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超幻影リアディウム!  作者: にわとり・イエーガー
アトランティス編。
48/89

夏休みの日々。

 夏休み物語。第1話。



 戦草寺泉船は、初めてのデートに着て行く服に迷っていた。家に代々伝わる鎧兜では不味かろうと言うのは分かる。なら、何を着れば良いのだ。


 知っている者に聞こう。


「はい」


「あ、雪尽君?私、戦草寺。突然ごめんなさい」


「ううん、良いよ。でもどうしたの?今日は己業は、来てないよ」


 対己業最強、何雪雪尽の教授を願うのが、最善。


「違うの。私、己業君とデートの約束を取り付けたのは良いんだけど、服が分からなくて」


「はは。戦草寺さんらしいかも。でも、そんな気にしなくて良いんだよ。己業は、例え戦草寺さんがジャージ姿でも本気で可愛いって言うから。だから、楽な服装が良いと思うよ。1日遊ぶ予定なら、その間ずっと着てるわけだから。あんまり着心地の良くないのは、デートの時は除外して。それで考えよう」


 雪尽の言葉には有無を言わさぬ説得力が有った。


「なるほど。流石、雪尽君」


 流石は、我がライバル。


 その後、雪尽に礼を述べ電話を切った戦草寺は、動きやすくて少しの女性らしさをアピール出来る衣服を選ぶ。選び終わった頃には、日が暮れていた。雪尽に電話をかけたのは、お昼だったはずなのに。


 3日後。夏休み真っ只中。午前10時。待ち合わせ時刻丁度に、戦草寺は待ち合わせ場所である、家の玄関に出た。


「おはよう戦草寺」


「おはよう己業君」


 10分前には到着していた己業だが、チャイムを鳴らしてせっかちな男だと思われないかどうか心配して、何も出来なかった。


 彼氏が玄関先で迷っていた時、戦草寺と言う女は、寝ていた。お布団に包まっていたのではなく、デートの時を待ち構え、瞑想していた。己の精神を、ベストの状態に持って行っていた。


 戦草寺の家は、学校から北西へ徒歩1時間ほどの山中にある。それなりの距離があるので、普段はバスで通っている。己業は汗をかかない程度に軽く走り、10分で着いた。


「行こうか」


「うん」


 返事をすると、戦草寺は己業の手を取った。手をつないで、歩く。



 デート!!!!!


 おれは今!女の子とデートをしている!!!


 己業は、そ知らぬ顔で大興奮していた。


 グレートアトランティスでも、複数人とデートしていたが。この、自分の日常の中で女子と触れ合うのは、また格別の趣きがある。


 戦草寺の家からちょっと歩くと、そこは山のハイキングコース。山頂付近まで歩道が伸びている。


「そんなに人居ないんだな。夏休みだから、家族連れとか多そうだと思ったけど」


「うん。やっぱり多いのは秋かな。紅葉と渓谷の光景は、すごく綺麗だよ。また、秋にも来ようね」


「ああ」


 お互いに笑みを交わしながら、ゆっくり歩く。


 川の音が聞こえる。谷を遠くに見ながら、ゆるやかな傾斜を上って行く。


ぱん


 気を軽く撃ち出し、道の真ん中に張られたクモの巣を払う。気は1メートルも進めば雲散霧消するよう、荒い作りにしてある。


「便利」


「まあな。でも、これで立たなくてもテレビのリモコンが使えるかな、と試した事あるけど。ダメだった」


 弱くすればボタンを押し込めない。強くするとリモコン本体を吹っ飛ばす。不器用な男だった。


ふふ


 戦草寺は、こっそり笑った。握った手は、痛くない。自分の手より堅くてがさがさしているけど。同じ力で握り返してくれる。不器用かも知れないけど。


 登山道には、渓谷を楽しむコースと山の頂からの風景を望むコースとが有る。今回は、ちょっとだけ山を登って、途中の東屋あずまやで昼食。別に食べずに休憩だけで帰ったって良い。お腹具合と相談だ。


