宇宙の新しい始まりの日。
全宇宙リアディウム大会。その総出場チーム数は、64。高校生大会よりは多い。それでも、グレートアトランティス主催の世界大会に比べれば少ない。その全出場チーム数は、200を超えるからな。
己業チーム、鬼業チーム、アヴリオチーム、更にもう1つアヴリオの用意したロボットチーム。開催者側は、この4チーム。そして異星人達が、30チーム。それでもって、トーナメントを開催するための予備人員としてのロボットチームが30。
計、64だ。この内、30の予備ロボットチームは、勝たない程度の力に抑えられている。当たればラッキーだな。
だから、と言うわけでもないが。たかが100チーム以下の宇宙大会で負けるわけにはいかない。テレス、アトム、知明を擁する鬼業チームは必勝の構えだ。
己業のチームには、そのような気構えは無い。知明1人にすら相手になるかどうかも怪しい実力なのだ。噂に聞くアヴリオには、恐らく負ける。
ゆえに、遊ぶ。
なぜか、鬼業にも、それを推奨された。思いっきり楽しめ、と。
夏の大会にも増して、強者達と戦える。あるいは、初心者達と。
おれ達が、リアディウムの面白さを伝えよう。かつては自分達もそうしてもらったように。
以無己業、何雪雪尽、遠不真歩、大動滴、イデア。この5名によるチーム、先鋒は、己業だ。
高校予選では、奥の手として、出番は無かった。本大会でも、大将として奥まっていた。その自分が、敵の様子見の役。
おれの仕事だ。嬉しい。おれも、やっと戦草寺や野牛と同等に働けるようになった。頑張ろう。
イデアに頼まれた事だ。出来れば、自分の出番は最後の最後まで無いようにお願いしたい。そして、雪尽もあまり使いたくない。間違い無く強い者を、隠し持つ。今までと全く同じ戦略だ。
高校王者のおれが先鋒、続くのはやはり高校最強クラスの真歩。
面白い。このメンバーで戦う相手は、きっと強い。
そして、勝ち残れば、もう一方のチームとも仕合う。
己業は、今から威を抑え切れなかった。
「それはそれとして。出来そう?」
「むずいっす」
拠辺無交は、一朝一夕には操れなかった。雪尽は、稽古開始1時間で出来ていたが・・。あれは例外と思いたい。
己業と真歩には、まだ出来ていなかった。知明は、これを高校生当時、独学で身に付けたと言う。明らかに、モノが違う。
そして、滴は現在、イデアとの練習で地力を上げている最中だ。
「やはり、あなたを誘って正解でした。大動滴」
「ありがとうございます。雲技知明や、テレス・アリスト。デモネア・アトムに比べれば、明らかに見劣りしますけどね」
大動滴の実力は、世界ランク10位に入れるかどうか。そしてデイズ・グロリアスのメンバーは、全員が滴と伍する実力者達。その中でも、最強は滴ではない。世界ランク6位、エンドア・ワアルドこそ、メンバー中、真の最強。
それでも、選ばれたのは滴。エンドアの得手は、高防御からのカウンター。最悪の事態である実戦に於いて、その戦法は危険過ぎる。ゆえに、穿始を操る滴になった。なぜなら、滴の得手は。
「そんな事はありませんよ。あなたの技は、あなたのオリジナル。誰にも負けてなどおりません」
イデアの言葉には、真実味があった。表情は動かない、機械の顔と体なのに、真心でこちらに向き合ってくれている。滴には分かった。
「あなたの目的は、私には分かりません。グレートアトランティスの最重要人物の1人であるあなたが、自ら乗り込んでくる意味」
「大した事ではありません。もののついで、です」
もし。アヴリオと対峙したなら。いや、それでもどうにもなるまいが、な。
2月3日。節分である。
技四王高校リアディウム部は、絶賛豆まき大会の真っ最中であった。
オ ア!
ギ、オ!
