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06:おんぶ

 ヒイロはドギマギしていた。


 その背中には女子特有のやわらかい感触がある。

 シャンプーの残り香だろうか、バラの花弁のような香りがうっすらと鼻先を撫でる。


 いろいろな経験はしてきた方だ、という自負があった。


 国による文化の違いはいろいろ経験してきたのだ。

 衣服の違い、食料の違い、家の造りの違い。様々あった。そしてそれを柔軟に受け入れてきた。

 常に頭を隠している人がいる国、逆に帽子禁止な宗教が多いところ、犬を食べたり猫を食べたり、家では土足が当たり前だったり、そもそも靴が一般的でない国もあった。


 だが、世界各地を渡り歩いたといってもアマゾンの奥地で原住民と暮らしたりしていたわけではない。


 自給自足のサバイバルはしたことがあるが、ノーパン女子を背中に背負うのは初めてである。

 そもそも、どこに行っても滞在期間が短すぎて、その土地の言葉も覚えないままの転校ばかりだ。

 女の子とイチャイチャするほど仲良くなるような時間もなければ、彼女が出来たこともない。


 童貞の誕生である。


 背骨の曲がったおばあちゃんなら背負ったことがあっても年頃の女子には触れることすら珍しい暮らしをしてきたのだ。

 背負う相手が美少女となれば気が気ではない。

 普段から頑張って作っているクールなキャラを維持するのに必至だった。


「へ、変な事かんがえたら許さないんだからね!」


 パンツを脱ぐと言い出したのはメオンだった。

 言い出しはもっと回りくどく、なかなか伝わらない結果、ヒイロが何度も聞き返したせいで最終的には直球で言わせてしまった。ほぼ悲鳴だった。今は反省している。

 メオンのそのプライドや人としての尊厳、羞恥心など。彼女の中でいろいろな感情の葛藤があったようだが、最終的にはそういう結論になったらしい。

 びしょびしょに濡れた下着を、背負ってくれるヒイロの背中に当てるわけにもいかず、その場で脱ぐという結論に至ったのだ。


 腰を抜かしたメオンに対し、ヒイロは背負ってやると提案した。

 怯える彼女を一人置いていく気にもなれず、他意はなく、純粋に善意からそう提案した。

 身体は人並以上に鍛えているほうで、女の子一人程度なら背負うのは苦でもない。むしろ美少女なら喜んで歓迎する童貞っぷりである。

 もちろん顔には出さないが。

 

 背負うにあたり、失禁の汚れなどを気にするつもりもなかったが、メオンにとってはそうはいかなかったらしい。

 お姫様だっこのような形で抱えても良かったのだが、それは拒否された。

 羞恥心が耐えられないらしい。ヒイロにはその差が分からないが、乙女心は複雑だった。  


「……ロッカーからバケツを持ってきて」


 踊り場には掃除用のロッカーが設置されていた。

 ヒイロは言われるまま、屋上の掃除用のものであろうそのロッカーからバケツを取り出してメオンのとなりに置いてやった。ついでにモップも。


「後ろを閉じて耳を塞いで。振り向いたら絶対に許さないんだからね!!」


「わかってるさ」


 そう言いながら背を向けて、耳に手を当てながら「こっそり聞くだけならばれないんじゃね?」とか思ったが、背中にすごい殺気を感じたので指を突っ込んでしっかり塞いだ。


「いいわよ」


 生殺しの心境でしばらく無言で待っていると、ツンツンと背中をつつかれた。

 振り向けば、メオンが掃除用のモップの先で背中をつついていた。ミッション成功の合図だ。


 そこにはスカートの裾を抑えたまま座り込むメオンと、ひっくり返されたバケツがあった。

 どうやら無事におもらしパンツは封印されたらしい。


「ちゃんとハンカチで拭いたから大丈夫なんだからね! ほんとなんだからね!」


 何を、とは言わないが、丁寧に拭いたらしい。そのハンカチごとバケツに封印されている。

 メオンの顔は真っ赤に染まったままだった。かわいい。


「よし、じゃあ行くか。ほら」


 あまり見るのもかわいそうだったので、すぐに背中を向けてしゃがみ込む。


 少しだけ間があって、メオンが首に腕をかけてきた。

 少しずつかかってくるその体重をしっかり受け止める。

 ヒイロよりも少しだけ高い体温にドキっとするが、無表情を貫き通した。


「良いか? 立ち上がるぞ」


「だ、大丈夫」


 メオンの、しっとりとやわらかい太ももを落とさないようにしっかりと抱え上げ、ゆっくりと立ち上がる。


 直後、「ひゃあ!」という短い悲鳴にも似た声にの後に「な、なんでもない」と消え入りそうな言葉が続いた。

 心の声がこぼれたのか、小さく「うわ、スースーするよ」と聞こえたが、全て聞こえないふりを通す事にした。


「へ、変な事かんがえたら許さないんだからね!」


 ついさっきも同じ言葉を聞いた気がするがヒイロは「わかってるよ」とだけ短く返した。

 もちろん考えるなと言われても無理である。


 ヒイロだって年頃の童貞なのだ。


 背中にあたるやわらかい弾力が気になって仕方がない。

 腰のあたりだけ他の場所よりも温かく感じるのは気のせいだろうか、それとも布地が少ないせいなのか。

 手のひらに乗る太ももの感触につられるように指先の感触まで蘇ってくる。


「よ、よし、じゃあ下りるからな。しっかり捕まってろよ」


 童貞力が爆発して何も感がられなくなる前にと、ヒイロは慌てて階段を降り始めた。

2016/09/22 書きたかったシーンは書いたので本日の更新はここまでになります。今後は不定期ですが数話ごとに更新します。

ご意見ご指摘ご感想、なんでも励みになりますのでお気軽によろしくお願い致します。

お好みの失禁シチュエーションもお待ちしております。


2016/09/25 次話、更新しました。メガネっ娘、現る。


よろしくおねがいします。

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