雪尽と拠辺無交。
先の試合。相手は、一殺に背を向けたまま、何の予備動作も取らず、雷を落とした。
まさかとは思うが、やっとヴィジョンに慣れて来た所か?恐ろしい想像になるが。考えてみれば、相手は今大会初出場にして、ヴィジョンも初挑戦。雪尽より更に経験は浅い。
実際問題。本当に、様子見は、していた。先に戦ったオニオ達の様子を見て、この戦闘方式では、本当に怪我人が出ないのか、考えていた。そして、自分でも攻撃を食らってみて、確かめた。大丈夫。無為に人を傷付ける事は無い。
手加減は、もう要らない。
開始!
ぱち
いきなり拍手。あれが来る!
ゴ オ オ!!!
雷嵐。空圧と同時に雷まで発生した。通常シルエットなら、これで終わるかも知れない。
だが、雪尽は躱していた。拠辺無交によって。
「うん。上手く行った」
雪尽は、1人ごちた。
上手く行った。簡単に言うが、全ステージ上に発生している嵐の時間は、短く見積もって1秒。その間、岩場で600回の移動を行い続けるのは、己業の運動能力でもなければ至難。
雪尽は、どうやって障害をものともせず移動した?
普通に。歩いて。
ただ、600人の己が、お散歩している風景をイメージ。そして、実践する。それを2回で、2秒稼げる。ゆえに回避成功。
600分の1秒を回避するには、当然それより速い動作が必要だ。ムミョウ、一殺なら普通に出せるが。己業の速度領域に達するには、雪尽の地力では無理が過ぎる。
身体のこなしでは、不可能。
強いイメージが必要になる。より強靭な脳内操作が。
600より多いもの。600より細かいもの。
2リットルの、水。
雪尽は料理部に属し、家庭料理もこなす。将来は、己業の食べる物は、だいたい雪尽が作る。
その中には、カレーもある。
皆は、カレーの作り方は知っているかな?市販のルウの箱裏に書いてあるアレだ。水の分量は、他の材料との兼ね合いもあるが、ルウを全て使い切ると、2~3リットルになる。
雪尽は、それをイメージした。
2リットルを2千と考える。鍋に満ちた水は、2千粒の集合体。水滴を意識。
もっと言うなら、小麦粉、パン粉。それらの粒は、千では足りない。
鍋の水を、ぶちまける。小麦粉を、ふりまく。
それが、己だと考える。
放射される水1粒の速度を、今度は600分の1秒より加速する。2音速以上になれば、回避成功だ。
2千人の己を、テレビの高校大会で見た己業、ムミョウの速度でイメージする。
生身の自分には出来ずとも。生身の肉体は、そもそもプロテクションにて動かないのだ。その現実が語る事実とは。
ヴィジョン内で動くのは、身体ではない。身体操作と同じように動かせるのは、それが「動かしやすい」から。
ならば。最適な動作とは。
ヴィジョン、シルエット最良操作は、現実と同じではない。雪尽は、そこまで自分で推測した。そして、それを仮定とし実践してみた。
成功。肉体を動かす意識をせずとも、もっと速いイメージで動かしたプリンセス・ホワイトの武装は、そのイメージ通りに動いた。
イデアは、その様子をじっくり観察していた。雪尽は、知明のような根っからのアスリートではない。なのに、あの適応能力。
どこかで、無理をしていないか。人間全員の体調管理は、ちゃんと医療ロボットが見ているが。それでも心配になる。
雪尽は、子供の頃のプラテニウスを思い起こさせる。今は男らしい彼も、幼少期は線の細い、頼りない子供だった。雄雄しく成長したのは嬉しいが、無茶をしなくても良い。
だが、心配は、要らない。
「次は攻撃だ!!」
己業の声が響く。
己業の側に居る以上、雪尽の不安要素は、皆無。
うん。己業。
オ
灼熱の豪光。岩石を蒸発させる超熱量。と言う設定の技。まるでこの試合にあつらえたかのようだが。
