野牛の力。
ボーガンには意表を突かれた。だが、それだけだ。この程度なら、オリーブのあいつの足元にも・・・
ゴオ
必殺技?ミノテリオンと敵の距離は1メートル。更に言えば、斧と敵の体の距離は、18センチであった。
ボーガンの射口は確かにこちらを向いていたが、野牛は気にしなかった。遠距離型との戦いで、1発2発食らうのは当然。むしろ、その程度で済むなら幸運と言える。必殺技、もしくはカウンターを食らうのもまた当然。しかし、これは。
ミノテリオンは、10メートルほど押し戻されていた。ただ、判定は1度しかもらっていない。食らう前提で前に出していた左腕に。必殺技なら問題無く部位破壊されていたはず。
そして、また射かけられる。今度は最初のと同じ、通常の弾だ。
「なるほど」
「カウンター、かな」
「ううん。あれは、本人の技だよ。己業君の格闘術みたいに、敵もボーガンを意のままに操れるんだと思う」
「ふうん」
恐らくだが。あの可変ボーガン、威力の調節、効果の変更まで出来るな。先程は、その場で範囲ショックを与えた。多分、爆発弾だ。そして、自身を巻き込まないタイプ。ゆえに、ダメージ量もかなり少ないか。
つまり、野牛が遠距離型に対して、突っ込むのは承知されていた。
まあ、それは妥当な判断だが・・・。
・・問題無い。極普通の選択だ。完璧にこちらの戦い方を見極められている気になってしまうのは、優勝者であると言う予備知識のため。
と。戦草寺は、ふいに湧き起こった不安を心の片隅に押し留めた。
野牛は、戦術の練り直しを余儀なくされていた。接近で相打ちにでも持ち込めば、その後はミノテリオンのパワーなら勝てる気で居た。相手が重装甲の騎士であろうとも。
だが、効果範囲の広さが、予想外だ。己業の貫吼に比べれば全然マシだ、が。
まあ・・やってみるか。
ミノテリオンなら、野牛なら出来る事。何も、無理を通すような場面じゃない。
勝ったなら。己業と付き合える。
卒業しても、あいつと、ずっと戦えると言う事だ。
勝つしかないよなあ!
オ!
駆ける!
相手は、野牛の思考をいぶかしく思った。パワータイプ、ではあっても、不器用ではない。何かをして来ると思ったが。
まあ、ボーガンをきっちりと避けている辺り、尋常の力量ではない。ミノテリオンは軽やかに動けるシルエットでは断じてない。それで、こうも避けられるものなのか。
ミノテリオンには遠距離攻撃は無い。さっきと同じ、衝撃で弾き飛ばす。横の効果範囲を最大限に広げたため、貫通する威力は持てないが、距離を保てる。一発一発が重いため、連発が効かないのが難点と言えば難点だが。
今回は、一切問題無い。敵の速度は、想像を超えない。一番手にムミョウが来ていれば、何も通用しなかったかも知れないが。技四王は、想定通りに動いてくれた。以無を最後尾に置く。技四王は、だいたいこの順番で来ている。戦草寺は厄介だが、野牛は接近特化。遠距離から削れば、一切問題無い。後は、ムミョウを2人か3人がかりで削ってしまえば良い。恐らく、防御はゼロに等しい。広範囲系を丁寧に当てて行けば、必ず勝てる。
ここまでの輝光白蛍の思考に、一切間違いは存在しない。一片のミスも無い。
ただ。
技四王は、理屈を超えて来るぞ。
ゴキイ!
頭部に斧の直撃を食らった敵は、一瞬思考を停止させてしまった。
「良し!」
「ふふん」
素直に喜ぶ己業。得意げな顔の戦草寺。
接近して防がれるなら。しなければ良い。簡単だな?
最初の接近時と全く同じ構えで走り始めながら、踏み出しの2歩目で斧をブン投げた。見事的中。斧は近距離高火力武器としての性能を遺憾無く発揮しながら、敵頭部を叩きのめした。
1メートルの物体がぶち当たれば、少々体勢を崩す。例えそれが、重量級の騎士、それも遠距離武器を備えた、超重量級と目されるモノでも。
頭部をのけぞらせるだけで、倒れはしない。流石だ。だが、視界はブレたろ?
終わりだ。
オ!!
全速力!
