アヴリオ。
竜と握手しながら、再会を約す知明。アヴリオは、一応程度の礼儀作法データを入れておいた。そんなに人間と触れ合わさせる気もなかったので、一応だが。
帰還する自分より大きな竜に、アヴリオは感謝と謝罪をデータで述べた。
己のミスだ。
リアディウムへの対応時間が、あまりにも足りていなかった。その程度の事も計算出来なかったのか。自分のために、この守護竜に無様を晒させてしまった。人々の信仰を集めるはずの、この者に。
雲技知明に勝てる自分が、勝たせられなかったとは。何たる無力。
私が、始末しよう。私自身の失敗を。
「うわー・・」
知明は、少し緊張し、少し嬉しくなった。
4人目が、アヴリオ。
大将は、アヴリオ以上?
このアヴリオに、誰も勝てていないのに。
開始!
まず、様子見。アヴリオに、拠辺無交は通じない。どう動こうと、解析され、直撃を食らう。
そもそも、知明のダメージは800ポイント。次に何かの直撃を受ければ、終わる。
様子見などと言う悠長な真似はしていられないはずだが。
この大舞台、出会ったのは最強の敵。
楽しまなければ、嘘だ。
それに。勝算が無いではない。
アヴリオは、リアディウムの要素を使い切った、システム的な戦術には強い。だが、人類の武の研鑽には不慣れのように感じる。
こちらの残り決着量は200で、そのチャンスは少ない、が。
食らわなければ、何も問題無いのだ。
この雲技知明が、終わらせる。
この宇宙をリアディウムで染めるために。自分がもっと戦えるように。
礎になってもらう!
対峙するは、闇色の天裏開白大宝仕と、ほのかなピンク色の体色を緑色の衣服に包んだアヴリオ。
返り血を浴びても目立たないように黒く染まった者と、返り血を浴びる立場にない者。
強いのは、どちらだ。
手裏剣を投げつつ、早弓を装備。腰元には、短刀と剣を出現させておく。
キイ
手裏剣も、矢も、アヴリオに掴み捕られた。ダメージは、入っていない。刃先に触れず、横面を摩擦すら生じさせぬ丁寧さで掴んだ。つまり、知明がそれなりの速度で投げた物体を、即座に見極め、同速で手を動かした。ゆえに、摩擦が生じていない。
だが、右手は手一杯。アヴリオに、レーザーなどの飛び道具は搭載されていない。
アヴリオの今大会のシルエットは、アヴリオ自身。標準シルエットはおろか、専用シルエットも用意しなかった。
知明とは、良い勝負になりそうだ。
その知明は、飛び道具を使用すると同時に飛び込んでいた。右手に短刀、左手に長剣を装備。本命は、無論。
右手。知明は両方の腕で武器が振るえる。それでも、愚かではない。簡単に私に勝てるとは思っていないだろう。後続のために、少しでもダメージを稼ぎたいはずだ。それに短刀と長剣なら、短刀の方が隙が少ない。恐らく、左手を囮とし、右を叩き込む。それが、知明の狙いだろう。
無論、知明は賢い。高校生当時、独力で拠辺無交を使いこなした程度には。
しかし、それ以上に、勝気が強かった。
ゴギイ!
同時!丁度、アヴリオに接触する瞬間に短刀と長剣、そのどちらもが同着するように斬った。
その両方を防ぐ。左手で、先に短刀を持った右手首を捕まえ、思い切りねじる。それを以って、左の長剣を止める。仮に知明の剣では知明自身へのダメージが入らないにしても、長剣の大きさでは、アヴリオまで届かない。更に、この時点で右腕に1回の判定と200ポイントダメージ。
決着。
・・・しない?
「あれ?説明してなかった?まあ、誰も使わないからねえ」
決着量が、戻っていく!
