策略。
地球を旅立って、早3週間。イデアの言葉によれば、迷彩を施しつつの隠密行動を取らなくて良いので、鬼業らよりは早く到着するらしい。
宇宙の道行は、それなりに面白かった。
その中でも、5人全員で1隻の船に搭乗した理由は。
「テレスもアトムも、こんなものではありませんよ」
「オ オ!!!!」
「フッ!!」
イデアの声をさえぎるように、己業が飛び真歩が消えた。ムミョウ・ユキテラシが全速を以って空から強襲、全開の貫吼。それに合わせて、一殺宝仕が横殴りに棒を突き入れる。貫吼の効果範囲ギリギリで「イデア」を推し留める。
しかし、その全ての攻撃が、逸らされる。
そして、全周囲攻撃による反撃。その繰り返しによって、ムミョウと一殺は、2人がかりにも関わらず、敗北した。
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
「はい。ありがとうございました」
イデアに教わっているのだ。世界最強クラスの戦法、実力を。
「化け物ですね」
「本当に」
己業と真歩の意見は一致していた。
想像の遥か上。これは、一体。
拠辺無交を基本とした回避体術から始まり、一瞬千撃を打ち込むメカニズムの説明。全ては、リアディウムの習い。
滴も、おぼろげに知っていた事だが、再確認。雪尽は、何となく。
そして、己業と真歩は全力で学習中であった。
別に口止めをされていたわけではない。だが、後輩をわざわざいじめる趣味を持っていない知明は、後輩の前で拠辺無交を使った事が無い。
どうにもならないからだ。
学生レベルでこれに対応する、習得するのは至難の技。雲技知明からして、才能と攻防の環境が無ければ、操れたとは全く思えない。
今までのように、基本の身体能力に胡坐をかいていては、勝てない領域。そこに己業達は、足を踏み入れた。最上級の世界に。
なまじ肉体を鍛え上げ、現実での身体操作を磨いて来た己業と真歩は、上手く馴染めていなかった。
そこでは、今までよりも更に脳内操作が重要になって来る。正直、己業の理解を超え、真歩もさっぱり分からなかった。
滴でもギリギリ。雪尽は。
「ダークホースですね」
「ありがとうございます」
雪尽の拠辺無交からの攻撃は、見事にイデアに命中。ダメージを与える事に成功。
己業達2人で不可能だった事を。1人で。
「君の彼氏?彼女?すごいね」
「彼女で良いですよ。はい。おれの雪尽は、すごいんです」
自慢たらしくふんぞり返る己業。誰なんだお前は。
ヴィジョンでの戦闘を繰り返す道中。対イデア戦で、最も勝率の高いプレイヤーは、雪尽だった。次が滴。最下位は、己業と真歩が同率。
何雪雪尽には、格闘の心得など無い。体育の成績が悪いわけでもないので、人並みには動けるが、己業らと比べればあくまで常人でしかない。
だが、雪尽には知識があった。拠辺無交の概念を聞いた時。雪尽は、イメージした。マイクロチップや原子、ナノマシンを。より小さな単位。そして、早いもの。光ファイバーケーブル、音波、テレビ。
それらを複合。より小さく早いものに己を託す。己を数千に分割、その数千の己を光より早く動かす。
それを、現実の動きとしてシルエットを操る。ヴィジョンには実体は無い。あるのは、仮想であり、影だ。影は、光の作用に光の速さで追い付く。影もまた光速を実現するのだ。
文字通り。シルエットとは。プレイヤーの動作意識の影。必ず、追い付く。
それを、我が体で 実行する。いくら理論を知っていようと、無意識が拒絶したら。非現実的だと否定したら。影は、動かないままだ。
雪尽は、シルエットもヴィジョンも門外漢だ。遊びで動かしただけ。まともにやり合えば、野牛にも戦草寺にも相手にしてもらえないレベル。
だが、リアディウム如きとは比べ物にならない暴れ馬を御した雪尽だ。己業の港になれる男なのだ。
イデアの言った事をそのまま受け入れて、そのまま実現する程度、朝飯前にこなす。
在るモノを在るがままに受け入れるのは、得意だ。
そうして、己業に教えてあげるのだ。
適正と欲望の見事な融合。雪尽の、リアディウムでの才能は、かなりの物だった。
大動滴は、覚悟を決めた。宇宙への遠征。安全の保証、無し。それでも、この仕事、大儀は有る。お国のために頑張ってみよう!!
