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14:vs巨大芋虫

 ガシャンと窓ガラスが割れる甲高い音が響いてきたのは廊下側からだった。

 次いで、教室の扉がドンと揺れ、突き出すようにゆがむ。

 二度目の衝撃音と共に、ゆがんだ扉が弾け飛んだ。


「きゃっ……!」


 現れたのは巨大な芋虫。

 死体ではない動くそれを初めて目にしたメオンが悲鳴を上げそうになるのを、自ら口を塞いでなんとか堪えた。


「どうやら、試練とやらの御出ましみたいだな」


 女子二人を守るように、ヒイロがホウキの槍を構えて一歩前進する。


「えぇ、命を計るにしては、少々甘すぎる気もしますけれど」


 チヨコもそれに並び、ガラス片のナイフを構えた。 


「あぁ、そうでした。新藤君、忘れていました」


「……ん? なんだ、委員長?」


「メオンちゃんを屋上から助けて下さって、ありがとうございます」


「……あぁ、別に。当たり前の事をしただけだろ、男として」


 場違いにも思える唐突な行動に、ヒイロは戸惑いがちながらそっけなく答えた。


「メオンちゃんも随分と信頼しているようですし、その実力、とくと拝見させていただきますね」


「あ、あぁ、善処するよ……」


 笑顔だけど目が笑ってない。

 もしもメオンに傷一つ付けさせたら、その時はヒイロがチヨコに殺られそうな雰囲気だった。


「わ、私も戦うんだから!」


 震える足で二人の間に割って入り、メオンもバットを構えた。


「うふふ、頼りにしてますよ。だけどメオンちゃん、無理はしないでね」


「わ、わかってるわよ。二人こそ、ケガしないでよねっ!」


 互いに背中を押し合うような掛け合いなど関係ないとばかりに、巨大な芋虫が突進する。


「よし! じゃあさっさと仕留めるぞ!」


 先頭にたったせいか、はたまた偶然か、あるいは敵対する集団の中心に突進しただけかも知れないが、芋虫はヒイロに向かって突っ込んできた。


「まったく、芸がねぇな」


 ヒイロにとってはすでに一度は見た攻撃だった。

 その全くと言っていいほど同じ動きに、ヒイロはもはや慌てることもなく、折れたホウキの先で器用に近くの椅子を絡めて寄せると、旧校舎と同じように芋虫の突進を迎え撃った。

 向けられた椅子の足を、自らの突進の勢いで体に食い込ませる巨大芋虫を、そのまま抑え込む。


「委員長!」


「任せて下さい!」


 まだ生き絶えぬそれに、チヨコが透明な刃を振り下ろした。

 椅子の底から伝わる力が弱くなし、次第になくなっていくのを確認し、ヒイロは椅子の足を引き抜いた。


 力なく倒れる芋虫を、ヒイロの背中から顔を覗かせたメオンが恐る恐る確認する。


「……や、やったの? 二人とも、大丈夫?」


「あぁ、一体なら余裕だな。一人でもやれるし。委員長も、さすがというか、怖くないのか?」


「もう初体験は済ませましたからね、うふふ。新藤君も、さすがです」


「そ、そうか……」


 微かに頬を紅潮させながら微笑むチヨコに、むしろ芋虫よりも恐怖を感じる気がしたヒイロだった。


 ともかく、チヨコは戦力としては十分に頼りになる。

 チヨコもヒイロに対して同じような評価を下していた。


「……ってワケだけど、後はコイツらの数次第だな」


 ヒイロの向けた視線の先、教室の扉からは次々ンに巨大な芋虫が入ってきていた。


「えぇ、囲まれないように分散しましょう。メオンちゃんは少し下がってフォローをお願いします!」


「わ、わかったわ!」


 扉を潜って侵入してきた二匹の芋虫に、ヒイロとチヨコはそれぞれ駆け寄った。

 芋虫が突進をする前の予備動作、体を縮める動きが終わる前に、先手を打つ。


 ヒイロは手にした椅子を芋虫の体の上に添えると、そのまま椅子に飛び乗って刺し潰した。

 わずかだが動くその頭に、折れたホウキの先端を突き刺すと、芋虫は動かなくなった。


 チヨコは芋虫の頭の辺りにガラス片を思い切り突き刺した。

 芋虫がひるむように僅かに後退するのも構わず、そのまま動かなくなるまで刺し続けた。


「新藤君、それ、良い武器ですね」


 ヒイロの戦いを見て、チヨコが笑った。

 椅子の足は特別鋭いわけではないが、体重をかけてぶつければ、柔らかい芋虫の体には十分に突き刺さる。

 体を守るためにも使える攻防に優れた武器となるのだ。


「便利だろ、コレ。返り血も付かないからな」


 二人は近くの椅子を持つと、廊下の様子を伺うことにした。


「さきほどの音、恐らくは窓ガラスが破られたのでしょう」


「あぁ、外から侵入されてるなら、ここで倒してもキリがないかも知れないな」


 この様子だと、窓から芋虫が侵入でもしてきているのだろう。

 それを塞げるならば塞ぎたかった。


「では、速やかに……」


 そこで再び、ガシャンという窓ガラスが割れる音が響いた。

 それは廊下側ではなく、二人の真後ろからだった。


「ひゃあ!?」


「……!! メオンちゃん!?」


 間をおかずに聞こえるのはメオンの悲鳴だ。

 ヒイロは背後の状況を確認するよりも早くチヨコが悲鳴じみた声でメオンを呼ぶよりも早く、駆け出していた。


「くそ、数が多すぎるんじゃないか? コレ!」


 振り返り駆け出したヒイロの目に移ったのは、教室の窓ガラスを割って部屋に侵入してくる巨大な芋虫の姿だった。

 一匹や二匹ではなく、もっと数は多い。

 その中の一匹が、メオンに向かって突進を仕掛けようとしているのが見えた。


「伏せてろ!!」


 短くそう叫ぶと、ヒイロは手に持っていたホウキの槍を振りかぶった。

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