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超幻影リアディウム!  作者: にわとり・イエーガー
アトランティス編。
77/89

遠不真歩。

 初めての技。


 今までは、戦闘ロボットと同じ格闘パターンを用いて、適当に打ち込んでいたが。先ほどのは、自分なりに効率の良いダメージ計算を求め放った、自分で考えた技。



 ムミョウを打ち抜いた、その感触に。アヴリオは、少し嬉しくなった。




「ありがとうございました!」


「ありがとうございました」


 全力の己業と、華麗なアヴリオ。


 アヴリオの方から、握手を求められた。


「楽しかったですよ。己業」


「おれもです!また、お願いします!」


「はい。次は」


「地球で」


 アヴリオと己業は、和やかな雰囲気から一転、笑顔のままにらみ合った。


「無論、次も、アトランティス星ですよ」


「次は、アヴリオさんを地球に招きます」


 手を握り合ったまま。


「まあ、こんなお喋りで決める事じゃあ、なかったですね。こちらもそちらも、残りは2人。答えは、試合で分かります」


「確かに。では、もう1度言っておきましょう。あなたとの戦いは、得る物が多かった。感謝します、以無己業」


 にこりと笑ったアヴリオは、可愛らしかった。


 少し、表情が柔らかくなったか?己業は、ふと思った。デート、楽しみだな、とも。




 現在、アヴリオのダメージは、600ポイントに達している。これが常識的なシルエットならば、勝機と見える。


 しかし。


 遠不真歩は、場違いさを覚えている。


 己業の強さ、アヴリオとの試合。


 まだ戦ってもいないのに。真歩には、敗北感しか無かった。


 普段、知明に対してすら戦いたいとしか思わない真歩が、無気力になり果てていた。


 ・・・・・・・・勝てるわけがない。


 戦いに、ならない。


 あれは、人間が戦いの相手として選んで良いモノではない。




 表面上、真歩の様子に変わりはない。己業と交代する時も、いつも通りに出来た。


 が、己業は、真歩の覇気の弱さを感じた。理由は、分からない。己業はアヴリオを色々な意味で好きになったが、まだアヴリオ戦を経ていない真歩の気持ちは分からない。


 だから、こう言う。


「アヴリオになら、アレを試せる。頑張れ!」


「・・うん」


 真歩の意気は戻っていない。消沈したままだ。


 まま、だが。


 右手がうずく。


 ・・・そうだな。少し、試して、負ければ良い。


 あれに勝てとは、誰も言うまい。



「真歩!良いとこ持ってけ!」


 知明の声が。


「決めて良いんですよ!」


 滴の声が。


「頑張って」


 雪尽の声が。


 イデアだけは何も言わないが。次の自分の出番に、備えていない。静かにこちらを見ている。


 ・・・。


 も、もうちょっとだけ。2撃与えたら、負けよう。




 開始!



 質問。


 自分の数万倍の速度で動き、自分の数億倍の認識能力を持った相手に勝つには、どうすれば良い?


 答え。


 運を天に任せろ。




オ!


 それは、生身の人間が、銀河と殴りあうに似た挑戦。


 しかし。


 遠不真歩は、この状況でも動ける自分に驚いていた。


 震えて縮こまってしまうのではないかと、少し心配していたのだ。



 それでも。


 やる気があれば、勝てると言うものでもない。




 アヴリオは、もう見極めを必要としていない。


 この者のデータは既に取り終えている。問題は、どうやって勝つ。


 見事にロボットの強さを見せるには。




 一殺宝仕は3音速ほどのスピードで動き回っている。展開した棒を後ろ手に持ち、アヴリオの影を踏む。


 悔しいが、アヴリオはすごい。先のムミョウと、この一殺は全く違う速度なのに、アヴリオはどちらに対しても、似たような立ち回りをしている。つまり、両者の速度を実戦で即座に見極め、やはり即座に対応しているのだ。


 格が違う。


 実際に向き合っても、底が見えない。


 こんなのと己業は戦ったのか。あまつさえダメージを半分以上与えて。


 いつの間にか、置いていかれたなあ。






 棒を握った右の後ろ手。


 それは、棒を振り回すと見せかけているに過ぎない。本命は、もちろん右の手刀。


 力を溜め終わる前に負けては洒落にならないが。


 アヴリオが本気なら、もう終わっているはずだ。どうやら、打てる。




 おやおや。


 アヴリオにも見える。あの、後ろに回した右手。何か、オカシイ。


 この一瞬の間に倒す事も出来るが。



 アヴリオに敗北の予定は無い。何がどうなろうと、負ける理由が無い。


 躱して、勝つか。




 ムミョウ戦で大ダメージを背負っておきながら、この自負。本当にこいつは、賢いロボットなのか。


 賢さ、とは。この戦いを無事に終わらせる事ではあるが。


 それでは、普通。



 観衆にも、楽しんでもらおう。




 アヴリオには、己業が付けた傷跡が残ったようだ。




 溜まった。左手と蹴りのみで時間を稼いだが、見抜かれているようだな。右手の範囲だけ、間合いがちょっぴり遠かった。


 まあ、良い。仮に隠し通せたとしても、アヴリオなら右手刀を見てから避けられるのだから。攻撃を仕掛けてこないと言う事は、待っているのだ。理由は分からない、が。


 ご期待に、応えよう。




 右手から棒を放す。もう、カモフラージュは必要ない。



 打ち込むその瞬間まで構えない。攻防の業に、構えはそもそも無い。いついかなる状況下であろうと、殺す。それが、この身に流れる血。


 未熟の身なれど。


 今は、攻防を名乗らせてもらおう。



ゆらり



 ほう。


 アヴリオは、瞬きを起こした。一殺の姿が、ブレる。


 アヴリオの認識能力を誤魔化す?