などと。そのような殊勝な考えは、当然無く。
数合わせ、と管理センター代表、イデアから聞いた。子供達の保護者的なポジションで良いのだろう。実戦も発生しないだろうとの事。
ならいつものように、リアディウムでの動きをするまで。
己業達に実戦形式で動き方を教える。穿始は、限りなく生身に近いシルエット。素の能力は、攻撃力も防御力もほぼゼロに近い。あえて削ってはいないが、物の役には立たない。完全にゼロにしていないのは、不自然だからだ。
流れを、消さない。力の流れを、知覚するために、より多くの情報源を保つ。
数合わせ。そう言われても。宇宙だろうが、異星だろうが、そこでやるのはヴィジョン。ならば、こちらに分が有る。
遠不真歩は、勝利以外を求めていなかった。初めての宇宙。知明以外の世界レベルの実力者、と言うより間違いの無い世界最強との遭遇。
戦うしかない。これから行く場所には、人類前人未到の戦場が有る。
戦人の誉れだ。この私が、選ばれた。己業の縁だろうと何だろうと。
より多く屠る。
真歩の危険な勘違いは、大会終了まで正される事は無かったが。不都合も無かったので、まあ良い。
12月31日。宇宙船の中で、己業と雪尽は誕生日を迎えた。同じ日、同じ病院で生まれたのだ。鬼業も、雪尽の両親も、病院で知り合い、それ以来の付き合いだ。
「大したものは用意出来ませんでしたが」
言いつつ、巨大なケーキ。ロウソクも。今、ライターで滴が火を点けてくれている。流石に年齢分を飾るとケーキが崩壊するので、2人分、2本だ。
宇宙船内で、火を使う。自然に行っているが、かなりすごい。どんなシステムだ。ま、今更か。4人もの人間が好きな場所で好き勝手に呼吸をしている。空気の循環は万全。そもそも、このシステムは、ライキ・アゴラのために開発されたのではない。グレートアトランティス、地下実験施設で既に何十年も前から実用されている。ゆえに信頼性は高い。オーバーコートやロボット兵の実験にて、自然と発達していった副産物だ。
イデアの分は、他のロボット達と同じ、オイルを用意。イデアだけは専用のオイルを必要とするが、同じように乾杯。
宇宙でのパーティも、存外に楽しいものとなった。気の合う仲間さえ居れば。どうにかなるものだ。
2月。地球では、3学期が始まり、リアディウム部も鋭意活動しているだろう。いや、あの2人なら、冬休みでも平気でガンガンやっていただろうが。
アトランティス星は、いまや滅多に見ぬ活気に包まれていた。
映像フラッグが立ち昇り、横断幕が街路を飾る。
「全宇宙リアディウム大会開幕!」
そんな謳い文句が、星の隅々に行き渡り、降り来た他星の生き物達を出迎えていた。
1月も終わりが見えかけた頃。己業達のライキ・アゴラはアトランティス星管理センターのエスコートを受け、正々堂々と着陸。
グレートアトランティスの船が、アトランティス星に正規ルートで到着。プラテニウスやイデアには、感慨深い情景であった。
あらかじめアヴリオから連絡を受けていた鬼業らは、己業達を迎えに来てくれた。
「無事に来たな。良く来てくれた己業。雪尽君も、有難う」
「おれは良いけど」
「僕もです」
大動滴の姿を認めた鬼業。
「滴。お前にも迷惑をかけるな」
「本当ですよ・・・。鬼業さんのご活躍で、決めて下さいね」
あちらでは、真歩が知明と旧交を温めている。イデアもテレス、アトムの歓迎を受け、プラテニウスとも再会を祝った。
アヴリオも、来ている。
「これがあなた達の増援ですか。鬼業、あなたがしたたかな人間であるのは認めます。ですが」
子供が、3人。それに、もう1人の大人も、鬼業や知明レベルの強者にも見えない。あまつさえ最後のロボットは、不恰好にも程が有る。こんなモノ、アトランティス星なら1秒の存在も許しておかない。景観を損ねる。
「ま。やりゃあ分かる。おれが頼んだ、おれが必要とした人材よ」
実際、鬼業自身、そこまで期待はしてない。戦力、と言う意味ならば。
狙いは別にある。
リアディウム宇宙大会まで、日はそう多くない。残り1週間と言った所か。鬼業としては、己業らを、始めから戦力として待ち望んでいたのではないので、大会出場に間に合えば良いと言うスタンスだった。
そして、10人全員で会議。宇宙船内が安全なのだろうが、隠し立ては要らぬ不和を招く。アトランティス星、割り当てられた部屋に集まり、話す。
監視盗聴があろうと、気にしない。
「改めて。皆、良く来てくれた」
鬼業が全員に頭を下げる。
その姿を見ていた己業は、誇らしかった。父の働きによって、皆が動いている。父の意思によって、事が運んでいる。
ただ腕力が強いだけではない。それなら、万力で良い。
プラテニウスのおじさんに頼まれた仕事を、過不足無くこなしている。かどうかは本当は知らないけれど。
