祝勝会。
鬼業は、海外出張。それもグレートアトランティスへ。
己業らはしばらく留守となる鬼業を見送り、いつもの生活へ。ただ、夏の合宿は、今年は無くなってしまった。
しばらくは、基礎トレーニングに勤しむしかない、か。
そして、鬼業の居ない間で悪いが。祝勝会を行う。
「お父さんはお仕事に行っちゃったけど。あなた達は、あなた達で楽しむのがお仕事よ」
龍実は笑顔で言った。鬼業が守ってくれている幸せを、子供達にも。
現在、午後1時。
「お客さんは、何雪さんちと、野牛さんに戦草寺さん。それと先生ね」
「うん。全員来れるって」
「じゃ、お買い物よろしくね」
兄妹3人、まずは雪尽の家に向かう。今回の祝勝会には、雪尽は家族全員で来てくれる。久しぶりに雪尽の料理が食べられる己業は、ウキウキだった。
「おはよう」
「おう」
半袖半ズボン。己業と変わらぬ格好なのに、どうしてこうも愛らしいのか。なんなら、己業は、雪尽を抱きかかえて買い物に行きたかった。おれの腕の中に居ろ、雪尽。
雪尽を加え、4人でスーパーに。店の前には、戦草寺と野牛の姿も。
ショートオール(短いオーバーオール)にチョッキ姿の野牛、涼しげな青のワンピースの戦草寺。野外活動には、野牛。可愛らしいのは戦草寺か。無論、己業の目には、どちらも惚れ惚れするほど可愛かった。「自分の彼女」補正が全開で効いていた。
「やあ」
「おはよう」
「おはよう」
己業が挨拶を済ませた後、雪尽と始業、威業も2人と挨拶を交わした。
「それで、バーベキューで良いのか?」
「はい。人数も結構多いんで、庭でやります。椅子、テーブルはちゃんと余裕が有りますよ」
「ふふ。ホームセンターには、寄らなくて良さそうだね」
キャンプ用品か。威業は、それも面白いと思っているが。
「手の込んだのは、家の中で作って、外に持って行く形になります。外では、網で肉焼いたり、エビ焼いたり」
「野菜もね」
始業からの健康的なツッコミ。
計6人の若者達は、各々の好物含め数々の食材を購入していった。親から預かった金銭限界をわきまえている始業は、チェックに忙しかった。
徒歩15分のスーパーからの帰り道。エカトの先導で歩んでいると、先生の車が横を通り過ぎて行った。
「お。丁度だな」
「だな。先生も来れて、良かった」
「本当に。4人で行って来ましたからね」
4人で向かい、戦って、帰って来た。全員で祝いたい。もちろん、応援してくれていた家族も。まあ、平日なので戦草寺のご両親は来れなかった。
家に帰り着くと、先生がジュースを下ろしていた。全員が飲めるよう、ペットボトルの飲み物をバリエーション豊かに取りそろえた。親御さん用に酒を用意するべきか迷ったが。見送っておいた。子供らの前にずらずら並べる物でもあるまい。
己業一行は、先に自分達の買って来た荷物を台所に置いて、ジュース運びの手伝いを。そして、料理の下ごしらえに入る女子組み。料理部の雪尽は、もちろんこちらだ。
そして、男子、己業と威業はバーベキューの火起こし。今回、炭は使わない。着火にも消火にも時間がかかるからな。裏庭の山の木から作った薪を使う。土地さえあれば、基本、タダで取れるので、加工の手間を惜しまなければ色々使える。的とかにもな。そして、1年乾燥させているので、良く燃える。
庭のテーブルの側で、バーベキュー用コンロを設置。コンロは、倉庫から取り出して来た。倉庫の軒先に置いてある薪も、順次運ぶ。一輪車で1回分だ。
薪の下に新聞紙を敷き、ライターの火を点ける。最初は、小さい枝を燃やすのが良いだろう。
己業が火を点けている間、威業が水の入ったバケツを2個用意。バーベキュー台は2つなので、これで丁度。
鬼業が洗って行ってくれた網をセット。しばらく仕舞っていたので、そこそこほこっていたのだ。
