以無鬼業。
強い。1体目でも思いはした。強い。
だが、こいつは、強過ぎる。
パン!
全力で敵右手を弾き、距離を取ろうとする。明王が、以無鬼業が、敵との接近を嫌がる。
それは、見る者が見れば、絶望的な光景であった。
敵ロボットは、遠距離でも全く隙が無いが、近距離はそれ以上だった。
鬼業の拳を受け付けぬ硬度。明王の全開の速度に、当然のように反応する身体能力。
離れれば、星を1発で破壊するレーザーが飛んでくるが、それでも、まだマシだった。
現在、600ポイントダメージをもらい、全身に2回ずつの判定を食らっている。正直、勝ち目が無い。
参ったな。
誇張抜きに、ガキの頃のおれと親父並みに違うじゃねえか。
楽しいな。
鬼業は、ここまで実力差のある相手に、成人してから初めて出会った。敵が、仮にそれが、「国」と言う単位であっても、死ぬまでに首都の1つや2つ落とす自信は有った。その程度の戦力である自負が有った。
ヴィジョンならともかく。自分とロボットの現実での戦力差も、このままだろう。
やばい。
オ
明王は、イデアが組んだ鬼業専用オーバーコート。シルエットも同じだ。そこに、イデアはある種のギミックを仕込んでおいた。
鬼業の精神が完全に振り切った時に発動する、鬼業を生還させるための形態。明王のパワー、出力を全て移動速度に割り振る、つまり、明王最速の姿。
もちろん、ムミョウユキテラシと合わせた。
金言明王。明王の意匠と、実戦アドバイザーとしての鬼業に期待しての命名。
銀光のユキテラシと対になる、黄金の軌跡。
オ!
なんだか分からんが、早くなった。すげえ。
鬼業の意識としては、そんなものだった。
だが、面白い事になった。
それに。
あの頃のおれには無かったものが、今は有る。
もう、ただの子供じゃない。
3人の子供と、半身である妻を得た、家長。
父親なんでな。家族を害するかも知れないものは、消すぜ。
明王には、貫吼は積んでいない。必殺技と呼べるものは、一切無い。
だから、近寄るしかない。この金言明王でも、敵の速度には追い付いていない、が。
先程は、間違い無く逃げた相手に、近付く。
それでも、恐怖を感じない。ここで、こいつらを倒し、宇宙の平穏を作るべきだと、考えもせず動ける。
この体は、動いてくれる。鍛えた甲斐があったな。
オ!!
敵から逃げて、数秒。金言となって、数秒の間、攻撃を食らっていない。大した進歩だ。
じゃ、次は攻撃だな。
オ!!!
こちらの拳は、50ポイントダメージしか与えられていない。胴体部に1度きり。
例え、決着量をそれで削りきったとして、それは勝利では有り得ない。システム上の結末に用は無い。ゆえに。
以無を、教えてやろう。
一瞬で構わない。ノーダメージで敵に密着出来たなら。そこからは、おれがやる。
だから。あそこまで、お前の足が要る。明王。短い付き合いだが、お前と遊べて、面白かったぜ。
お前にも、初めてだったな。この技は。それとも、己業のやるのを見てたか?
破砕奥義、貫通城。
こう使うのだ。
オ!!!!
最大速度を以って、ゆるりと見せる歩法を以って、敵攻撃を完全回避しつつ、動かさずおいた右拳を出す。
殴るのではない、開いた手。五指を折り曲げ、何かを掴んでいるかのような形。
敵右手のレーザーを全力回避。同時に来る左手のレーザーも。これで、敵の残り攻撃は、たったの4回。空に飛び出した位置取りの関係で、脚部レーザーは来ない。後は頭部レーザーと背部レーザーを躱せれば、攻撃に移れる。
その時には、相手は腕部レーザーを撃てるようになっているのだが。だから、鬼業は接近を嫌っていた。攻撃の隙間が無い。
それでも行く。プラテニウスも、そうだった。九分九厘勝てぬ、そう分かっていても、立ち向かった。
おれも、続く。
ふ
急激な静止。空中で身のこなしのみでレーザーを躱した明王は、敵眼前に着地して、完全に動きを止めた。
ここでレーザーによる集中攻撃を選択すれば、それはロボットの隙になった。鬼業なら十分攻撃可能な、大チャンスだっただろう。
しかし、ロボットは格闘を選ぶ。これなら、格闘を回避した相手を、追撃のレーザーで狙える。
戦闘ロボットの長は、伊達ではない。
たった1つの盲点を除けば。
鬼業は、避けない。回し蹴りをモロに食らう。
その感触に、戦闘ロボットは、違和感を覚えた。
右蹴り足から伝わる感触が柔らかい。これは、受けの技術?
