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23:手帳と試練と伝承と

「まずはその力の出どころだな。生徒手帳のせい……いや、おかげか」


 メオンの生徒手帳が不思議な光を放つ瞬間はヒイロも、そしてチヨコも見ていた。


「多分、そうだと思う。ページが急に変わって……」


 メオンは自分の生徒手帳を開いて見せる。

 そこには頭に浮かんだ物と同じ、黒き歴史の刀鍛冶ダークパストブレイドスミスの文字が浮かんでいる。


「……急に、か。生徒手帳は機械じみた形になってたけど、起動に何か条件があるのか?」


「わからない。さっきはとにかく、ただ力が欲しいと願ったの」


「……力、ね。それなら、俺の方も反応してくれていいハズなんだけどな」


「え?」


 何げなく呟いたヒイロの言葉に、思わずメオンは聞き返してしまった。

 化け物じみた虫達を相手に引けを取らない、それどころか圧倒するほどの動きを見せたヒイロからそんな台詞がこぼれてくるとは意外だった。


「そんな便利な力、誰だってほしいに決まってるだろ」


 なんとなく誤魔化すような言葉だったが、メオンはそれ以上は何も聞けなかった。


 異様な事態に巻き込まれているというのに、どこか他人事のように飄々としているヒイロの中に、何か得体の知れない闇を感じたような、妙なざわつきを感じた気がした。

 それは悪意などではなく、どこか寂しさのような冷たい感覚だった。


「多分だけど、この手帳の力はこの試練とやらに必要なものだと思う」


 生徒手帳だけ形状が変わり、いつの間にかそれぞれの机に置かれていた。

 この世界と、その試練とやらと関係があると考えてまず間違いないだろうとヒイロは考える。


「俺の手帳には反応がないから、今はお前の力だけが頼りだ。その力を見極めよう」


 相変わらず空白のページのままの自分の生徒手帳をポケットに仕舞いこみ、改めてメオンと向かい合う。


「わ、わかったわ! そうね、何から説明したらいいかしら?」


「そうだな。まずはその力の使い方だ。なんとなくわかるのか?」


 生徒手帳には能力の名前のみが記されていた。

 説明書のような機能は無いように見える。


「なんとなく、というよりはハッキリわかる……。この力に目覚めた瞬間、力の使い方が理解できたの。この力は、なんていうか、私の記憶の中にある武器を実際に具現化する力みたい」


 黒歴史についてはふせておく。

 わざわざ説明する必要もないだろうし、説明するくらいなら死にたいレベルで恥ずかしい。そもそも内容は嘘ではないと思う。

 そう思う。


「記憶にある武器か。って事は、これはアニメか漫画か何かの武器か?」


「た、多分! そうなんじゃないかしら……? 記憶があいまいだけど、子供の時に見たものかも……!」


 手に持った剣の異常な切れ味や、見るも美しい派手な装飾など、とても実在の武器とは思えない。

 記憶の中のものだというのなら、非現実の武器でも可能ということなのだろう。


「武器はランダムか? それとも自分の意思で選んでるのか?」


「私の意思で作れる……と思う。多分、だけど……」


 先ほどは無我夢中で、そこまで考えは及んでいなかった。

 脳裏に浮かんだ武器が今、二人が手にしている三対六枚の羽根の剣だった。

 一本で十分な戦力たりえるため、互いに持った一本づつ以外は教室に置いてきたが、また作れるというのなら問題はなさそうだ。


「……正直言って、卑怯なくらい便利だな」


「うん。だけど、作った私自身は動けなくなっちゃうから、誰かと一緒じゃないと使えないかも」


「うん、それは確かにそうだ……いや、もしかしたら、それがこの世界の試練の性質かもしれない」


「試練の性質? どういうこと?」


「芋虫だけなら、いざとなれば素手でも倒せる。だけど、あのトンボやクモはそうはいかないと思うんだ。要するに、生徒手帳の力が試練には不可欠。そしてその力が協力する事を前提に作られているのなら、つまりはこの世界の試練とやらが試している事象とやらは……」


「……協調性? まるで学校みたいね」


「関係あるのかもな。この学校の伝承なんだろ?」


「うーん、確かにそうだけど。チヨコに聞けば詳しい事もわかるハズよ」


 試練についてはチヨコに聞いておきたかった事だが、居ない今は自分たちで推測するしかない。

 理解したうえで動かなければ、いつか危険に晒されるだろうという危機感は二人とも抱いていた。


「現状、わかることはそのくらいか。俺の手帳も起動してくれればいいんだがな……」


「言っておくけど、条件も分からないのに悠長に待つつもりはないわよ? 私はチヨコを助ける事を優先する」


 話はここまでとばかりに、メオンは広げていた自分の生徒手帳をポケットにしまいこんだ。


「自分の命を危険に晒してもか?」


「あの子を助けるためなら」


「…………わかってるって。そう睨むなよ。俺だって委員長には世話になってるからな」


 自分の目の前でさらわれた友人を助けないつもりなどヒイロにもない。


「クラス同じなんだっけ? そういえばアンタ、友達いなさそうね。あの子が同じクラスで良かったじゃない」


「俺は作らないだけだ。良いか? 勘違いするなよ?」


「はいはい」


「絶対信じてないだろ、おい。信じてないだろ!? ……まぁ良いけど、それで?」


「なによ?」


「どうやって外に出るつもりだよ?」


 階段の下は芋虫に覆われている。

 二階まで移動してくる途中に確認してみたが、校舎の端にある非常ドアは固く閉ざされていて開かなかった。


 残る選択肢は少ない。


「……この窓から出る」


「まぁ、そうなるよな」


 メオンは窓を開け放った。

 幸いにも二階だ。

 高さはそうない。


「頭から落ちなきゃ、最悪、両足の骨折くらいで済むと思うぜ?」


「少しは安全に降りる方法考えなさいよ!?」


 二人は覚悟を決め、校舎の外へと飛び降りた。

2016/12/19 次回より委員長救出編! 学校の外の状況が明らかになったりならなかったり……


2017/2/4  次回更新しました。安藤さん現る!


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