良い夜。
「勝ち逃げか?」
「気に入らない」
2人の女。上背のあるハンサムと、ちびっ子。
世界ランク3位、ヘル・ヘラ。世界ランク4位、アレクサンダー・アガメムノン。
2人の居るのは、リアディウム世界大会本会場にもなる、ウルトラコロシアム。そこで、小規模な会合が開かれていた。
集まったのは、都合の付いたトッププレイヤー10数名。
中には、雲技知明、デイズ・グロリアスの姿も。
「そう言われてもね。こちらも仕事なんだ」
アレクサンダーよりは、少し大きいテレス。それなりの修羅場だが、余裕がある。
「仕事?趣味だろ、その顔は」
実に楽しそうなテレスの顔を見ての、ヘラの発言。周囲の人間も、似たり寄ったりの意見だ。
テレスもアトムも、充実していそうだ。
「しかし。夢みたいだね。宇宙からのお客様だったなんて」
楽しそうなルイエ・シルイエ。
そう。異星人である事は、このメンバーには公開されていた。
だからと言って、極端な驚きもない。
ヴィジョン。ドレス。
どれも、地球の他の企業から模倣品が出てこない。なぜか。
不可能だからだ。
プロテクションとセンサー。この2つはおろか、リアディウム用ゴーグルさえ地球では作れない。それを実現するオーバーアトランティスと言う企業、怪しげだ、とは、誰もが思っていたのだ。口には出さずとも。
それに、歴史の浅いはずのリアディウムがオリンピックにすら組み込まれている。各国の満場一致により。
これもまた不可解。日本や米国などの、環境に恵まれた国々なら分かる。しかし、発展途上国でも平然と推進されている。
有り得んのだ。
だが、今理解出来た。
こんな背景があったとは。
「口封じは、いくらかな?」
アシッド・アリオラによる軽口。まさかこれだけの面子を集めて、脅迫もないだろう。だからとて、軽やかに喋り回って良いのか?そう言う確認だ。
「タダです」
デモネア・アトム。いつもの調子と変わりない。
つまり、口外オッケー。
「構わないのか?」
エンドア・ワアルド。デイズ・グロリアスは、全員が参加している。誰とも目を合わさないようにしている双頭韻 相清も。
宇宙から来た人間達が、地球上で好き勝手に振る舞っていた。
地球人には、耐え難い屈辱だろう。
実際、エンドアもこれをタダで済ますのはためにならぬと考えていた。
なぜなら、沽券に関わる。
宇宙人様には頭が上がりません、などと言う国家元首は要らん。
何者だろうが、譲るな。
譲って良いのであれば、それは、国土ではない。
相手が、超科学を実現しているアトランティス星人だろうと。
ただ、これは、素人ゆえの無責任な発想。それぐらい、エンドアだって分かっている。
それでも、心根は変わらない。
簡単な話、自分の家の中で、赤の他人がパーティーしてたら嫌だ。そう言う事だ。例え、同国人だって、即通報モノだろう。
ただ、宇宙人を相手には、警察も軍隊も、意味をなさない。そんなものと対峙している首脳陣に向かって、怯えるなすくむな、とは厳し過ぎる。
だから、板挟みなのだ。
エンドアのような発想で動けば、この地球は蹂躙されるやも知れぬ。
だからとて、やられっぱなしでは、一体、おれ達は何者なのだ?
奴隷ではないぞ!
それら全ての事情を、開放して良いのか?
「どの道、人の口に戸は立てられない。いつかは、知れ渡る。今だって、皆、薄々とは勘付いていたはず」
「確かに」
世界ランカーとしては、10位以内に入れるかどうかと言った所のルイエだって、計り知れないものは感じていた。
事が、いきなり大事過ぎる。更に、各国とも結び付きが多過ぎる。
何もかもが、国家プロジェクトすら超えた速度で動いていたのだ。
これで怪しいと思わない奴は居ない。
双頭韻だけは何も考えていなかったが、誰もそんな素振りを見せないので、皆に合わせてウンウン頷き、分かってたポーズに勤しむ。
自分に合わせて再度の説明をされても、困る。どーせ、居なくなるのなら、もう関係ないしな。
「でもまあ、混乱がなくて助かったよ。んじゃ、ヘラ、アレクサンダー、後はよろしく!」
テレスとアトムは、正式に世界ランキングから退く。今後、ゲスト参加ぐらいは出来るだろうが、そこまでだ。
2人は、アトランティス星で生きる。
「絶対に、帰って来いよ」
ヘラの熱意。敗戦を重ね続けているので、どれだけの説明を受けても、納得が行かないのだ。
事情は、人それぞれ当然ある。それはそうだ、が。
負けっぱなしは、悔しい。
知らぬは本人ばかり。ヘラは、純粋な人類としては間違いなくリアディウム最強。知明より、強い。
そして、テレス、アトムをも遥かに超えるイデア、アヴリオ。更に、新星ムミョウ。
楽しみは、まだまだある。
ヘラもアレクサンダーも、誰もがっかりさせない。
それは、世界ランク1位も2位も、保障出来る。
「じゃ、やろっか」
事態の全てを把握している知明は、途中から黙ってヴィジョンユニットの用意をしていた。
今日は、壮行会でもある。
こうして人知れず、世界最強レベルの戦いが始まった。
「お前は良いのか?」
「呼ばれて、ねえんだよ」