 徒歩1時間経過。己業はともかく、戦草寺もそう疲れてはいなかった。何と言っても現役の高校生なのだ。体力は、適当に有る。


はあ、はあ、


 とは言え。山道ゆえ、日陰を歩けてこれたが、流石に体は熱を持つ。真夏だからな。


「もうちょっと・・。がんばろ」


「ああ」


 多分に自分に言い聞かせた言葉だろうが。己業は、戦草寺の手をしっかりと握り、同じペースで歩いて行く。


 東屋からは、山の中腹の光景と、谷のせせらぎが聞こえた。緑を深めた若木達と、見えずとも力強く響く水の流れ。


 木の豊かさが水の豊かさを暗示し、更に音が水の流れをはっきりと現す。だからとて、目には見えない。見ずに、知る。見えずとも在る。そう言った効果を狙ったかどうかは知らないが。


 ロマンチックでは、あった。


 2人はお喋りをして、普通に帰った。口付けなどもしたが、特筆すべき事でもあるまい。


 2人は恋人なのだから。






 第2話。



 野牛海苔子は緊張していた。男子が、家に来る。それも、恋人が。


「いかんな・・」


 気が付けば、同じ箇所を掃除していた。家全体も、2日で2回綺麗にしたのに。


 野牛は1人暮らしをしている。つまり、これから男と2人っきりで、1つ屋根の下。


 落ち着かない。これで何も起きなければ良いが、それはそれで残念な気もする。奴は、どう思っているんだろう。


 夏休みも、残り1週間。己業の宿題も終わり、自由を得たと言う事で野牛が誘ったのだ。いつものリアディウムの帰りに。


 学校でのヴィジョンの練習は、野牛は自主的に毎日行っていた。時間の許す限り、ずっと。戦草寺や己業が、やり過ぎをいさめる位には。


 己業は、野牛の執念が気になって、話をしたいとは思っていた。恋人でもあるしな!



 ソファに寝転がり、目を閉じる。


 もし、己業に体を求められたら。どうする。


 まだ、子供が出来るのは早い。よな?そうなんだよな?自分。


 断るべきか。いやでも、もったいぶる女は。あいつには、既に複数の恋人が居る。私は、必要な女では、ない。


 むう・・・・・。


くおう


 野牛は、寝こけた。


 毎日練習し、毎日勉強し、毎日体を動かしている。本来運動部ではない野牛に、肉体鍛錬など必要無いが。中学辺りから、ずっとやっている。


 健康維持と身体の健やかな成長を促す。1人暮らしで最も問題なのは、体調を崩した時だ。自分が動かなければ、食事も薬も出て来ない。夏なら、三角コーナーの生ゴミの放置など、地獄の門が開く。


 肉体を適度に健康な状態に保つ。これは、心しておきたい。


 その健康な野牛は、健康に昼寝を始めた。


 己業の来る、直前に。




・・ぽーん


・・・・ぴんぽーん



 ・・・宅配便・・?


 ・・・・己業か!!


オ!


 野牛はソファから起き上がると、全速力で廊下をダッシュ、階段を転ばぬよう、されど全開で駆け下りた。


ばたん!


「待たせた!!!」


「あ、い、いえ」


 確かに待った。チャイムを押しても出て来ないし。体調不良で倒れたのかとも思ったが、昨日会っている。その時の感じで、いきなり倒れるのも、考えにくい。何かアクシデントでも起きて、風呂かな。それが己業の思い付いた合理的解釈。


「悪い。昼寝してた」


「そうなんですか。全然大丈夫ですよ」


 珍しいな。己業の感覚では、野牛はかなりちゃんとしている。来客の前に寝こけるなど、有り得ない。


「先輩、夏バテとか」


 だから、普通に心配した。


「いや・・。その。普通に、緊張してだな・・」


 普通に心配されたので、こちらも普通に返した。気の利いた返しも出来ず、もごもご・・。


「そうですか」


 己業は、少し笑って、お邪魔した。玄関先で話も、なんだ。野牛が外聞を気にするかどうかは知らないが、人目にわざわざ触れ回る事もあるまい。


 野牛の家は、普通の一軒家だ。そこに1人で住んでいる。両親は、高知市に。元々は、一家で技四王町を離れ、市内に移ったのだが、海苔子だけが技四王に帰って来た。家はそのままにしておいたので、帰るに不都合は無かった。ただ、家事の一切を真面目にこなし、定期的に見に来る母親を納得させなければ、この生活は即打ち切られる。都市部に、親元に戻らなければいけなくなる。


