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「偽りの花嫁」 8
「…先程、ホテルへ送り届けました」
榊は車の運転席から、夜空を見ると答えた。
「そうですか…榊さん」
「は…はい?」
「今日はどうもすみませんでした…私事に巻き込んでしまったようで、報告して頂ければ…」
「静時君、一つお聞きしてもよろしいですか?」
「はい」
「どうしてプロポーズを断ったんですか?」
「…先に、自分が質問しても良いですか?榊さん」
「え?はい、どうぞ…」
「どうして居場所を教える気になったんですか?榊さんらしくもない…情に流される人ではないでしょう?」
「意外に、流されるたちだったみたいですよ…綾子さんの瞳があまりにも必死だったものですから…」
「なるほど…では、自分も本音で行きますね…」
鳴海は仕事帰りの途中…止めた車の中で電話をしながら、窓を開けると答えた。
「…ぶっちゃけ、ここに来てから今日、綾子さんに会うまで、彼女の事をすっかり忘れていたんですよね…」
「…冷たいですね…」
「ええ、自分でもそう思います…そんな男が綾子さんと結婚しても、幸せに出来るとは思えないでしょう?榊さん…」
「ズルイですね、静時君は…」




