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超幻影リアディウム!  作者: にわとり・イエーガー
アトランティス編。
72/89

何雪雪尽。

 全員が暖まりきっている。今すぐ決勝に行っても良い。


 だが、順番は順番。この準決勝も、修行の場とさせてもらおう。



「この準決勝。出来れば、あなた1人で決めて頂きたいのです」


「分かりました」


 何雪雪尽、出陣。



 雪尽は、イデアの言葉に疑問を抱かなかった。己業が信じている人なら、大丈夫なんだろう。多分。



 最強格の敵との戦いを即答で引き受ける度胸は尋常とは思えない、が。


「がんばれー!!!」


「がんばれー!」


「がんばれー!」


「がんばってください」


 チームメイトに、それを異常と思える常識人は居なかった。滴ですらが、イデアの言葉を疑っていない。何か考えが有り、そしてその考えは恐らく正しい。自分達に別の明確な意思でも有るなら話は違ってくるが、そうでないなら、イデアの言葉を丸呑みにして良い。



 イデアには勝算が有った。


 もっと言えば、この相手チームに雪尽で勝てないなら、決勝ではどちらと当たっても勝てない。雪尽の能力は、丁度このチームの平均値。接近戦能力が皆無な代わりに、距離を取りさえすれば、世界ランカーの滴と同等にやり合える。


 そして、これだけの才能を持ち合わせていながら、本気ではない。いや、手加減などはしていないだろうが。リアディウムに、戦闘に全てを注いでいない段階で、全世界トップに力が及ぶ。



 刺激次第では、もう一皮むけるかも知れない。




 開始!


オ!!!


 雪尽に、勝負の機微と言う発想は無い。


 いきなり拠辺無交からの重ね光。



 それを、回避する敵。




 ロボットチームは、全機体がアヴリオタイプの量産型。拠辺無交程度は、普通に使える。決勝戦でアヴリオチームと対峙した時は、最強ロボットによって敗北予定だった。




 その予定は、今ここで雪尽によって破られるのだがな。




 当たっていない事に、ゴーグル内の情報に常に気を付けている雪尽は、相手の動きを待たず気付き、そして追撃した。


 重ね光を撃っている合間に用意していた薄凍はくとうを放射。


 これは、空間をマイナス100万度まで押し下げる技。それによって、質量存在を許さない世界を作る。理屈は重ね光と同じ。マイナス1万度直前の冷凍光線を掛け合わせ、マイナス温度を増幅させる。




 読者諸氏にとっては常識であろうし、今更の説明は返って侮辱とも取られてしまうかも知れないが、初耳の読者も居ると思うので、一応説明しよう。


 この宇宙の自然状態での最低気温は、たったのマイナス1万度に過ぎない。それ以上のマイナス世界は理論上の世界のはずだった。


 だが、アトランティス星の技術は、それを実現した。そこには、アトランティス星人の意思は無い。ただ、有り余る資材と時間が、ロボットの無限の労働力によって効率良く突き動かされ、たどり着いただけだ。


 アトランティスにはそう言った、人間の知らない技術も、無数に存在する。飽きるまで人生の栄華を貪り尽くせる世界で、動いていたのは、ロボットだけだったのだ。


 ・・・アトランティス星人を弁護するなら、人間の知性は、図書館の本を読み切る時点で、限界に達してしまう。人生を費やしても、自分の研究分野の基礎知識すら、覚え切れないのだ。一部、物好きと言うか、イカレた研究者のみが、自身の肉体に改造を施す選択をし、サブ脳を植え付けた。そうして、知識面を機械にサポートしてもらって先端研究に携わった者も、極一部には存在する。


 銀河を掌握するまでになった人類の世界は、その人類自身の手に、余ってしまっていた。世界を完全に知覚出来ているのは、ただロボットのみ。


 アヴリオの不安、人間への不信は、あながち間違いではないのだ。


 アトランティス星人は、とうの昔に、種族の限界を迎えていた。




 そして。本題に戻ると、マイナス1万度を超えた時点でありとあらゆる存在が、存在を許されない。物質も時間も、何もかもが、消える。全てが、宇宙の元の形に戻るのだ。そこには、時の流れや、独立した器物は、無い。石ころだろうが、熱量だろうが、光線だろうが、全てが無くなる。


