遠不真歩。
初めての技。
今までは、戦闘ロボットと同じ格闘パターンを用いて、適当に打ち込んでいたが。先ほどのは、自分なりに効率の良いダメージ計算を求め放った、自分で考えた技。
ムミョウを打ち抜いた、その感触に。アヴリオは、少し嬉しくなった。
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました」
全力の己業と、華麗なアヴリオ。
アヴリオの方から、握手を求められた。
「楽しかったですよ。己業」
「おれもです!また、お願いします!」
「はい。次は」
「地球で」
アヴリオと己業は、和やかな雰囲気から一転、笑顔のままにらみ合った。
「無論、次も、アトランティス星ですよ」
「次は、アヴリオさんを地球に招きます」
手を握り合ったまま。
「まあ、こんなお喋りで決める事じゃあ、なかったですね。こちらもそちらも、残りは2人。答えは、試合で分かります」
「確かに。では、もう1度言っておきましょう。あなたとの戦いは、得る物が多かった。感謝します、以無己業」
にこりと笑ったアヴリオは、可愛らしかった。
少し、表情が柔らかくなったか?己業は、ふと思った。デート、楽しみだな、とも。
現在、アヴリオのダメージは、600ポイントに達している。これが常識的なシルエットならば、勝機と見える。
しかし。
遠不真歩は、場違いさを覚えている。
己業の強さ、アヴリオとの試合。
まだ戦ってもいないのに。真歩には、敗北感しか無かった。
普段、知明に対してすら戦いたいとしか思わない真歩が、無気力になり果てていた。
・・・・・・・・勝てるわけがない。
戦いに、ならない。
あれは、人間が戦いの相手として選んで良いモノではない。
表面上、真歩の様子に変わりはない。己業と交代する時も、いつも通りに出来た。
が、己業は、真歩の覇気の弱さを感じた。理由は、分からない。己業はアヴリオを色々な意味で好きになったが、まだアヴリオ戦を経ていない真歩の気持ちは分からない。
だから、こう言う。
「アヴリオになら、アレを試せる。頑張れ!」
「・・うん」
真歩の意気は戻っていない。消沈したままだ。
まま、だが。
右手がうずく。
・・・そうだな。少し、試して、負ければ良い。
あれに勝てとは、誰も言うまい。
「真歩!良いとこ持ってけ!」
知明の声が。
「決めて良いんですよ!」
滴の声が。
「頑張って」
雪尽の声が。
イデアだけは何も言わないが。次の自分の出番に、備えていない。静かにこちらを見ている。
・・・。
も、もうちょっとだけ。2撃与えたら、負けよう。
開始!
質問。
自分の数万倍の速度で動き、自分の数億倍の認識能力を持った相手に勝つには、どうすれば良い?
答え。
運を天に任せろ。
オ!
それは、生身の人間が、銀河と殴りあうに似た挑戦。
しかし。
遠不真歩は、この状況でも動ける自分に驚いていた。
震えて縮こまってしまうのではないかと、少し心配していたのだ。
それでも。
やる気があれば、勝てると言うものでもない。
アヴリオは、もう見極めを必要としていない。
この者のデータは既に取り終えている。問題は、どうやって勝つ。
見事にロボットの強さを見せるには。
一殺宝仕は3音速ほどのスピードで動き回っている。展開した棒を後ろ手に持ち、アヴリオの影を踏む。
悔しいが、アヴリオはすごい。先のムミョウと、この一殺は全く違う速度なのに、アヴリオはどちらに対しても、似たような立ち回りをしている。つまり、両者の速度を実戦で即座に見極め、やはり即座に対応しているのだ。
格が違う。
実際に向き合っても、底が見えない。
こんなのと己業は戦ったのか。あまつさえダメージを半分以上与えて。
いつの間にか、置いていかれたなあ。
チ
棒を握った右の後ろ手。
それは、棒を振り回すと見せかけているに過ぎない。本命は、もちろん右の手刀。
力を溜め終わる前に負けては洒落にならないが。
アヴリオが本気なら、もう終わっているはずだ。どうやら、打てる。
おやおや。
アヴリオにも見える。あの、後ろに回した右手。何か、オカシイ。
この一瞬の間に倒す事も出来るが。
アヴリオに敗北の予定は無い。何がどうなろうと、負ける理由が無い。
躱して、勝つか。
ムミョウ戦で大ダメージを背負っておきながら、この自負。本当にこいつは、賢いロボットなのか。
賢さ、とは。この戦いを無事に終わらせる事ではあるが。
それでは、普通。
観衆にも、楽しんでもらおう。
アヴリオには、己業が付けた傷跡が残ったようだ。
溜まった。左手と蹴りのみで時間を稼いだが、見抜かれているようだな。右手の範囲だけ、間合いがちょっぴり遠かった。
まあ、良い。仮に隠し通せたとしても、アヴリオなら右手刀を見てから避けられるのだから。攻撃を仕掛けてこないと言う事は、待っているのだ。理由は分からない、が。
ご期待に、応えよう。
右手から棒を放す。もう、カモフラージュは必要ない。
シ
打ち込むその瞬間まで構えない。攻防の業に、構えはそもそも無い。いついかなる状況下であろうと、殺す。それが、この身に流れる血。
未熟の身なれど。
今は、攻防を名乗らせてもらおう。
ゆらり
ほう。
アヴリオは、瞬きを起こした。一殺の姿が、ブレる。
アヴリオの認識能力を誤魔化す?
