輝く戦草寺。
野牛には、敗北の感触が有った。先のオリーブ戦での必明宝仕との戦いは、力量差が有り過ぎ、実感が湧かなかった。
しかし、今回の戦いは、理解出来た。例え、無傷で仕合っていても、勝てたかどうか。そして、今日は、明確に敗れた。一太刀も浴びせれずに。
強い。分かりきった事実を突き付けられる。私より強い者が、いくらでも居る。
早く、早く、練習したい。早く。
野牛の焦りのような戦意。しかし、今はそのような1人の人間の意志など、関係無い。事態は、動く。
輝光白蛍、ノーダメージで野牛を下した3人目。
技四王、戦草寺泉船。シルエットは、泉鬼。
開始!
動かない。両者、動かない。
いや。2人とも動いている。静かに、丁寧に。戦闘開始数秒、両者、静かな探り合いから始まった。
敵戦力は、こちらを超えている。野牛をノーダメージで倒すのは、至難。あの状態のミノテリオンであっても、戦草寺は食らう自負が有る。野牛への、信用が有る。
そう。格上相手なのだ。慎重に行く必要が有る。慎重に。慎重に、
突っ込む!!
オ!!
敵は、灼熱を撃たない。寸前で止まった戦草寺を狙い、大筒を保持するのみ。
読まれている、か。灼熱の横から入って、斬るつもりだったが。
またも静かな対峙。薙刀を横に持ち、左右の隙を探る戦草寺。それを決して見逃すまいとする敵。
五分五分、と言った所か。
何が?
この仕込みが、ハマるかどうかよ!
オオ!!!
全速力を以って、右方向へ駆ける。敵視線が動くのが分かる。頭部が、泉鬼本体を追う。
だが、砲が動かない。
・・・気付かれている。
オ
灼熱。左から回り込ませようと、地面すれすれを飛ばしていたお札が焼き尽くされた。戦闘開始直後から、背後に忍ばせておいたものだ。食らったって、ダメージそのものはどうって事は無い。ただ、お札を生かしておけば、戦草寺は、奇策を講じてくる。
知られていると言うのが、こうも厳しいとは。
しかし。悦びも、有る。
天下の輝光白蛍が、この戦草寺泉船の事を考え、私のために戦術を練っている。
・・ゾクゾクする。
さあ、私は、何をする?分かるか?
どうでも、良いがな!
灼熱が飛ぶと同時に、泉鬼は敵に飛び込んでいた。
しかし、カウンターが来るぞ!!どうする!!
敵カウンターは、バリアー。シルエットを中心に、2メートル範囲を覆う、鉄壁の守り。反発効果は凄まじいが、威力は無い。だからこそ、範囲はでかい。
だが、先刻承知!!!
千刺万観!
そして、千殺万札!!
まず、千刺万観にて、その場に身を固定。これで、弾かれずに済む。そして敵カウンターの消滅を待たず、千殺万札。これで、動き始め、敵はこちらを見失っている。
読めるなら!読んでみろ!!!
オ!!
敵頭部に目掛けて全力で振り抜いた薙刀は、見事弾かれた。流石。
流石は、戦草寺。上手い。野牛は、手放しで褒めた。
これで、敵懐は、がら空きだ。
オオ!