コロン・・
知明の撃ち終わった手投げ弾が、転がる。
いつ、撃った?両の手は、武器を持っていた。手投げ弾を放る暇は・・。
そう、投げられない。だから、事前に押しておいた。手投げ弾は、引っ張って作動するタイプ、時限式、接触式、色々ある。知明のは、時限式だ。ただ、これが最も扱いが面倒なタイプだ。当然ながら、動き回る敵の目の前で、時間を設定する。相手の動きを見極めながら。接近戦をしながら、意識を時間設定に回す。もちろん、設定は事前に調整も可能だが。1秒後でも、3秒後でも。ただ、相手もそれは知っている。距離を取るための搦手には使える、そう言う物だ。接触式が攻撃、引っ張るタイプがトラップに使えるか。
その搦手に、回復を仕込んだ。弾の性質も、事前に調整出来る。同じ大筒でも、範囲を拡大して自分をも巻き込む代わりに相手を吹き飛ばせる物や、漠府の大将の砂砲灼熱のような容赦無い超火力を実現した物などがあるように。あらゆる武装は、自分好みに設定出来るのだ。
知明は、手投げ弾に回復効果を仕込み、「相討ち」を勝利に変える。
事前のスイッチにより、相討ちと同時に、回復。混乱をきたした敵の一瞬の隙に勝利を得る。
対テレス用のとっておきだったが。
効いたかな?
アヴリオがこの事態を理解するまで、0、018秒かかった。回復能力。知識の中にはある。だが、初めて見たために、処理が遅れた。
そうか。弓矢を放った後、腰の剣2つを手に取る瞬間に、わずかに間が有った。あれは、斬りかかる間合いを計っていたのではなく、手投げ弾を用意していたのか。
アヴリオは、至近距離での攻防の片手間で思考していた。
流石に、強い。完全に全開の知明の拳、蹴りを、ノーダメージでさばいていくアヴリオ。
が、ここで決めなければ、勝てない。
速度で上回るのは不可能。ゆえに。
ゆ、る
遅く。
この試合、なぜかアヴリオは自分から攻撃を仕掛けてこない。
理由は分からないが、この機に乗じる。
先ほどまでの高速のやり取りからすれば、止まって見える動き。しかし、これが、ここからが、雲技知明の特徴。
見せなさい。あなたのデータを。本当の試合の、戦法を。
アヴリオもまた、この大会の後を考えていた。オーバーコートなる兵器。あれが、シルエットと同じように動くのであれば、一般の戦闘ロボットでは勝てない。アトランティス星まで踏み込まれた以上、母艦クラスの砲も使えない。
対オーバーコートに足る性能を推し量る必要が有る。アヴリオも、己業らとは別の理由で、相手の本気を待っていた。
ゆるりとした動きで、あの竜にも突き刺さった手刀を打つ。アヴリオは、それを、避けない。
え?
ここで、知明の思考は止まった。回避した後を狙うつもりだったからだ。ゆっくりな動きは、超加速の前振り。だが、これでは、加速の瞬間が分からない。当たれば、倒す自信は有るぞ。
ツ・・
当たってしまった。ダメージが、入る・・・・。いや、入らない。
こん
知明の背後から、1撃。軽い掌打。
決着。
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました」
お互いに礼。知明は無論の事だが、アヴリオの礼は綺麗だった。
「今の、拠辺無交?」
帰ってきた知明に、テレスがたずねる。
「多分・・・・。それ以外に、考えられない。でも」
一瞬で背後に回った移動、そして、当たったはずの攻撃を回避した技能。それは、拠辺無交以外には無いはずなのだが。
「でも?」
次に戦うアトムは、知明の説明を欲していた。
「何か、違う。あれは、拠辺無交。じゃない」
首をかしげながら言う知明。確信がありそうでもない、が。
アトムは、その言葉を完全に受け入れた。こと戦闘に於いて、知明の誤りは、自分達の機械部品が誤作動を起こす程の可能性しかない。
「私で終わらせてみるよ」
「がんばって!」
テレスの、全員の応援を受けつつ、デモネア・アトムが立つ。