ギオア!!!
「うお」
「すごい」
ミノテリオンが敵に接触するまで、残り1メートル。そこで、2人は同時に爆裂した。
正確には、鎧が。お互いに、カウンターの撃ち合いとなった。
ガ!
止まらない!
「やるなあ」
「うん。伊達じゃないね」
流石は王者。野牛の接触より先に、今度は本当にカウンター、それもミノテリオンの外周必食と同じ、銀鎧が弾け散った。
しかし、野牛もやはり尋常ではない。刹那、と言って良いだろう。敵カウンターの予兆は、1秒も無かったはず。自分から撃つつもりの無かった外周必食を「合わせて」撃った。そして、相殺。つまり、踏み止まれた。
そこから、強襲。身体各部位に判定を食らったが、それはお互い様。今なら行ける!
そして、盾に止められた。止めた、と言っても、ミノテリオンの拳が入れば、簡単に判定を入れて破壊出来る。問題は、全く無い。
連撃。2発入れて、盾は破砕された。その破片を抜けて、野牛は敵シルエットに密着しようとした。
ビタ
「なんだ?」
戦草寺は、己業の呟きに答えられなかった。同じく驚いていたし、考えていた。
なんだ、この糸。
盾には、ボーガンへの変形機構以外にも、更なる秘奥が有った。崩壊時の、トラップ。
そりゃあ、盾以外持っていなかったわけよ。
今までの敵の戦術は、盾の陰から副武装で削る、だけだった。それで決勝まで来るのだから、たまらない。盾を押し出し、体当たり。それで敵の剣も銃も弾き飛ばし、押し通る。そんな基本戦術のみで。
ミノテリオンが、粉砕した盾の在った場所を通過した際、空に在った盾の破片の全てが元の形を取り戻すかのように、破片同士の間に糸を張った。・・・ヘンな例えをしてしまうが、糸を引く納豆を見ているような。
その糸のド真ん中に、ミノテリオンは突っ込んでしまった。そして、動けない。重量級のミノテリオンが、ダッシュ中でありながら止められた張力。
そして。不可思議な事に、ミノテリオンには何のダメージも判定も発生していない。敵は、外から殴るつもりらしいが。まだ、ミノテリオンが本当に動けないか、隠し技を持っていないか、見極めようとしている。
「・・・」
己業は、その頭脳をフル回転させてみるが、何も分からなかった。現実的に考えて、身体に何の痛痒も感じさせぬ素材などと。ゴムひもでも不可能だろう。真綿の塊にでもぶつかれば、ともかく。ミノテリオンを抑えているのは、糸状の物だ。有り得ん。
この辺り、己業はまだまだリアディウム初心者。この世界ならではの戦術に全く疎い。
戦草寺は、何となく察した。と言うより、これはクレナイにも付いている技だ。多分。
オボロアミ。クレナイの特殊技の1つ。自身の防御力を10秒間50パーセント下げる条件で、敵行動速度を同じく10秒間50パーセント下げる。ただ、攻撃性はゼロ。そして、1試合1度きりの技。
おそらく、オボロアミと似た性質の技なのだろう。それも、更に厳しい条件、武器破壊を前提とした。それに、武器が破壊されたそのエリアに侵入して、初めて効果を発揮すると見た。でなければ、行動停止系は、発動出来ない。今言った条件でも、ギリギリかも知れない。
しかし、成功した。
ボーガンへの変形ギミック、弾の変更。それだけで、全てだと思い込んだ。カウンターや必殺技は有るだろうが、そこまでだ、と。
更に、ミノテリオンが真っ直ぐ来ると判断した。ボーガンを避ける事を本命に置くなら、躱す可能性もそれなりに有った。だが、野牛が恐れず来ると認識した。そして、それは正しかった。
良くぞ、ここまで作り込み、そして隠し通した。
底が見えない。王者の器の大きさ。
ここで、敵は副武装でなく、格闘を選ぶ。副武装では、部位破壊出来ない。更に、絶対的にダメージ量が少ない。15分フルに使うなら、それも良いが。ミノテリオンが動けるようになっては、本末転倒。
ガッ、ガッ
きっちり腰を入れて殴る。手打ちでは、ムミョウなどの格闘タイプでもなければ、判定を得られない。
ミノテリオンは、頭部を破壊された。
難しい、か?停止効果は、消えた。敵も、一旦下がった。だが、視界をほぼ塞がれた。リーチを稼げる斧は、飛ばしたまま。
こうなれば、敵はフルラウンドを使っても良い。ミノテリオンが自由に動ける状態なら、自殺行為だが、野牛のモニターは、ほぼ死んだ。
だが。
野牛が、そんな決着を許すか。
オ!
