、腕っ節に疑問符がついたままなのだという。

 一応角鹿の討伐をしたが、角鹿自体は好戦的な魔物ではなかったため、あまり評価には繋がっていないらしい。


 フランさんからゴブリンでも複数が相手となれば難易度は一段階上がるため、これをクリアすれば四級にランクアップできる可能性は高いと言われたから受けたのだが、これがまたなかなか見つからない。

 薬草と違ってゴブリンは魔物、自分の足で移動するので探すのが大変だ。角鹿は一体からでよかったし期限も長めだったので待ち伏せを選べたが……うーん、やっぱりこういうのもコツとかがあるんだろうなぁ。


「……お?」


 そんなことを考えていたら、聞き覚えのある叫び声が遠くからかすかに聞こえた。俺は声が聞こえた方向へと、歩みを進める。


 すると、いたいた。茂みに隠れた俺の目線の先には、森の中のちょっとした空き地にたむろする六体のゴブリン。全員が棍棒を持っているが、あれで殴られてもシールドの耐久値は全然減らなさそうだ。


 こいつらを殲滅すれば依頼をクリアできる――ゴブリンは背が低いので、俺はそれにあわせるために片膝をついてM3を構える。M3の薬室には初弾を装填済みなので、あとは狙いをつけて引き金を引くだけでいい。


 たむろしていたゴブリンが少しでも集まった瞬間、俺は撃った。銃口を右から左に振り、弾倉の中身を一気に半分消費し銃弾でゴブリンの群れをなぎ払う。

 銃声と反動、血と肉片が飛び散ってゴブリンの悲鳴があがる。一瞬の全自動射撃で、六体のゴブリンすべてが体のどこかしらに弾を受けて倒れた。

 俺は倒れたゴブリンの中で、とりあえず動いている奴に今度はきちんと狙いをつけて銃撃を加える。二、三発の短連射を胸に浴びせて確実にとどめを刺す。


 M3の三〇発入り弾倉が空になった時、俺の視界左隅に表示されているミニマップ上の六つの赤い点はすべて灰色に変わっていた。赤色は健在な敵を示し、灰色は死んだ敵を示す。

 ミニマップ上では全員倒したことになっているが、俺は油断せずにM3の弾倉交換を行う。空の弾倉を抜き、新しい弾倉を銃に挿し込む。撃ち終わった空薬莢を排出する排莢口のカバーを開き、そこにある穴に指を突っ込んでボルトを直接後方に引いておく。


 再度装填したM3を構え、周囲の様子を確認した後に隠れていた茂みから出る。四五口径ACP弾の連射で胸を破壊されたゴブリンは全員息の根を止められたようだ。


「ちょっとやり過ぎたかな……」


 安全第一ということで、ケチらずに一弾倉使い切ってゴブリンの群れを殲滅したが、ここまでする必要は無かったかもしれない。討伐の証明になる牙を破壊するわけにはいかないのでヘッドショットは避け、上半身を集中して撃ったのだが、小柄なゴブリンなら胸に一発でも当たればそれで充分のようだ。


 一方的な銃殺現場に入り、スリングでM3を体からぶら下げた後、射殺したゴブリンの口にナイフを突き入れて一番大きな牙をえぐり取る。正直、気が滅入る作業だ。周囲に漂うむせ返るような血の匂いで気分が悪くなる。


「やっぱり俺には血抜きや解体なんて無理だなぁ」


 血抜きはともかく、解体なんてしたらすぐに吐きそう。怪しまれてもいいからそのままギルドに持ち込みたい。


「……!」


 背後で物音が聞こえた瞬間、俺は反射的に振り返りながらナイフを捨て中腰でM3を構えた。瞬時に狙いをつけ、発砲。


 ギャンッ――という悲鳴をあげて、屈んでゴブリンの牙を回収していた俺に背後から襲いかかろうとしていたハウンドが弾を喰らって倒れる。


「こいつら、油断も隙もねぇな!」


 銃声とゴブリンの血の匂いに引き寄せられたのか、いつの間にかハウンドの群れに包囲されていた。群れといっても五匹ほどだが、唸り声とともににじり寄られるのは気分がいいものではない。


「クソッ!」


 俺が一番近くの木を背にすると同時に、一斉にハウンドが襲い掛かってくる!


 こうなると一番近いハウンドから、順に撃ちまくるしかない。引き金を引きっ放しにして、突っ込んでくるハウンドを全自動射撃で迎え撃つ。

 幸いだったのは、同時に襲いかかるにしてもハウンドは直線的にただ走って来るだけだったので、狙いをつけるのが楽だったこと。俺が放った四五口径弾で頭部を砕かれたハウンドが横転し、足を撃ち抜かれたハウンドがつんのめる。


 しかし、最後に残った一匹が難敵だった。そいつは俺が銃口を向けた瞬間、跳んで射線から逃れたのだ。的を外した弾丸は地面に突き刺さり、土くれを飛ばすだけに終わる。同時にM3が弾切れとなる。


「ヘルハウンド!」


 弾の切れたM3から手を離しながら、思わず俺はそいつの名前を叫んでいた。


 ハウンドの上位種が、ヘルハウンド。他のハウンドよりも一回り以上も大きく、真っ黒な毛皮が不気味だ。図鑑では、大抵は群れのリーダーとなっており、配下の通常のハウンドを指揮して集団で狩りを行うため、低級冒険者にとっては危険な魔物と説明されていた。


 腰のホルスターからワルサーP38を引き抜く間にヘルハウンドは一気に距離を詰めてくる。一度銃撃を避けた奴だ。引き寄せて仕留める!


 突進してきたヘルハウンドが、俺の首を狙って跳躍した瞬間、俺は右に一歩動く。半回転しながら銃口を先程まで俺が立っていた場所に向ける。眼前の空中をヘルハウンドが跳んでいる。

 ヘルハウンドがどんなにすばしっこくても、さすがに空中で方向転換はできない。俺は一瞬だが、目の前にさらけ出されたヘルハウンドの無防備な腹を狙って引き金を絞る。数発の銃声、宙を舞う空薬莢。


 腹に九ミリ・パラベラム弾を叩き込まれたヘルハウンドは、頭から地面に落ちた。それでもなんとか立ち上がろうと、四肢で地面を引っかいている。

 俺はそんなヘルハウンドの頭に狙いをつけた。その後に響いた銃声は、いつもよりも鋭くとがっているように感じた。

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