 そんな事情も有るので、野牛としても要らぬ騒ぎは起こしたくない。恋人の存在はともかく、1人暮らしの家に連れ込んでいては、強制的に戻る事になるだろう。


 と言う事で、野牛の部屋に。


 実に自然な流れだったが、野牛はドキドキしていた。


「美味いですね、これ」


「ああ。気に入ってくれて嬉しいな。私のお気に入りなんだ」


 野牛がお盆に載せて持って来てくれたのは、氷の入ったグラス。中の飲み物は、牛乳。


 超健康。


 流石に、牛乳を来客に振舞う習慣には初めて出会った己業。最初見た時は、目を見開き、野牛への評価を高めた。


 ただ、お盆には牛乳以外の物もあった。コーヒーゼリーだ。お店で売ってるカップのじゃない。家庭のガラス容器に入っている。


「口に合えば良いが」


 野牛の声を聞きつつ、己業は口に運ぶ。


「・・うま」


 ミルクと言うか、シロップが付いてなさそうだったので、苦いかなーと身構えていた。だが、苦味は強くない。コーヒーの風味がそっと広がり、味わいはさわやか。色は全くの黒なので、強烈なブラックコーヒーを想像させるが。甘くないが、食べやすい。ちょっと甘みのある牛乳と、良く合う。


 もりもり食べる己業を見て、野牛も安心して食べ始めた。


「美味しかったです。もしかして、先輩が作ったんですか。これ」


「ああ。手慰みだがな」


 1人暮らしなので、晩ご飯も1人だ。テレビを付けて、少しの音と共に食事を取る。その時間帯の番組に、たまに料理コーナーも入る。気になったものはメモを取り、作ってみたりする。


 リアディウムに心血を注いでいる野牛は、家では勉強以外する事が無い。先述した運動も、長時間を必要とはしない。そんな環境の中、家庭内で必ずやる事として、料理をし始めた。正直、そこまで上手くはない。今のコーヒーゼリーにしたって、テレビで見たまま作っただけだ。誰でも出来る。


 それでも、己業が美味しいと言ってくれた。なら、悪くはないのだろう。良しとしておいてやるか、自分。


 人心地つき、リアディウムの話題など。


 この2人に共通のテーマは、それしか無かった。とは言え。


「そうか、確かにムミョウのままでは、副武装は使いにくいな。別シルエットの構築を、練習がてらやってみるか」


「はい。ムミョウとは、全く違う遊びもしてみようと思って」


 こんな話は、部室でも出来る。


 お互い、間合いを探っている。これからの展開は、どう転がせば良いのか。


 しばし、沈黙。


 己業は氷だけになったグラスを見詰めている。別にお代わりが欲しいわけではない。野牛は、己業を視界に入れつつも、特に動きはない。


「己業」


「はい」


「したいか」


「は?」


 ヴィジョン?


「・・セックスだ」


「あー・・」


 野牛は、顔を赤らめてはいなかったが、そわそわしていた。


 そんな野牛を見て、己業は少しほっとした。


「しません。すると、子供出来ますからね」


「ん・・。まあ、な」


 子供が出来る。子作り、と言うのは伊達じゃない。例えコンドームを用いたとしても、避妊の確率は90数パーセント。100パーセントでない以上、出来る前提で居た方が良いだろう。


 だから、セックスは、今すぐ子供が出来ても良い状態でやる。


 これを例に出すのは、どうかと思うが。鬼業などは、確かな職業がある。更に、お仕事中に死んで龍実と子供達だけになっても、龍実にはグレートアトランティスでの生活は必ず保障されている。だから、鬼業が死んでも以無を継げる己業達を作っておける。別に本能だけでやってるわけじゃない。こう言った意識的、あるいは無意識の思考も有る。


 今の己業には、それが無い。リアディウムで、グレートアトランティスに属して働くのだとしても、まだ全然モノになっていない。


「おれがちゃんと働き始めたなら。おれの子を産んで下さい」


「お、ああ」


 ・・・結婚は?


