表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/89

己業とオリーブ。

「勝てますか、主将」


「分からない。オリーブは、相変わらず化け物の巣だね」


 それでも。知明が居ない以上、不可能とは言えない。


 Bブロックで、同じく準決勝に挑んでいる輝光白蛍。レギュラーを全員出場させ、完全状態だが、その必要は無かった。出しても、3人。それで勝てる。だから、モニターのオリーブと技四王を見ていた。


 雲技知明が居た頃。日本に、アレに勝とうと言う高校生は、多分居なかった。勝ちたい、戦いたいならともかく。


 でも、その教えが生きていても、去年は勝てた。今年も、やってみるさ。



 己業が出場する背後で、野牛が先生に抱き締められていた。負けた事実もそうだが、何よりぎこちない野牛の歩みに気付いた。己業や戦草寺は、それを悔しさと感じ、何も言わなかったが。千誌は、ストレートに慰める。


 最初から、行く。己業は、全力を出す事に決めた。力の出し惜しみをして負けては、それこそ野牛や戦草寺に顔向け出来ない。例え5人目に、次の決勝の相手に対応されようとも。


 開始!


ィ・・


 変形途中のフープは、ムミョウに弾かれ、主人の手から飛ばされた。


 その速度は、常人の目で追えるものではなかったが、必明宝仕は弾かれたと、ほぼ同時、右前蹴りをムミョウの左腕に当てていた。左拳で弾かれたので、やり返した形だ。



 ムミョウが、己業が、遊びもせぬのに、当てられた。それは、技四王の2人にとって、天地がひっくり返るような衝撃であった。


 こんな怪物と戦っていたのか・・・。野牛の心は、少し癒された。負けの言い訳を、作ってもらえた。


 ・・・負けて、喜ぶなど。どこまで、浅ましいのだ。私は。



 武器を飛ばされた必明は、しかし焦っていなかった。このレベルの速度なら、十分に殴り合える。その最中に拾うのも良いだろう。それに、まだ手は有る。


フッ


 牽制の右ストレート、左上段蹴り。躱させてから、本命の右後ろ回し蹴り。これらを、0,3秒でこなす。ゆえに、観衆からは人間サイズの竜巻に見えた。


 その全てを、間合いの中で避け、一々に反撃を入れる。軽く、力を込めず。


「少し、近付いたと思っていたのだがな」


「私もです」


 力量差に気付く程度には、2人も成長している。


 距離を取ろうとして後退する敵に、やはり前蹴りのつま先を軽く当てて、決着。


おお


 どよめき。それは見に来てくれている父兄ではなく、他校生徒のざわめきであった。オリーブ4人目は、どうしようもないほどの化け物だったはず。それが、30秒も経っていない。


 なんだ、なんなんだこれは?




 握手を交わす2人。


「参った。おれも、強いつもりだったんだが」


「おれだって、次勝てるかどうかは分かりませんよ」


 あのブレスレットを見ていなければ。野牛との戦いで、戦術を見せていなければ。勝負は、いつだって、どう転がるのか分からない。だから、戦って、その時の現実を知るしかない。決着だけが、真実ほんとうだ。


 今回は、技量で上回れた。次は、相手も鍛えて来る。楽しみだ。




 100ポイントダメージに、左腕に1回の判定。ほぼノーダメージと言えよう。この状態で挑めるのは僥倖ぎょうこう。何せ、次は。


 5人目。現時点、全高校生トップクラス。間違い無く、ベスト3に入る人物。多分、オリーブレギュラーはトップ20に全員入っているとは思うが。


 操るシルエットは、一殺いっさつ宝仕。・・・・良く、この名前で登録出来たな。リアディウムも案外に融通が利く。


 最も知明のシルエットに近い、最も知明の実力に近い、最も、速い高校生。


 開始!


 観衆は、目をぬぐった。2体のシルエットが同時に消えたので。


 全速力で踏み込んだムミョウ。それをステップで回避する一殺。両者共に音速の2倍程度で動き回っている。


 それは、技四王にもオリーブにも、目を使わせる攻防だった。まだ、始まったばかりだと言うのに。


ジャ


 一殺はムミョウの踏み込みに、完璧なタイミングで右拳のカウンター、しかしそれを躱し更に右の膝を入れるムミョウ。そのどちらもが外れた。


 戦闘開始後、20秒経過。両者ノーダメージ。お互いに、擦りもしない。


「己業は、以無の後継者。その己業と五分のあいつは、何者なんだ」


「例えシルエットの速度がどれほどでも、プレイヤーの技量が伴わない事には、お飾り。あのスピードを操りきり、己業君に触れさせもしない。知っていた事ではあるけど、ケタの違う存在ですね」