攻防の体術が1つ。遠不谷。前進の体捌きと、横入りの足運び、更に後退の重心。それら3種の惑わしを、入れ替え速度を切り替え実行。
見切った者は、いまだかつて存在しない。見た者全てが生き証人になり損ねた遠不の奥義。
本来、「外」で出してはいけない技だが。
地球の危機に、秘密も何もあるか。
アヴリオからすれば、止まって見える一殺だが。それが、予想の付かない動きをする。
面白い。この地球人も、楽しい。
遠不谷を見て数秒後。アヴリオは、その全パターンを覚えた。真歩の動きの速さのゆえに、手早く覚える事が出来た。感謝したい。
接近。後は、打つだけ。
相手の回避は考えない。考えても、追い付かん。
イ
アヴリオは、その一撃を完全に見極めていた。わずか1音速で迫りくる攻撃。どうやれば当たってやれるのか教えて欲しいくらいだ。
オ オ
こう、だ。
アヴリオ、300ポイントダメージ。
何が、起きた。
アヴリオは、完璧に避けた。人間的な錯覚や幻惑にかかり避け損ねたのでは絶対にない。距離の間隔は、50センチ。間違っても当たらない距離だ。
絶対に当たっていないのに当たっている。これが。
当不森。
攻防の技でも遠不の技でもない。真歩の、自分で考えた技。
考えていた。
自分には遠距離攻撃が無い。あのクレミジの老兵のような化け物と出会ったら。また同じ敗北を繰り返すのか。
そして、破壊力の無さ。あの老兵をも一撃で屠れる技さえあれば、問題は全て解決するのに。
これらは、昨日今日の悩みではない。
中学校に入ったぐらいだろうか。当時、既に怪物の領域に至っていた知明と比べて、明らかに自分が劣っている部分。腕力。
もちろん、ありとあらゆる能力に於いて、知明は自分より上だったが。特にどうにもならなかったのが、力だ。
技巧、力、速度。3つの内、どれか1つでも得手があれば勝ち目もあるのだが。その全てで、知明に上回られている。
残念な事に。遠不真歩は、敗北を良しと出来ない。
負けっぱなしは、嫌だ。
相手が、何者だろうと!
世界に轟く雲技知明だろうが、宇宙最強のアヴリオだろうが。
私が通る。
ゆえ、編み出したのが、この必殺技。
攻防の真価は、殺傷にある。しかし、当たらぬでは何の意味も無い。
なら、当たって強い攻撃を出せば良い。
右の手に込めたのは、気ではない。
もっと言うと、込めてない。
溜めたのだ。
「掴む」のに、時間がかかった。
右手刀は、ナイフではない。スイッチだ。
空間を、空気を、範囲を、切る。
その「領域」を掴む、掌握するのに、やたら時間を取ってしまうのが難点だが。効果は、あったな。
技の発想は、影狼と似ていなくもない。
敵を目標としたのではなく、範囲そのものを攻撃する。
理法は、そう難しくない。
まず、己と周囲を一体化する。空間の「流れ」を掴み取る。例えば、お風呂の中で手を動かすと、意図して波を発生させられるだろう。それと理屈は同じだ。ヴィジョン内であろうと、世界を擬似的に作っている以上、必ず空間構成物質が存在する。今回の場合、ちゃんとゆるい空気がある。感覚は、現実と同じで良い。
天地万物を殺戮する攻防は、空気や水も殺す練習をしている。それが叶えば、いつか攻防は太陽さえ殺せる。
攻防流の最終目的は、太陽の抹殺。遥か昔から見上げてきた生命の象徴。あれより強いのは、見た事がない。いつか、殺したい。そう願い続けて、攻防は在り続けた。
そして、掴む。手刀の形は、即ち水泳の水かきの形。より掴みやすい形だったのだ。
掴んだなら、揺らす。空間に位置する物体は、湯船に浮かぶオモチャのように押し流される。アヴリオも、自分も。
そう。技が発動した瞬間に、一殺宝仕もまた、300ポイントダメージを食らっていた。
これは自爆戦術・・・ではない。
技が、完成していないのだ。発動させるまでは上手くいった。だが、そこまで。掴んだ空間の中に居る自分を除外する事は、まだ出来ていない。
差を思い知る。あの老兵。ほんのわずかな動作と時間のみで、真歩の数百倍の威力で空を圧した。恐らく、基本は同じはずだ。流石に、雷鳴や地割れを引き起こすなどは出来ないが。
9万年を重ねた業に、17の小娘が近寄れた。それは、誇って良いのかも知れない。
敗北、であっても。
実は、当不森を打った、当たった瞬間にアヴリオからの反撃をもらい、真歩は負けていた。
ケタが違う。敗北の瞬間を、真歩は認識出来ていない。
いつ負けたのかさえ、分からない。
そのレベルの相手に、ダメージを与える事に成功した。雲技知明にも、デモネア・アトムにも不可能だった事を。
まあ・・・・その両者とは異なって、真歩は敵として認識されていなかったのが大きい。アヴリオは、知明やアトム、テレスとは、試合のつもりでいた。真歩戦は、遊ぶつもりだった。
だから、真歩が一撃与える隙間があったのだ。
皆がくれた時間。1人で、アヴリオに当てられたのではない。
それを自覚出来ている真歩に増長はない。己業との違いだな。ただ、それが行き過ぎると、今度はいつまで経っても自信も付かなくなるので難しい所だ。
次は、イデア。今大会、初お披露目となる。
果たして、その業はアヴリオに通用するのか。




