表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空へ  作者: 在庫
2/3

中編

 私の親戚の女性たちは揃いも揃っておしゃべりだ。よくもまあ飽きないものだと思う。

 大抵は噂話や人の陰口。彼女たちの夫や姑といった身内から、隣人や仕事先のお得意さんまで。彼女たちのターゲットは止まるところを知らないらしい。

 彼女たちの1番の話のネタになった人物は、私の両親だろう。


 「シゲさん、また浮気したんですってねぇ」

 「本当に毎回毎回、懲りない男ね」

 「ミヨさん、浮気されても、最終的にはシゲさんのこと許しちゃうから」

 「それが男を調子づかせるっていうのに、ミヨさんって馬鹿よね」

 「私なんて1回でも浮気されたら耐えられないわ、即離婚よっ!」

 「そうよね!ミヨさんの神経疑うわぁ〜」 


 そんな井戸端会議を、こんな時に繰り広げるあなたたちの神経のほうが疑わしい。

 祖母の三回忌、親戚が祖母の家―今では父の長兄夫妻が継いだ家―に集まっていた。お坊さんもお寺へと帰り、法事がひと段落ついた時に始まった井戸端会議。偶々、裏で話し合っていたことを通りすがりに、耳にしてしまったのだ。

 井戸端会議を聞いた私の感想は、否定できないな、だった。




 中学に上がったころから、日曜日すら父は家に寄りつかなくなった。最初のころは、出張だとか残業が原因だと、母は説明していたが、1年もたてばそれすらも消えうせた。

 このころになれば、私も物事を察することが出来る年ごろになっていて、祖母の家に預けられることが多かったのも、父が原因なんだろうと結論付けていた。私はなんともさめた子供へと成長した。


 


 家に寄りつかない父、多分浮気を繰り返しているだろう父。「嫌だ」と思わなかったわけじゃない。複雑な年ごろだった私が、父の裏切りをたやすく受け流すことなんて不可能だろう。

 それでも、私はなにもわからないフリをして、毎日をやり過ごしていた。すべては母の為だ。


 時々、私は深夜に目を覚ますことがあった。

 深夜目が覚めて、自室の扉を開ければ、いつもリビングの方の明かりが控え目に灯っているのだ。リビングへと歩を進めれば、そこには、ソファーに小さく座っている母の姿があった。


 「今日子、起きてたの?」

 「なんかのど渇いて、目、覚めたの」

 「そう、早く寝なさいね」

 「……母さんは、寝ないの?」


 小さく電気だけをつけて、テレビも雑誌も見ずに、ただただ、ソファーに座っている母。


 「……うん、もう少しだけ、起きてるわ」

 

 まだ春先で夜は冷えるのか、肩にかけていたショールを掛け直しながら、「明日も早いんだから、寝なさいね」と私に微笑みかけた。

 私は冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、2階の部屋へと戻る。リビングのドアを閉める際に、もう1度母の顔を眺めた。

 母はじっと、部屋の壁時計とにらめっこしながら、ソファーの上で小さく縮こまっていた。


 「なんで寝ないの?」


 とは聞けなかった。もしかしたら、父が帰ってくるかもしれないと思い、母はああやってじっと待っているのだろう。母の健気過ぎる行動が、心臓に痛かった。なぜ、あんなにも母に答えてくれない父に、そうまでして尽くそうとするのか、私には理解しがたい。




 たまに帰ってきたときの父は、相変わらずだった。父が帰ったときだけ、母は笑顔だった。


 「今日子、ゲームやるかー?」

 「あー、格ゲーは嫌」

 「えっ!?なして?」

 「私、絶対に父さんに勝てないじゃん。格ゲーはやんない」

 「……今日子ちゃん、つめた〜い」

 「いい年こいたオヤジがいじけないで。シューティングは?」

 「おぉっ!そしたら新作やるかっ!」


 私たちは外で駆け回るたりすることは無くなったが、いつも2人でゲームなどをして遊ぶことは、小さい頃と変わらない日常。ハイテンションで遊びまわっていた子供のころより、格段にローテンションな高校生の私に、父は不貞腐れることも度々あった。

 子供のような父は、いくつになろうとも、全力で私を可愛がってくれていたのだと思う。

 そんな私たちを、母は昔と同様にほほ笑みながら見守るのだった。


 

 

 母はどんなに小さな体をさらに小さくして、毎日のように深夜過ぎまで帰ってこない父を待っていても、父の携帯番号のディスプレイに、いつも見覚えのない電話番号が表示されていても、私は何も追及することはなかった。


 自由に生きている父さんはいいだろうけど。

 ただ、待つしかできない母さんは、幸せなのだろうか?という疑問を心に秘めて。



3か月以上放置して、申し訳ありませんでした!

空へだけではなく、ほかの小説でも全く更新していなかったというのに、覗いてくださっていた方々には、本当に感謝の言葉しか思いつきません。


これからもマイペースな更新になってしまいますが、定期的には更新していきたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