「ああ」


 手加減を加えていない己業が、まだ当てられていない。




 それは、オリーブも同様の意見だった。


「やはり、以無と戦いたかったな」


「あなたは、戦草寺さんと良い戦いが出来ていたじゃない。私と遠距離でやり合ってくれそうなのも、以無さんだけ。私だって戦いたかった」


「僕は、もっと修行してから・・」


「良いよなあ」


 戦いたい。オリーブ全員の、総意だった。



 こいつ。強い。クレナイのままだったら、追い付けなかったぞ。



 ムミョウは足を止め、加速の姿勢を取った。右足を後ろに、左足を前に。右腕を前に、左腕を後ろに。これからダッシュします、と明言する体勢だ。


 対する一殺宝仕も、武器を展開した。これを邪魔しようと、ムミョウはいきなり突っかけたわけだが。このままではらちが明かない。


 左の腰元に差した棒状の何かを握る。体正面で延長されたそれは、長さ1,5メートルほどに。右腰元に両腕で構える。棒術か。珍しいな。


 まず、一撃当てる。ダメージを与えない事には、話にならん。


ゴ!!


 見ている全員の目に、ムミョウの腕の振りだけは、なんとなく見えた、気がする。残像を残し、視覚情報の更新より早く2人は衝突した!!


ゴ、リ


 ムミョウの右拳を、突き抜いた敵の棒。ムミョウに200ポイントダメージ。


 だが、敵の棒も弾かれた。握力限界を超え、棒は道場端まですっ飛んだ。


 狙い通りでも、ないのだが。


「今の攻防は?」


「真っ直ぐ来る敵の棒を、完全な全力で突き込み、弾いた。パワーなら、ムミョウはオリーブに完勝出来ますから」


 理屈は、その通り。だが、己業には、食らうつもりは無かった。カウンターを入れるつもりだった。ギリギリで棒を躱す。予定だった。


 だが、回避しきれる気が、しなかった。だから、あえて当てられつつも、こちらも当てる。五分に持ち込んだ。


 持ち込まされた、のだがな。


 武に於いて、この、以無己業が。



 気を全開。距離2メートルで、貫吼。


 避けられた。一殺は、ムミョウのモーションの初期に、全力で右に走った。貫吼の発動に入っていた己業には、それを追う事も出来なかった。


 ・・完全に、おれより上か。


 静かに、己業は事実を認めた。



 弾かれた棒を拾った一殺。今度は、奴が来た!


オオ!!


 棒の突きが、面を形成した。一瞬百撃。奴の正面3メートル範囲内は、全てが撃ち滅ぼされた事だろう。


 この、ムミョウを除けば。


 弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く、殴る!


 ムミョウ周辺に発生した20発ほどを全て無効化。半分を回避、半分を完全に逸らした。連撃である以上、必ず一発一発は威力が低い。棒による振り下ろしであれば、ムミョウの拳は破壊認定されただろうが。突きなら、横から逸らせば、問題無く無力化出来る。ミノテリオンの斧を、真横から殴っても問題無いように。


 そして、相手に350ポイントダメージ。胴体部に1回の判定。やはり、オリーブの防御はムミョウ並み。存在しない。更に言えば、オリーブには火力も無い。こんな無茶な構成で、どうして全国に来れるんだ?己業は、自分の事も忘れて、オリーブの無茶苦茶さ加減に呆れた。



 会場は、何時の間にか、しん、と静まり返っていた。舞台上の両者の動きが、音を頼りにしなければ、分からないからだ。輝光白蛍の方は、あまり目立つ試合ではないので、注目はされていなかった。仮にも全国王者だが、オリーブは、それとほぼ同格。


 だ、が。


 この削り合いは、そのような文言を必要としない。威の化身が、顕現している。人々は、無意識に気付いた。学生大会には、派手なエフェクトは無い。だからこそ、より強烈に刻み込まれる。今、目の前に起こっている事。怪物と怪物の、人類種を超越した戦い。




 当の輝光白蛍レギュラーすら、自分達の戦いを見ていなかった。


「はっ。あんなのとまともに戦うとか」


「2人がかりで止める必要が有りますね」


「だよねえ」


 輝光白蛍は、ちゃんと一殺宝仕対策を練っていた。当然だが。


 だから、己業を驚嘆の目で見ていた。あんな人間が、まだ居た。


 こわっ。




 棒を使うと効果範囲が広がるが、スピードは遅くなるのか。意外だ。1人目みたいに、更なる加速をするのかと思った。流石に、目の前の相手に、より速くなられては、それはもう父のレベル。鬼業とやって勝つ自信は、無い。


 防御でも、攻撃でもない。一応右手を前に出した、自然体にて敵の様子を伺う。1秒で思考を終了させた。3秒経過後、襲う。0,1秒で上空に到達、0,2秒で気を乱射。今度は、こちらが埋めてやる。


ゴオ!!!


 それは、人間の足音ではなかった。観衆は、何故道場の床が破壊されていないのか、不思議だった。あからさまに、不自然じゃないか。ジェット機が飛び立った音がした、と皆思った。


 そして、己業は想定通りに動けたが、敵は想像以上だった。


ゴオオオオオオオ!!!!


