会食。
試合終了後、全く見えなかったであろう観客のため、スロー映像が提供された。ご丁寧にも、効果音まで付けて編集されている。
これは、イデアとアヴリオの共同作業。己業が3人目を倒した辺りで、イデアは、この速さは常人には見えていないと判断。映像を加工し始めた。異星人達を納得させねばならんのだ。良く分からなかった・・・と言うのは、上手くない。
それに同意するアヴリオも、イデアから映像を受け取り、モニターに流した。
ここで、アヴリオは、イデアの能力に多少の注意を払った。映像ぐらい、イデアは勝手に持ち出せる。リアディウムの専門家なのだ。その程度の権限は、ちゃんと与えられている。
が、映像の編集と加工は、別の能力が必要だ。即ち、人間の興味関心をそそる魅力についての理解。
芸術的素養とでも言うか。アヴリオには普通に搭載されているが、そこらの戦闘ロボットには無い。
アヴリオのデータによれば、イデアはかなり旧世代のロボットのはず。・・それなりに改良してきたか。
ここで一旦、会場内に設けられた屋台や簡易レストランにて、昼食が振る舞われる。4回戦を経て、各星人らも疲労している。
それに、融和を図るなら、全員でメシを食うのが最も良い。各々の食文化生活風習に合わせた料理は、当然全てそろえている。
己業は、皆に遅れる事、10分。どこで食べるか、うろうろしていた。アトランティス星でも、グレートアトランティス製のケータイは通じる。だから、雪尽達との合流は容易なのだが。
宇宙は、面白かった。料理の食べ方1つ取っても、違う。地球でも、ゴザに座ってお花見だったり、テーブルセットでティーパーティーだったり。風俗は色々ある。
地球人と何ら変わりない人々が多いが、中には野趣溢れる者達も居る。
例えば、クレミジ星人。
実は、ちょっと探していた。仲良くなって、また戦ってもらうために。
しかし。すごい。
もしゃもしゃ
あの老兵の食事風景を見かけたが。
何を食っている?
「どもです。美味しいですか、それ?」
「ああ。良いものを食べさせてもらっているよ」
マジかー。
己業の目には、何かの金属のチップを食べている様が映っていた。これは己業の知らぬ事だが、何でも食べれると言う老兵に対して、何を出すか窮したアトランティス星料理ロボットは、とりあえずサンプルを見せてみた。すると、戦闘ロボットの金属フレームを所望されたのだ。
一応、金属や岩石、土を食する民族の事はアトランティスの知識の中にある。だから、サンプルの中に金属があったりで、食事自体は驚きではない、が。
硬度そのままのフレームを、もりもり食べている。自前の歯で。
棒っきれをそのまま出すのはあれなので、食べやすい大きさにカットして皿に載せている。箸もある。
だが、老兵は塩を振って、手で食べている。・・フライドポテトみたいだ、と己業は思った。
ちなみに、常人が食べると、まず噛み切れない上に消化も不可能、内臓を傷付けるだけなので、絶対に真似しないように。
塩か・・・。
この時、己業は、地球から塩を大量に持って来て、ご機嫌を伺う事を思い付いた。調味料とか、お小遣い分買ってこよう。
「君は、食べないのかね?」
「食べます!じゃ、失礼します!」
「元気でね」
他のクレミジ星人達にも挨拶し、己業は最も目立つ場所に向かった。そこに、父や雪尽らが居るはず。主催者だからな。
そうでもなかった。会場の隅っこに居た。
「こんなとこで食べてるのか」
「本当は、主賓席もあるんだけど。他の人達が来にくいからって」
これは鬼業の提案。皆が同じ高さのテーブルに着いていれば、話もしやすい。そう言う考えだ。
それが正解かどうかはともかく。鬼業らの席は盛況だった。その横の雪尽や真歩の座っているテーブルにもお喋りが伝わってくる。