もう、食材を乗せても大丈夫だろう。と。
「用意出来てる?」
雪尽が野菜を載せた皿を持って来た。普通の割れる皿なので、注意して歩いている。
「おお。・・肉は?」
「野牛先輩が順番を考えてくれてるよ。すごい量」
「ああ。昨日、親父が買って来た分だな。今朝、おじさんが来てたんだよ。なんでか、滴さんも一緒に」
「滴さん?」
「ああ、グレートアトランティスで知り合ったトッププレイヤーの人。親父の知り合いらしいぜ。その人が、おじさんと一緒に家に来てさ。なんか話して、親父を連れてった」
「何か、って何?」
「さあ?おれ達は、風呂入りたかったし。それに、シリアスそうな雰囲気だったから、部屋に逃げた」
「まったく・・」
相変わらず、ヘンなとこが臆病な男。そう雪尽は思ったが、己業は、仕事の話かなーと席を外したのだったりする。人の心、人知らず。例え、想い人であろうと。
薄着で料理の支度をする雪尽の姿に、新婚感を感じ取り、己業はキュンキュンしていた。
バキイ
威業は、マイペースで薪を圧し折っていた。そのままでは、少し大きいので、ちょいちょい折って、コンロにくべやすくする。折った木は、エカトがくわえて、コンロ側に積んでくれる。
ちなみに。薪は、間違っても人間の腕力で折れるものではない。具体的には、鋼鉄のハンマーを叩き込んだとしても、簡単には折れない。自動車が踏んでも、普通に耐える。なので、気を入れつつ、てこの原理を用い、一瞬で薪中央部にパワーを発生させる。
パキン
小枝のように折り続ける威業に、己業は確かな成長を見た。上手い。おれがあの年の頃は、全力を出して折っていた。気と腕力のみで。コントロールなど、考えもしなかった。これが、才気と言う奴か。
己業も手伝い、エカトが隠れるほどの量を積んだ所で、燃料の用意も終わった。後は適宜、足して行けば良い。
火。冬なら、もっと気持ちの良いものだが。真夏の太陽の下で、人の知恵の炎を点すのも、悪くない。己業は、全身を汗にじっとり湿らせながら、悪あがきのように思っていた。
雪尽は、そのような思惑によらず、さらっと焼き始めていた。全員が来るのを待ったりしない。とっとと焼き上げて行かないと、全員が一緒に食べられないのだ。先んじて適当に皿に盛っておけば良い。
「肉だ」
野牛が来た。戦草寺はジュースを持って来ている。これは、昨日から有った奴だ。さっき買って来たのは、まだ冷蔵庫で冷やしている。飲みたい時に、プラスチックのコップに冷凍庫から氷を入れ、一緒に持って来れば良かろう。
雪尽の焼いている野菜網には魚介類を混ぜる。肉はもう1つのコンロで焼く。
「とりあえず、ウインナーでも行っとくか」
「高くて柔らかそうなのも、先に焼いて、あんまり多く食べれない人に食べさせたいですね」
雪尽と、雪尽の両親とか。あまり大食漢ではなかったはずだ。良いのを食べてもらいたい。己業らは、高かろうが安かろうが、肉は全部美味いと思えるので問題は全く無かった。スーパーで売ってる肉は、全部美味い。
そうこうしている内、龍実が来た。雪尽んちが来たようだ。
「己業君、おめでとう。全国優勝だなんて、とてもすごいね」
「本当に。おめでとうね」
「ありがとうございます。雪尽の応援のおかげですよ」
本当かどうかは知らない。けれど、雪尽無くして、今の自分は在り得ない。だから、間違っちゃ、いない。
雪尽は、得意げでもなく、普通に聞き流していた。自分と己業は、もうそう言うものだ。ここら辺は、最早、夫婦の趣きだ。
戦草寺はテーブルに着き、料理の出来上がりを待っていた。料理は不得手、かつ自分より上手い雪尽が居る。やるべき事は無い。いっそ清清しいほどの割り切りであった。
そして。バーベキューは世界を美味しく包んだ。




