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超幻影リアディウム!  作者: にわとり・イエーガー
アトランティス編。
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新しい朝。

 本来。イデアは、寒さ対策などせずとも良い。


 だが、あえて少しだけ肌寒くしている気候。薄着の者が居れば、目立つ。ロボットであろうと、溶け込むべし。そう、イデアは思っている。



 だが。


 他者へ合わせたのだとしても。


「新しい服か?似合っているな」


「10年前の物です」


 このやりとりも、3年ぶりだ。久しぶりにタンスから引っ張り出した甲斐があった。


 所々、ぼろくなっているのが、昼の光の中なら分かるだろう。


 しかし。この夜明かりでは、見えまい。


 黒の無骨さがイデアには似合い過ぎていて、子供などは恐れかねない見た目だ。背中のハートマークさえ見て取れば、そのような杞憂からは解放されるが。


「答えは、出ましたか」


「出ていれば、こんな所でたそがれてはおらんよ」



 イデアは、自販機の前で立ち止まる。このメニューも、一度はイデアが目を通している。


 自分で飲んだ事は、無い。当然だが。



 背中のイデアに話しかける。


「このココア。甘みが、少し気になっていた。ずっとな。だから、自分では余り注文しなかったんだが。こんな時には、助かるものだな」


 そう、か。


「姉上の作ってくれたココアより美味いものは、この世に存在せんがな」


 ・・おお。



 黙りこくったイデアを、しかし確かに背に感じる。


 きっと、相変わらずか、とか思ってる。




 相変わらずか。


 背丈は大きくなったが。


 あの頃と、中身は変わっていない。


 それはそうだ。人間の中身は、ずっと同じだ。変化は、それはあるだろうが。それは、つまり、元々あったものなのだ。人間は、遺伝子限界を超えられはしない。


 そこら辺は、ロボットと同じだな。ロボットもまた、設計を超えたりはしない。超えたなら、それは設計が間違っていたのだ。



 自販機のスイッチは、さて、押しやすいか。音声認識は、しっかりと機能するか。視線認証は上手くやっているか。


 今は考える必要のない、たわいも無い事を。イデアの頭脳の遊びが、間を持たせる。



「イデア」


「はい」



「ありがとう」


「いいえ。楽しかった」



「困った事があれば、言ってくれ。今度は、おれが助ける」


「ふふ」



 2人は、顔を合わせもせず、別れた。




 翌朝。


オオ!!


 ムミョウが走る!!!


コ オ!!!!


 100光速を叩き出し、全力でメサヴリオを仕留めにかかる!


ぴた


 が、メサヴリオの素手にて、容易く止められる。100光速のそのままの勢いの拳が、一歩も動かずして受け止められた。


トン


 いつ、触れられた。それさえ分からぬメサヴリオの右人差し指。


 その一撃のみで、千ダメージ。決着。


「もう一本!」


「ああ」


 メサヴリオは、どうにもならないほど、怪物だった。


 だから、己業は、笑みが止まらなかった。



 どれだけの本気を出そうと、全力を振り絞ろうと、勝てぬ!!!


 何をやっても、死なない!!



 こいつは、おれのモノだ!!!!



オ!!!!!!!