走る!一瞬の躊躇も無く!自由を取り戻すと同時、敵の後退を追いかける!!!
「うん」
戦草寺は、頷いた。己業は、怖い笑顔を浮かべていた。
見えない。確かに見えない。あいつは、オリーブを相手に、こんな視界で戦っていたのか。バカだなあ。
そのバカの大将は、鎧を失った敵の副武装を避けつつ、接近して行く。
避ける、だと。
「唯一の2年。部長の野牛。伊達じゃないね」
「確かに。頭部破壊に成功しただけ、良しとしましょう」
オリーブ側からの評価も技四王の2人と同じ。化け物かよ。
敵副武装は、小型の矢。発射装置は無い。泉鬼のお札と同じく、空間から突如発射される。これだけ聞けば、避けるなど絶対不可能と思われるが、そうでもない。
ビン
音。発射音が、明確に聞こえてしまう。そして、その方向に敵は絶対に居る。先述した通り、敵は今までの戦いで、盾の後ろから副武装を撃って来ていた。技四王は、休憩時間に全員が1度は見ている。攻撃予測は、十分に可能。
そこから、更に視界に敵の足を捉える。
突撃!!
「勝った」
「うん」
戦草寺は、己業の見立てに賛同した。敵は、どうやら格闘術の心得は無い。有っても、かなり初歩の段階だ。いくら自由を取り戻したとは言え、視界を封じられたミノテリオンから距離を取ってしまう程度には。
敵は、右方向に回りながら回避しようとしているが、遅い。こればかりは、プレイヤーの腕前でどうにか出来る問題ではない。
ド!
右の前蹴り。それは、敵左腕を掠めたに過ぎないが、
位置は明確になった。
蹴った右足を地面に踏み下ろす。全力で。それを足場に方向転換、敵騎士の居るであろう位置に突進。多少食らっても構わん!
ミノテリオンは右回し蹴りを左腕に食らい、部位破壊。だが。
捕まえた。
ぞわ
騎士は、圧倒的に有利なはずの自分が、追い詰められたと感じた。
野牛は、騎士の左腕を掴んだ右腕に全力を入れた。そして、右腕一本で振り回す!
オ オ
いかな重量級と言え、片腕で、同じ重量級を振り回すなど。これは、ミノテリオンが特にパワーに割り振っているために出来る事だ。更に、力の使い方を己業に教えてもらったから。右腕で振っているのはもちろんだが、それだけではない。ちゃんと腰を入れて、足の力を用いている。地面に立脚するがっしりとした土台が無ければ易々と出来るものではない。
何度か床に叩き付けた後、掴んだまま寝かせ、蹴り込む。そして、決着。
即座に寝転がさなかったのは、敵の目を回すためだ。立ったまま、蹴りで頭部破壊は厳しい。敵は、木偶ではないのだから。かと言って、捕まえたまま何の工夫もせず寝かせても、敵には両腕が有る。先に部位破壊をもらうのは、こちらだ。
だからまず、プレイヤー自身を攻撃した。言うなれば、映画やテレビゲームを見て、脳が混乱する、酔ってしまう、アレだ。どれほど肉体がプロテクションで守られていようと、「視界」は存在するのだ。そこから、脳に影響は及ぶ。はず。
同じ類に含めて良いかどうかは分からないが、威業がアトランティスで暴走したのも、一時的に混乱状態に陥ったからだ。
投げ放した斧は、破壊されていないので、次の試合で使える。ただ、外周必食を使ってしまっているので、防御は低い。更に、頭部と左腕の破壊。そして、全身に敵カウンターによる判定。
どう考えても、一矢報いる事すら困難な状況だが。
「頑張って下さい!」
3人分の応援。まだ、私が戦えると、思ってくれている。
力が、いくらでも湧いて来る。
2人目。輝光白蛍のレギュラーである以上、どうしようもなく強いのだろうが。
何とか、してみようか。




