真歩の歩み。
ふう
唸るほどの傑物だった。本当に、宇宙に出てきて、良かった。
パン
次の人間とハイタッチ。このチームでは、己業が1番弱い。・・・冷静に考えて、ものすごい事実だ。
次は遠不真歩。押しも押されぬ、全高校生トッププレイヤーの1人。最上位3名の内の1人だ。
だが、その戦績は、振るわない。敗北の味しか、知らない。
優勝経験が、無い。これは、仲間が弱かったとかの理由ではなく。
敵が、もっと強かったからだ。仲間より、自分より。
優秀な能力ゆえの、贅沢な悩みだが。
今大会の敵は、知明を含む超精鋭。あらゆる能力に於いて自分より上の知明が3番手に回るチームと、そのチームで勝てないアヴリオ。
また、負ける。
私が、弱いままならば。
開始!
敵は、ムミョウを倒した怪物。少なくとも、地球人類では勝てるまい。
なら。私が勝って、この世の誰をも超えて見せよう。
そうは言っても。取れる戦術には、限りがある。格闘は通じないと見て良い。ムミョウのパワーで、50。一殺なら20か?
棒で打っても、反動は来るのだろうな。
やれば、分かるか。
ゴオ!
一瞬の風が吹き抜けた時、一殺宝仕の武器は砕け散った。
「速い。いつも通りの一殺だ」
「うん。でも、これからどうするんだろう」
帰って来た己業は雪尽と並んで観戦していた。
真歩の動きには全くよどみがない。ムミョウと同等の速さ。
しかし、真歩には貫吼などの飛び道具が無かったはずだが。一瞬3撃の打ち込みにより、棒は失われた。流石に、シルエット本体にまで反動は来なかったが。
一殺宝仕の攻撃により、150ポイントを与えられ、累計750ポイント。かなり厳しい状況と言えるが。
老兵は、相手の動きを見極めた。先の者と同じ、動き回るタイプ。地に沈めるは難しい。なら、あれを。
ぱ
拍手の間。敵の両の手が打ち合わされる瞬間に、己が手刀を挟んだ。これで、敵の技は発動しない、かも知れない。更に不発が、敵の不調を招くやも。
思った通り、腕力は入っていない。多分、単純な力なら己業より遥か上だろうが、格闘のつもりのない相手には、パワーはこもってない。
防がれた。・・・今更か。手加減は、要るまい。
ビキイ
右腕が、破壊された。ただ、挟み込まれ続けただけで。手刀を抜こうにも、まるで動かなかった。打撃は、相手からのダメージを招く。抵抗は、出来ん。
組み技に行く度胸も、なかった。
組みも、打撃も、無理なら。
やめておけ。
知明は、口に出さず真歩に語りかけた。真歩に出来るのは、もうアレしかない。距離ゼロにて発生させる殺傷術。この敵に効くかどうかは分からないが、人前では不味い。
攻防流には、表に出してはいけない技がある。
やめておけ。その化け物に負けても、恥じる事はない。
それに。
この相手に有効な技は、それではないだろう?
・・そうだ。右腕は、捕まえられている。
好都合だな、この距離。
オ
敵左足が浮いた、その瞬間。恐らくは地割れを引き起こすつもりだったのだろうが。
その前に、一殺が動いた。
あらゆる組み技絞め技は、人間の耐久力を想定している。間違っても、鉄骨などを相手に関節技など、効きはしない。
だが。例外的に、意味を為す技も、有るには有る。
オオ!