 また速くなった。


 メサヴリオの前で、己業は戦う度に強くなっていく。


 面白い。



 これは、己業の認識が、メサヴリオにドンドン追い付いているから。



 もっと強くなれ。


 ここまで、来い。



ゴオ


 全速力で駆け出そうとしたムミョウの頭部を左手で押し込み、そのまま全身に判定が発生する程度の衝撃を与えた。


 決着。



「もう一本!」


「おお」


 2人の試合は、この後2時間、200回の戦闘を経て終了した。


 朝のおやつだ。



「遊んでるみたいで、多少の罪悪感あるな」


「そうなのか?」


「皆は、学校で勉強だぜ」


「その分、お前は勉学で立ち止まっている。むしろ、焦燥しょうそう感を持つべきだろう」


「・・」


 学問を一切志していない己業は、目を逸らした。



「このドーナツ。何の味だろう。あんまり甘くないな。不思議な香りで美味いけど」


 軽妙に会話の流れを変える己業。


「カロリー控えめなのだろう。お前が運動もせずヴィジョンのみに動いている事を、料理人が見ている。それで、専用のメニューを作ってくれた」


「なるほど」


 メサヴリオには、ちゃんと確認のメッセージが来ていた。それを己業に確認せず了としたのは、もちろん独断だが。





「ぬう・・。イデアの指示だな」


 プラテニウスも、引き継ぎ式典の計画チェック合間に、おやつ。


 だが、そこで出てきたのは、コーヒーまんじゅう。


 カフェインたっぷり、昼食までお目目ぱっちり、腹持ちも良い。


 だが。甘くない。


 昨夜のココアの件を、お手伝いロボットに伝えたな・・・。



 ・・・・だから。お前に居て欲しいのだ。




 おやつの後は、ゆっくり体を動かし、美味しいお昼に備える。


「ぬっ・・・」


「もう少し、上げるぞ」


「ちょい待ち!」


 待たなかった。


 メサヴリオの引き上げた腕力により、己業の右腕は折れかけた。


 腕相撲の最中、己業の全開のパワーでも微動だにしないメサヴリオが、更に力を加えたのだ。


 己業自らが、体ごと転ばなければ、腕は曲がってはいけない方向に曲がっていただろう。


「お前なあ・・・・」


 体を起こし、服を払いながら立つ。手加減しろよ、と言うべきか考えながら。


「腕ぐらい、治してやると言っている」


「無茶言うな」


 己業は、メサヴリオの言動を全く信じていなかった。


 いや、ひょっとして出来る?と思わなくもないが。そんなの、常識を超え過ぎている。



 人体の負傷を、治す。医療技術ではない。


 メサヴリオは、食物の構成物質を好き勝手にいじれる。その応用で、人間の肉体も作り変えるつもりなのだろう。



 端的に言って、怖い。「治す」が、通常の人間の肉体にする事を意味するのなら、以無己業の肉体は、失われる。


 もちろん、メサヴリオの能力なら、そんな半端な真似はしないだろうが。


 身体操作は、以無の十八番。その専門分野に於いては、己業ですら自負がある。だから、怖い。


 知らぬ領域なら、例えばヴィジョンなら、野牛や戦草寺の言う事を鵜呑みに出来たが。


 己の領域では、簡単に人の言う事を聞くわけにも。



「まあ聞け」


 言いつつ放った20音速にも達した蹴りを、己業は咄嗟とっさに防御した。


 十字に重ねた両腕で受けたが、直撃した右腕が折れた。下に重ねた左腕は、ひびが入った。


 スイッチが入ってしまい、目をむき殺気を撒き散らしメサヴリオに襲い掛かろうとした己業だが、カウンターを食らい、意識を飛ばされた。


「あ」


 メサヴリオは、少し予定外の事態に声を出してしまった。 


 己業の接近速度が思ったより速かったので、力が入り過ぎた。首を折ってしまった。とっとと治さないと、死ぬ。もしくは障害が残る。


 ・・好都合。



 「己業を構成している物」を操る。折った骨を、肉や神経を傷付けぬよう動かす。



「・・が・・」


「大丈夫だ。私が付いている」


 ・・・・だから、不安だ。と己業の口がきければ、言っただろう。



 骨を結合させる。砕けたカルシウムも、完全に元に戻す。メサヴリオの目には、最小構成単位から見えている。


 そして、それを、己業の根本から操る。設計図は、己業の脳から読み取る。更に最前の記憶は、己業の肉体そのもの蓄積されている。脳に代表される肉体記憶は、細胞1つ1つが覚えている。ただ、人間の意識で自由にならないだけで。


 それら身体の情報を、メサヴリオは見る事が出来る。


 己業の首を、腕を、先ほどまでの状態に戻す。


 今回に限るなら、メサヴリオは怪我をする前の己業を完全に記憶出来ているので、情報を読み取る必要すらないが。


 メサヴリオは、メスやロボットアームを使って手術をしているのではない。


 重力を操っている。それで以って、直接、細胞を引き寄せ、押しのけ、治していく。このやり方の最大のメリットは、重圧を自在に操れるメサヴリオなら心肺機能補助も自由だと言う事だ。


 現在、のどの壊れている己業の呼吸は、メサヴリオが擬似的に作った呼吸経路を用いている。骨とぶつからぬよう、のど元の肉を押し込んでいるのだ。


 そこまでの下準備をしてから、ゆっくり骨を復元していく。


 これまた重力の出番だ。小さい破片から大きな欠片かけらまで、身体の記憶と重力を連動させる。


 寸前の肉体、自身を取り戻そうとする細胞の働きにより、半自動で体は治っていく。



「治ったぞ」


「・・・・・・・・」


「何をふてくされている」


 己業は、寝転がったままの体勢で、メサヴリオに答えようともしない。



 麻酔無しで、骨の接着をやられたのだから、この程度の悪態は、許されるだろうな。


 ちなみに施術中、涙をボロボロこぼしている己業を見ても、メサヴリオは身体の反応程度にしか思っていなかった。まぶしい光を見ると勝手に目を閉じようとするアレだ。


 本当は、痛みと気持ち悪さによって泣いていたのだが。


 打撲ぐらいなら慣れている己業でも、意識のある状態で骨を好き勝手に動かされるのはこたえた。違和感で、すぐさま目覚めていた。


 それでも、抵抗も出来なかった。やはり重圧によって、身体の自由が奪われていたのだ。麻酔が効いていないから、何かで患者の体を押さえ付けねばならなかった。


 己業の筋力を知っているメサヴリオは、己業を死なない程度に完全に封じ込められたのだ。



 ちなみに。カニ料理の際の取り除きも、この力によるものだ。人体に有害そうな物質を排出経路を割り開き放出する。


 更には飛行も、重力操作のたまもの。行きたい方向へ向けて引力を発生させればそれで飛べる。上昇も下降も自由自在だ。



 1分後。


「・・まあ、助かった。ありがとな」


「気にするな。私とお前の仲じゃないか。また治してやるぞ」


「・・おお」


 「また」があるのか。



 望む所よ。




 人知れず命の危機を乗り越えた己業だが、当然ながらまるで強くなった気はしなかった。だが、メサヴリオの強さを再確認出来たのは、悪くない。


 やっぱり、こいつ。親父より強い。


 今の己業は、鬼業でも容易くは即死させられない。ヴィジョン外であっても、視力は多少強化されたままだ。目だけなら、追い付ける。


 それが、反応も出来なかったとは。



 何があっても、こいつも手放せない。何の因果か舞い込んできた奴だが、なあなあの内にモノにしてしまおう。


「お前、いつアトランティス星に帰るんだ?」


「さあ?私自身が決める事ではない」


「会いたくなったら、また会いに行って良いか?」


「構わんぞ。私とお前は親友じゃないか」


 メサヴリオに取って、最も大事な研究対象である己業は特別扱いして良い人間だった。





 午後2時。24時間には、ちと早いが。



 プラテニウス、管理センターに到着。

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