 こればかりは、いかなグレートアトランティスの技術を以ってしても、超えられない壁だった。その温度を攻撃に使えれば、宇宙に敵は無いのだが、自在に用いる事もまた、不可能だった。


 ゆえ、単独ではなく、掛け合わせる形でマイナス1万度を超える事に成功。単純な解決策だが、そのために確実な攻撃方法として確立された。


 これが、薄凍。




 それら知識の一部を、アトランティス星から逃れたグレートアトランティスの民は、入手する事に成功していた。


 脱出に用いた王家専用船の管理コンピュータが、冥途の土産として、そして人間への何かのプラスになりはしないかと、かっぱらっていったのだ。テキトーな奴である。


 ちなみに、その管理コンピュータ。現在は、とある船の管理センターの代表を務めている。出世したのか、王家付きの立場からすると落ちてしまったのか。当人は楽しく過ごしているので、まあ問題あるまいが。



 そして。実用化出来たものから、オーバーコートへ、ヴィジョンへ活用しているのだ。目的を持たぬ故郷とは違い、こちらには明確な意思が有る。アトランティスを、人間の手に取り戻す。


 それゆえ、人間の乗り込む兵器の開発と言う面では、アトランティス星を越えている。人間など、アヴリオに取っては、保護動物でしかないのだから。発展する理由が無い。



 ま、今はどうでもいい事だった。



 試合の当事者にとっては、なお。




 時間をすら消滅させる薄凍の効果によって、敵の動きは止められた。


 より正確に言えば、敵の回避ルートが絞られたのだ。薄凍の効果範囲では、物質は行動も存在も許されない。それは、アトランティス星の基礎知識の内。ロボットは、それに忠実に、低温領域を避ける。アヴリオタイプには、当然のように多様な知識が搭載されている。


 だから、重ね光を撃つべきポイントも、敵が行動を起こす前に分かっている。一手先の選択が可能だ。


 決着。


 いかに拠辺無交であろうと、回避行動を取れる範囲が限られれば、命中するまで撃ち続ければ当たる。と言うか、当たる状態にまで持ち込まれる。システム上、攻撃を無効化する拠辺無交。だが、逃げる場所が無ければ、どうしても移動が重なる場所が出来てしまう。そしてそこは、600分の1秒を超えられない点となる。


 雪尽は、冷静に、当然のように、相手を詰め、終わらせた。


 これで、リアディウムを始めて2ヶ月の人間か。



 イデアの慧眼、とも言えるが。何雪雪尽は、本当にすごい人間だった。



 拠辺無交を発動している時、雪尽は、己業と一緒に居る自分をイメージしている。共に歩く、腕に抱かれている、デートしている2人を。それを一瞬で明確に現実的にヴィジョンに実現。これは、意識的に行っているのではない。記憶から抽出した。本当に過去に己業と一緒に歩いた風景を思い出し、強く思い描く。


 そこに難しさは無い。勉学にも手を抜いてない雪尽は、慣れた問題文なら見た瞬間に答えを出せる程度に脳が鍛えられている。


 それと同じだ。己業との光景は、考えるまでもなく、雪尽には容易く想像出来る。慣れたものだからな。



 恐らく、残り4体のロボットに性能差は無い。これは外観が全く同じであるがゆえの想像だ。今の雪尽なら、必ず勝てる。が。



 雪尽は、己業よりも賢い。


 1人目に選ばれる意味を知っている。


 成長の余地がある。可能性がある。そう思われている。



 真意は知らないけれど。


 ここで真面目に頑張るのは、僕の人生に決してマイナスじゃない。


 この相手のレベルなら、最悪、滴さんが出れば勝てる。




 練習、しようか。

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