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超幻影リアディウム!  作者: にわとり・イエーガー
アトランティス編。
60/89

雪尽と拠辺無交。

 先の試合。相手は、一殺に背を向けたまま、何の予備動作も取らず、雷を落とした。


 まさかとは思うが、やっとヴィジョンに慣れて来た所か?恐ろしい想像になるが。考えてみれば、相手は今大会初出場にして、ヴィジョンも初挑戦。雪尽より更に経験は浅い。




 実際問題。本当に、様子見は、していた。先に戦ったオニオ達の様子を見て、この戦闘方式では、本当に怪我人が出ないのか、考えていた。そして、自分でも攻撃を食らってみて、確かめた。大丈夫。無為に人を傷付ける事は無い。


 手加減は、もう要らない。




 開始!


ぱち


 いきなり拍手。あれが来る!


ゴ オ オ!!!


 雷嵐。空圧と同時に雷まで発生した。通常シルエットなら、これで終わるかも知れない。




 だが、雪尽は躱していた。拠辺無交によって。


「うん。上手く行った」


 雪尽は、1人ごちた。



 上手く行った。簡単に言うが、全ステージ上に発生している嵐の時間は、短く見積もって1秒。その間、岩場で600回の移動を行い続けるのは、己業の運動能力でもなければ至難。


 雪尽は、どうやって障害をものともせず移動した?



 普通に。歩いて。



 ただ、600人の己が、お散歩している風景をイメージ。そして、実践する。それを2回で、2秒稼げる。ゆえに回避成功。


 600分の1秒を回避するには、当然それより速い動作が必要だ。ムミョウ、一殺なら普通に出せるが。己業の速度領域に達するには、雪尽の地力では無理が過ぎる。


 身体のこなしでは、不可能。


 強いイメージが必要になる。より強靭な脳内操作が。


 600より多いもの。600より細かいもの。


 2リットルの、水。


 雪尽は料理部に属し、家庭料理もこなす。将来は、己業の食べる物は、だいたい雪尽が作る。


 その中には、カレーもある。


 皆は、カレーの作り方は知っているかな?市販のルウの箱裏に書いてあるアレだ。水の分量は、他の材料との兼ね合いもあるが、ルウを全て使い切ると、2~3リットルになる。


 雪尽は、それをイメージした。


 2リットルを2千と考える。鍋に満ちた水は、2千粒の集合体。水滴を意識。


 もっと言うなら、小麦粉、パン粉。それらの粒は、千では足りない。



 鍋の水を、ぶちまける。小麦粉を、ふりまく。


 それが、己だと考える。


 放射される水1粒の速度を、今度は600分の1秒より加速する。2音速以上になれば、回避成功だ。


 2千人の己を、テレビの高校大会で見た己業、ムミョウの速度でイメージする。


 生身の自分には出来ずとも。生身の肉体は、そもそもプロテクションにて動かないのだ。その現実が語る事実とは。


 ヴィジョン内で動くのは、身体ではない。身体操作と同じように動かせるのは、それが「動かしやすい」から。


 ならば。最適な動作とは。


 ヴィジョン、シルエット最良操作は、現実と同じではない。雪尽は、そこまで自分で推測した。そして、それを仮定とし実践してみた。


 成功。肉体を動かす意識をせずとも、もっと速いイメージで動かしたプリンセス・ホワイトの武装は、そのイメージ通りに動いた。



 イデアは、その様子をじっくり観察していた。雪尽は、知明のような根っからのアスリートではない。なのに、あの適応能力。


 どこかで、無理をしていないか。人間全員の体調管理は、ちゃんと医療ロボットが見ているが。それでも心配になる。


 雪尽は、子供の頃のプラテニウスを思い起こさせる。今は男らしい彼も、幼少期は線の細い、頼りない子供だった。雄雄しく成長したのは嬉しいが、無茶をしなくても良い。



 だが、心配は、要らない。



「次は攻撃だ!!」


 己業の声が響く。


 己業の側に居る以上、雪尽の不安要素は、皆無。




 うん。己業。



 灼熱の豪光。岩石を蒸発させる超熱量。と言う設定の技。まるでこの試合にあつらえたかのようだが。




 追白姫おとひめ。白熱と白雪を操る、プリンセス・ホワイトをモチーフとしたシルエット。ドレス姿に宝冠。身動きは苦手そうな外観のままに、格闘戦は度外視した、遠距離高火力型の典型。