今度こそ、何も無い。反撃もカウンターも、抵抗手段は、一切無い。
反射的に弾いてしまったな?腕が良いのも、考え物か。だが、千殺万札を抜けて来た薙刀に反応したのは、純粋にミスだ。あんなもの、食らってもわずか1回の判定に、100ポイント程度のダメージに過ぎない。泉鬼本体に合わせたままで良かったのだ、大筒は。
ただ、そこまで出来るようだと、強過ぎる。完全に塞がれた視界の外から突っ込んできたモノを衝突前に見極める目は、持っていなかったようだ。「薙刀を持った泉鬼か、薙刀だけ、か」。それを見極められるレベルなら、己業や、オリーブの上位陣クラスだ。目の前の敵は、そこまでには達していなかった。戦草寺にも、ブラインド効果の上から見切る自信は、全く無い。助かった。
ミス、と言ったが。あの程度の些細な動きですら、ミスにカウントされる。これが、最上級の世界。
敵は白のスーツに身を固めた、男装の女性。それが、大筒を担いでいる。バカのような格好だが、実力が伴えば、かっこよく見える不思議。
更に言えば、スーツは目晦まし。超重量級である事を、隠しているのだろう。服なのだから、直感的に、1人目の鎧より「軽そう」に思ってしまう。
身動き取れぬ的である事を、軽いイメージで覆い隠す。
試合開始前から、戦いは始まっている。お手本のようなシルエット構築だ。
圧し折りながら、戦草寺は考える。私も、何か、もう少し目立つ格好でも・・・。
全身をひしぎ、極め、折り。その間、敵は抵抗も逃走も許されなかった。戦草寺は、適当に物思いに耽りながら、鼻歌を歌いながら、ことごとくの反撃の芽をお札と先読みで潰して行った。
歌いながら、と言ったが、現実の肉体は動いていない。プロテクションが発動している最中、身体は守られているが、同時に自由行動も不可能だ。
だから、観衆の不評を買うのは避けられた。ラッキー!
そして決着。
大筒を蹴り飛ばす事は、出来なかった。明らかに、泉鬼の脚力より、敵の片腕の握力の方が強そうだった。なので、立った状態で、敵腕を封じ、足で足を絡めつつ、背、腕、足裏をお札で押し、寝転がした。大筒は、片足で踏み付け、注意を払うだけに留める。動かされると厄介なので、持っている右腕を速攻で破壊。3回、全力で踏む。これで、ガラクタ同然。まさか自立しないだろうが、一応、お札を大筒周辺に留め置き、センサーとして働かせる。戦草寺の疑似感覚で動かしているお札には、触覚が存在する。目で見ていなくとも、なんとなく程度なら知覚出来る。そうして、敵身体を思うがままに破壊し、勝利。
「ふう」
思った通り、敵にはパワーは有るが、重い。どうとでも思いのままに極められた。更に、野牛の見せてくれたように、輝光白蛍には格闘戦の心得は、無い。
上手く行った。完全に目論み通り。ただ、自分を、敵の目の前で見せてしまった。残りの2人は、戦草寺の戦術を完璧に把握して来る。
怖い、な。
それが、楽しい。
4人目。これで、戦草寺と己業で、1人ずつの計算が成り立つ。野牛が2人抜いてくれたから。必ず、勝つ。
外観は3人目と同じ、白服。スーツに身を固めた敵は、正統派高火力遠距離型。スナイパーライフルだ。
思えば、初対戦か?
特別な技能を必要とするわけではないのだが。強弓とは違う意味で、重い武器だ。その理由。スコープをのぞかなければ、照準を合わせられない。そのため、遠距離武装の中でも、更に1手遅れがちになる。
ただし。スコープをのぞく動作を取りさえすれば、ほぼ必中。例えムミョウであっても、「当たる事になる」。ちゃんと、「ゴーグルの視界の中に、スコープ内の敵を捉え」トリガーを引く動作をしなければいけないが、それをクリアすれば、絶対に当たる。
何よりも雄弁な証明として。去年、一殺宝仕に多大なダメージを与えた実績が有る。
そもそも、オリーブの装甲はゼロ。広範囲系、全方位系を当てさえすれば、超ダメージが見込める。当てるだけの猶予がもらえれば、の話だが。
