勝負の行方。
不死身。無敵。
野牛と戦草寺の脳裏に浮かんだ言葉。だが、両者、その言葉を口に出す事は、ためらわれた。
本当にそんな者が居れば。勝てない。
だから。
「効いてるはずだ!!!押せ!!!!」
「頑張って!!!」
応援!
「頑張って下さい!」
先生は、相変わらず。何時だって、真面目に応援してくれている。
己業には、ちゃんと声が届いている。内容が理解出来る程度には、落ち着いている。
ただ、突破口は見えない。
困った。
そして、100ポイントダメージ。累計500。
この継続ダメージ、一切判定を負わない。それは助かるが。貫吼を使い、防御マイナス状態で、たった100しか食らわない。これでは、敵の攻撃のリスクも低いはずだ。そこに乗じるのも、難しいか?
敵、王者は動かない。相変わらず、指一本動かさない。
・・・・・・知っている、気がする。この状態で、敵に攻撃を加える奴。・・明確に知っている。
泉鬼のお札。戦草寺の意思に応じて、泉鬼が別行動を取っていても、自在に動く副武装。
だが、敵副武装は見えない。食らい続けている継続ダメージは、恐らく技。副武装ではない。
なら。
何処で、副武装は、動いている?
分かった。
と言う事にしよう。
ムミョウは、動き始めた。数秒動きを止めていたが、また動き出した。
「このまま、終わってくれるかな?」
「さあ。何か、やるかも知れません。何せ、一殺を相手に真正面から打破して来た怪物。気を抜けば、負けるでしょうね」
「だよなあ」
輝光白蛍は、油断をしていなかった。
もちろん、谷中も。
来る。恐らく、対策を講じて。この場の即興とは言え、決して侮れない。丁寧にお相手しよう。
今年。私は、あれを倒すつもりだった。作戦は、恐らく彼と同じ。それでも。実際に実践するのは、彼が初めて。
また、強敵を探さないと。
オリーブアイランド、一殺の使い手。勝ち方を分かってしまった相手には、興味を失くしてしまう人間だった。それも、誰かの勝ち方をなぞるようなつまらない戦いは、したくない。
己業と知明だけが記憶に残った。
作戦は、1つ。
終わるまで、殴る。
オ
またも、ムミョウは消えた。今度は、背後を取らない。
真正面を最高速で真っ直ぐに、突く!先程と同じ、まずは空に飛ばす。今回は、腹を蹴り上げる。そして身動き取れぬ相手を、同じく空にて飛び蹴り。舞台端まで飛ばす。
すう
呼吸を整える。整えつつ、敵をきっちり壁際に押し込む。
じゃ、やろうか。
ギアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
音が、途絶えない。技四王の人間にも、輝光白蛍にも、もちろん観衆にも。ムミョウが相手を壁際で殴り始めてから、数分の間。音はたったの1つだけだった。
実に累計決着量10万を超えた頃。
「ゲームオーバー!勝者、ムミョウ!」
懐かしい声だ。
己業は、手を止めた。そして、道場真ん中まで戻り、相手を待ち、礼。
オオオオオオオオオオ
万雷の拍手。応援してくれていた父兄、生徒。最後まで見届けた他校選手。皆が、最後の試合に拍手を送ってくれている。
勝った。こちらの累計ダメージも800に達していた。かなり際どかったが、何とかなったか。
敵能力と言うか、特徴と言うか。恐らく、体表面か内部で、「何かが動いている」。泉鬼で言う、お札。煌きは、何の意味も無いエフェクトではないな。そして、その動作を超える動きを取る。それを己業は目標にした。
「見抜かれちゃった?」
「何となくですけど。仲間に、お札を操る奴が居るんで、その類かなと」
「そっか。戦草寺さんは、副武装の名手だったわね」
「はい。でも、ドキドキしました。とても楽しかったです」
「私も。次は、もう私じゃあ相手にならないかも知れないけれど。また、戦いましょう」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
