20:水洗式教室清掃
「うぅっ……」
ゆっくりと意識が浮上する感覚と共に、メオンは目を覚ました。
「ここは……そうか私は……」
得体の知れない倦怠感の中、体を起こして周囲を見渡せば、見知った教室の中に見慣れないハズの景色が広がっていた。
木目の床を埋め尽くすのはブヨブヨとした肉片と黒く濁った緑色の体液。
自分はそこにいる。
知っている景色。
意識を失う前に見ていた景色だ。
「よぉ、やっとお目覚めか」
起き上がったメオンを、真っ青なパーカーをまとったヒイロの言葉が迎えた。
「あ、アンタ、無事だったのね……」
ゆっくりと脳内に浮かび上がってくる直前の記憶。
最愛の友達が化け物に連れ去られた瞬間の映像。
「チヨコ! チヨコは……」
ハッとして問いかけるその瞬間、視界が閉ざされた。
突然ふりかかってきた何かに、慌てて目を閉じた結果だ。
「ひゃぶっ!?」
衝撃が通り過ぎるように去って、残されたのはびしょ濡れになった自分の姿だった。
目の前に立っているヒイロの手には掃除用のバケツが握られている。
メオンに向けられたバケツの中は空っぽだが、湿っている。
どうやら、これで水をかけてきたらしい。
「な、何するのよ!?」
ふざけている場合ではないというのに、いったい何の冗談なのか。
メオンは本気で怒りを覚えた。
「何って、掃除だよ」
「掃除って……今はそんな場合じゃないでしょう!?」
「そんな場合だからやってるんだよ」
ハァ、とヒイロはわざとらしくため息をつく。
「芋虫の返り血で臭いがひどいんだ。落としておかないと危険かもしれない。もしかしたらこの匂いが原因で集まってきてる可能性があるからな」
この教室の隣の教室、チヨコがいた教室には、ヒイロ達が駆け付ける前にチヨコが仕留めた一匹の死体があった。
チヨコの衣服にもその体液は付着していた。
そしてチヨコと合流後、ヒイロ達は集まってきた芋虫たちに襲われた。
それは偶然なのか、必然なのか。
群れをつくる昆虫たちはお互いにひきつけあうフェロモンを体に有している。
体中に穴が開いた死体からそのフェロモンがまき散らされていたとしたら、それが付着したチヨコに虫達が引き寄せられてきたとしたら、このままの格好ではこの教室から離れても逃げる意味などないことになる。
ヒイロはわずかでもありえる可能性を潰すことにしたのだ。
「でも、それって濡らした程度で意味あるの? たしか、フェロモンって水くらいじゃ落ちないわよね?」
昆虫のフェロモンの作用程度の事は、この国の学校なら小学生でも習う。
メオンの指摘はその通りだった。
「やらないよりはマシって事だ。わかったら、とにかくこの教室から離れるぞ。委員長の事はそれからだ」
まずは自分たちの安全を確保しなければ、他人の心配をする余裕も作れない。
ヒイロは真っ青になった元は白いハズのパーカーを脱いだ。
もしもフェロモンが作用しているなら、体液が染みたこのパーカーは良いデコイになるかもしれない。
チヨコに付着していた体液は多くない。
それでもこれだけ仲間を引き付けるのなら、体に付着したフェロモンよりも濃い物を囮に使えば、多少は安全に移動できるかもしれない。
「わ、わかったわよ……」
立ち上がろうとして、メオンは足に上手く力が入らないことに気が付いた。
そして、二度に渡る自らの痴態を思い出した。
(私ったら、神聖な学び舎で二度も……)
予定な考えを振り払うように頭を振って、体に力を入れる。
「くっ……ん……ってひゃあ!?」
プルプルを震えながら立ち上がろうとするメオンの足元に、再びヒイロが水をぶっかけてきた。
「な、何するのよ!?」
「わるい。手が滑った」
驚いた反動で立ち上がれたが、変な声が出てしまった。
というか絶対わざとだ。
明らかに不自然な動きだったのだ。
「……もしかして」
恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にしながら、足元に微かに残るアンモニア臭を感じ、メオンはふと思う。
(もしかして、私のおしっこの臭いを誤魔化すために……?)
この状況でヒイロが失禁に気づいていないハズがない。
教室をよく見てみれば、メオンが失禁したであろう場所も水浸しになっている。
ただ水浸しになっているのではなく、水で流してくれていたではないだろうか。
不器用すぎるが、ヒイロなりに気を遣ってくれた結果なのだろう。
そう分かると、怒りなどわくはずもなかった。
思えば、最初から、ヒイロにはずっと助けられている。
お礼の一つも言っておきたいと思った。
「あ、アンタ!」
「ん? どうした?」
「あ、あの、どうしたって、ねぇ……!」
「な、なんだよ、怖いぞ……って!」
メオンが中々言い出せないまま、しばらかく向き合っていた二人だが、急にヒイロが背を向けた。
「……な、何よ? 急に……」
わけがわからず自分の体に視線を落とすと、メオンの胸元が凄いことになっていた。
水に濡れたセーラー服がぴっちりと体に吸いついて、その女性的なラインを露わにしていたのだ。
生地が黒いおかげで被害はわずかではあるが、メオンの桃色の下着もその姿を透かしている有様だ。
「ひゃあああ!? へ、変態! バカ! 変態ーっ!!」
メオンはそれに気が付いた瞬間、体を抱きかかえるように隠して絶叫した。
「わ、わざとじゃねー! って叫ぶなって! せっかく芋虫たちが止まってんだからよー!」
そして気まずい空気のまま、とにかく二人は移動した。
2016/11/14 書いてみたかったラッキースケベっぽい展開。今後は増えます。次回はこれからの行動を相談しながらなんとかラッキースケベします。
2016/12/19 次話更新しました。ちょっとした現状把握回です。
ご感想ご指摘ご要望、お好みの失禁シチュエーションはいつでもお待ちしております。
よろしくおねがいします。