 野牛は、その疑問をぐっと飲み込み、頷いた。


 己業の結婚相手は、一体誰になるんだ・・。野牛の、新たな謎だった。


 その後、2人は部屋でいちゃこらしながら、プレイヤー同士でもなく上級生下級生としてでもなく、人間同士として仲良くなっていった。それこそ、人生を共に送る者同士として。


 詳しく書く必要も無いが。野牛は、他人の体温とは、案外熱く感じるのだと、初めて知った。






 第3話。



 夏休みが終わるまで、残り1週間を切った。技四王高校リアディウム部は、相変わらず部活動に熱を入れていた。夏休みが終わるまでに迎えた来客も、かなりの数に上る。オリーブ、浸中、漠府・・。長期休暇だからと言って、平気で高知県まで来て、稽古して行った。中国地方の漠府と、同じ四国のオリーブは、早くに出れば日帰りでこなせるからともかく。全国大会のあった富山から然程離れていない滋賀県の浸中は、泊りがけだ。大変な熱意と言わざるを得ない。いくら浸中が名だたる進学校だっとしても、事実、費用はかかる。部費として捻出するにも限度があろう。


「あー。そう言うのは気にしなくて良いかな。ウチは、費用の制限無いから」


「すごいな」


 己業だって、学校の予算など考えもしないが。それでも、予算制限が無いとは。


「一応、私立の進学校だしさ。おれもこれで、成績は良いよ」


 浸中では実力を示せば、その分、出来る事が増える。浸中リアディウム部は、普通に成績優秀者が集まっているので、かなり融通が利く。


 利始理来異抜居りしりきいぬい 馬新ばしんが言う。普段、アウトドア部がカヌーを泳がせる川を見ながら、2人は川岸で昼食を取っていた。野牛、戦草寺は部室で他の浸中の生徒と一緒に食事をしている。


 己業は天気が良いので、外に食べに来たのだ。馬新は、その己業を追いかけて来た。弁当も持って。


 そして。己業には、1つ。驚愕の事実が有った。


「浸中って、色々自由なんだなあ・・」


「ん?おれの事?」


 馬新は、自身のスカートをつまんでみた。


 馬新は、女生徒だったのだ。


「全国大会の時、確か、男子の制服だったよな。お前」


「あー。別に、そうも決まってないんだよ。ズボンでもスカートでも、ウチの指定服なら、何でも」


 ズボンだから男子、スカートだから女子、と言う区別は浸中には無い。その代わり、男女の別は、また違う方法で識別する。現代日本でトイレまで男女共通と言うのは、珍し過ぎる。何もかも同じとは行かない。


「へえ。まあ、ズボンのが似合うか」


「そう?」


 馬新は、こだわりが有って男装などをしているのではない。何となく以上の意味は無い。


 が。


「じゃあ、もうちょっとこだわってみようかな」


 褒められて、嫌な気分もしない。





 3校との練習試合、合同稽古は、とても面白かった。己業始め、技四王の生徒は毎日下校限界まで粘り、時間の許す限りの戦いを繰り広げた。3校と言っても、1度に招けるのは1校のみ。技四王高校にはヴィジョンユニットは1台しかないのだ。それも、部のパソコンに搭載したタイプだけ。新設の部には、有るだけで有り難いと言えるか。


 漠府、大将の砂砲灼熱さぼてんの威力、浸中シルエットの真価、オリーブとの切磋琢磨。


 全てが心地良かった。


 また、全国大会と言わず、何時でも相手になろう。皆とそう約し、別れた。




 オリーブの帰った翌日。夏休み終了2日前。部員は掃除に来ていた。毎日来て毎日掃除しているのだから、特別な掃除も必要無いが。ずっと使い込んだので、大掃除だ。


 大掃除と言っても、部室と廊下、それに階段。使わせてもらった箇所を重点的にやるだけだ。部員数が多ければ、学校中やったって良いが、3人ではキツイ。適当で良い。


 と。


ぽつり


 雨。


ざあああ


 夏には珍しくもない、突然の豪雨。


「おっと。己業、どうする?」


「んー。普通に濡れて帰りますよ。荷物も無いし、どうでも良いですよ。雨なんて」


「流石、男の子」


 野牛と戦草寺はバスで帰る。己業だけ徒歩だ。


 しかし、降る。バス停まで傘を差して駆ける2人を見送った己業は、気合を入れて走ろうとする。はっきり言って、己業が走れば家まで1分もかからない。まあ、本気を出すには、飛ばないといけないので、それはそれでご近所を騒がせてしまうのだが。こんな日は、見逃してもらおう。


「己業君」


「はい?」


 先生。職員室に行ったはずだが。


「乗って行きますか?」


「え。はあ」


 ?いや、良いけど。なんで?