メサヴリオから、その模様を聞いた己業。
しかし、招待されていない場に出向くのは、ちょっと。しかも、長い付き合いのある人間ばかりっぽいし。
ここで己業が出しゃばるのは、技四王高校リアディウム部にいきなりエンドアが入部するようなものだろう。びびる。
己業とメサヴリオは、春の宴を楽しんでいた。
現在グレートアトランティスでは、新規スタートするヴィジョン会場、ドレスのお披露目などに合わせて、その他、普通の料理店、露店もお祭りムードだった。
「と言うか、盗聴なんてするなよ」
曲がりなりにも、人並みのモラルを持っていなくもない己業の注意。
「聞こえてきただけだ。わざとじゃない」
嘘。意識して聞かなくする事も可能。
「お土産、は無理か」
メサヴリオに連れて来られた己業は、財布を持ち合わせていない。買い物は出来ない相談だ。
「私は、ここの通貨を持っているぞ」
「え?」
イデアから、何か入用であれば、と渡されていたのだ。ざっと1千万円ほどの価値を。メサヴリオの固有番号にて利用可能ゆえ、他人への受け渡しは出来ない。
「・・まあ。良いオイルでも買っとけ」
今回、己業はたまたま来てしまったので、お土産も絶対必要ではない。
メサヴリオの金なら、メサヴリオのために使うべきだ。
メサヴリオは己業に言われた通り、家庭ロボット店にて、お手入れ用品を見て回った。もちろん、己業も付いてった。
この店は、本当にお手伝いロボットやペットロボット用のアイテムがメインのようだ。
メサヴリオ、つまりイデアクラスのロボット用品は無かった。
数回分のオイルで、価格にして10万円はかかるので、まあ。普通、置かないよね。
だが、何も無いのではない。
ロボット用シート、座布団、布団。何でもある。
「そう言えばお前、元々はメンテナンスベッドで寝てたんだろ?」
メサヴリオは、以無の家では普通にお布団で寝ている。寝心地は悪くないらしいが。
より良い物があるなら、そちらを買っても良いのでは。
「アレを買うなら、当然メンテナンスロボットも必要だ」
それに、一般家庭では、作業が出来ない。メンテナンスルームは、即ちクリーンルーム。普通の家の中でやる事ではない。
「ふーん」
ゆえに今回は、メサヴリオの趣味に合った座布団を探す。
午後6時。
己業は、そろそろ帰らねばならない。特に門限を言い渡されているわけではないが、晩ご飯に遅れる!
「なんだ。帰るのか」
「まさか、ずっと居る気だったのか?」
メサヴリオは、己業に面白い事が起きているとしか、言ってない。その面白い事が、春のお祭りではなさそうなのは、分かるが。
「連絡して、泊まろう」
「いやいや」
出る時、何も言わずに出てきたからな。始業は、おれがメサヴリオと一緒に消えた事に気付いているだろうが。
「何か、あんのか?」
「ある」
むう。
「おう。おれおれ。今日は、グレートアトランティスで泊まる。お母さんにもよろしくな。いや、おじさんとこじゃない。適当に、そこらのホテルにでも。おう。威業も、見ててやってくれ」
いやー、メサヴリオの散歩に付き合ったら、ついうっかり。
そんな事を言いながら、その辺の公衆電話から家に連絡。個人証明の出来ない己業だけでは使えないので、メサヴリオの登録番号でかけてもらい、始業にいきさつを伝える。
「明日は、学校も休む。そっちは、こっちから連絡入れるわ。先輩とか戦草寺からもし連絡があったら、そのまま伝えてくれ」
じゃ、おやすみー。
「んじゃ、イデアさんに言って、泊まるとこ用意してもらおうぜ」
先も言った通り、来客登録されていない己業は、泊まる手段が存在しない。アトランティス星に行く時に一時的に登録してもらったように、明日いっぱいは使えるカードが欲しい。
まあ、出歩かなきゃ良い話なんだが。
イデアは、己業とメサヴリオに、前回の出陣前に使っていた施設を提供。つまり、管理センター直下の実験施設付属宿舎だ。ここなら、外に出ずとも、何でも手に入る。
「明日、今日ここに来た時間より少し早く。プラテニウスとイデアの話を聞くぞ」
「今じゃ、ダメなのか?」
「まだまだ」
「ふーん」
部屋は複数使用許可が出たが、結局1つの部屋で寝る事に。幸い、ベッドは2つある。
1つのベッドで寝るのは己業の望む所ではあるが、この大きさでは、どちらかが落ちる。そしてそれは、己業だ。
だから、安心して眠れる。
眠れない。
昼寝をしてから、やはりずっと考えていた。
酒を飲みたくもなったが、濃いコーヒーを飲んで、気分を落ち着けた。
が。それがいけなかった。
深夜になっても、眠れない。
プラテニウスは、夜の散歩に出た。
グレートアトランティスには、夜の楽しみ方もある。
定番は、光差す岸辺だが、街道をただ歩くのも良い。絶対的な治安の良さで以って、人類史上初の、安全な夜を提供している。
これが、ロボットの力を用いた理想社会。
自販機でココアを購入。ベンチですする。
「夜歩きですか?不用心ですね」
「そうでもない。お前らが、居てくれたから」
4月の夜は、少し寒い。
ジャケットを羽織ったイデアが、静かに現れた。