こいつ、そして最後の大将は明確に強い。2人共、一殺に当てた事実が有る。
戦草寺には、そのような真似は、出来ない。多分、野牛にも不可能だろう。
本当に、怖いなあ。
「うあ」
「どした?」
「また、笑ってる・・」
「ああ・・」
戦草寺の顔。ゴーグルでほぼ見えないが、口元だけは分かる。その口が、笑んでいる。
林密にとっては、悪鬼の笑みだ。
「あれに、更なるギミックは?」
「無い。もう、持つのも不可能になるだろう。スナイパーライフルは、それほどに重い。し、去年の映像でも、使っていなかった。相手はオリーブ。出し惜しみは、絶対に無い」
野牛の推測に、間違いは無い。ただし。去年の時点では、だ。あれから1年。立ち止まってはいまい。だが、それは推測ですらない、想像。そんなものを計算に入れるべきではない。
戦草寺も、そこら辺は考慮に入れつつ、目の前の相手を素直に見ていた。
足運びは、重心の置き場所は、体勢は。何を、狙う。
相手もまた、泉鬼の様子を見ている。泉鬼のダメージは上半身への判定と100ポイントダメージのみ。本来ならバリアーの判定は1度きりだったが、千刺万観にてその場に留まったので、多判定を食らった。それでも、全身でないだけマシか。
両者、より良い形でラストに繋げたい。最後の1人をノーダメージで出せたなら、勝率も上がる。お互い相手に勝ち、大将に少しでもダメージを与えておきたい。
輝光白蛍は、前年度の経験と知識から。技四王は、感覚と闘争心から。どちらも分かっている。
この戦いには、自分の勝利以上の意味が有る。
だが。それすらも。どうでもいい事でしかない。
目の前に、強者が居る。全国大会決勝にまで上り詰めてきた奴が居る。
戦わず、帰れるか!!
開始!
オ!
遠距離高火力型を相手に間を置くなど愚の骨頂!!突っ込め!!!
戦草寺の考えでは、足の1本も破壊されるとは思っていた。恐らく、必殺技が飛んで来る。それも、必中状態で。
だが、そこが勝機だ。敵武器は、そもそも尋常ではなく重い。それが、必殺技によって防御の低下か、速度の低下を重ねる。的に成り下がるのだ。
一気に畳み掛ける。
ドン
予想通り。ただ、予想より重かった。必殺ではない、通常攻撃を食らった。それは、良い。が。
泉鬼は、転ばされた。左足に一発食らっただけで。ダメージは、たったの100。スナイパーライフルらしからぬ、低火力。
野牛は見抜いた。オリーブと同じだ。
あえて威力を抑え、発射速度を向上させている。まさか、必殺技も持っていない?それに、威力は少なくとも、衝撃はちゃんと有る。足止めとしては、最高。
それが、必ず当たるとあっては。戦草寺でも、苦戦は免れないか。
もちろん、負けるなど有り得ない。むしろ、これなら、勝てる。
転がり様、より勢いを増すため無事な右足で地面を蹴り、綺麗に前転。いち早く体勢を立て直した。敵に連発は無い。知ってはいるが。一応な。
さて。敵武器は必中。そして、泉鬼の軽さでは踏み込みきれない。どう重心を低くしようと、必ず止められる。これがミノテリオンであれば、食らいつつも接近出来ようが。
だが。困らない。私の武器は、足だけではないのだから。
スナイパーライフルは、「スコープをのぞいて、撃つ」。
封じ方は、2つだ。
薙刀を短く持ち、ダッシュ。何にせよ、近付かなければ、どうにもならない。
相手はスコープをのぞき、慌てず騒がず、再射撃。
同じ左足を撃たれる。またも、転ばされる。
「上手く行くと思うか?私は、完全に上手く行くと思う」
「今の所、完璧ですね。でも、敵は知っているはずなのに。何故、対処しないんでしょう」
お札に。
ぺた
スコープにべったり張り付かせる。当然、見えなくなる。
お札自体は、簡単にはがせる。が、手を使う。高火力遠距離武器の常として、必ず両腕を用いなければいけない。スコープのお札を取っている最中、絶対に次の射撃は、無い!
オオ!
好機!!