 先生が自動車を学校の玄関先に回してくれたので、乗り込む。いつもの助手席に。


 すごい雨だ。フロントガラスを叩く、強い雨。透明ではない、白の雨。


 思い出す。輝光白蛍大将のシルエット、雪辺の輝きを。


 今度は、もっと強いおれで会いたい。もっと、あの人を楽しませたい。もっと一緒に楽しみたい。素晴らしい戦いをしたい。


 知らず知らず、己業は笑んでいた。威を伴う笑みであったが、千誌には見慣れたものだ。見慣れた、可愛い笑顔。


 千誌の心をもし、第三者が見れたなら。その趣味のズレっぷりに興味を覚えた事だろう。無論、心を見るなど、誰にも出来ない。


 知るのは、自分だけ。


「今回の時間は、わざとです」


「はあ」


 それは、先生が送ってくれたのだから。故意と言うか、先生の意思は有るだろうさ、そりゃ。


「今から己業君の家まで、デートです」


「おお!」


 短い!自動車なら、ゆっくり走ったって2分はかかるまい。


 2分間のデートか。


「学校内でも、プライベートでも、2人きりになるのは良くありません。ですから、こう言った場を設けました」


「ありがとうございます」


 校内で、己業だけ特別扱いは他の生徒に示しが付かない。己業をちゃんと、恋人として宣言するのならまだしも。まあ、それはそれで別の問題、生徒とのお付き合いってどうなの?を引き起こすので、やめとこう。


 だから、学校内でもプライベートでもない場、帰宅の時間を選んだ。雨なら、言い訳も可能。


「己業君は、これでプロの道をしっかりと歩むのですね」


「はい。リアディウムを遊んでみたいと思っています。おれより強い奴らが居る。そいつら全員と戦っても、そいつらは死なない」


 今までの強敵。クマ、ライオン、ゾウ、キリン、カバ、クジラ・・・。全て、死んだ。死んだと言うか、殺した。父親に連れられ、世界を渡った事が有る。その時、全世界の強者と思しき生き物全種に勝った。が、その結果として世界の哺乳類は少々減少した。


 強敵と戦えば戦うほど、消えて行く。2度は戦えない。


 父の場合、人間の同業者、ライバルを大事にして、2度以上戦える相手をそろえている。己業もそうする予定だが、今はまだ居ない。父と同世代なら、自分より強い者達は居る。だが彼らとは、日本で会うのは難しい。


 リアディウムなら。一殺が居る。雪辺が、泉鬼が、ミノテリオンが。デイズ・グロリアスも、いまだ会った事のない雲技知明も、世界のトップランカー達も。


 死なない、と言う言葉を解釈不能な千誌だが。己業にとって、悪くない世界だとは理解出来ている。活き活きとしているから。


「良く分かりませんが、頑張って下さい。良い汗をかいていれば、人生はきっと大きく実るはずです」


「はい。卒業したらちゃんと就職して、先生をお嫁に迎えなけりゃいけませんからね」


「そうですね。楽しみにしています」


 己業には、先生の表情の動きが見えなかった。ただ、大真面目に言っているのは、もう分かる。


「先生は、子供は何人くらい欲しいですか?」


「そうですね・・」


 答えを待たず、到着。家の前で車は止まる。だが、ちょっと時間を置いたって良いさ。


「その時、また話しましょうか」


「はい」


 かわされた?まあ、良いか。


 千誌千歩は、答えを言いよどんだ。己業が、夫が望むのであれば、何十人でも産んでみせよう。しかし。子育てをする自信は、まだ無い。案ずるより産み育て適当に生きるが易し、産めば都と言う言葉も有る。とりあえず。3人ほど産んでから考えても良いだろう。


 千歩は帰宅後、己業にもらったチョーカーを巻いてみた。自分と己業の証。


 子供の気まぐれと一蹴するは容易いが。


 それなら、自分はどれだけ立派な大人のつもりなのか。全ての約束を守れる人間か?


 己業の卒業、就職。それからの輝かしい人生。・・なんとなれば、見送るか。


 先生の密かな、己業にすら知らせぬ悩みの解決まで、あと2年と少し。頑張れ、千誌千歩!負けるな、先生!

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