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00:オープニング

 真宵ヶ丘高等学校。

 生徒の数は多いが、それ以外には主だった特徴もないことが特徴のような、どこにでもある普通の進学校。


 その校舎の屋上に少女が居た。

 美しく、可憐で、優雅な少女だ。所属するクラスだけでなく、学年、ひいては学園全体を見ても、少女に並ぶ美貌の持ち主はいないと言われているほどの美貌を持つ少女。


 学校のアイドル。真宵ヶ丘の秘宝。

 そんな作り物めいた呼び名を持つその少女を、巨大な影が覆っていた。


 逃げ道を塞ぐように広げられているのは甲虫のような黒光りする殻に覆われた四対の脚。

 少女を捉えて鮮血のように真っ赤に光るのは八つの瞳。


 影の正体は巨大な蜘蛛の化け物だった。


 上下左右へと不気味に開かれる口の内側に並ぶのは無数の針のような牙の群れ。それを眼前に、少女は屋上のフェンスに追い込まれたまま動くこともできず、ただ呆然とするだけだった。

 突然訪れた理解できない現実に脳は思考を停止して、生まれて初めて感じる際限のない恐怖の波に体は抵抗をやめている。

 股の間から漏れ出た水分が小刻みに震える足を伝っていく感触すら少女には何も感じられなかった。


 牙が、美しい少女をグロテスクな肉片に変える。その直前、大きく開いていた蜘蛛の口が、真上から叩きつけられるように強引に閉じられた。


 バキン、とまるで鉄板を粉砕するが如き音を響かせながら空から降ってきのは、一本の足だった。

 その足は少女にとって見知ったスニーカーを履いていた。スニーカーの上には少女と同じ真宵ヶ丘の制服が伸びている。制服を隠すような大きめのパーカーが翻る。


 それは、一人の少年だった。


 少年は巨大な蜘蛛の頭の殻を粉砕した蹴りの反動でくるりと宙を舞い、その体を反転させると少女を庇うように化け物の眼前に着地した。


 前髪をかき上げ、大げさにため息を吐いて見せる。


「まったく、とんだ災難だぜ」



 ――これは、異界と化した世界を生き抜く、少年少女の物語だ。

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