壁。
輝光白蛍5人目。大将、火清水 谷中。去年、一殺宝仕を倒してのけた、現役最強の高校生。
本人は、そう思っていずとも。
そう。最強は、一殺。本当は、誰もがそう思っている。輝光白蛍の人間全員が。だから、対オリーブ、対一殺の戦略が存在するのだ。
その谷中には、ムミョウに1対1で勝つ自信が全く無かった。今回は、更に泉鬼をも倒さなければいけない。
苦境。
「頑張って下さい。我々の力不足で、困難な状況となっていますが」
「お前なら勝てる!行け!」
「泉鬼もムミョウも、無敵ではありません!」
「勝って帰りましょう」
苦境、なれど。
悲観すべき状況でも、ない。仲間が居る。苦楽を共にした仲間が、ここに居る。
私が、背負える。
だから、戦える。
残り2人。
たったの、2人。
「ちょっと、遊んで来るよ」
最強なら、これで良い。
戦草寺の興奮は然程でもなかった。最後の最後。もしかしたら、自分がケリを付けられるかも知れないのに。
これは、ただの一戦に過ぎない。自分がこれからも関わるであろうリアディウムの、単なる1試合。
勝ったり負けたりする、普通の仕合。
全力を以って、全集中力を注いで、そうして結果が見えて来る。一個の事態でしかない。
まあ。適当にやるのさ。
「お前の実力を出して来い」
「頑張れ!」
「頑張って下さい」
いつも通りの応援。これも、最後か・・。今年は。
お互いの意思を再確認しつつ。開始。
オ!
泉鬼が走り出す。
この敵の特徴は、実は良く分かっていない。あの一殺に当てるのだから、かなりの広範囲攻撃と予測するが。実際問題、当たってみなければ、理解は難しい。
己業のためにも。技の全てを出してもらうぞ。
一気果敢に突っかかって来る敵。正直、怖い。絶対的な信頼を置いている3人目と4人目を倒した相手。
でも、普段通り。丁寧に、倒す。
ゴトン
足が、崩れた。判定を食らったのだ。泉鬼の左足が破壊されたのだ。走っていた泉鬼は、受け身も取れず転んだ。
その後も、泉鬼は、ただダメージを食らい続けていた。敵は近付かない。決して、泉鬼の攻撃範囲に近寄らない。
ブン!
苦し紛れに薙刀を投げる。腕部の破壊前に、せめてダメージを。
ひらり
軽く避けられた。高火力遠距離タイプ特有の遅さが、無い。この敵は、近距離型か、威力を捨てた遠距離型。
上半身が破壊された。生きているのは、右足のみ。ダメージは900ポイント。
モニターで見ているであろう己業は、ちゃんと見極められただろうか。自分では、勝てそうもない。後は、託す。
が。もう、一足掻きしてみるか。
お札を展開。
しかし、そのお札は、敵に触れるまでもなく、落ちた。
そして、決着。
敵は、一歩も動かず、泉鬼を降した。いや、指一本動かしていない。
これが、勝者。これが、王者。
シルエットは、白の王。頭髪は銀、旅装束にも見える綺羅は白銀。武器は無い。凍り付くような威風を全身に纏う。
ムミョウに似たカラーリングでも、違う。温かさや可愛げが、全く無い。
「強かったです。勝つつもりで行ったんですけど」
「いや。良く頑張った。2人も抜いたじゃないか」
「そうですよ」
2人からの労い。そして。
「後は任せろ。バンザイの用意だけして待っていてくれ」
似合わない事を。
戦草寺は、己業の尻を叩いて送り出した。ちょっと慌てた己業は、面白かった。
「あいつ。大物なのかな」
「いえ。小物だと思います」
「己業君は、普通の高校生ですよ。皆と同じ」
野牛と戦草寺は、そう言えばこの先生もオカシイのだと思い出した。変な人が見た変な人は、普通の人、か。
当然。技四王の全員が変などとは、分かりきった話だが。
先述した通り。変な人には、それが普通。技四王は、だいたいそんな感じの群れだった。
そのヘンなの達をここまで導いて来た原因が、舞台に踊り出る。
技四王最強、以無己業。シルエットは、ムミョウ。
敵は、輝光白蛍大将。相手に取って、不足無し。
この時、己業には、悩みが有った。敵の謎の攻撃。何となく想像は付くが。どうする。最初から全力で行って良いのか。味わわなくて。楽しまなくて。
・・・・勝ってから考えるか。
開始!