豆、と言うかボールか。ミノテリオンの放り投げた時速400キロに到達したボールは、泉鬼が長く持った薙刀によって、反対側の壁に直撃した。
「ちい」
「ふふふ。また、私の勝ちですね」
豆まき。と言う名の野球ごっこ。野球をしようにも、総部員数3名を誇る技四王高校リアディウム部では、ちょっと難しい。
ただ今、戦草寺の5連勝中。これは、戦草寺の野球センスではなく、リアディウムのセンスだ。ミノテリオンのパワーを全開に生かした野牛と、ボールに貼り付けたお札で以ってまるで予想出来ないコントロールを実現した戦草寺。
全国大会が終わってから、技四王の面々は各自新シルエットを構築した。己業は、ムミョウ以外での、リアディウムならではの戦いを経験してみたかった。野牛は、己の経験を増やすために。戦草寺は、更なる強さを求めて。
「今日は、この辺で許してあげましょう」
「ふん」
午後6時。夏ならともかく、冬に遅くなるのは危険だ。己業が居れば、安心だが。留学中だからな。
以無己業は、グレートアトランティスへの短期留学に赴いていた。なぜか、何雪雪尽も一緒だ。己業は、おそらくリアディウム関連。勉学系では、絶対にない。しかし、雪尽なら普通に留学して恥ずかしくない学力がある。
この2人の共通点が見えない所だが。ひょっとしたら、雪尽は、己業に合わせたのかも知れない。己業が合わせるのは無理だ。そんな実力は無い。だが、雪尽ならば、己業に合わせる器用さが有る。
そして、去年から音信不通。と書くとかなり不穏だが、事前連絡は有った。雪尽も一緒に、しばらく連絡が取れなくなると。
戦草寺と野牛の予想としては、リアディウム関連。あるいは、新規のシルエットやドレスの体験、実践をしているのかも知れない。高校王者の己業なら、十分に有り得る。
それに、オリーブアイランドのあの一殺のプレイヤーも同じく留学に行ったらしい。より説得力を持つわけだな。
それなら、雪尽がやはりオカシイが。雪尽は、己業とずっと一緒に居ても不思議ではない。
そして、3人は秘密保持のために外部との接触を絶たれているのだろう。最近は、どこも情報の漏洩に気を付けている。グレートアトランティスも同じか。
話題に出したが、オリーブアイランド高校や他の学校とは今でも親交がある。夏の大会以降、何かと親善試合を組み、幾度も戦った。
大きなイベントとしては、リアディウムトライアスロンが挙げられるか。技四王の参戦表明に引き続き、全国の強豪もこぞって参加。
本当に、熱い秋だった。
奇しくも2月3日。
全宇宙リアディウム大会開幕。
開会式の始まりだ。
「声は、聞こえているか?・・・聞こえているな」
挨拶は、鬼業。会場に集い来た千以上の生命に向けて話し始める。
「まず、お前達の勇気に敬意を表す。良く来た。敗北の苦味を厭わず、己の弱きを知る事を恐れず。ここに来たのは、そんな猛者ばかりだと分かる。嬉しいぜ。強い奴らに会えて」
鬼業の言葉が会場中に響く。声によるコミュニケーションを取らない種族のため、触覚信号、視覚信号による伝達手段も講じられている。
「勝負の方法は、知っているだろうが。再確認しておこう。決着は、リアディウム。が、おれ達はそれに習熟している。アンフェアだな?ゆえに、おれ達と他星の者達が当たった場合、その星の有利な地形にて勝負となる。全力を出して欲しい」
例えば、重力のキツイ星の人間と当たると、己業らはその環境で戦う事になる。全種族分の環境を用意するのに、多少の時間はかかった。
「だからと言って、おれ達も簡単には負けてやれん。何せ、本物の宇宙の支配権。アトランティス星の最強のロボット達が、ごっそり味方になる。これは逃せん」
鬼業の言葉には、絶対的な重みが有った。そして、アヴリオも概ね満足していた。わざわざ人間如きと組んだ甲斐が有る。これなら、人間達は言う事を聞きやすいだろう。
「だから。勝っても負けても恨みっこ無し。1回こっきりの勝負だ。次回は4年後。分かるな。今日、決まるんだ」
誰も、喋らない。しわぶき1つ無い。
「全て出せ。お前らの本気を、出し惜しみするな。後悔したってしきれるもんじゃねえ。この晴れ舞台で何もしなかったなんて、泣けもしねえぞ」
何人かは歯を噛み締めた。何人かは拳を握った。その全員の挙動は、つぶさに事細かに、アヴリオの監視下にある。
「手を、上げろ」
真っ先に己業が上げた。地球人らは己業に負けず劣らずの速度で上げる。そして、ロボット達も順々に上げて行く。まるで自由意志ででも上げているように、バラバラに。無論、アヴリオの指示だ。
それを見ていた宇宙人達も、戸惑いつつ徐々に伸ばして行く。
アヴリオはその光景を見定めていた。今回の大会、本当に人間は従うのか。ここに現れなかった星の人間も、ここに来た人類から情報を得、教育するつもりだ。どうやら、人間は御しやすい。先刻承知ではあったが。
「そう。その手が、お前らの行く末を決める。その手で、自分を引っ張り上げるんだ。お前を、お前自身に委ねろ。今日の仕合。楽しみにしてるぜ」
轟音。万雷の拍手。やはりアヴリオの指示により、ロボット達の中から拍手の音を増やして行った。自然に大きくなるように。
己業は、父の姿に胸を熱くしていた。おれもこうやって、人と楽しく遊びたい。殺すだけに留まらない、ぶちのめしつつ生かし、活かす。
この会場に居る者共。宇宙人。彼らと戦える機会は、そうはあるまい。今日、この機に、このおれに何が出来る?
生かし、叩きのめし、リアディウムの虜にし、おれの客にする。
この以無己業は、リアディウムでメシを食う。客は、いくら居ても構わん。何人もの彼女とのデート代を稼がねばならんのだ。そして、結婚資金にもなってもらおう。
ここに居る全員、おれのモノにしてやる!!!
己業の、この会場の誰にも劣らぬ欲望。
これが、宇宙の希望だ。




