答え。
「全て受ける」
「はい」
プラテニウスの返答は、イデアの想像を超えなかった。
まあ、仕方ない。ここで何かを思い付けるのなら、本当にプラテニウスの名は人類史に残る。
「ただ、おれの方からも話がある」
プラテニウスも、1日脳を使っていたのだ。
おぼろげにだが。考えはまとまった。
「始まった」
「ああ?」
またか。そう己業は思ったが、もう注意する気もない。
己業の首と腕の調子を見るために組み手をしていた2人。その最中、メサヴリオが何かを察知した。しかし、どうでもいい事よ。
「おれらの出る幕じゃあねえよ。2人で話し合ってんだろ?」
「気にならんか」
「ならん」
何となく程度に、メサヴリオから説明を受けている己業。世界の命運がかかっているとか何とか。
心から、どうでもいい。
「おれはな。学校の勉強にすら追い付いていけんのだ。雪尽のおかげでギリギリ卒業出来るかなー?と思っている程度なんだ」
大真面目に、堂々と、己のあるがままの姿を述べる己業。
「イデアさんとおじさん、つまりトップ会談じゃねえか。分かるかそんなん!」
胸を張る男。こうも明朗に言われては。
メサヴリオは元々、この男の行為行動に口を挟まない。その観察に重きを置いているためだ。しかし。
「有り体に言って、お前や、お前の家族にも多いに関わりの有る話し合いが、気にならない。か」
「お」
皮肉だ。己業は、にやりとした。
当然ながら、人間の己業が喋る皮肉と、ロボットであるメサヴリオが喋る皮肉では、意味が違う。
こいつ、どんどん人間くさくなっている。
「お前が、何故かおれを連れてきた理由、なのだろうな、その話し合いって」
「おお」
「それでも、分からん」
「そうか」
失望、まではしていない。アトランティス星でも、己業は勝利後の会談に加わっていなかった。それはメサヴリオも知っている。ヴィジョン内で強い、が、それだけの人間だ。
それだけの、その程度の人間に、惹かれて、こんな辺境の星まで来た馬鹿なロボットが、自分だから。分かる。
「お前。取り残されたら、怖いか」
唐突な、メサヴリオからの質問。
「怖い」
やはり、単刀直入に答える己業。
怖いに決まっている。おれの家族、彼女、皆が居なくなってしまったら。世界中を探し回って、宇宙中を探して、それでも見つからなかったら。
皆を探すだけの人生になってしまう。
それぐらい、己業は、人に依存して生きている。
「私もだ」
意外なメサヴリオの答え。
己業も、少し驚いた。
「え?お前。寂しいとか、思うの??」
「さて・・・」
メサヴリオは、この無礼な人間をもう一度死の寸前にまで追い込んでやろうかと思ったが。堪えてやった。そして、笑顔でこう言う。
「当たり前だろう、親友」
己業は、こいつ、絶対適当に言っているな、と思った。
その通りだった。
メサヴリオは、人間らしい感傷を持ちあわせていないわけではないのだが。この場合、言葉のあやレベルでしかない。
メサヴリオの本質的恐怖。それは、アヴリオに置き去りにされる事。
アヴリオの後継機として世に生を受けたメサヴリオ。故にこそ、あのロボットがイデアにでも消されたら。もう、どうしていいのか、分からなくなる。
「今、話し合われているのはな。我々の行く末に、深く深く関わっている事なのだ。私のスペックでも、解決出来ない次元の話だ」
「ふうん」
己業は、今、地べたに座ってメサヴリオの話を聞いている。一時休憩しているつもりだった。
だが、少々、動く気になった。
このメサヴリオ。アトランティス星の管理者、アヴリオに成り代わるレベルの化け物。己業などとは違い、ありとあらゆる能力に於いて、怪物のはず。その存在を以ってして、解決出来ないだと。
「じゃあ、行くか」
「おお」
メサヴリオも、今話し合いに加わって事態が好転するとまで思っていない。それでも、何がしかの答えを見出さずにはいられなかった。
何もしなければ、何も前に進まない。
が。
「おお!」
「・・・・」
バッシャア!
「おれの勝ちだな!!」
「何だと?」
オ オ
レースである。
リアディウム用センサーを用いた、ヨットレースであった。グレートアトランティス、体感遊戯地域、港区域。「シーズン・イン・ザ・ヴァイキング」の端っこと言えば良いか。そこには、ヨット遊びのエリアがある。以前、己業らが訪れた時には、遊ばなかったものだ。この島の全施設を体験するには、1ヶ月の滞在期間でも、足りるかどうか。
そして、己業は、メサヴリオを連れて街を歩き回ったあげく、ここにたどり着いた。
初心者でも簡単に遊べるらしいので、説明を聞いて、ライフジャケットを付けて、いざ出航!
