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22:力の代償

「うっ、うぇ……なによこれ……!」


 二階の階段まで移動したところで、その先の光景にメオンは強烈な吐き気を覚えた。


 階下に広がる芋虫の群れは、生理的な嫌悪感を刺激してくる。

 メオンは吐き気を抑えるように手のひらで口元を覆いこそすれ、けれど目を背けるような事はしなかった。


 親友のためならば、そこに向かっていくだけの覚悟はとっくに出来ている。


 二人は一度、虫たちに気取られないように静かに階段から離れた。

 この二階の廊下には他の虫たちの気配はない。


「おい、大丈夫か? 顔色やべぇぞ」


「た、確かにすごい数ね……気持ち悪い……けど、大丈夫……!」


 女の子らしくもともと昆虫類は苦手なメオンだったが、それ以上に芋虫にトラウマができそうな光景だった。


「だから言っただろ。アレの中を突破するつもりか?」


「不可能じゃないでしょう? 私の剣があれば、芋虫くらいなんてことないわよ!」


 メオンは手にしていた剣をかざして意気込む。

 ヒイロの手にも握られているそれは、メオンの力が生み出した異能の剣だ。


 確かに、この切れ味ならば道を開くことも可能だろう。

 しかし、それはヒイロ一人なら、という話でもある。


「この数相手じゃ、お前のお守りまではできないぜ?」


 階下に広がる敵の数もわからない。

 この緑の絨毯がどこまで続いているのか。

 身体能力に優れるヒイロとはいえ、その全てを倒し切ることが出来る保証はない。


 メオン本人もしっかりと戦わなければ、二人で無事に突破することは難しいだろうという事くらいは予測できる状況だ。


「だ、誰がお守りよ! アンタに助けてもらわなくっても、自分の道は自分で開くわよ!」


「へぇ、ビビって動けなくなってたヤツが良く言うぜ」


「なっ……! 誰がビビってたってのよ!?」


「しっ! バカ、大きな声だすなって!」


「んっ! ご、ごめん……」


 たしかに先の戦いの中で、メオンは思ったように戦うことができなかった。

 けれど、それは臆病に怯えていたからではない。


 そんなことは分かったうえで、ヒイロはあえて挑発的な言葉をぶつけてみた。


「実際、動けなくなってただろうが。それとも、何か別の理由でもあったのか?」


「うっ……あ、あれは……その……」


(も、もう! おしっこ我慢してたからなんて言えるわけないじゃないっ!)


「こ、この剣を作ったら、急に足に力が入らなくなったのよ!」


 メオンは赤面するのを自覚しながら、それを隠すように言ってのけた。


 嘘ではない。

 実際には、剣を作ったら急に尿意が増してきて動いたら漏らしてしまいそうだったから我慢してたせいで足に力が入らなくなった……というより足以外の場所に全力を注ぐ必要があったのだが、嘘ではない。


「なるほどな。やっぱりそう、都合よくはないってことか」


「……な、なに?」


 一人で納得するヒイロに、メオンは置いてけぼりになる。


「便利すぎると思ったんだよ。こんな強力な武器を作り出す力なんて、代償がないほうがおかしいだろう」


 チヨコの話が間違っていないのなら、この世界は学園に伝わるという試練の世界だ。試練というならば、乗り越えるべき難関が待ち受けているハズである。

 それがこの人知を超えた化け物のような虫達ならば、それをいともたやすく倒せてしまうメオンの力は強すぎると思えた。

 その力に何のデメリットもないと言われたら、この世界は試練にもならない。


「……なぁ、確か試練の目的は生き残ることだったよな?」


「え? うん、そうね。でも、今までの伝承だとみんな全滅しちゃってるって、確かチヨコが……」


 それはヒイロも聞いていた。

 今の状況はこの部分とも一致しない。


 芋虫やトンボ、あるいは屋上でメオンを襲っていた巨大なクモすら、メオンの剣ならば楽に倒せるだろう。


 ハッキリ言って全滅しようがない。


 つまりは、別の何か。

 あるいはより強大な、試練たりうる存在がこの世界に紛れ込んでいるハズなのだ。


 もしくは、メオンが特別な存在とでも言うのだろうか。


「状況を確認しておきたい。委員長を助けるためには、少なくともあのトンボ野郎とは必ず戦うことになる。戦力は俺たち二人だけなんだ。互いを理解しておく必要がある」


「そ、そうね……うん!」


 ヒイロは冷静に状況を分析しようとしていた。


 悔しいが頼りになる、メオンは素直ではないがそう思った。

 ヒイロと現状を確認しながら意見を交換していく中で、チヨコを助けるために知らずと焦っていた思考が、少しずつ冷静さを取り戻していくのが自分でもわかるくらいだった。


 また、助けられた気がした。

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