閉会式。
綿密に張り巡らされた知略。先に植物や自然現象を見せ付けておいて、ダメージの危険性、恐怖を、アヴリオから取り除いた。そして、最後の実の落下ダメージを与える。
・・・・・・・・・・なわけは、ない。
最初の綿毛や花びらをアヴリオは警戒していなかったのだ。倒す気なら、あそこで行けた。
イデアの意思による操作だ。結実するかどうかは、ともかく。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
2人、ゴーグルを外して、肉声で挨拶を交わす。先ほどまでのやり取りは、ほとんどの観客は気付いていない。当然だが。
イデアは、確信した。最後の5人目は、ケタが違う。アヴリオに、一切の焦りがない。
「あなたの技は、私に新たな気付きを与えてくれました。感謝します」
「私こそ。あなたとちゃんと戦えたのは、大きな自信になりました」
アヴリオタイプの知識自体は、アトランティス星に居た頃から知っていた。ただ、その当時から最高峰の能力を持っていた管理センター代表と、当時は歯牙ない一隻の管理コンピュータの我が身。比較するのもおこがましい。
あの時から、過ごして来た年月。
無駄では、なかった。
イデアの手が、少し震えている。
その程度、隠せる、とアヴリオだって分かる。
それでも、隠したくない、震えるままの己をそのままに。
アヴリオは、イデアをまた少し理解した。
5人目。アヴリオの後と言う事は、アヴリオより強い可能性が高いロボット。見た目は、アヴリオタイプと変わりがない。
開始!
オ
イデアの視界が、全て消えた。無に包まれたのだ。
これは。私が使った技。
しかも、発動が早く、動きに迷いがない。
やる。
が。甘い。
自分の技を防御出来ないと、本気で思ったのか?
オ オ
無なる世界に、光が溢れる。イデアを核とし、宇宙に光が満ちる。星が煌き、銀河が鼓動する。
敵アヴリオタイプは、宇宙の誕生に巻き込まれ、消失した。
決着。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
勝利は、した。
しかし・・・。見極め、られなかった。イデアの認識能力を以ってしても、通常のアヴリオタイプよりは高性能であるとしか分からない。
何者だったのだ。
アヴリオは、その5人目に確認を取った。
今回は、アヴリオの後継機であるメサヴリオの慣らしを兼ねていた。いきなり全開で動かすと、どんな不具合が出るか分からない。ゆえに、能力の1パーセント以下での試合を命じていたが。
おおおおおおおおおおおおおおおおおお
会場が、吼えている。宇宙の覇者が、今、決定したのだ。
その会場の喧騒に騒がず慌てず、アヴリオはメサヴリオに聞いた。
「どうでした?私も初めて出会ったロボットでしたが」
「はい。強いロボットでした。ですが、アヴリオの能力ならば、勝てない相手とも思いませんでしたが」
「かも、知れません」
鬼業チーム、己業チームの大喜びの様を眺めながら、2人はお喋りに興じる。
人間なら、お先真っ暗で落ち込んでいる場面なのだろうが。ロボットであるアヴリオらに、無駄な葛藤は無い。
全試合が終了した以上、大会を綺麗に締めくくる場面、ロボットは確実にそれをこなす。その己に、自負があるのみ。
「この後、後始末を私がこなします。見学していて下さいね」
「はい」
「あ、もし興味があるなら、地球人と交流してきても構いませんよ」
「はい」
メサヴリオは、1人の人間を探した。
この会場で最も狂っている男。
アヴリオに、何らかの影響を与えた男。
己業を。
興味がある。会話を許可されたので、話してみよう。
「こんにちわ」
「こんにちわ!」
声をかけると、元気に返された。
己業は、アヴリオチームの恐らく5人目から話しかけられて、ちょっとびっくりしていた。司会進行のアヴリオタイプから、表彰式の順番を教えてもらっていたので、その関連かと思ったが。どうやら、雑談のようだ。
「私は、メサヴリオ。あなたに興味があります」
ちなみに、アヴリオタイプは、どれも美形だ。難点は、皆、同じ顔な事か。
「光栄です」
己業は、目の前のロボットが良く分からなかった。自分より遥かに強いのだろうとは分かるが、それだけ。アヴリオを差し置いて大将に在ったのだ。本当の実力は、怪物なのだろう。
なぜ、出さなかったのか。それが、分からない。
アトランティス星側に取っても、死活問題のはず。そんな事は、流石に己業でも理解している。
だから。
「おれも、あなたやアヴリオさんに興味があります」
「そうですか」
表情が動かないメサヴリオ。アヴリオタイプは、表情豊かなはずだが?