「どうだった?イデアの稽古は」
真歩が聞いてくる。そう、試合が終わってすぐに、今の感覚を忘れないようにと、イデアとの訓練に入ったのだった。
「うん・・」
うつむいた己業を見て、真歩は察した。イデアは、強い。きっとボコボコにされたのだろう。たった10分の稽古で、あの己業がへし折られた。
己業の高慢を感じたイデアは、そのままでは「己業が」弱点になると判断。徹底的に「教育」した。1秒間に100回の敗北を味わわせ、最初の1分で天狗の鼻を折り、残り9分で自分に付いて来させた。
技術指導ではない。叩き上げだ。己業の性根から、叩き直した。
自信を持つのは良いが、それで足をすくわれては意味が無い。ここに連れて来たのは、傲慢になってもらうためではない。
頼みにしているのだ。だから、イデアは遠慮無く己業を叩き潰した。
皆を先に行かせて、ヴィジョンユニットを1台借り、モニターカット状態で戦闘。
グレートアトランティス内部の全ての情報を収集しているイデアには、データが有った。以無威業、己業の弟が初めてシルエットを操った時。その瞬間の暴走こそ、今回の己業の増長と同じ。現実を超える動きを容易く実現するヴィジョン。その世界に入れば、人間の理性では、自分を抑えにくい。データをデータとして受け入れるのではなく、己の力の進化と見てしまう。
単に、世界への表出の仕方が変わっただけで、己には何らの変化も無いのに。
ゆえに、外部へのドレスの持ち出しは、許可制になっている。危険性は、最初から認識されていたのだ。
それでも、リアディウムに参加させ続けるのは、こちらの都合。可能な限りのフォローは行う。
期せずして、昼食前稽古をした己業は、全力で飲食に入った。
滴とは、船内で何度も顔を合わせている、と言うか生活を共にしているので、新鮮味も無いが。テレスやアトム、それに知明との会食は、すごく楽しかった。
「真歩との試合は、見せてもらったよ。正直、高校生レベルで、一殺にまともに勝てる奴が居るとは思ってなかった。驚いた」
「ありがとうございます!おれも、素の状態で一殺に勝てる気がしませんでした。技四王の仲間が作ってくれたシルエットだから、勝てた。それが実際の所ですね」
船に積んでいたのは、オーバーコートだけではない。鬼業からの伝言を受け取ったイデアが、リアディウム大会を開くため、様々な参考資料を持って来た。
あの戦い。通常のムミョウでは、勝てなかった。ユキテラシが、運良く発動してくれたおかげで何とかなったが。その、前段階。ユキテラシを仕込んでくれたのは、戦草寺の賢明さと努力。自分の練習時間を削ってまで、構築してくれた。
だから、己業に取って、戦草寺と野牛は越えられない壁だ。己が最も未熟だった頃。あの頃に、何も実力を証明出来ていなかった時に、親身になってくれた2人には、頭が上がらない。
知明は、意外な事に菜食だった。己業が肉を差し出すと、丁寧に遠慮された。
強い奴は、肉を食ってるイメージだったが。そうでもないんだな。
「お魚も食べないんですか?」
「いや?食べれないのは、お肉だけだよ。何となく苦手なんだ」
ふうん。唐揚げをほお張りながら、知明がサラダを口にするのを眺める。
美しい。
「ん?」
「綺麗ですね。恋人とか居ます?」
「んん?」
「居なかったら、おれと付き合いませんか。おれもまだ、10人とも付き合っていない未熟者ですけど」
「??」
普通、恋人と言うのは、1人ではないのかな??
己業は、口の中の唐揚げを飲み込み次第、姿勢を改めて言った。
「おれが、知明さんに勝ったら。恋人になって下さい」
「良いよ」
「やったー!」
宇宙広しと言えど、ここまで頭の悪い展開は、アヴリオもそう見ない。地球人は、すごいな。
雪尽は、今更。真歩と滴は、そこそこ複雑。・・・複雑?
