ときめくアヴリオ。
アヴリオが本気を出したなら、ムミョウは1秒以内に1000万ダメージを負うだろう。しかし、大会中にそれは実現されていない。
現実に起こし得ない技など、技ではない。警戒の必要無し。
己業は、いまだにアヴリオに脅威を感じていなかった。
それにしても、綺麗で強い。知明さんと同じく、欲しいな。
貫通城を全身から打ち込んだアレ。鬼業の指先から打つのに比べれば大雑把だが、出来る自信はあった。攻撃部位が大きいから、気の収束も比較的簡単。
親父の試合を見たからな。実戦での実演。これ以上の勉強は無い。
だから、これも使える。
多分な。
オン
完全に体を封じられたままのアヴリオだが、この状態からでもムミョウをすぐさま倒せる。だから、様子見を終わらせられない。
いつでも勝てるから、いつまでも勝てない。
ゆえに、己業の勝機が生まれる。
アヴリオ、200ポイントダメージ。
この技は・・。テレス・アリストの技ではなかったのか?
違う。これは、鬼業のオリジナル。
技名は、影狼。練習中の鬼業の技を見て、テレスがテレスなりに真似たのだ。
テレスには気は使えない。だから、カノン・総流の応用で、砲撃のエネルギーを利用。アストラガロスで実現してみせた。
だから。これが、本物の影狼。
気を全身から放出。そして、つながりを保ちつつ、拡散。この気には、まだ攻撃性は無い。そのため、放出の段階ではダメージは入らない。
そして、敵の周囲に行き渡った瞬間に、一気に強化。貫通城の応用だな。
アヴリオが避けられなかったのは、急激な攻撃だったから、ではない。
フィールド中に気が満ちていたから、でもない。
アヴリオを、追ってきたから、だ。
気が、あたかも獣のように、どこまでも追いついてきた。
テレスの影狼は、砲撃の固形化による、言わばテレスオリジナル。
鬼業のそれは、誰にも正式に伝授していない。現役である鬼業は、まだこの技を磨き続けているのだ。影狼唯一の欠点は、用意時間がかかり過ぎる事。強者との仕合で、そんな隙は無い。強いて言えば、持久戦で使えるか。それでも、気付かれれば、容易に外される。もう1つ付け加えると、気の消耗が激し過ぎる。だからとて必殺技と言うには、威力が心もとない。現実では使いにくい技だが。
このアヴリオ戦では、うってつけなわけだな。
そして、テレスの影狼とも違ったために、アヴリオも避けきれなかった。準決勝、テレスのそれに当たってしまったのは、逃げ場が塞がれていたためだった。カノン・総流にカノンの一瞬千撃を込め、アヴリオと自身の周囲全てを「固めた」。何をどうしようと、逃げられない空間を作り上げた。ゆえに、アヴリオと言えど、1度食らう事によってしか逃げられなかった。
アヴリオには、ドロドロの持久戦の経験が無い。同レベルでの戦闘を行った事が1度も無い。
だから、逃げ切る、と言う発想が無い。
今までのアヴリオ戦は、常に一瞬で終わっていた。ここまで意味不明な相手と戦った事は、当たり前だが、全く無かった。
・・・・いい加減、攻撃しないのか?
観客には瞬間の攻防であったが、鬼業らにはアヴリオの余裕が見えている。
なぜ、アヴリオは動かない。
本当に遊んでいるのか。
・・・・・・・・。
様子見が、必要だ。データは有用。
まだ。まだ、攻撃しなくて良い。
まだ。
それは、アヴリオの思考をのぞける者が居れば、誰にでも分かっただろう。言い訳だと。
アヴリオの好奇心は暴走していた。生まれて初めて、理性がコントロールを失っていた。
以無の血、己業と言う男。それらが、アヴリオを揺らした。
初めての気持ち。
コオ
貫吼。普通の相手ならば、これを3発も入れれば、それだけで試合は終わる。今まで数多の戦いで世話になった、戦草寺カスタムの必殺技。
アヴリオには、かすめもしない。
が。
ピタリ
貫吼が、止まった。だけでなく、撃った己業もその後の追撃をかけていない。では、止めた意味は?
パン!!
貫吼が、気の塊が、破裂した。アヴリオは拡散するダメージ源を回避するため、加速。ムミョウの真横を位置どった。
コン
殴・・られた。軽く、小突くように、だが。
なぜ、こちらに気付いた。アヴリオの周囲には迷彩がかかっている。全く見えていないはずなのに。
確かに。己業には、見えていない。匂いがないとか何とか偉そうに述べたが、それでアヴリオ本体が認識出来るほど甘くない。
だが、自分の事なら、少しは。
先の影狼以来、気の放出はずっと続けていた。ヴィジョン内でなければ、とっくに体力が枯渇している所だ。
その気の中を抜けてきた奴が居る。アヴリオの作り出した疑似感覚の中でも、自分とつながっている気の感触は明確に分かる。
それでも。アヴリオに当てられたのは幸運だったからでしかない。
アヴリオが本気なら、己業の技量ではまだ届いていない。
私が、触れられた。奇策でも罠でもなく、一般的な打撃で。
楽しい。
アヴリオは、どんどん初めての想いを積み重ねていく。
ヴァン
フィールドに、アヴリオが数千体現れた。思考の超加速を以っての分身の術。
しかも、消えない。つまり数千の己を今も平行して動かし続けている。
そして、その全てのアヴリオがムミョウの数百倍の速度で動ける。
どうにもならない実力差である。
ここで、この期に及んで、全く怯んでいない人間が2人。
1人は実力差の分からぬ何雪雪尽。そして、もう1人は言うまでもない。
可愛い子が、いっぱいだあ!!!!!!!