追白姫。白熱と白雪を操る、プリンセス・ホワイトをモチーフとしたシルエット。ドレス姿に宝冠。身動きは苦手そうな外観のままに、格闘戦は度外視した、遠距離高火力型の典型。
今の技は、重ね光。技自体は、シルエット本体から発生する光線。それを、拠辺無交の応用で超加速、更に全周囲に撃ち出す。
プレイヤースキルが物を言う技のため、光線そのものは簡単に出せる。と言うか、単なる通常攻撃に過ぎない。
「技」にまで磨き上げたのは、イデアとの訓練のたまもの。たったの2ヶ月で、全高校生最強の己業を超えた。
もし。この大会で優勝したなら。プラテニウスさんは、大抵のお願いを聞いてくれるって言った。何なら、居住可能な星の1つや2つでも構わないって。
良いな。己業との新居にしよう。それに、始業も威業も住める。皆で暮らそう。
だから。相手には。居なくなってもらう。
決着。
一切手加減をしなかった雪尽の技巧により、決着量はあっさりとゼロになった。元々、かなり削っていたとは言え。
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました」
老兵は、雪尽の中に若さを見て取った。そこにアドバイスの1つも出来なくはないが。
側に居る彼が何とかするだろう。野暮は語らずただ去るのみ。
「ごめーん。負けちゃったー」「いえ!素晴らしいお力でした!」
クレミジ星人は、例え負けたとしても、得がたい褒賞を得ていた。
自負。何者にも譲らない先人が居る。自分達の先祖も、こんなだったのか。
これだけで、良い。
そうは言っても、後1人。最後の者を送り出す。
勝利した雪尽を祝福した己業は、しかし抱き合ったりはしなかった。まだ、終わっていない。
開始!
決着!
やはり、手加減と言う概念を解しない雪尽によって、敵は焼滅した。
何の心配も、要らなかったか。今回、雪尽を3番手にしたのは、実戦経験ゼロだったため。いくら強かろうと、試合数をこなしていない人間は、実戦のプレッシャーにやられかねない。
雪尽を全力で祝福しながら、己業は安心した。
すごい。真歩は、超越した者を、このわずかな期間に2名見た。1人は、年老いた強者。もう1人は、自分より年下のほとんど素人と言っても良いプレイヤー。
どちらもが、強者。どちらもが、己を超えた実力者。
歯がゆい。口惜しい。
戦いたい。
特に、あの古強者とは、もっとやりたい。何かを掴めそうな気がする。
真歩は、雪尽をお祝いしながら、思考していた。
私、居る意味あるのかなー。
大動滴は、ちょっと悩んでいた。
この中では、世界戦の経験まであるベテラン。もっと堂々と振舞っていて良いのだが。滴は、己を客観的に見過ぎていた。知明やテレスに比べればリアディウムでは劣り、鬼業に比べれば実戦で劣り。そんな自分を知っているからこそ、このチームでの立ち位置も掴みきれていなかった。教導のポジションなのだろうが、イデアが上手過ぎる。もちろん、滴もちゃんとサポート出来ているのだが、どうしてもイデアと比べると・・。
ふう。イデアは、次は、滴を出すと決めた。名目は、3人に、世界の強さを見せる事。
大動滴は、お情けや何かで引っ張った人材ではない。わざわざ日本国と交渉して連れて来た有力プレイヤーなのだ。実力を出し切って欲しい。
ヴィジョンを、試合を行えば、ここは自分の世界なのだと思い出すだろう。
このチームの目的は、優勝ではない。だが、普段通りに頼みにしたい。
何はともあれ。無事1回戦突破。試合回数自体は、高校大会と同じなのだから、あとたったの5回勝てば、優勝。それだけで、無事に帰れる。
2回戦も、ただ持ちうる力を振るい、最善を尽くすしかない。それしか出来ないし、それで良い。
頑張れ己業チーム!




