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04:少女救出

 まともに戦って勝てる相手でないのなら、選択肢は一つだった。


 三十六計逃げるに如かず。要するに逃げるが勝ちである。


 化け物じみた蜘蛛から振り返れば、少女は相変わらずわけがわからないといった顔で硬直している。

 その手を引き、ヒイロは走った。


 少女は動けなくなっているとは言っても直立してはいるし、瞬きもあれば呼吸もしている。

 能動的には動けなくとも受動的には動けそうだとヒイロは推測して、事実そうであってくれた。

 手を引けば、親鳥の後を追う雛鳥のように、危なっかしい足取りではあるが一緒についてくる。

 混乱や錯乱する事態を考えれば、下手に意識があるより楽だったかもしれない。

 二人は屋上から校舎へ戻る扉へと駆けた。


 その背後で、頭を砕かれて怯んでいた大蜘蛛が動き出した。

 その全身が沈んだかと思えば、弾ける様に飛び上がる。追いかけるというよりは、一撃で獲物を捉えようとするような、巨大な跳躍による狩りの動きだ。

 影が空からヒイロを覆い、攻撃的な気配が背中を叩く。

 その気配から逃げ切るように扉を潜り抜け、少女を抱きかかえるように引っぱり込む。

 扉を閉めようと振り返ったヒイロの前髪を、獰猛な爪の先がわずかにかすめた。


「あ、あっぶねー!」


 獲物を仕留め損ねた爪がゆっくりと引いていき、入れ替わるように真っ赤な複眼が扉を覗く。ヒイロはそれに見つからないように階段の下に隠れてやりすごした。

 蜘蛛が中まで追ってくるけ気配はなかったが、念のために少し離れ、階段を踊り場まで下りた。


「さて、どうしたもんか」


 追撃がない事を確認して、やっと一息つける。

 少女を助け出したは良いのだが、この状態では対処に困るのが正直な感想だった。

 少女は相変わらずの固まった表情のままで、動きがない。

 目の焦点もあっておらず、空中をぼんやりと眺めている。


 ヒイロは少女が一種の放心状態に陥っていると推測し、即座に行動した。

 恐らくはあの化け物に襲われたことによるショック状態なのだろう。放っておくわけにもいかない。

 ならばと、艶のある金糸に隠れた少女の耳たぶの延長線上を確認し、指先でツンと突く。


「ひゃうん!?」


 悲鳴と共に小さくビクンを体が跳ねると、固まったままだった顔に表情が戻ってきた。

 放心状態から目覚めさせるには、敏感な部分を刺激する事が手っ取り早い。


 夢から覚めたような少女の視線が目の前にいたヒイロを捉えた。

 その視線がゆっくりとヒイロの顔と自分の胸とを数回往復し、新雪のような純白の肌がみるみる紅潮していく。

 肩がプルプルと小刻みに震えた。 


「いや、ちょ、ちょ待っ……」


 危険を察知したヒイロの言葉より早く、少女の平手が頬を打った。

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