 攻防の体術が1つ。遠不谷とおからずや。前進の体捌きと、横入りの足運び、更に後退の重心。それら3種の惑わしを、入れ替え速度を切り替え実行。


 見切った者は、いまだかつて存在しない。見た者全てが生き証人になり損ねた遠不の奥義。


 本来、「外」で出してはいけない技だが。


 地球の危機に、秘密も何もあるか。




 アヴリオからすれば、止まって見える一殺だが。それが、予想の付かない動きをする。


 面白い。この地球人も、楽しい。


 遠不谷を見て数秒後。アヴリオは、その全パターンを覚えた。真歩の動きの速さのゆえに、手早く覚える事が出来た。感謝したい。




 接近。後は、打つだけ。


 相手の回避は考えない。考えても、追い付かん。






 アヴリオは、その一撃を完全に見極めていた。わずか1音速で迫りくる攻撃。どうやれば当たってやれるのか教えて欲しいくらいだ。




オ オ




 こう、だ。




 アヴリオ、300ポイントダメージ。




 何が、起きた。


 アヴリオは、完璧に避けた。人間的な錯覚や幻惑にかかり避け損ねたのでは絶対にない。距離の間隔は、50センチ。間違っても当たらない距離だ。




 絶対に当たっていないのに当たっている。これが。


 当不森あたらずとも


 攻防の技でも遠不の技でもない。真歩の、自分で考えた技。



 考えていた。


 自分には遠距離攻撃が無い。あのクレミジの老兵のような化け物と出会ったら。また同じ敗北を繰り返すのか。


 そして、破壊力の無さ。あの老兵をも一撃で屠れる技さえあれば、問題は全て解決するのに。


 これらは、昨日今日の悩みではない。


 中学校に入ったぐらいだろうか。当時、既に怪物の領域に至っていた知明と比べて、明らかに自分が劣っている部分。腕力。


 もちろん、ありとあらゆる能力に於いて、知明は自分より上だったが。特にどうにもならなかったのが、力だ。


 技巧、力、速度。3つの内、どれか1つでも得手があれば勝ち目もあるのだが。その全てで、知明に上回られている。




 残念な事に。遠不真歩は、敗北を良しと出来ない。


 負けっぱなしは、嫌だ。


 相手が、何者だろうと!


 世界に轟く雲技知明だろうが、宇宙最強のアヴリオだろうが。


 私が通る。




 ゆえ、編み出したのが、この必殺技。


 攻防の真価は、殺傷にある。しかし、当たらぬでは何の意味も無い。


 なら、当たって強い攻撃を出せば良い。


 右の手に込めたのは、気ではない。


 もっと言うと、込めてない。


 溜めたのだ。


 「掴む」のに、時間がかかった。



 右手刀は、ナイフではない。スイッチだ。


 空間を、空気を、範囲を、切る。


 その「領域」を掴む、掌握するのに、やたら時間を取ってしまうのが難点だが。効果は、あったな。


 技の発想は、影狼と似ていなくもない。


 敵を目標としたのではなく、範囲そのものを攻撃する。


 理法は、そう難しくない。


 まず、己と周囲を一体化する。空間の「流れ」を掴み取る。例えば、お風呂の中で手を動かすと、意図して波を発生させられるだろう。それと理屈は同じだ。ヴィジョン内であろうと、世界を擬似的に作っている以上、必ず空間構成物質が存在する。今回の場合、ちゃんとゆるい空気がある。感覚は、現実と同じで良い。



 天地万物を殺戮する攻防は、空気や水も殺す練習をしている。それが叶えば、いつか攻防は太陽さえ殺せる。


 攻防流の最終目的は、太陽の抹殺。遥か昔から見上げてきた生命の象徴。あれより強いのは、見た事がない。いつか、殺したい。そう願い続けて、攻防は在り続けた。



 そして、掴む。手刀の形は、即ち水泳の水かきの形。より掴みやすい形だったのだ。


 掴んだなら、揺らす。空間に位置する物体は、湯船に浮かぶオモチャのように押し流される。アヴリオも、自分も。


 そう。技が発動した瞬間に、一殺宝仕もまた、300ポイントダメージを食らっていた。


 これは自爆戦術・・・ではない。


 技が、完成していないのだ。発動させるまでは上手くいった。だが、そこまで。掴んだ空間の中に居る自分を除外する事は、まだ出来ていない。



 差を思い知る。あの老兵。ほんのわずかな動作と時間のみで、真歩の数百倍の威力で空を圧した。恐らく、基本は同じはずだ。流石に、雷鳴や地割れを引き起こすなどは出来ないが。


 9万年を重ねた業に、17の小娘が近寄れた。それは、誇って良いのかも知れない。


 敗北、であっても。




 実は、当不森を打った、当たった瞬間にアヴリオからの反撃をもらい、真歩は負けていた。



 ケタが違う。敗北の瞬間を、真歩は認識出来ていない。


 いつ負けたのかさえ、分からない。



 そのレベルの相手に、ダメージを与える事に成功した。雲技知明にも、デモネア・アトムにも不可能だった事を。


 まあ・・・・その両者とは異なって、真歩は敵として認識されていなかったのが大きい。アヴリオは、知明やアトム、テレスとは、試合のつもりでいた。真歩戦は、遊ぶつもりだった。


 だから、真歩が一撃与える隙間があったのだ。


 皆がくれた時間。1人で、アヴリオに当てられたのではない。


 それを自覚出来ている真歩に増長はない。己業との違いだな。ただ、それが行き過ぎると、今度はいつまで経っても自信も付かなくなるので難しい所だ。




 次は、イデア。今大会、初お披露目となる。


 果たして、その業はアヴリオに通用するのか。

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