鬼業チーム。
「気付いていたか、鬼業」
「・・人間の姿が、見えなかったな。給仕は、どいつもロボットだった。無論、人間は別の場所で働いていたのかも知れんが」
「違うな。グレートアトランティスでも、人間は給仕に混ぜてある。人間を好む客も居る。アトランティス星だからと言って、ロボットに限る意味は特にないはずだ」
もちろん、異星人が多数の今大会、一時的な混乱はあるだろう。人間の安全のために、今回は控えさせたとも考えられるが。
恐らく。最初から居ない。
これはまだ、イデアにも調べきれてない事だが。現在のアトランティス星総人口は、3千人。アヴリオが席巻する以前は、3億人を誇っていたのだが。
完全管理された人口調整によって、常に3億人前後を保ってきたアトランティス星。子を産む事に届け出が必要な世界。
そこでアヴリオは、更なる政策を施した。今までは人間の我がままを許してきたが、それではアンディヴィオティカのような不和の種を生みかねない。
人類は、ちゃんとロボットが守らなくては。
まず、犯罪者を処刑した。次に犯罪を犯しかけた者を。
次に、失敗をした者と、失敗をしかけた者。
アトランティス星は、清潔な星になった。
生き残ったのは、偶然何もしていなかった者と、幼くて何も出来なかった者達だけ。アトランティス星人は、生き残るために、ロボットの言う事を聞くだけの生き物になった。
何かの行動を起こせば、失敗は付き物。しかし、その失敗1つで、死ぬのだ。何も、出来ない。
プラテニウスらは、アヴリオによる支配が始まる前に脱出したので、詳しい事情は分からない。
準決勝。そして、最大の目玉。
鬼業チーム対アヴリオチーム。地球最強対アトランティス星最強。この試合で、宇宙最強が決定する。
鬼業チームの問題は、プラテニウスの順番。先に1番弱いのを出すか、最後尾に置くか。
・・・弱いのを出して、油断してもらおう。油断などと言う、無駄な機能が搭載されているかは知らないが。
ソクラノ・プラテニウス。シルエットは斬里殺。暗殺奇襲特化の速攻型。
現在のプラテニウスの実力ならば、世界ランカーにでもある程度は対抗出来る。運が良ければ、デイズ・グロリアスにも立ち向かえる。
だが、対するは、世界トップのテレスが勝てないアヴリオとその一味。相手が悪過ぎる。
それでも、やるしかない。戦いに来たのだ。
開始!
敵戦力は、アヴリオクラス。まともにやると、1秒で倒される。ゆえに、こうするしかない。
チ
斬里殺が、消えた。観客の目からも、敵するロボットからも。
幻界。ライキ・アゴラにも使用されている迷彩効果をオーバーコート単位でも発生させるシステム。ただ、その出力のゆえに、斬里殺にはパワーが無い。
その分、確かな効力を保証されている。いかなアトランティスのロボットの「目」だろうが、見えるものではない。
わざわざ、この試合まで使わずにおいた切り札。
このまま、一撃必殺。パワーは無くとも、必殺の兵装は積んである。やはり、今まで見せていない。
立ち止まっている敵に接近、1メートル範囲に入った所で、攻撃。
零地成。斬里殺の迷彩に使っているエネルギーを全て攻撃に転化。オーバーコート状態なら、周囲数十キロを塵にする威力を発揮。シルエットでも、500ポイントダメージは堅い。これしか、必殺技は無いからな。
敵300ポイントダメージ、全身に判定。しかし、倒れず。
「後は、おれがやろう」
「ですねー」
迷彩が解けた時点で、鬼業チームにプラテニウスの勝ちを思った人間は居なかった。
プラテニウスとイデア以外は。
同じく準決勝を戦っている己業チーム。イデアの出番はまだまだ。
そして。己が育てたプラテニウスの活躍を思っていた。
「オ オ!!」
気合を入れて、動く。拠辺無交の前では、静止に近い移動でも。
まだ終わっていない!!
定石通り、相手は拠辺無交からの連続攻撃。
1秒で斬里殺の決着量は満ちた。
「頼む!力及ばなかった」
「削っただけマシよ。おれも、勝てるかどうかは分からん」
プラテニウスと交代した鬼業は、自覚をする。
本当に、未知。アヴリオには勝てない。
が、自分より強い奴と戦うのは初めてではない。幼少期、己の原初。父。
己業が鬼業に鍛えられたように、己業の祖父に鬼業も鍛えられたのだ。
あの当時のおれと親父ほどのレベル差ではない。絶対に。
どうにもならないとは、思えん。
やってみる。
開始!
オ!
