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19:失禁と失神

「おい! いったい何があった……!?」


 失禁と失神。二人は余程の恐怖に襲われたに違いない。

 ヒイロは瞬時に二人の状況から現状を分析し、警戒体勢を取った。


「あっ……あ、チヨコ……」


 警戒したまま、呆然と視点の定まらないまま俯くメオンに駆け寄る。

 芋虫の侵入はあるが、それ以外には変わった様子は見られない。

 様子がおかしいのはメオンの方だ。


「おい、何が……うおっ!?」


「ひゃあ!?」


 ヒイロが問うよりも先に、唐突な風が二人の間を通り抜けた。


「なっ……今度はトンボか!?」


 真っ先にその風の正体を捉えたのはヒイロだった。


 窓から侵入してきたそれは、踏切の遮断機みたいな黄色と黒のボーターの胴体をしていた。

 胴は細長く、ジェット機のような四枚の羽根は目視が困難なほどの速度で振動している。

 巨大な緑の複眼をもったそれは、巨大なトンボだった。


「……あっ!チヨコッ!!」


「こいつ……!」


 芋虫達と同じように巨大化したトンボは通り抜けると同時にチヨコを掴み、そのまま飛び去ろうとする。

 教室の上空で旋回すると、今度は侵入してきた窓へと一直線に向かった。


「逃がすか……よっ!」


 その動きを先読みして、窓に先回りするようにヒイロが駆けた。

 その道中に、芋虫の突進が迫ってくる。


「邪魔だ!!」


 言葉よりも早く、一閃。

 芋虫の体を裂いては払い、最短距離を駆け抜けようとする。

 巨大な剣による一振りは、まさに薙ぎ払うという言葉がぴったりなほど豪快で正確だ。


「な、何っ!?」


 しかし、それは連続する芋虫の壁に阻まれた。


「……なんだこいつら!? 協力しているのか!?」


 明らかに邪魔をされた。

 二度、三度と続くその動きは偶然ではないだろう。

 芋虫達は今までのようにただ突っ込んでくるのではなく、窓へと向かうヒイロの前に前にと集まっていた。

 まるで壁を作るかのようなその挙動は、個ではなく群れとしての動きを思わせる。


「くそっ……!」


 巨大なトンボが一気に加速して、窓の外へと向かう。

 苦し紛れに投げ放った神の剣も、それを妨害するには至らなかった。


 チヨコを捉えた巨大なトンボはそのまま窓の外へと消えていった。


「待ちやがれっ!!」


 遅れて窓際までたどり着いたヒイロだが、すでにトンボの姿はひび割れた空のどこかに消えていた。


「……くそっ! 委員長……!」


 ヒイロが作った道を、フラフラとした足取りでメオンが辿ってきた。


「チ、チヨコ……チヨコ……!」


 メオンは窓際までたどり着いた所で、力つきるように地面に倒れ込んだ。


 後に残ったのは、金色の水たまりと山のような芋虫たちの死骸だけだった。

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