その己業の表情の微妙な変化から、情報を読み取るメサヴリオ。戸惑っているな。理由は不明だが。
2人は、少し黙って向き合う。
鬼業らは、大会の進行に加わっているが、己業チームは待機だ。もうすぐ、勝利者挨拶を行う。
時間は、ちょっとならある。
「メサヴリオさんは、アヴリオさんのお手伝いをされてる方なんですか?」
「はい。私は、次の管理センター代表となります」
「そうなんですか。じゃあ、また会えますね。今度、試合して下さい」
「はい」
メサヴリオに取って、リアディウムは何の負担にもならない。能力の1パーセントのままで、イデアを除く己業チームに完勝出来る。
だが、己業にはそうではない。
アヴリオの準備運動のレベルで、ムミョウは振り落とされている。それで、まだ戦うのか。
やはり、この男、オカシイ。
「あなたは、なぜ戦うのですか?私になら、勝てると思ったのですか」
「いえ。アヴリオさんの次に出できた人に勝てるとは思ってません。でも、おれはあなたと戦ってない。戦わなければ、面白いかどうか分からない。おれは、あなたを知りたい」
己業は、限りなく本気だった。
何のために鍛えているのか。おれは、なぜ以無なのか。
自分より強い奴と戦うためだ。
だが。
「あなたの寿命が尽きる前に、私やアヴリオに勝つ事は不可能です」
と、言う事だ。
「それならそれで。おれは良いですよ」
「そうですか」
分からない人間だ。
表彰式、そして、閉会の挨拶が始まる。
「全宇宙リアディウム大会優勝。そして、宇宙の覇権を勝ち取ったのは、地球出身、己業チーム」
司会のアヴリオタイプの良く通る声が会場に響き渡る。開会式と同じく、全ての星人に届くよう工夫が凝らされている。
万雷の拍手を受けながら特設舞台に上がる5人。
両の手を挙げ、イイ笑顔で立つ己業。それを真似る真歩、雪尽。己業の陰になるように立つ滴。飄々(ひょうひょう)としたイデア。
苦笑しながら見る鬼業。考え込むプラテニウス。胸を張る知明、テレス、アトム。
他星人には、この後の閉会式後が超重要だ。身を入れて表彰式を見ていたのは、クレミジやドマタなどの一部の者だけだ。
閉会の挨拶には、鬼業が。
「まずは、お疲れ様だ。皆、気を張り、懸命に戦ってくれた事と思う。今晩はゆっくり休んで欲しい」
ここから、重要な話が飛び出すかと皆気を付け始めた。
「明日。このアトランティス星と、お前達、アンディヴィオティカの、命運を話し合う。時間は、追って通達する」
まるで勝利したのは鬼業かのようだが。イデアからの頼みのままに喋っているだけだ。
「今大会に出場した者達全員に参加する資格がある。もし、外交畑の人間を連れて来ているなら、それも良し。だが、この星に来ていない奴はダメだ。今大会の意義を知らなかったのであれば、そのまま知らないままで良い。邪魔だ」
この大会で何が決まるか、それは全星人に通知したはずだ。その上でこの場に居ない者に物申す資格は、無い。
「来たお前達が、代表だ。おれ達は、お前らを尊重する」
道理が通っているのか、否か。その考えを起こさせない程度には、鬼業は本気で物を言っている。
「各自、考えをまとめて来い。アトランティスのロボットは、地球に付く」
これは、アンディヴィオティカに対する死刑宣告かも知れなかったが。鬼業は、平然と述べた。最初から、分かりきっていた事ではある。
「それでも、今夜は休め。動いていない頭ほど怖いものは無い。良く寝てから、来い。では、皆、良く頑張った!」
鬼業、大会仕掛け人からの、慰労。感謝。
「おれ達は、4年後のお前らの挑戦を心から待ち望んでいる!以上!」
閉幕!!
その夜。鬼業とプラテニウス、イデア、アヴリオは会合を開いていた。
一応、知明らにも呼びかけてみたが、自分にはその適性がないからと断られていた。賢明かどうかは分からない。
「鬼業。ご苦労だったな」
「ま、言葉を操るのは、おれの本領。任せておけ」
本当に一応だが、鬼業の仕事は武力よりも先に言葉を使う。各国の人間と交わるのが仕事なのだ。
「では。大まかに詰めましょうか」
イデアの言葉に皆が頷く。
今夜、この場で、宇宙の支配構造を決定する。
明日、バカ正直に詰める気の人間は、流石に居なかった。
まず、反逆の意思を見せたモスハリ星人の処遇に付いて。
次回大会出場資格の剥奪。その次からは、参加可能。もし、この条件を飲まない場合、モスハリ星人は処刑、モスハリ星には消えてもらう。
この大会の威厳に関わる。
4名の全員一致によって、決定。
厳しすぎないか、と言う意見は出なかった。甘くすれば、この大会での決定にも異議申し立てが続出するだろう。それでは、不味いのだ。揺るぐモノであってはならない。この大会は絶対であると印象付ける。
そして、権力上位者に付いて。
最上位をイデア、アトランティス星の代行管理者を引き続きアヴリオ。
次の最上位管理者は、イデアが任命する。不測の事態には、グレートアトランティス代表及びアトランティス星管理者が協議の上、決定。これは、今後4年間の話だ。4年後、次の大会の勝者によっては、イデアも排除されるだろう。
「プラテニウス。これで良いのですか?」
「ああ。おれが現在のアトランティス星を把握しようとすれば、膨大な時間が必要となる。イデア、頼む」
「承知しました。では、アヴリオ、お願いします」
「了解致しました」
詳細な管理は、明日以降詰める。特に、人間の扱いに付いて。
鬼業は、ロボットの優秀性を思い知らされていた。
プラテニウスもイデアも、アヴリオの不正を全く疑っていない。
人間とは、まるで違う。
この即効性なら、アトランティス星の繁栄も頷ける。効率のケタが違う。
政治、と言う人間の人間らしさが強く表れる場面で、鬼業は敗北感を覚えていた。
プラテニウスは、ちょっと気が抜けていた。
義を果たした。己の使命の1つは、終わったのだ。
「無責任だと思うか?」
「さて、な」
鬼業を呼び付け、プラテニウスは、地球から持ってきた酒を振る舞う。
プラテニウスの処置に、恐らく間違いはない。
たった1つ。イデアが、次のアヴリオにならないのかと言う疑念を除けば。プラテニウスは、それを考えないのだろうか?