もちろん。それに付き合わされているメサヴリオは、もやもやした気持ちだった。
そのもやもやを晴らすように、ヨットを進める。ヨットは、リアディウムと同じく、感覚的に進む。右、左、と意識しさえすれば、風向き、波の角度まで自動的に計算がなされ、本当に誰でも乗れるようになっている。海洋の知識など一切無いメサヴリオにも、問題無く遊べた。
それは、良い。が。
「良し!!」
「ふん」
己業勝利。1周1キロメートルの距離を走るレース。勝者は、本気で遊んだ己業。敗者は、ためらったメサヴリオ。
「もう一度だ」
データは仕入れた。今度やれば、理想的なレース展開をこなせるはずだ。もう、絶対に負けない。
「ふふん。話し合いは、どうなったよ」
「む」
レースの真っ最中、メサヴリオのヨットが気を抜いた走りをしていたのは、己業にも確認出来ている。進展が有ったのだ。
「行こうぜ。終わったなら、聞きに行っても、邪魔じゃなかろうぜ」
「ああ」
二人は連れ立って、中央部管理センターに向かった。
「おれとお前で、約束をしたい」
「約束?」
約定、条約ではなく?イデアは、プラテニウスの言葉をいぶかしく思った。
「おお。お前の行動によってな。思う所が有った。それは、一寸先は闇と言う事よ」
「そうですか」
そんな程度の事を、今更?またも、イデアには理解しにくい話だ。
アトランティス星から逃げ落ち、ここに居を構え反攻の瞬間を待ち望んでいたはずの人間にしては、随分とお粗末な感想だ。イデアには、そうとしか思えなかった。
「星は、変わる。組織も、変わる」
ああ・・。
イデアは、やっと理解出来た。プラテニウスが、何を言っているのか。
アトランティス星の管理者は、アヴリオからイデアに。グレートアトランティスの管理センターも、プラテニウスの一存では、もう動かない。
変わらないものなど、有りはしない。
だから。
「この先、何がどうなるのか。おれの限界を超え過ぎていてな。何も分からん。精一杯、努力してみるつもりだがな」
「はい」
大丈夫。イデアにだって、分かりはしない。ただ。
「おれは、お前と」
「はい」
一晩考えて、これか。
イデアは、はっきりと、微笑んだ。
「何も心配無かったろ?」
「そうか?」
己業とメサヴリオは、お喋りしながら帰っていた。ただいま、空中だ。来た時と同じく、メサヴリオに連れられている己業。
結局。何も進展は無かった。強いて言えば、イデアとメサヴリオにちゃんとした繋がりが出来た事が、唯一の収穫か。
「考え過ぎなんだよ。イデアさんとおじさんに任せておけば、絶対大丈夫だって」
「お前は、何も考えて無さ過ぎる」
二人は、頭をくっつけ合い、各々の主張を押し付け合う。
「全く。グレートアトランティスまで、何をしに行ったんだか」
「お前でなければ、誰であっても、私の判断に賛同し、感謝したはずだがな」
二人は、ケンカを始めた。
空の上、密着した状態で。
「だって、幼馴染みなんだろ、あの二人」
「だからと言って、政治には、何も関係は無いのだぞ」
二人の話は、噛み合うようで、噛み合っていなかったが。
お互い、相手を離しはしなかった。
だって。
「そう言う次第だ」
「まあ、良いが。おれの知らぬ所で、世界の命運があっさり決まる。お前も、大した男になったな」
「お前の、義弟だからな」
電話口でも、プラテニウスがふんぞり返っているのが目に見える鬼業。
「今度ばかりは、おれにも何の助けにもなれぬ。大丈夫か」
「ああ」
だって。
「新しく出来た、イデアと言う友達が、頼りになる奴でな。そいつに、何でも相談するのさ」
ルールが変わろうと。世界が変わろうと。
おれとお前が、おれとお前を大事に思っていたなら。
問題なんて、有るわけないだろ。
イデアの模索する世界。プラテニウスの構築する世界。
そこには、いつだって、二人が居る。
「明日は、ヴィジョンだ」
「お前・・・。ヨットレース、根に持ってるだろ」
「ふん」
これからの二人もまた。
これから始まる新たな世界で、新たな二人を始める。今日、初めてヨットを体験したように。
初めての世界では、万能たるメサヴリオでさえ、遅れを取る事も有ろうが。
「まあ。お前となら、何回でも良いけど」
「最初から、そう言えば良いのだ」
メサヴリオは、ちょっと笑った。
己業も、つられて笑う。
きっと。笑顔が待っている。
超幻影リアディウム!
完。