 今の技は、かさ。技自体は、シルエット本体から発生する光線。それを、拠辺無交の応用で超加速、更に全周囲に撃ち出す。


 プレイヤースキルが物を言う技のため、光線そのものは簡単に出せる。と言うか、単なる通常攻撃に過ぎない。


 「技」にまで磨き上げたのは、イデアとの訓練のたまもの。たったの2ヶ月で、全高校生最強の己業を超えた。




 もし。この大会で優勝したなら。プラテニウスさんは、大抵のお願いを聞いてくれるって言った。何なら、居住可能な星の1つや2つでも構わないって。


 良いな。己業との新居にしよう。それに、始業も威業も住める。皆で暮らそう。


 だから。相手には。居なくなってもらう。




 決着。


 一切手加減をしなかった雪尽の技巧により、決着量はあっさりとゼロになった。元々、かなり削っていたとは言え。



「ありがとうございました!」


「ありがとうございました」



 老兵は、雪尽の中に若さを見て取った。そこにアドバイスの1つも出来なくはないが。


 側に居る彼が何とかするだろう。野暮は語らずただ去るのみ。




 「ごめーん。負けちゃったー」「いえ!素晴らしいお力でした!」


 クレミジ星人は、例え負けたとしても、得がたい褒賞を得ていた。


 自負。何者にも譲らない先人が居る。自分達の先祖も、こんなだったのか。


 これだけで、良い。



 そうは言っても、後1人。最後の者を送り出す。




 勝利した雪尽を祝福した己業は、しかし抱き合ったりはしなかった。まだ、終わっていない。




 開始!


 決着!



 やはり、手加減と言う概念を解しない雪尽によって、敵は焼滅しょうめつした。



 何の心配も、要らなかったか。今回、雪尽を3番手にしたのは、実戦経験ゼロだったため。いくら強かろうと、試合数をこなしていない人間は、実戦のプレッシャーにやられかねない。


 雪尽を全力で祝福しながら、己業は安心した。



 すごい。真歩は、超越した者を、このわずかな期間に2名見た。1人は、年老いた強者。もう1人は、自分より年下のほとんど素人と言っても良いプレイヤー。


 どちらもが、強者。どちらもが、己を超えた実力者。


 歯がゆい。口惜しい。


 戦いたい。


 特に、あの古強者とは、もっとやりたい。何かを掴めそうな気がする。


 真歩は、雪尽をお祝いしながら、思考していた。




 私、居る意味あるのかなー。


 大動滴は、ちょっと悩んでいた。


 この中では、世界戦の経験まであるベテラン。もっと堂々と振舞っていて良いのだが。滴は、己を客観的に見過ぎていた。知明やテレスに比べればリアディウムでは劣り、鬼業に比べれば実戦で劣り。そんな自分を知っているからこそ、このチームでの立ち位置も掴みきれていなかった。教導のポジションなのだろうが、イデアが上手過ぎる。もちろん、滴もちゃんとサポート出来ているのだが、どうしてもイデアと比べると・・。




 ふう。イデアは、次は、滴を出すと決めた。名目は、3人に、世界の強さを見せる事。


 大動滴は、お情けや何かで引っ張った人材ではない。わざわざ日本国と交渉して連れて来た有力プレイヤーなのだ。実力を出し切って欲しい。


 ヴィジョンを、試合を行えば、ここは自分の世界なのだと思い出すだろう。


 このチームの目的は、優勝ではない。だが、普段通りに頼みにしたい。





 何はともあれ。無事1回戦突破。試合回数自体は、高校大会と同じなのだから、あとたったの5回勝てば、優勝。それだけで、無事に帰れる。


 2回戦も、ただ持ちうる力を振るい、最善を尽くすしかない。それしか出来ないし、それで良い。


 頑張れ己業チーム!

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