09:悲鳴の先
「……い、委員長?」
分厚い黒ぶちのメガネと新芽のように瑞々しい髪を三つ編みおさげにしている姿が、どこか古風な印象をあたえるその少女の名前をヒイロは知っていた。
伊井永千代子。
ヒイロのクラスのクラス委員長を務める生徒だ。
「あ、あなた……チヨコ?」
チヨコとはメオンも面識があるらしく、馬乗りにされたまま状態だけ起こしてその顔を確認するが、それもすぐに遮られた。
「はい、メオンちゃん! メオンちゃんも無事だったんですね、良かったです!」
「うん、無事だけど、って、ちょっとすまっぷ!」
最後まで言うより先に、チヨコがメオンの顔に思いっきり抱き着いた。
はち切れんばかりに制服の胸元を押し上げる膨らみに顔を埋もれさせ、メオンがジタバタともがいている。
童貞には少々刺激が強すぎる光景であった。
じゃれあっているのかと思ったが、メオンがわりと本気でもがいているように見えて、ヒイロはチヨコに声をかけることにする。
「お、おい、委員長。そろそろ離してやった方が……」
ヒイロがチヨコの肩に手をかけようとした時、ヒュン、と鋭利な何かが二人の間を走った。
何かのとがった先端が、殺気めいた冷たい気配を放って向かってくるのを感じ取り、ヒイロは半身だけ体を引く。
それと同時に動いた両手が、その肘と手首を抑え、動きを殺した。
ヒイロの首元ギリギリのところに、先端の尖ったガラス片が向けられていた。
「ちょ、ちょ待てよ。これシャレになんねぇっての、委員長」
殺気の正体はチヨコだった。油断していたとはいえ、あと半歩踏み込んでいたら間違いなく喉に新しい口が増やされる事になっていただろう。
そのためらいのない動きに、一瞬おくれてヒイロの頬を冷や汗が伝う。
光を反射するメガネの奥は見て取れないが、確かな殺気がそこに宿っていた。
「ちょっ、ちょっとチヨコ! あなた何やってるのよ!?」
「あっ……新藤君? ご、ごめんなさい!」
たわわに実った果実の世界から解放されたメオンの声で、チヨコはやっと相手の事に気が付いたらしい。
ヒイロに向けた手を慌てて引っ込めると、何度も頭を下げた。
「ごめんなさい。私、てっきりまた化け物の仲間かと……。まさか他に人がいるとは思わなくって……」
「大丈夫よ、チヨコ。コイツは変態だけど、今は大丈夫だから」
シュンとうなだれるチヨコの頭を撫でつけながら、メオンが優しい言葉をかける。
今まで真っ赤な顔と情けない姿ばかりをさんざん見てきたヒイロからすれば、それは意外な光景だった。
まるで姉か母親か、相手を落ち着かせるためだとしても、自分もまだ混乱しているくせに良くやると思う。
こんな優しい顔もできたのか。
変態あつかいはもう無視しておくが。
「大丈夫だから、チヨコ、とりあえず起こしてもらえるかしら?」
馬乗り状態のままだったチヨコが慌てて立ち上がるとその手を引かれてメオンが立ち上がる。
倒れている間に少しは良くなったのか、情けなく足を震わせる事はなかった。
「そ、そうだ。ここは危ないです。とにかく教室に入りましょう」
立ち上がるなり、状況を思い出したのか、チヨコがメオンの手を引いた。
「わ、わかったから! 引っ張らないでってば!」
まだ回復しきっていないらしく、歩みの怪しいメオンを見守るように、ヒイロも後に続く。
保護者みたいだな、と今更おもった。
「ってきゃあ!?」
「マジすか……」
教室に入ってまず、二人の口からこぼれたのはそんな言葉だった。
メオンに至っては悲鳴だったが、ヒイロが冷静に口を塞いだ。
「これ、委員長がやったのか……?」
教室の隅には、青い体液まみれになった巨大な芋虫が転がっていた。
切り傷のような跡が体中に残っている。体液はそこから床へとこぼれ出ていた。
よく見れば、委員長の制服にも同じ色が点々としている。
手にしているガラス片が切り傷をつけた武器代わりなのだろう、先端が青く染まっていた。
「二人とも静かに、そして冷静に聞いてください」
メオンは自分で自分の口を押えながら、コクコクと首を縦に振る。
なんとなく事態を把握しつつあるヒイロも、芋虫の死体を眺めながらチヨコの言葉に耳を傾けた。
2016/09/25 メガネっ娘を登場させたくて委員長の登場シーンまで更新しました。次回の更新はちょっとした説明回になると思います。
2016/10/11 次話、更新しました。説明マシマシ。
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