「おう。蹴られる瞬間に、後ろに飛んだ。基本中の基本で、格闘技に限った技じゃあねえ。人間が、動物が、災いを避けるための技法よ」
ロボットのほんの少しの機微から戸惑いを感じ取った鬼業は、うっかり説明していた。聞こえていなくとも、父だからな。
鬼業の言った通り、これは接近戦の法ではない。生物の逃走術だ。普通、後退してからの攻撃は、銃器などの飛び道具が無ければ、どうにもならない。そして、明王にはそんなものは、無い。だから、攻撃を仕掛けてくると想定していた鬼業の動きに、多少動揺した。ただ逃げるだけ?
いや、また全力で飛び込んできた!!
だが、それでは対応される。間を置けば、ロボットは完璧に・・・。
学習、するんだよな?
そして、レーザーの放射を避けつつ、静止。ロボットは、学習した通り、蹴ってしまう。受けられたとは言え、多少なりダメージは入っているのだ。それで確実に行けるなら、合理の極みである機械は、そうする。
だが、鬼業の仕掛けは、ここから!!
ゴ!!
真っ直ぐ突っ込む!!!!
的になりにきたか!!!!
否!
倒しにきた!!!
カウンター気味に襲い来るレーザーを、弾く。通常、絶対不可能な動きだ。レーザーの貫通能力は、惑星規模。いかな鬼業であろうと、道理が通らぬ。
だが、今の鬼業は、明王。生身よりは、マシだ。
そして、レーザーを「殴る」。
有り得ん。が、現実に起きている。
気は、防御膜。鬼業は、戦闘が始まって以来、絶やした事は無い。
そして、全身を巡らせていた気を、左拳に収束。その膨大な気を叩き付け、弾く。
いや、弾かせる。己を。
そして、空で体勢を整え、敵左脇を突く。
右手の準備は十全。
貫通城。
「最高でした!!!後は任せて下さい!お父さん!」
「お?おお。頼む」
知明と交代。
決着は、相討ち。両者決着量を満たし、共に果てた。
レーザーを殴り、己が身を弾かせ、敵直前に滑り込む。そして、貫通城を打つ。その瞬間、立ち止まっている明王目掛けて来る攻撃は、学習通り、蹴り。
鬼業より速く鋭い蹴りだが、相討ちなら構わない。上等だ。
鬼業は、戦闘開始直後に、このロボットを格上と認識していた。
それも、歯向かえるレベルでない領域の。
ゆえに、たった1回のまぐれ勝ちを、起こさせてもらう。実力でなくて良い。勝てなくて良い。
それでも、何とかする。
蹴りを、膝で受ける。この時点で残り決着量は200。受けに失敗すれば、終わる。だが、問題無い。同じ攻撃なら、完全に受ける自信がある。
敵脚部は見た。レーザーの射口も。そこを突く。そこは、格闘判定が為されない。膝蹴りで、自分より早い相手の攻撃部位をピンポイントで狙い、打ち抜く。
敵戦闘ロボットは、強かった。地球最強を自負する以無鬼業を、遥かに超えた化け物だ。
だが、教えていなかったな。
以無は、数億年の戦闘を積み重ねてきた。人類種が源の術ではないのだ。アトランティス星人がどれだけ戦って来たのか知らんが。人間規模に留まる限り、以無には勝てぬ。
こいつは、以無鬼業より強くとも。アトランティスの戦いの歴史は、以無を超えてはいない。
瞬。瞬きより短い、零瞬。
貫通城を5本の指から、5撃同時に発動。己業は、片手で1撃がギリギリだが、慣れればこんなものだ。
一点に全力を込めた貫通城の貫通能力は、惑星如きではない。宇宙のあらゆるものを貫く。
それで、敵身体を切り裂く。万物を貫く、絶対の牙にて、食い破る。
まこと残念ながら、貫通城を決着量を満たすだけ食らわせていると、レーザーをもらった。
そして、同時終了。
上出来としておくか。今のおれより強い奴が、宇宙にはゴロゴロ居る。知りたくなかった現実だが。
久しぶりに、ハラハラした。
・・楽しかったなあ。
この試合はイデアによって記録されているはず。子供達に、貫通城の使い方を実戦レベルで教えられる。
良い戦いだった。
次は知明。実戦能力とリアディウムでの最高クラスの能力を兼ね備えた、あるいは人類種最強の男。
敵が鬼業より上の化け物だろうと、一矢報いずに破れるわけ無し。
試合終了と同時に流れ始める編集映像によって、観客も熱を帯びていた。圧倒的な、絶対的なロボットに立ち向かう人間の姿。
イデアのアイデアを採用したアヴリオが、下位ロボットに命じて映像を加工させていたのだ。ショーとして成り立つように。それは、人間を支配しやすくする道具だと、イデアの説得が効いた結果。
人類とロボット。両者の思惑も相まって、大会の熱気は増していた。
他星人が、完全に観戦に回ったのもある。ヤケクソであっても、楽しむ気になった。
リアディウムのプロは、その観客の雰囲気に気付いている。知明、滴、テレス、アトム。
次の試合。その知明は、どんな試合を見せてくれる?