 棒を回転、気を弾き飛ばす。ちょうど、高知予選で戦草寺が銃に向けてやった事だ。


 違うのは、連発可能な銃弾よりはるかに重いはずの気を、判定無しで無効化している点だ。なんだ、こいつ。


 理屈は、分かる。己業が棒にやったように、気の攻撃部位を除いて棒を当て、逸らしている。


 だが、どうやって。気の攻撃部位は、前方。これは現実でも同じだ。前方へ、移動方向へ向けてのエネルギーの塊なのであって、横から触れても、あったかーい、としか。触れるなり爆発したりはしない、多分。そう言う仕組みで作る事も、出来るだろうが、己業はそうしていない。


 何故、初見のこいつが、対応出来る。いや、完全初見でも、ないのか。浸中戦を見ていれば。そして、予測を立てれば。


 両者、距離を取り様子見に入った。


 それにしたって、初対戦で、こうも対応されるものなのか。これが、強いと言う事か。


 ・・・久しぶりの感覚だ。本当なら、久々に家族の合宿で味わうんだったんだろうが。


 手も足も出ないわけではない。が、苦戦している。


 本当に。


 久しぶりだな。



 風が、吹いた。道場に、生暖かい風が。


 モニターの映像が、ゆがむ。


「・・・本気か」


「実戦で披露するのは、初めてですね」


 光輝こうき


 エンドア戦では、攻撃に気を割いていたため、この状態は見せた事が無い。時を使えば、負ける気もしていた。


 気の全身からの放出。全身を巡らせているものが、漏れ出しているのだ。ムミョウの毛が、逆立つ。


 戦草寺の構築したムミョウ。己業が気を使える事を知っている戦草寺が。


 当然のように気の使用によるモードチェンジも実装している。プリンセス・ホワイトを思い出して欲しい。あれは、プレイヤーの意思と、一定操作をトリガーに変身する。雪尽は自然に使いこなしていたが、初心者が楽に動かせるシルエットではない。


 ムミョウにも、似たようなシステムを載せた。気を全身全部位に、一定量以上満たす。具体的には、最大限に込めた状態。林密のように、自分の攻撃でダメージを負う仕様にしていないので、そこは問題無い。


 ムミョウは、狼人間。人間から変身するはずなのに、ムミョウは最初から犬。・・・もう一段階、変身させよう。戦草寺がムミョウを構築するに要した時間は7日。その3日目で思い付いた機能だ。面白そうなので、己業も何も言わずそのまま付けっぱなしだった。


 浸中、ドラキュラ戦で発動するかと思ったが、そこまで莫大な気を使わなかったようだ。あの時は、むしろ純粋な技巧を用いていたためだろうか。当然ながら、丁寧に動く時、力む奴は居ない。それとも、部位破壊を受けていたので、発動出来なかったのかも知れない。


 犬頭獣人は、その白の肉体を、光を満たした白雪に覆った。パウダースノーの柔らかさ。目が痛くなりそうなほどの輝き。


 ムミョウユキテラシ、始動。


 穏やかな、可愛げすら感じる容姿。そのムミョウから、敵は全速力で距離を取った。道場端ギリギリまで。壁を、背にする。


 さて。慣らしが、要るな。


オ オ


 2秒。それで、ムミョウは道場内を4週した。


 さあ、そろそろ時間経過による反則を取られる。攻撃、してみるか。


 ムミョウが、舞台内を周回する時、完全とまでは言わずとも、敵は反応していた。棒をきっちり、ムミョウに向けていた。己業には、今なら突破する自信は有るが。


 この自信が過信でないかどうか、確かめる!


オ!


 今度こそ、本当に誰にも見えなかった。ただ、銀の残像の駆け抜けた後。


 決着。


おおおおおおおおおおおおお


 全国高校トップクラス、オリーブアイランド高校が、無名校に敗れた。


 いや。今、有名になった。


 ケリを付ける前、ムミョウは更に2回攻撃を受けていた。計800ポイントダメージ。わずか3撃受けただけで、この超ダメージ。


 ユキテラシ状態のムミョウは、常時貫吼を使っているのと同じ。防御がマイナスになっている。火力が極小なオリーブのシルエットであっても、大ダメージを与えられる。


 累計で900ポイントダメージ。実は、結構きわどい勝利だ。


「ありがとうございました!」


「ありがとうございました!」


 全員での挨拶の後、握手。


「・・・強いね」


「はい。仲間が調整してくれた、最強シルエットです」


「ふーん・・」


 一殺を操った者。


 己業は、なんとなく、双頭韻を思い出した。大人しいと言うか、口数が少ない。王者の静けさなのだろうか。


「私は、2年。また、来年会えるね」


「はい!」


 再会を約し、技四王高校準決勝突破!


 さあ、最後の決勝戦だ!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