己業は、アヴリオの胸に飛び込んだ。
今なら、迷彩を打ち破るためと言う言い訳が効く!行くしかない!!
全てのアヴリオを抱きに行く!!!!
ゴ!!!!!
アヴリオの数十分の1の速度で、ムミョウはアヴリオの群れに突っ込んだ。だいたい、80光速ほどは出ているか。もう、鬼業にさえ確実な視認は不可能だ。
見えているのは、テレス、アトム、イデア、アヴリオ。後は最強ロボットと、アヴリオチーム最後の1人にも。
流石の己業も、無策で突っ込んでいるのではない。ムミョウの手を忙しなく動かし、前方に位置したアヴリオ全てを砕いている。
本物には、まだ会えていない。
この者、更に速くなった。1回戦より、4回戦より、先ほどより。
面白い。
だが、戦術はつまらない。これで、私と戦える気か。
そこまでか。
アヴリオは己業の性能を、戦闘ロボットよりは高い、と見切った。
ま、少しは楽しめた。
本体に迫りきたムミョウを、絶対的なカウンターで迎え打つ。基本速度がまるで違うのだ。本気のアヴリオにとっては、現在のムミョウでさえカタツムリよりも遅いスピードでしかない。どうとでも料理出来る。
では。オシマイ。
千を数えるアヴリオが、一斉に動き、ムミョウを打ち抜く。まさにその時。
オ
影狼。
カタツムリは遅い。が。カタツムリより速い生き物を認識出来ないわけでは、ない。
敵がわざわざこちらに来てくれるなら。迎撃くらい出来るさ。
気は、前もってずっと散らし続けていたから、影狼の発動にも苦労はなかった。
どうも。アヴリオは気を認識出来ていないのでは?
予断は死を招く。だが、アヴリオは影狼を2度も直撃で食らっている。断定しても良かろう。
気はエネルギーの塊。一般戦闘ロボットでも容易く視認出来るはずのソレを、なぜアヴリオほどの最上級ロボットが見えない?
最上級だから、こそ。
戦闘ロボットの思考なら、人間の残り香とも言える熱量を注意、警戒も出来よう。だが、アヴリオは管理センターの代表。アトランティス星の実質的な支配者。
人間を、人と言う生き物を恐れる回路が、存在しない。
ヴィジョンなら、アヴリオは最強に近い。だが、それは最適の処理回路を持ったロボットと言う意味であって、対人戦闘技能が発達したのではない。
人間の気、それ自体は見えている。
しかし、いつでも躱せる事実が。今まで全力を、全身全霊を以って敵に相対した事の無い己の意識が、足を止める。
最適の対処は分かっている。アヴリオの速度なら避けられる。
それでも。
本気に、なれない。ならないのではなく。
アヴリオに取って、人間は教え導くべきもの。敵対した者、同じ人間を害する者は戦闘ロボット「が」排除する。
丁寧に、完璧に役割分担を果たしているロボットは、融通が利かない。
頑固な奴よ。
己業が知れば可愛いとでも思うだろうが。数十段下であっても、己と比べられる領域に達したムミョウを、アヴリオは倒しきれなくなってしまっていた。
知明やテレス、アトム。あれらとの戦いは、遊びだった。アヴリオの能力を以ってすれば、暇潰しにもならない程度の。
しかし、ここに来て、ヘンなのと出会った。
何をするか予測が付かない。興味深い対象。
遊んでいるつもりが、ロボットの威を見せ付けているつもりが、本気にさせられていた。
そして、アヴリオは、自身が本気になった事が1度として無い事を忘れていた。
アヴリオのフルスペックは、いまだ使用されていなかった。そのような事態に出会った事が無かったから。
アンディヴィオティカを撃退した時、アトランティス星を差配するようになった時。いつでも、能力の5割は温存していた。非常事態に対処するため、全ての人間とロボットを活かすため。そうして、徹底的な役割分担が生まれた。
そのさび付いた能力は、今まで全く発揮されなかったそれは。
今、初めて、花開こうとしていた。
全ての幻影が消え、アヴリオは本体を現した。その肉体は、少し、震えていた。
興奮が、震えを引き起こしていた。いわゆる、武者震い。
これも初めて。
ト
己業は、この試合が始まって、初めて、危険を感じた。
アヴリオが放ったのは、ただの右突き。拳を真っ直ぐ突き出しただけ。
己の身に、数千の己を「重ね合わせ」1万光速のスピードで打つ。そんな、アヴリオのオリジナルではあったが。
決着。ムミョウは、ノーダメージの状態から決着量の全てを消された。
計測された全ダメージ量は、1億を超える。
己業には、避ける事もカウンターを試みる事も、何も許されなかった。
反応すら。
これが、宇宙を統べる者。