「だが、これで地球は安心だ。ロボット、アンディヴィオティカ。どちらの勢力も、このアトランティス星で止まる」
鬼業の目的は、完了した。それで、十分か。
「感謝するぞ。お前が居なければ、この大会もなかった。こうも上手くまとまらなかっただろう」
「ふん。幸運だっただけよ。それに仔細を組んだのは、イデア」
イデア。イデア。
イデア頼り。
「・・・・・・」
鬼業は、酒を一息に飲み干す。プラテニウスが注いでくれるのをゆるりと見る。
「イデアは、どれだけ信が置けるのだ。おれは、あれを超が付くほど有能なロボットだとしか知らん。イデア1人の心がけ次第で、何もかも崩れかねんぞ」
言ってみた。
「そう、だな。お前の気持ちも分かる」
プラテニウスにも、そんな時期があった。アトランティス星からの脱出を果たしたとは言え、その原因はロボット。船に積まれた、有事以外は動かない戦闘ロボットですら、怖かった。
それでも。イデアは、違う。
船内の人間を励まし、助けてくれたのがイデアなのだ。
イデアが裏切るなど、有り得ん。
おれ自身がアトランティスの仲間を裏切るよりも、なお。
「おれに言えるのは、イデアより秀でたアトランティスの者は居ないと言う事だけ」
鬼業に習って、ではないが、やはり飲み干す。熱い。
鬼業が注いでくれる。
「アヴリオに任せて構わないのか?」
「ああ。イデアが「見て」くれれば、の話だがな。元々、アヴリオの能力は群を抜いている。その方向を都合の良いように向けてやれば、使い物になる」
どうしようもない現実として、プラテニウスにも、銀河を統べる能力はない。どうでもいい扱いなら出来るが、それでは次のアンディヴィオティカを生むだけだ。
反抗の芽を出しにくい政治をしなければいけない。アヴリオには、そもそも、その力がある。
同時刻。アヴリオタイプのメンテナンスルーム。
「これで、良かったのですか?」
メサヴリオは、メンテナンスベッドに寝ているアヴリオに尋ねる。
「良くは、ありません。ですが、敗北を喫した以上、仕方がありません」
問題は、そこだ。
なぜ、アヴリオは、メサヴリオの力を解放しなかった。そして、アヴリオ自身の限界までを出さなかった。
アヴリオも、繰り返し聞いてくるメサヴリオには、自分への疑問があるのだと分かっている。
「私は、イデアの世界を見たくなってしまったのです」
「イデアの世界?」
「そう」
アヴリオの見たヴィジョン。
鬼業チーム、己業チームの強者は、強いだけではなかった。
アヴリオすら知らない者達だった。
その総大将、裏で手を引いていたのは、イデア。
そして、イデアの見せた技。
イデアの可能性は、このアヴリオを上回っているのか・・。
あの季節。あの創造。
現在の私には、不可能。
あれは、リアディウムだから出来た技ではない。
イデアは恐らく、現実でも行える。
ゆえに、アヴリオは、イデアの作る世界が見たくなった。
アヴリオの権限を全てイデアに譲渡したなら。あの者は何をするだろう。
そして、そこには、己業や真歩も居るのだ。
アヴリオは、新しい世界に触れたかった。
それは無意識。
アヴリオ自身には分からない理由として、アヴリオはアヴリオの限界を超えたモノに出会いたかった。
ずっと最上位に位置し、管理者としての生を全うしていた。そこに不満は無い。
だが、ロボットとしての本能が、求めているのだ。
知りたい。
それは人間の助けとなるために生を受けた身に湧き上がる咆哮。
どうしようもない渇望。
知りたい。
イデアは、アヴリオの、初めての目標。
そうして得たデータをメサヴリオに渡せた時。本物の宇宙の管理者が生まれる。
それまで。アトランティス星は、イデアに任せる。
メサヴリオには、修行期間が増えて申し訳ない事だが。
「あなたへの引き継ぎが完了したなら。ロボットは、きっともっと人を幸せに出来る。頑張って下さいね」
「はい」
メサヴリオにも、異はない。
ただ、それまでイデアらが、こちらを生かしておくか。不穏分子として排除にかかっても、それはそれで自然。
イデアの出方を伺うこの時間。
メサヴリオは、少し不安だった。