テレスとアトムは、特に興味が無い。鬼業、プラテニウス、イデアは他の星人達と話していて、こちらの話は聞いていない。正確には、イデアの耳には入っているが、反応はしない。
ピクニックに慣れている己業らはともかく、テレス、アトムはマナーに戸惑っていた。着席順は、どうなのだ。何から食べるのだ。何も、知らない。グレートアトランティスでも、パーティー形式の食事は経験しているが、勝手が違う。リアディウム世界大会の打ち上げなど、完全自由な立食ならともかく、ある程度規律の有る場所では、どう振る舞って良いのか分からない。
こんな時、身近な人間を参考にするべきなのだが、滴以外のまともな人間が居ない。そして、サンプル1名では、参考にすべきでもない。
そんな2人を見て取った己業が、皿に適当に盛り付け、差し出す。
「どぞ」
「ありがとう」
「気が利くね」
素直に礼を述べてくるアトム。感謝しつつ、会話の糸口を出すテレス。
「こんな感じの食事は、ウチの本領ですから」
高知県のご馳走、皿鉢料理。料理と名が付いているが、実際は食事形式だ。和風バイキングと言うか。普通にテーブルの上に並べられる、直径30センチ越えの大皿。それが客の腹を満たしてなお余りある程に用意される。
そして、食事風景は、自由。好きな料理を盛られた皿に近付くも良し、話をしたい人間に近寄るも良し。座敷のスペースの限り、好きな場所で飲み食いするが良い。もちろん、座布団や椅子には限りがあるが。
己業も、妹弟に料理を取ってやった事はある。だから、2人が何に戸惑っているか、何となく分かった。
普通、冠婚葬祭などの特別な場面で催される皿鉢だ。だから、絶対に席の決まっている主催者なども居る。2人は、それでルールが有るものだと思い込んだ。今回は、鬼業らの席だな。
その後、各星の人間達とも適当に話しながら、昼食の時間は過ぎていった。
なぜ他の星の者が、己業らまでに話しかけるのか。
準決勝直前。もはや、アヴリオの2チームと、鬼業、己業チームしか残っていないからだ。
もう、他星には、ご機嫌を伺う事しか出来ない。
モスハリ星人だけには、考えが有ったが。その目論見は、数十時間前に潰されている。
銀河捕食獣、ジオラ。一個の惑星をおやつにして生きている、超巨大生物。ちなみに、晩ご飯は恒星だ。それを、モスハリ星人は、迷彩を施しつつ、アトランティス銀河に誘導していた。敵対の意思のあるものを諸共に食わせ、自分達は脱出するつもりだった。
健闘むなしく、鬼業チームに普通に破れた事で、モスハリ星人は事前に準備していたジオラを動かしたのだ。
しかし、アヴリオとイデア、双方の警戒により、当然のように発見された。特にイデアは、アトランティス星の警戒網のレベルを知っている。向き不向きも。その向いていない種類の迷彩を使って、自分達もやって来たのだから。何かを狙う人間が、どう狙うか、少々ではあっても、想定可能なのだ。
そして、母艦とロボットの軍団により、消滅させられた。手加減の無い攻撃は、周辺一帯、具体的には1つの銀河と、たまたま偶然側に居たモスハリ星の監視船を巻き込んで行われた。ただの怪物に、抵抗の術は無かった。
モスハリ星は、後日消滅するか、それとも何らかのペナルティで済むのか。それは、この大会の勝者による。
残り2戦。それで、本当に何もかもが決まる。
それでも。今はただ、戦いに備え、メシを食うのみ。
幸か不幸か、地球側には、プレッシャーで食事が喉を通らない人間は居なかった。全員が、腹八分目を満たし、準備を終えた。
宇宙の命運も、所詮は腹ごなしよ。全宇宙全時空、ずっとそうだった。これからも、変わりなど無い。
ただ、その時に立ち会えるかどうかは、違う。
今日、この時に、この星に滞在している。それが運命か、偶然か。
どう意味付けても良い。
己業は、勝って口説き文句にするつもりだ。
勝ったら、恋人が増える。それが、己業の得られる最大戦果。
己業には、それこそが十二分の報酬。
宇宙の支配者になって。やっと1人。
人生は中々に厳しいが、リアディウムは面白さを味わわせてくれる。
今大会、あと2回しか戦えない。
じっくり楽しもう。