問答無用で拠辺無交を発動するロボット。鬼業は動かない。
いや、動いてはいる。
さ
鬼業自身には、拠辺無交は使えない。しかし、拠辺無交は驚くべき技巧ではあっても、速さ自体は超常のものではない。
鬼業の全開速度より、ちょっと遅い。その速度で動き続けるから、脅威なのであって、速いだけでは、鬼業の虚を付く事は出来ない。
す
むう。
アヴリオは、鬼業を最大限に警戒する。元々、やりにくい相手ではあった。交渉では、食えない相手だった。利用価値が高いのが、更に面倒に拍車をかける、嫌な奴。
戦いでも、か。
鬼業は600撃の攻撃を、全ていなしていた。600、とはものすごい数だが、その全てがシルエット本体に向かって来るのではない。退路を塞ぐ攻撃、逃走を妨げる攻撃も含まれているのだ。的中させるだけの攻撃では、簡単に回避される。
的中は、400ほどか。残りは、退路に撃ち込まれている。逃がさないために。
気を手に集中。シルエット本体に触れる前に、弾く。それを1秒に数百回。通常の鬼業では、ちと荷が勝ちすぎる。それでも、シルエット、明王なら行ける。
すごいな。ヴィジョン。
訓練方法としては、かなり使い物になる。己の限界を超えた速度を、体を傷める事なく、現せられる。これは、現実の肉体でも理想の動きを実現するために、有用なイメージだ。
ふ
音が、しない。刹那の瞬刻に数百の攻防を交わしながら、反発音も衝突音も、無いのだ。
そこまで複雑な技でもない。気に接触した攻撃を、引っ張って、逸らす。それだけ。
気に触れた時点で、その攻撃は、ある程度は鬼業のコントロール下に置かれる。なぜなら、気とは膜。本来、ぶつける気である放出の貫通城などは例外なのだ。鬼業が海底に潜った時のように、防御膜として扱うのが本義。気を攻撃として使い続けると、あっという間に体力が切れる。
防御なら、簡単。とまでは言わない。ただ、体表面を循環させている以上、最も手近で扱い易いのは間違い無い。
そう。気は、不動ではない。全身を覆う防御膜は、両手から発生、上半身から下半身へ巡り、足を経由した後、腕に戻す。この循環をやらないと、攻撃の気と同じく、すぐにエネルギーを使い果たす。
その移動を、少し早める。
気の流動は、下方向、手の動きは上に。極基本的な受けと、動作は変わりない。手の甲で逸らす動きだ。ただ、その速度は、尋常ではない。
合理を極めた動きを、狂った精神で実行する。
自分自身に撃ち込まれる400発の攻撃を、冷静に、緊張も無くさばく。
この男。本当に、人間か。
アヴリオは、少し、怯えた。
やはりな。
鬼業は、試合前に、何となくイメージ出来ていた。
こいつら、強いが。巧くは、ない。
知明なら、たった3撃を目くらましにしつつ、こちらの背後を取っている場面だ。
強い事は強いが。そう面白くもない。
ここまでだぜ。
全く淀み無く攻撃を弾いていたはずの明王は、一瞬で消え失せ、敵背後を取っていた。ご丁寧に、打ち込みのモーションを見せつつ、連撃。
決着量を1秒以内に削り取り、終了。
相手が動かず迎撃に入っていると判断したロボットは、突然の攻勢に対処出来なかった。
しかも、鬼業は全力を出し切っていない。最大速度を計れていない。
アヴリオは、1体でも負けるつもりはなかった。先に出したのは、汎用高性能モデル。言わば、アヴリオタイプの量産型だ。超高級機であるアヴリオほどの性能は無いにしろ、そのままアトランティス星の管理ロボットが務まる能力だと言うのに。
シルエットの戦闘、ヴィジョンの強さは、それ自体、処理能力の現れ。より高速で高度な情報認識及び処理を行った方が強い。
だから勝てると踏んでいたが。少々、甘かったか。だが、次は。
2人目。開始!
ほ、お。
鬼業は感心した。相手も、それなり。先のとは違い、強さが見える。
なんだ、こいつ?
この2体目は、戦闘ロボットの長。全戦闘経験を組み込み、全戦闘能力を積み込んだ、最強ロボット。
ただ、その全ての能力を発揮するために、アヴリオ級の処理能力を必要とし、コストパフォーマンスは最悪だ。とても量産は出来ないし、不必要なまでの高性能ですらある。そこらの星、例えば地球を制圧するに当たり必要とするのは、レーザー攻撃とプロテクションによる防御のみ。それだけで、40体のロボットで10時間以内に人類の9割超を抹殺可能だ。そして基本的に、母艦には200体の戦闘ロボットが積まれている。
最強ロボットが、どれだけ無意味に高性能か分かってもらえたかと思う。
だが、明確に強い。こと実戦に於いては、アヴリオより遥かに。
それ即ち。
鬼業より。
開始!