オ
空気の震え、空間の振動のみを残し、ムミョウは消えた。
そのムミョウに、200ポイントのダメージプラス全身への判定。
煌く白銀の雪。これは、ユキテラシではない。相手の技の効果。
やはり。これは、分かる。知っているぞ。
デイズ・グロリアスの大動滴。彼女が操ったドレス、穿始。その彼女とアトランティスで己業が対戦した時、最初に使われた技。盆水だ。
参考にしたのか、同じ結論に達したのか、それは知らないが。
アレと同じ、全周囲攻撃。だから、泉鬼も何も出来ず受けるしかなかった。しかし、泉鬼のお札までをも落とした事で、見ている人間には察知出来た。
そして、己業は攻略法を知っている。
何も考えず、突っ込めば良いのだ。とどのつまり、必殺技。連発は有り得ない。更に必殺技である以上、何がしかのデメリットを背負っている可能性が高い。
背後からの強襲を選択した己業。ユキテラシになっていない今のムミョウでは、後ろを取るのに2秒かかる。が、こうなれば、もう終わりだ。まさか目視せずカウンターを取れる腕前ではあるまい。それなら、根本的に対策を変えなくてはいけなくなる。
床を蹴り、極普通の歩法にて道場を左から回り込む。違いは、常人の20倍の速度が出ている事だろうか。
そして一瞬4撃。丁寧に頭、両腕、胴体部に打ち分けた。判定で勝つつもりは無い。ダメージで終わらせる。
敵カウンターが、そろそろ来るか。一旦離れるか、それともこのまま決めるか。
己業のこの思考に要した時間は、0、5秒。
ま、良い。
ゴオ
貫吼。これで累計決着量は、1200を超える。
やけにあっさりとした勝利だが。こんなものか。
「己業君!!!」
「気を抜くな!!」
ん?
りん
ムミョウ、100ポイントダメージ。
おおおおお
観衆からは、歓声。一進一退。予断を許さぬ戦況だ。
ゴ
追撃。今度こそ、終わり。動かぬ敵に対して先程と同じ、一瞬4撃を叩き込む。累計2000ダメージを数えたはず。少なくともこちらのモニターには、そう表示されている・・・・・のに。
敵は、崩れ落ち、ない。モニターの数字が、敵決着量が、戻って行く!
煌く体躯。その輝きは、増すばかり。
「なんだ・・・」
己業は口に出した。追い討ちもかけない。後退し、様子を見る。
どうすれば、終わるんだ??
この時。もしも己業が、全力で潰しに走れば、勝てていた。だが、そんな事はしない。発想も無い。何故なら、決着が付いた相手をいたずらに痛め付けるような真似は、プレイヤーにあるまじき行い。
そんな事、己業は、野牛に戦草寺に教わっていない。2人は、己業の前でそんな行為をした事は1度として無い。だから、己業には、その選択は無いのだ。2人に準じる。
これが、現実なら。敵が、猛獣なら。己業は、敵の原型が無くなるまで殴り続けただろう。死なない怪物であっても、死ぬまで蹴り込んだだろう。
だが、ここはリアディウム。ルールの有る戦い。ケリが付いてからの相手への加撃は、非紳士的振る舞い。するべきではない。
心理的な枷であった。
成功。正直、上手くハマるかどうか、不安だった。1万ダメージにも上るほどなら、流石に無理だろう。「耐え切れない」。
これが、輝光白蛍だ。存分に味わってくれ。一殺を倒した、技四王の強者よ。
私が、今年の壁だ。
輝光白蛍大将、火清水谷中。シルエットは、雪辺。
「大将は、順調か」
「はい。どうやら、何とかなりそうです」
「我武者羅に攻められたら、どうにもならないんだけどなあ」
「相手選手にも、考える事は出来ます。だから、勝機も生まれる。考えてしまうから、攻撃の手も遅れる」
輝光白蛍陣営の考えとしては、五分五分。ムミョウなら、実は勝てる。だが、何も考えず攻められるほど、ムミョウは堅くない。強固な防御が有れば、強引な攻めも可能だろうが。ムミョウはオリーブと同じ。防御ゼロ。
力自慢でありながら、力任せな攻撃は出来ない。輝光白蛍は、ちゃんと見ている。
己業を技巧者、そしてそのシルエットが、実は力押しが苦手と見抜いた。それが、大将、谷中。
さて。
何にせよ、敵は健在。ならばと、とりあえず、敵身体判定を全て埋める事にした己業。
ゴ、オオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!
相手が塵になるまで打ち込んだ拳は、百を超えるが。全身全部位、一箇所に10回以上の判定を発生させたつもりだが。
相手は、まだ立っている。
そして、ムミョウに、100ダメージ。
「どうなっている!?」
「・・・・」
焦る野牛。必死で敵の正体を考えあぐねる戦草寺。
判定は、初撃以来食らっていない。言うなれば、ずっと継続ダメージを受けている。だが、断続的。継続ダメージは、もっと連続して受けるはず。漠府の砂海原は、そうだった。同じように判定が無いのは、有り難い事だが。
もう、直撃を食らっても良い。
全力でぶちのめす。
コン
敵胴体部に拳を押し当てる。敵は、身動ぎもしない。
そのまま打ち抜く!!
腹部を殴り抜き、吹き飛ばす。空に飛ばされ回避行動を取れぬ相手目掛け、気を合成、更に貫吼を重ねる。この連携に、間は無い。何をどうやっているのか知らんが、必ず判定は得た、はず。
だが。
敵は、微動だにしていない。足から、しっかりと着地。
己業は、全国大会決勝に於いて。
リアディウムで初めての、恐怖を味わっていた。