握手。
次は、相手にならないだと?己業は、心で笑った。油断を誘う気か。次の勝負が、もう始まっていると言う事か。
谷中の言葉に嘘は無い。カラクリが知られた以上、ムミョウの敵ではない。
雪辺の秘密。それは、回復能力。今や誰も使いはしない、古い能力だ。ちゃんと標準シルエットにも搭載されているのだが・・・。戦いの進歩によって、攻撃の技法がどんどん進化して行き、回復は単なる時間稼ぎ以上の意味を成さなくなって行った。だから、野牛も戦草寺も、考え付かなかった。
その古い能力を、現代に蘇らせたのは、輝光白蛍の努力の成果。何度も練習し、実戦で使い物になる事を確かめ、更に修練を重ねた。
誰も使わないからこそ、対策も無い。ただ、誰も使わないのには、れっきとした理由が有る。
難しいのだ。
回復能力の仕組みは、いくつか有る。その内、雪辺に搭載しているのは、副武装扱いで、プレイヤーの自発的思考、意識的コントロールが必要なタイプだ。
詳しく解説しよう。まず、ムミョウの攻撃を食らう。その効果は、ダメージに1回の判定。そのダメージを、元に戻す。判定を、戻す。その理屈は、自身のシルエットの判定部位に回復能力効果を発動。自分の肌を、撫でるが如く。正しく、手当てと言えよう。それを、シルエットの手ではなく、副武装としての意識で。だから、谷中は、身動きが取れなかった。
必殺技、蛍光景色を発動しつつ、回復技、火舞躯裏を行使。いかな谷中と言えど、脳を酷使し過ぎる。
それでも、有効。ちゃんと効き目は有った。ただ、全周囲攻撃以外、動けない。回避行動もろくに取れなくなる。
先手で撃った、吹雪日花は、こちらに積極的に攻撃を仕掛ける気が有ると見せるための威嚇。本当の狙いは、相手の警戒心を誘う事。判定を取りに行く気が有るんだぞ、と言いたいがための攻撃。
実は、蛍光景色以外、何もする余裕が無いのだと。見抜かれたくなかった。
つまり、超重量級だった大筒使いのスーツ姿と思想は同じ。情報戦の段階から、勝負を優位に進めようとしている。
更なる解説を加えるなら、回復限界を述べよう。攻撃を受けてから、5秒以内に回復効果を発生させなければいけない。
そう、ムミョウの一瞬4撃に、各々対応する。即ち、意識化にしか存在しない見えざる手を、判定部位全てに当たらせる。泉鬼のお札を、4枚同時に操っていると言っても良い。まあ、自由行動のお札と、仮初とは言え、あくまで自分の肉体の上を滑らせるだけで良い回復能力を、簡単には同一視出来ないにせよ。
だから、ムミョウの超常的な連続攻撃も、全て、何回食ったか認識し、回復に努めていたのだ。自らの攻撃の手も休める事無く。
この火清水谷中も。十分に人間を超えていた。
そして。回復が、攻撃に追い付かなくなって行った。ムミョウの速度、だけではない。己業の手練手管。丁寧に丁寧に、拳、蹴り、そこに気を織り交ぜ幻惑。副武装と当たりを付けた己業は、相手の意識を攻撃する。相手の身体操作を混乱させる。谷中のモニターに表示されるダメージと判定の数字は、最早、目で追えない。何回食らったか、疑似感覚で追うしかない。次第に、蛍光景色に回す思考力も無くなって行った。
もし。雪辺の火力が、もう少し高ければ。それは、仮定でしかない事だが。
これが、果たして時代の繰り返しなのかどうかは、分からない。またしても、回復能力では勝てない証明なのか。それとも、回復能力を有効活用すれば、ムミョウクラスをも追い詰められると言う証明か。
だから、それでも己業は、その言葉を虚言と受け取った。
谷中が、立ち止まるはずが無いのだから。必ず、何らかの創意工夫を加えてくる。
次、相手になるかどうか分からないのは、おれの方だ。
やはり、楽しい。このリアディウムと言う遊び。
己業は、この時。真剣にプロになる事を思った。