挟まれた右手をそのままに、相手のあごを右足で蹴り上げる。それと時を同じくして、左足で相手右足を刈り取る。
転ばせ、大地に叩き付けるつもりだ。
あらゆる格闘術は、人間にしか効かない。
だが、落下の衝撃だけは、重力の強さだけは、全ての物体に効き目が有るのだ。投げ技だけは、全物質に効力を発揮する。重力、大地の剛健さは、人間由来のエネルギーではないからな。
それでも。
「強過ぎる」
「これって、全周囲攻撃とかも効かないのか?」
「さあ・・」
知明は、想像以上の相手にじんわりと汗をかいていた。鬼業に話しかけられても、上の空と言った所だ。
話しかけた鬼業も、答えを期待してはいなかった。
大地を割り、空を圧す。
人間業では、ない。
そして、今も。
一殺宝仕は、本気の速度で転ばしにかかった。最初の蹴り上げ1つで生身の人間なら死んでいる所だ。
それで。
しん
微動だに、せぬ。本当に、1ミリも動かせていないだろう。右足一本で立っている敵を、崩せない。重みが、まるで違う。
真歩は、あたかも惑星そのものと戦っている感覚さえ湧いて来た。
右の蹴りで50ポイント与えたが、100ポイントもらった。何なら、これを繰り返すだけでも勝てる。敵は、残り200ポイント。削りきれる。
右手が、掴まれたままでなければ、な。この体勢では、まともな蹴りが打てない。貫吼と同じく、かすめた程度に扱われるのではないか。
先ほどの若者と言い、皆、動きが早い。だが、元気で結構。
若者よ、受け取れ。
たん
浮いていた足が、踏み鳴らされた。やはり、軽く。
また地割れか。だが、こうして絡み付いていれば、落ちは・・
ゾア
隆起した大地、その鋭利な岩槍により、一殺は串刺しになった。
その場に縫い付けられた一殺を置き去りに、敵は歩き去る。
自らも食らったはずの攻撃なのに、相手はダメージを一切受けていない。どうにもならないレベルの堅さ。
このままでは、負ける。己業が削り取った敵、戦法を見終わった敵に、何も出来ず。
「う、」
?
「う、おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
老体は、ちょっと驚いた。ヴィジョン内では、相手の声は聞こえない。発声と言うシステムは、積んでいないのだ。だが。意気は、届いた。
元気!
ジア
刺さっていた岩を、左手刀で斬り捨てる。
「すげえ」
「あんな能力は、ないよね?」
「ああ。あれは、真歩の地力」
雪尽の腰を抱いて観戦する己業。滴もイデアも、あまり気にしないようにしている。
一殺宝仕には、パワーは無い。だが、操るは攻防流後継者、遠不真歩。その力量は、己業の妹、始業と同等。なれど、技量は、己業を超えている。
石の1つや2つ、素手で切断出来るさ。
やるしかない。目の前の相手は、石より堅い。それでも。
何もせずに負けるなんて!!!!嫌なこった!!!!!
オ オ!
あの、ムミョウとの戦いより、なお速い移動。観客でも、目に見えたのは、少数だろう。残像すら残さず、一殺は動き続ける。
だが、それでは、あの空圧が来るぞ。どうする。
現状。胴体部、右足に1回ずつの判定。そして、右腕の破壊。ダメージは900。右手を挟まれた攻撃が、3回効いたのが痛かった。それでも、あれで良く生き残った。理由が、相手の気まぐれだとしても。
敵は残り200。削る自信はある。
だが、それは己業ありきの勝利。
これはチーム戦なのだから、それで良い。と、普段の真歩なら思うが。
己業の、あの意地を見せ付けられては。自分も。何かをしないでは、いられない。
こんな場所で見せる気は全く無かったが。仕方無し。それに、今の自分が打っても、知明には当たらなかっただろう。
試しとしては、最高だ。幸運と、するか。
チ・・
あの手・・。
老兵は、一殺の左手刀に恐怖を感じた。それは、2千年前の大地震以来の感覚だった。
知る者は、誰も居ないが。
ただ、兵は動いた。
ゴ、ロ
雷光がフィールドを埋め尽くす。
決着。
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました」
悔いは、ある。未熟のゆえに、最後の攻撃を仕掛けられなかった。しかし。実戦に於いてのタメ時間の長さも知れた、し。ケタの違う人類と戦えたのは、何物にも代えがたい財産。
「強かったね。頑張りなさい」
「え、はい!」
今度は、こちらが言葉に詰まる番だった。真歩は、何とか相手に全力で返事が出来た。己より遥かに強い生き物。敬意を表するに余りある。
古強者は、自らの役割を知りつつあった。なぜ、自分がこの場に招かれたのか。
クレミジ星人達にも、もう驚きはなかった。この方なら、天雷を操ろうと、何の不思議も無い。
とてつもない人を呼び出してしまった。
にいいい
その笑みは、鬼業もプラテニウスも、見て見ぬ振りをするしかなかった。
あいつ。最後の技は、僕も知らない。何を出す気だった?
雲技知明は遠不真歩の成長を、確かに見た。
そして3番手、何雪雪尽。初陣である。




