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10:混じり合う世界

「この学校は、巨大な化け物の住む世界と混じりあっています」


 髪留めで前髪をピチッと止めた真面目そうな委員長、チヨコは見た目の通り至って真面目な顔でそう話し出した。


「校舎を徘徊しているのは人間ではなく、巨大な昆虫のような姿をした別世界の生き物たちです。ここは今朝までの校舎ではない、別世界の異空間なんです」


 その言葉には冗談めいた空気が含まれる事はなく、真剣そのものだ。


「そして、私たちはそれに巻き込まれたんです」


 当然のように言い切ったチヨコに対し、メオンの反応は当たり前のものだった。


「な、何よ、それ! 意味わかんないわよ!?」


 肩を抑えて震えるメオンを、チヨコは優しく抱き寄せた。


「メオンちゃん、落ち着いてください。気持ちは分かります。私だって信じたくありません。だけど、これが、これが現実なんです」


 ヒイロはそれを予感していた。

 この学校に起きている異変に気付きかけていた。


 自分たち以外の生徒たちと出会わない事も、突然に現れた巨大な虫の群れも、どちらも十分すぎるヒントだ。ただ、勘違いであって欲しいと願っていただけだ。


 その気持ちを改めて、冷静に現状を確認する。


「確かに、この学校には化け物じみたバカデカい虫が大量発生中だ。そして、俺たちの他にいるハズの学校の人間達の気配は感じない。委員長の言う通り、何かに巻き込まれたってのは間違いないだろうな」


 それも普通ではない、異常な何かに、だ。


「そ、そんな……。だったら、私たちはどうしたらいいのよ……」


「……さぁな。俺だって誰かに聞きたいさ」


 チヨコが退治したらしい巨大芋虫の死骸を眺めながら、ヒイロも力なく言葉を返す。

 芋虫程度の虫相手になら負ける気なんてないヒイロだが、それとこの不可思議な状況を打破するのとは別の話だ。

 何をするべきかなど、わからない。わけがわからないのだ。


「有りますよ、ヒントなら」


 教室を包み込んだ沈黙を破って、口を開いたのはチヨコだった。


「転入してきたばかりの新藤君は聞いた事もない話かもしれませんけど、この学校に伝わる怪談話があるんです。願いを叶える試練の世界。メオンちゃん、聞いた事あるでしょう?」


「うん、あるわ。多分、この学校の関係者ならみんな知ってると思う」


 チヨコの問いに、メオンも当然とばかりに頷いた。


「願いを叶える試練の世界?」


 メオンの反応とは対照的に、ヒイロは首を傾げた。


 学園に伝わる噂話と言えば、怪談話がつきものだ。

 それは分かる。だが、並んだ単語はそういったものとは随分と毛色が違うように思われた。


 深夜にだけ現れる十三番目の階段。

 ひとりでに鳴り響くピアノ。

 動きだす人体模型に肖像画。


 そんな学校の七不思議などに出てくるものとは根本的に雰囲気が違う気がするのだ。


「真宵ヶ丘高等学校に伝わるこのお話は、まるで今の状況にそっくりなんです。怪談話、というよりは、もっと作り物めいた都市伝説のようなお話ではありますけど……」


「確かに、似てるかも……。私は細かい話までは知らないけど」


 その内容を知っているらしい二人が顔を見合わせる。


「この異常な状況にそっくりな言い伝え、か。面白いな」


 その異常な状況の渦中に身を置きながら、ヒイロは思わずニヤリとしてしまう。


「それ、詳しく教えてくれよ」

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