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24:外の世界

「よし、これで大丈夫だろ」


 教室のカーテンを寄せ集め、つなぎ合わせてはロープ代わりに窓の外へと放ると、それを見下ろしてヒイロは満足げに頷いた。


「ほ、本当に大丈夫なのかしら……?」


「なんだよ。そんなに心配なら俺が先に降りても良いんだぜ?」


「ダ、ダメよ! ダメに決まってるでしょ!? 私が先に行くの! これは決定事項なんだから!」


「んだよ、別に見やしないっての。そんな状況かよ。結構な異常事態なうだぞ、今?」


「頭痛が痛いみたいな言い方やめなさいよ、わざとらしいわね。ウケ狙い?」


(な、何よ! めちゃくちゃ冷静なくせにー! こっちの気も知らないで!)


「ち、ちげーし! 受け狙いとかじゃないし!?」


「と、とにかく! 私が先に行くから、アンタは上から見張っててちょうだい」


「へいへい」


 窓の外にはヒビ割れた空が広がっている。

 割れてさえいなければ、雲一つない抜けるような気持の良い晴天だっただろう。


 メオンはヒイロの鋭い視線に見守られながら、スカートに細心の注意を払って窓を潜り抜ける。


(み、み、見すぎでしょ!?)


 確かに見張っていて欲しいとは言った。

 言ったが、そうじゃない。周りを見てほしいのだ。


 メオン自身を見られても困るのだ。


「~~~!」


意を決してカーテンのロープに身を預けると、手に力を入れていてもなお自重に引かれるようして下へ下へと滑っていく。

 手よりも足に力と注意を向け、スカートが捲れないように慎重に降りて行った。


 何とか無事に着地する。


「ふぅ。良いわよ。アンタも降りて……」


 メオンが頭上を見上げるよりも先に、ヒイロが事も無げに窓から飛び降りてきた。


「校舎の外には虫共は居ないみたいだな。日陰に隠れる習性でもあるのか……?」


 当たり前のように着地して、周囲を確認してはそんなことを一人で呟き始めた。


 このカーテンのロープは、わざわざメオンのために作ってくれていたらしい。


「ほらよ」


 降りる前に預けていた剣を渡される。


「ひゃあ!? ちょっと投げないでよ! 危ないでしょ!?」


「いや、ちゃんど柄むけただろ。しかしまぁ、ひとまずは大丈夫みたいだな。まさか校舎より外の方が安全だとは思わなかったぜ。先に確認するべきだったな」


「た、確かに……でも、変よね? 虫達は外側の窓からも教室に侵入して来てたのに……」


 メオンはそこに違和感に気付いた。

 ヒイロも同じことを考えていた。


 だからこそ二人は校舎の外にも大量にいると思っていたわけだ。


 外へ逃げるという選択しが最初から頭に浮かばなかったのもそのせいだ。

 だが、実際は違うらしい。


「恐らく、下の階から集まっていたんだろうな。だから二階は虫が少なかったんだ」


 集団を作る性質か、あるいは狭い空間を好むのか。

 どちらにせよ邪魔が少ないのは助かる。


「とにかく川に行きましょう。こっちよ」


 メオンの案内にヒイロも続いた。


 四階建ての新校舎、現在の本校舎を中心に、真宵ヶ丘高等学校の敷地は広がっている。


 旧校舎はちょうど南西の位置、敷地の隅に息をひそめるように建っている。

 これは生徒数の増加に伴い、校舎の新築と土地の拡張が同時に行われたためだ。


 旧校舎を覆い隠すような並木の脇に、小さな校門が残されている。

 旧校舎が本校舎だった時代に使われていた古い門だ。


 今は使われていないが、封鎖されているわけでもない。


 真宵川も同じ方角にあった。

 旧門は川へ向かうには丁度いい道だった。


「並木に気を付けろよ。多分だが旧校舎の中にも虫はいる」


「う、うん……!」


 ヒイロは上空への警戒を続けていた。

 遮蔽物のない場所であのトンボに空からの強襲を許せば、自分はともかく、メオンを狙われた時には守り抜ける気がしなかった。


 隙を作らないよう、純白の剣を握る手に力がこもる。


 メオンも不格好ながらにしっかりと剣を構えて警戒している。

 剣の性能のおかげもあり、地上の芋虫程度なら対応できるだろう。


 しかし、だからと言って並木に入るのは危険だった。

 木の影に別の虫が潜んでいる可能性の方が高いような気がする。


 旧校舎など論外だ。

 ヒイロは一度、そこで芋虫に襲われている。

 あの時は数匹だったが、今はどうなっているか分からない。


 芋虫以外の虫がどれだけいるかも分からないが、それでも用心は必要だ。


 警戒を緩めることなく進む二人だったが、結局は何事もなく旧校門へ辿りついた。


 そして、言葉を失った。


「ウソ……何よ、コレ……」


 ヒビ割れた空間が門の先に広がっていた。


「なるほどね。なんとなく、そんな気はしていたが、俺たちはこの敷地内に囚われたってわけか」


 チヨコの話を聞いた時から、ヒイロはなんとなくそんな気がしていた。


 この学校こそが伝承の舞台なのだとしたら、選ばれた者がそう簡単に逃げられるわけがないのだから。


「そんな……」


「待てっ! 触るな」


 目の前の光景を信じないかのように、通り抜けられるのかを手で触れて確認しようとするメオンをヒイロが止めた。


「不用心すぎるだろ。どうなってるか分かんない空間だぜ」


 足元の石ころを一つ、放り投げる。


「きゃっ……!」


 バチン、と石ころは弾けて消えてなくなった。


「これでわかったろ。ここからは出られない」


「じゃあチヨコは!?」


「俺の推測だと、多分ココから出られないのは虫共も同じだ」


「あのトンボは別の場所に隠れてる……?」


「そういうことだ。敷地内で、アレが隠れそうな場所……好みそうな……」


 思考が加速していく感覚があった。

 ヒイロの中で、何かが繋がりそうなそんな予感がした。


 メオンもそれを察したのか、真剣な表情で黙り込んだヒイロを静かに見つめている。


「うわああああああああ!!」


 その時、二人はこの世界に来て二度目の悲鳴を聞いた。


「誰かいるわ! 助けなきゃ……!」


「旧校舎から……? まさか……!」


 それはヒイロにとって聞き覚えのある声だった。

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