「このアトランティス星。少々騒がしい。お祭りになっているだろう?お祭りで、終わらせる。戦争には、させない。そのために、このリアディウム大会で勝ち、大義名分を手に入れる。ロボットよりも強く、あらゆる宇宙人よりも、技巧者であると見せ付ける。そして、なあなあの内に、アトランティス星の支配権をもぎ取る。その時は、プラテニウス。お前にやってもらうしかないぜ」
「ああ。このおれは、まだ何もしていない。全て、お前にやってもらっている。せめて後始末くらいは任せてもらおう」
頷き合う2人。そして、イデアが話し始める。
「テレスとアトムに話を聞きました。この星の管理センターに侵入出来なかったと。ここから取り得る手段は、2つです」
イデアの顔部分から立体映像が出力される。
「1つは新たな管理センターを作り出す事。根幹は、私が成ります。ロボット母艦とロボット兵のデータさえ取得出来れば、不可能ではないと思います」
つまり、乗っ取りだ。首脳部を、すげ替える。そしてアトランティス星を自在に操る。トップがイデアになるので、グレートアトランティス管理センターがそのままアトランティス星首脳陣だ。
「2つ目。こちらが、現段階での最も現実的な策ですね。鬼業さんの提案そのままに、アトランティス星との取り引きに持ち込む。ロボットに、アヴリオに、人類の優位性を見せ付ける。人間の言う事を聞いても良いと思わせる。地球を守護、宇宙の平安のためのロボットによる宇宙警備を実現。攻め込むのではない、警戒現状維持。それを全宇宙に宣言する。アトランティス星を矢面に立たせつつ、地球への攻撃を防ぐ」
鬼業の策。
取りあえず、この戦乱に関わりの有る全員をあぶり出す。そうしてから、一網打尽に言う事を聞かせる。
流石に皆殺しには出来ない。そんな事が可能なら、過去のロボット達がとっくにやっている。実際、アヴリオが実行したはずが、この有り様だ。少々殺そうと、滅ぼせない。なら、生かしたまま、操る。
全宇宙の支配権。しかも、かつて己らを滅ぼしかけたロボットによる護衛付き。エサとしては、これ以上は有るまい。
更に、乗って来なかった奴らには大義名分は無い。いかにそれが、こちらに都合の良い話であろうと。あちらに余裕が有るわけではない。無視を決め込めるものでもなく、分が悪かろうと、乗らざるを得ない。
そして、この賭けは、美味しい。
特に、クレミジ星人のように、アンディヴィオティカ内にて少数派の人種にとって、一発逆転のチャンス。生存の確保から、良い暮らしに、格上げだ。
例え、アンディヴィオティカの勝利に終わろうと。クレミジ星人らは、結局細々と生きて行くしかない。それは・・・嫌だ。
この宇宙で、自由を勝ち取りたい。その機会、逃せない。
鬼業は、不和の種を撒く。アンディヴィオティカが、一時的な同盟に過ぎぬ事を、今一度思い出させる。
アンディヴィオティカは、恐らく綺麗事で固めているはず。結束の始まりは実利的な関係だろうが、それだけでは持たない。それでは、アンディヴィオティカが勝っても、何が変わると言うのか?だから、宇宙の開放だとか、ロボットによる恐怖を取り払うとか、そんな建前が必要だ。それがつまりは、己らの都合の良い世界作りのためであると言う当たり前の事実を突き付ける。
さあ、誰が得をする?
主導権を担えるのは、たった1つの種族のみ。
相争い、食い合うが良い。
鬼業は、残酷な策略を取った。リアディウム初心者には、万に一つの勝ち目も無い戦いに誘った。自分達のために、弱者を利用した。
男のやる事ではない。
だが、一切迷わず全力を振り絞り策を練った。アンディヴィオティカを無力化し、そしてロボットを従えるために。
己の拳で終わらせられぬなら。意に沿わぬ道を行かざるを得ないなら。己の弱さを呪うしかない。そして、何も言わずに事を済ませる。
プラテニウスには片棒を担いでもらう。だが、他の者は数合わせ。子供は遊んでいれば良い。それが、子供の仕事だ。
鬼業は、妻子を得て、変わった。昔の鬼業なら。手当たり次第潰しにかかり、死んだらそれはそれで良しとしただろう。そこには、確かに潔さと気高さがあった。・・勝手気ままとも言うが。
だが、今の鬼業は、それでは済ませられなくなった。
代々伝わりし、以無の口伝。1つ、「女を守れ」。1つ、「子供を守れ」。3つの習いの内の、2つ。
鬼業にも、龍実を得て、やっと意味が分かって来た。この女を失ってはいけない。子を失うのも耐え難い。
そのためなら、何でもする。汚かろうと、卑怯だろうと。男としての見栄、かっこよさ。それら全てを捨てても、良い。
本当に守るべきものと、出会ったから。だから、今の鬼業は、何を捨ててでも、動く。
それは強さ。そして弱さ。
守るために手段を選ばなくなったのに、弱さ?
その答えは、己業が教えてくれる。しばし、待て。