走る泉鬼。
しかし。敵に焦燥は無い。まあ、当然だ。
ドン
スナイパーライフルは、スコープを使えば、「必」中。
別に、のぞかなくとも、当てられる。ただ、恐ろしく難しいだけで。
説明しよう。他の遠距離武装の多くは、感覚的に撃てる。その代わり、命中精度はタメと引き換えだ。これはプレイヤースキルとは別の、ヴィジョンユニットの計算によるもの。ゆえに、使いやすいとも言えるか。
オリーブの早弓が居ただろう。あれは、別格だ。タメ無しで、連射可能で、命中精度高。ただの怪物の所業なので、考えなくて良い。
対して、スナイパーライフルの命中精度の担保は、プレイヤースキルそのものだ。根性とでも言うか。落ち着いてスコープ内の敵を狙い撃つ。それだけ。それだけの覚悟が有るか否か。全速力で駆けて来る猛者を、回避行動も取れず、ただ待ち構えるのみ。
ライフルに必要なのは、技ではない。度胸だ。
この敵にも、それは有る。
だから、かかる。
スコープ越しでないため、敵銃撃は胴体部に当たった。これは吉兆。だが。
2発の銃撃を足にもらい、次の無い泉鬼。しかし、走る以外の選択肢もまた無い。
ただ、走る。
・・・!
スコープから、消えた。1度泉鬼の足を止め、お札をはがす時間を稼いだ。そして、再度スコープをのぞいたのだが。片目でスコープ外の視野内をおぼろげに見てみるが、確かに泉鬼が、消えた。
薙刀しか、残っていない。
発射間隔は、確保出来た。何時でも撃てる。ただ、肝心のターゲットが、居ない!必中とは言え、トリガーを、敵を捉えている状態で撃たなければ、当たりはしない。
カラン
薙刀・・・。薙刀が、穂先をこちらに向けて、倒れる。
!
上!
ガ!
咄嗟に上に構えようとしたライフルに、泉鬼の飛び蹴りが炸裂。思いっきり銃口を逸らされた。
棒高跳び。棒は、薙刀で代用。それを、敵の視線がお札をはがし終えスコープに移る一瞬で実行。だから、見えなかった。
ゴキン
まず、首を折る。頭部に1回の判定だ。そして、視界もブレる。敵はライフルを置いて、こちらに殴りかかるが、無論、当たらない。逆にこれ幸いと腕を取り折る。敵の右腕をへし折り様、頭から地面に打ち据える。これは、我慢しようとしても、物理的に出来ない。肩から固めているので、泉鬼以上のパワーを発揮しなければいけない。本来、遠距離高火力型の敵なら、不可能ではないのだが、スピードがまるで足りない。近接格闘の心構えが無いのだ。だから、こちらの無駄のない極めに全く対応が出来ない。
「本当に、カウンターすら持っていないのか」
「それだけ、あのライフルに賭けてたんでしょうね」
「だろうな。私には、アレを攻略する自信は、無い」
ミノテリオンなら。多分、止められない。そう己業は思うが。実際は、やってみなければ分からない。自信が無いと言うなら、そうなのだ。自信を手に入れられるまで、戦うしかない。繰り返しの果てに、当たり前に勝てる未来も来よう。いつか、きっと。
決着。ライフルを振り回しもしなかったのは、泉鬼を振りほどいてからの反撃に備えたため。得物無しでは、流石にどうにもならない。勝ちを諦めない姿勢は、見習わせてもらおう。
ライフルの封じ方。オーソドックスなのは、千殺万札による目晦ましだろうか。これなら、どこからでも実行出来る。ただ、泉鬼には瞬間移動レベルの速度は出せない。棒高跳びをしようが何をしようが、相手の不意は突けない。それでは、相手の動揺を誘えない。迎え撃たれる。
だから、お札による小細工を弄した。これにも、いくつか選択肢は有った。敵視界を塞ぐため、敵頭部にまとわりつかせるなど。だが、これもナシだ。敵頭部は、スコープとがっちり組み合っている。隙間が、無い。決定的なチャンスを得るためには、スコープを塞ぐしかなかった。
最後。何なら、この私が決着させて見せようか。
己業は自分の出番が無くなる事を祈るべきかどうか、ちょっと考えてしまった。




